アーサー対風魔小太郎、アーサー対ジーク
レインさんがダディに連絡を取った後、僕はすぐに風魔小太郎さんとの模擬戦を開始していた。
有希が言うには、彼の意向でそのままスタートさせてほしいとのこと。理由はわかる。彼もまた、グリムさんと同じでよーいドンで始めるには不利な職業をしている。
僕は今、ジャングルの奥地で風魔小太郎さんの襲撃を待っていた。
目を閉じて、接近に耳を傾ける。熱帯林の中は鳥の声が頻繁に聞こえてくる。邪魔くさいことこの上ないが、これもまた彼の策略なのだろう。
僕は瞑想状態に入り緊張感を高めていく。さあ、風魔小太郎さん。あなたの忍術。僕に見せてください。
そして、次の瞬間。
僕はカッと目を見開き剣を抜き、風魔小太郎さんを斬り裂いた。
ほんの僅かな風の変化。それを聞き取ることに成功した僕は、彼の攻撃に反応することができたのだ。
しかし、同時に僕も傷を負っていた。肩から腹にかけてに大きな斬り傷ができている。
これは最初から一撃の戦いだった。忍者は諜報者であり暗殺者。見えない者の仕事は、一撃で終わらせなければ不利になる。
だからこれは引き分け。僕は一撃を貰った、同時に一撃を与えたからだ。
今までとは打って変わった刹那の決着……とか格好つけてる場合じゃない! 出血がヤバい! 早くしないと死ぬ!
なんて、テンション上げたのがよくなかった。大量の出血で目眩が……
僕はそのまま受け身も取らず倒れた。
「二人ともお疲れ様」
すると、僕のお姫様の声が聞こえた。ああ、これまた死にかけ状態だな。最後に有希の手を……ってあれ、なんだろう? なんだかとても心地いい。まるでさっき金的をやられたときのような……
「大丈夫?」
僕が身体を起こすと、有希が心配そうな眼差しで僕を見つめていた。風魔小太郎さんも見つめている。
「あっ、有希さん。おはようございます」
「ええ、おはようございます。いい夢見れた?」
「夢の前に天女が見れました」
「よかった。元気そうね。小太郎、もう大丈夫よ」
有希の言葉に風魔小太郎さんは安堵の息を漏らす。彼だって肩からお腹にかけて赤くなってるのに。僕のことをここまで心配してくれたのか。
「それにしても、どうして有希は僕たちの危険が分かったの? やっぱり愛?」
「それは否定しないわ、ただ、愛情よりは友情かもね」
「それって一体どういう?」
「詳しく説明するとね、小太郎がやっちまったってテレパシーを送ってきたのよ。で、私の千里眼で様子を見てみたら、2人とも致命傷負ってるんだもの。ホント、びっくりしたんだから!」
「いやぁ、なんか一撃で決める流れになってしまって……」
「今同じことを小太郎も言ったわ。みんな本気でやってたから自分もってことだったみたい」
言ったっていうのはテレパシーかな? 羨ましい。僕も有希とテレパシーしたい。
「テレパシーしたいなら第六感を磨くことね。直感を然気で強化できれば使えるようになるわ」
よし、全力で磨こう。なんとしても以心伝心できるようになってみせる。
*
僕と小太郎さんが有希の治療を受け、瞬間移動で戻ってくると、たちまちメアリーさんとの模擬戦が始まった。
「僕との模擬戦は君に魔法を掛けさせてほしい。君との相性を知りたい」
「相性とは?」
「そのままの意味だよ。他人を強化するにも相性があるんだ。僕は無差別に他人を強化できるけど、その効果には差異があるんだ。それを確かめさせてほしい」
然気の強化にも相性があるのか。僕と有希の相性はハナマルに違いないが、この人とはどうだろう。
「よし、行くよ」
メアリーさんはそう言うと、僕に目掛けてほうき型の杖を向けた。
すると、僕の身体から力が湧き出てくるのを感じた。
しかし、有希の強化に比べると少し効果が弱いようだ。
「やっぱりか、僕と君との相性はまあまあみたいだね」
「ちなみに聞きますが、相性は何で測るんですか?」
「愛の深さかな。僕の場合、父親の関係で君には少し思う所があってね。関心がある分、他の人より効果は高いようだ」
「父親?」
「うん、僕の父はマーリンだからね。アーサー王たる君には色々と関心があるんだ」
「「「「マーリンの娘!?」」」」
僕も驚いたが、他の面々も驚いていた。どうやらこの情報は初物らしい。
「そういえば、このことは初めて言ったね」
「ちょっと待て! マーリンってアーサー王と同時期なんだから1500年ぐらい前の人間だろうが! まさかメアリー、お前1000年も鯖読んでたのか!」
美麗さんのツッコミである。そう、元の僕は五世紀の人間だ。マーリンの娘というのなら、それぐらいから生きていることになる。
「まさか、僕は正真正銘の500歳だよ。父も僕と同じで長生きだからね。シャルルマーニュの物語にもマーリンは出てくるだろう?」
確かあれは十二世紀辺りに成立したんだっけ? なら、彼女の言い分も確かなのかもしれない。それでも、四百年足りない気がするが。
「僕の父は十六世紀に亡くなったよ。色々あってね」
然気による不老効果。それがあればメアリーさんの言葉は成立する。面食らった面々は、全員が一応の納得を見た。
「さて、僕の模擬戦はこれで終わりだよ。やはり、有希くんの方が君をより強化できるようだね。こっち方面で僕の助けはいらなさそうだ」
そう言ったメアリーさんは、何故か哀しそうな目でこちらを見ていた。
*
そして、残る模擬戦はお義兄さんとのだけになった。ホープさんは力が使えないそうなので免除になっている。
「ようやく、出番が来たようだな」
「よろしく、お願いします」
僕はお義兄さんの胸を借りる。この人はどのくらい強いのたろう。楽しみだ。
「まず始めに、俺との模擬戦では自力のみで対峙してもらう。俺は兄として、貴様を本気で試す。有希を守り抜くというのならば、生半可な力では赦すことはできんのでな」
お義兄さんはこちらに対して、真剣な眼差しを向ける。その眼には確かな威圧感があった。
「分かりました。その条件、飲みます」
「大丈夫? お兄ちゃんの強さは本物よ。多分、進人狩りの中ではぶっちぎりで一番強いわ」
そんなに……いや、有希が太鼓判を押す強さなのだ。むしろ、手合わせ願いたい所だ。
「だから、頑張ってね。アーサー」
有希からの激励の言葉。この言葉さえあれば、強化が無くても強くなれる気がする。
「さあ、アーサー王よ。人類の最先を走るこの俺に、その力を示してみせろ!」
「行きます! ブラッド・パージ!」
僕とお義兄さんとの模擬戦が始まる。
僕たちは正面で対峙する。彼はポケットに手を入れたまま直立不動にしていた。
一体どんな戦いをするのだろう? 僕がそんな疑問を抱いていると、彼の周りを中心に拳サイズの小石が発生した。超能力で持ち上げたのではなく、文字通り、無から小石が生まれたのだ。
「この世界で一番強い武器を知っているか?」
「知りません」
「ならば教えてやろう。それは……投石だ」
お義兄さんのその言葉と共に、無数の小石たちが僕目掛けて凄まじい速度で飛んできた!
「くっ!」
僕はそれをエクスカリバーで弾いていく。1つ1つを弾くのは容易だが、数がとんでもなく多い。
投石。人類最古の攻撃手段が、まさかここまで強力とは!
石の大軍は留まることを知らない。無から発生して無限に射出されてくる。これは然気の力か?
「なるほど、この程度で根を上げるほどではないか。しかし、まだまだ序の口だ。この俺が石しか飛ばせぬと思うか?」
その言葉を告げたその瞬間から、石は顔ぐらいの岩へと変化した。そして、速度を維持したまま僕へと飛んでくる。
でかい!
僕はなんとか弾き続けるも、明らかに威力の増した攻撃に恐々とする。
このままだと長くは保たない。こちらからも反撃に出なくては。
少しでもこちらのペースに変えないとジリ貧だ。
僕は移動することを決意する。その第一歩として横回避で弾幕の外へ出た。
しかし、僕が動くのを見透かしたように岩の大軍が偏差撃ちしてくる。
危ない!
僕はそれを間一髪でそれを回避した。
「ほお、よく避けたな」
お義兄さんは関心するように呟く。ありがたい言葉だが、結構ギリギリだったのであまり喜べない。
お義兄さんの投岩は無作為な弾幕から、僕一点に目掛けたモノへと変化した。マシンガンと散弾を合わせたような攻撃を、右に左にと回避していく。
遊ばれてる。そう断言できるほどに僕は何もできていなかった。
だがこのまま何もできずに敗北じゃお義兄さんに顔向けできない。せめて一撃入れて力を示さないと。お義兄さんだって、頼りにならない男に妹を任せたくは無いはずだ。
僕は『せめて一撃』を合言葉に接近を試みる。そして、岩の銃弾を左右に回避しながら、ジリジリと手前へと近づき始めた。
手前に近づくに連れて反応がしにくくなる。必然、少しずつだが被弾もするようになった。しかし、確実に距離を近づいてる!
お義兄さんは僕の接近にまったく顔色を変えない。変化があったのは一点攻撃から弾幕へと戻ったことぐらいだ。ここからは剣で弾いていかなければとても近づけそうにない。
だが、お義兄さんの為にもここでへこたれるにはいかない!
覚悟を決めた僕は、剣で確実に弾きながら接近を続けた。吹雪のような岩たちを、薙ぎながら一歩ずつ近づいていく。
岩が身体を削るように皮膚を抉っていく。僕の身体からは血が滲み始めていた。だが、ここは根性。僕の実力はお義兄さんには及ばないのだから、せめて根性で僕の決意を感じ取ってほしい。
距離にして50メートルの所まで近づく。この距離なら0.1秒も掛からず接近できる。
よし、当たって砕けろ!
僕は意を決して踏み込んだ。身体中に岩を食べさせて、お義兄さんの目と鼻の先まで接近した。
くらえ!
僕は、全力を持ってお義兄さんへと剣を振りかぶった。
しかし──────────
「うっ!」
身体が滅茶苦茶重たい! まったく動かせない! まるで、見えない壁に阻まれているみたいだ!
僕の攻撃はお義兄さん眼前で強制停止させられてしまった。
「ふんっ、覚悟だけはあるようだな。まさか、バカ正直に正面から突破を試みるとは」
でも僕の覚悟は通じたみたいだ。やっぱり、策を労するよりも正面突破の方が性に合う。有希への愛は何にも勝る僕の武器だ。
「これは、一体?」
僕は動きを止める正体を尋ねる。
「重力干渉領域。地属性の然気と俺の超能力によって、一定範囲の重力干渉を可能にしている。今は重力を横向きにして貴様への接近を拒否しているのだ」
重力干渉……そんなことも出来るのか。
「貴様の覚悟見せてもらった。褒美にもう1つ、この使い方を見せてやろう」
そう言ったタイミングで、僕はとんでもない勢いで吹き飛ばされた。風圧のような壁に押し出されたのだ。
「アーサー、お疲れ様」
しかし、どうやら先回りしていた有希が僕を見事にキャッチしてくれたようだ。
「まったく無茶して……平気?」
「平気だよ。ありがとう」
「だが貴様はまだまだ弱い。精進に励め義弟よ。貴様が口先だけで無いことはその傷が証明だ」
よかった。お義兄さんに僕の決意は伝わったみたいだ。けど、痛みを思い出した。全身が痛い!
「まったく、私の強化込みでアーサーの力だって言ったでしょ? 自力だけなら大健闘だと思うわ」
「俺はお前におんぶに抱っこが気に食わんだけだ。そうではないことを証明したのだからこれでいい」
「いいんだ有希。お義兄さんの言い分にも理があるから。お義兄さん、ありがとうございます。所で、最後に質問いいですか?」
「許可する。言ってみろ」
「お義兄さんと有希、どっちが強いんですか?」
実は、さっきの有希の表現が引っ掛かっていたのだ。進人狩りの中でぶっちぎりで強い。この強いとは有希を含むか否かである。
「「それは俺だな(私ね)」」
お義兄さんと有希は仲良くハモりを聞かせる。こういうのは兄妹っぽいよね。
「お兄ちゃん。流石に今は私の方が強いと思うわ。負けたのだって私が中学の時だし」
「だが格付けはしていないだろう? 格付けをするまでは俺の一勝で俺の方が強い。そして、お前と再選の予定はない」
「流石にそれは横暴すぎない? お兄ちゃんどんだけ最強でいたいのよ」
「それに、有希だって俺がぶっちぎりで強いと認めたではないか!」
「あれは私を除いてって意味だったんだけど」
かくして、僕とお義兄さんの模擬戦は幕を下ろした。同時に兄妹喧嘩が始まりそうだったが、他のみなさんの説得によって有希が『最強』、お義兄さんが『無敵』で結論が出たのだった。




