進人狩りⅣ
有希が戻って来るまでの間に、僕は他の進人狩りメンバーの連絡先を聞いていた。
なんでも進人狩りには専用のSNS『カリッター』と呼ばれるものがあり、他SNSやインターネットで呟かれた進人の目撃情報が一目で確認できるようになっていた。そして、本来ならばそこから依頼を受けたり討伐報告をしたりするらしい。今まで有希は依頼は未来視での事前予測、後処理は付近の警察に連絡を取って対応しているから知らなかった。
また、このSNSはチャット機能も有している。今回の件も有希は事前に『カリッター』で情報共有をしていたようだ。しかし、僕がどんな人間か知りたい、もっと当事者から話を聞きたいってことで話の場を作ることになったのだそう。
これを作ったのは明美さんだと言う。あの人は色々と手広くできるらしくレインさんの製作にも携わっているとか。ちょっと天才すぎません?
そんなやり取りをしながら30分くらいが経過した。なんか遅いなぁ、と思っていると薔薇の香りを漂わせながら有希が戻ってきた。今回は映写機と一緒に明美さんも連れて来たようだ。
明美さんまた下着かなと思ったが、今回は白いシャツに紺のスカートを身につけていた。流石に外出するときは服を身につけるようだ。これはこれで研究者の格好として様になっている。
「おまたせ、映写機持ってきたよ」
有希はなんか疲れた声をしている。機材運ぶのが大変だったのかな? 労ってあげないと。
「お疲れ様。随分と疲れた声をしてるね」
「ええまあ、明美がまったく外に出れない状態なのを忘れてたわ」
なんか予想と違った回答が飛び出してきた。でも確かに、今朝の明美さんは山姥みたいになってたもんな。あれを連れてくるわけにはいかない。
「別に多少臭っても私は気にしないけどな」
そう言ったのは美麗さんだった。だけど、実態はそんな生易しいものではないのである。なにせ──────
「一週間」
「一週間? おいまさか……」
「そう、一週間まったく身体を洗ってなかったのよ。髪はボサボサで身体は体臭がエグかったし無駄毛もそれはもう……」
「有希! そこまでだ!」
有希が体毛についてまで言おうとした所で明美さんが有希の口を塞いだ。ちょっと顔を赤くしている。この人にも恥じらいは搭載されてるんだな。
「ご、ごめんてば明美。言わないから離して!」
その一言で明美さんは有希の拘束を解いた。
「おほん! とにかく始めるぞ、有希!」
そして、明美さんは強引に話を戻していった。
「ええ、わかったわ」
そう言った有希は頭からパソコンに繋がったヘッドギアを被る。
「このヘッドギアで有希の脳内をスキャンする訳か」
「正解ですミスター・グリム。このヘッドギアは然気を通すことで稼働し、脳波を読んでそれを映像に変換します」
「流石は明美さん! 私を作っただけはある!」
「ありがとう。ミセス・レイン」
明美さんは得意げな様子で二人の称賛を浴びていた。
「所でさっきの話は───────」
「なにかの間違いです」
明美さんはきっぱりと嘘をついた。ああ、そういう感じか。この二人にはいい格好したいのね。
有希がヘッドギアを被ってから数十秒で映写機は稼働を始め、有希が戻ってくる前に用意しておいたスクリーンに光が灯る。そして、しばらくするとセピア色をした映像が浮かび上がってきた。
場所は燃え盛っているどこか。この朱槍が織田信長のモノというのならばこれはもしかして本能寺だろうか? そして、俯瞰映像が3人の人物へと焦点を当てた。
一人はゴツゴツした筋肉質の男で黒い肌をしている。これが弥助か。めちゃめちゃ美形な顔立ちをしてるし亜蓮さんの面影がある。これは間違いないだろう。
そして、その男と向かい合うように白装束の二人の男性が見える。一人は厳ついがどこか爽やかさな顔をしており、もう一人は中性的な若い男だ。これが織田信長と森蘭丸か! ヤバい! テンション上がってきた!
「弥助よ、今からワシが言うことを子孫に言い伝えよ」
織田信長は歴史通りの甲高い声で弥助に命じている。
「は、はい! 信長様」
弥助はそれに日本語で返事をしていた。日本語上手いな。
「よいか、遠い未来にワシはおなごとして生まれ落ちる。このおなごか曲者での。中々に因果な業を背負っておるのよ。故に、貴様の子孫にはその家臣として仕えてほしいのじゃ」
「はっ、必ずや馳せ参じ致します」
こんなやり取りが本当にあったのか。このおなごってのが有希なんだよな。すげぇ。
「うむ、ならば最後にこの朱槍を赦す。それからこの『実休光忠』と『薬研藤四郎』もお主に託そう」
「ありがたく頂戴致します」
そう言って弥助は二振りの刀と朱槍を受け取った。
「そして、その刀を持ってワシの首を落とせ」
ここで映像は途切れた。
僕は歴史の一幕に立ち会うことができ感無量である。本能寺の変という日本最大のミステリー、そこに自分のお姫様が関わってるとかもうヤバい。
「んで、その時の刀が俺の腰に差してるモノだ。映像を元にみなきのオジサンのお墨付きも貰った」
そう言った亜蓮さんは刀を抜いてこちらに見せてきた。僕はその刀身を映像を見ながら確認する。流石に日本刀の目利きはあまり上手くできないが、特徴としてはかなり近いものがあると思う。
「とまあ、長くなったが俺の自己紹介はここまでだな。んでどうする? 自己紹介してないのは喋らない風魔小太郎とローブの人とメアリーさんだが?」
「僕については簡単な自己紹介は済んでるからね。ここはパスかな。ホープも喋ることができないし。風魔小太郎くんはどうする?」
メアリーさんの問いかけに風魔小太郎さんは首を横に振った。やっぱり話したくないのか。
「では、最後にアーサー自身に自己紹介してもらおう。今後我々と活動をするのだ。生半可な個性では通用せんぞ」
お義兄さんは僕に自己紹介するように促した。
「確かに僕もするのが礼儀ですね。僕の名前はアーサー・P・ウイリアムズと言います。有希の白馬の王子様であり、かつて実在したイギリスの聖王アーサーです」
ここで、アーサー王について説明をしておこう。アーサー王は5世紀の終わり頃に実在したブリテンの王様だ。現在の研究では時の西ローマ皇帝『ルキウス・ティベリウス』からブリテンを護り、円卓の騎士という組織を築いたとされている。しかし、息子の『モルドレッド』の反乱により円卓の騎士は崩壊、アーサー王はモルドレッドと共に戦死した。そして、これを元に吟遊詩人によってフランスで広まったのがアーサー王伝説である。
そして現在、アーサー王は人々から『聖王』という諢名で知られている。つまるところ、有希の『魔王』とは対極の存在だ。
進人狩りの人たちはおおと僕の自己紹介に感心する。
「なるほどねぇ、アーサーって名前だけにアーサー王か。一応聞いておくが妄言ってことはないよな」
美麗さんはこちらに挑戦的な口調で聞いてくる。
「たぶん。ローレンスは僕がそのアーサー王だと言っていましたから」
「ローレンスのおっさんか。あの人は色々と裏で何かしてたっぽいからな。本物のアーサー王連れてこれる可能性はありえるか」
「ローレンスさんかぁ、懐かしいぜ。めちゃくちゃ強かったなぁ」
「今はその話はしてねえ。亜蓮は黙ってろ」
「へいへい、姉さんすんません」
美麗さんと亜蓮さんは即興漫才を始める。やっぱりローレンスは進人狩りの人たちからでも強かったんだな。亜蓮さんは強さにこだわってそうだから信憑性がある。
「そう、そして僕はローレンスの元で剣の腕を磨いてきました。有希には遠く及びませんがそれなりに剣の腕には自信があります。また『ブラッド・パージ』という言葉を唱えると然気を使うことができます。これは原理はわかりません」
「アーサー。お前の然気の属性はなんなんだい?」
レインさんが僕に質問する。しかし、僕としてはそれ以前の問題だったりする。
「それもわかりません。そもそも僕は、然気の属性がなんなのかすらわかってないんです」
「そういえばそうだったな。有希さん、アーサーの属性は検討がつかないのか?」
「ごめんねレイン。まだわかんないわ。アーサーは然気をそこまで使いこなせてないから」
レインさんの質問に有希は答える。僕はまだ属性を使いこなせている訳ではないのか。
「できれば説明をお願いします」
「よし、俺が説明しよう。然気には自然をモチーフにした属性が存在している。現在確認されているのは炎・水・地・氷・風・雷の6種類で、この属性は当人の用いる武器に最適なモノが選ばれるようだ」
お義兄さんが僕の疑問に答えてくれた。本人の武器に最適な属性が選ばれるか。僕なら何属性になるのかな?
「例示すると俺は超能力だから地、グリムは銃だから水、亜蓮は槍だから雷、美麗は格闘技だから氷だな。まあ、アーサーは剣だから何属性でも使いこなせるだろう」
お義兄さんは他のメンバーの属性を教えてくれる。けど、だからと言われてもなんでその属性の相性がいいのかしっくりこない。
「お兄ちゃんちょっと説明アバウトすぎない?」
「そうは言ってもだな。こういうのは論より証拠。実践してみんことにはわからんだろう?」
「だったら模擬戦やろうぜ。そうすりゃアーサーは然気の属性について知れる、私たちはアーサーの強さを知れる。まさにウインウインじゃねえか」
美麗さん、まさかの闘いの誘いである。でもいいかもしれない。実際に使う所は見てみたいし。
「それいいかも。人気のない荒野辺りなら迷惑掛からないだろうし?」
「賛成! 俺もアーサーと闘ってみたいぜ!」
有希と亜蓮さんは美麗さんの提案を受け入れる。有希の瞬間移動があれば移動も低コストでできるしね。
「よし、じゃあ移動するかね」
グリ厶さんも特に反対することなく賛成のようだ。
「ホープと風魔小太郎くんはどうする?」
どうやら異論のないメアリーさんの言葉にホープさんは首を横に、風魔小太郎さんは縦に振った。
「オッケー、じゃあ男性陣はアーサーに間接的にでもいいから触れておいて」
「えっ、なんで?」
「私はアーサー以外の男子のボディタッチNGだから」
「あっ、そういうこと」
「なあ有希。そろそろ俺ぐらいは許してくれてもいいんじゃないか? 仮にも一応お兄ちゃんなんだが……」
「だ〜め!」
「……アーサー、たっぷり揉んでやるから覚悟しておけ!」
それは逆恨みというやつではないでしょうか? しかし、話には聞いていたけど本当に徹底してるんだな。
そうして、僕たちは有希の瞬間移動を使って開けた荒野で模擬戦をすることになった。
※この作品ではアーサー王は実在した存在として扱います。




