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進人狩りⅢ


「すっかり和やかになってしまったな」


 お義兄さんは嘆くように言った。確かに、女性陣の会話により厳かな雰囲気はどこかへ行ってしまっていた。でも、その発端はあなたの初心な反応だったんですよ?


 ちなみにだが、お義兄さんはケイコが猫に戻ったことでチラチラ見る作業を終了させている。


「いいじゃないっすかジークさん。俺は面白いことが起こりそうでワクワクしてますよ!」


「同感だよ亜蓮くん。オジサンも年甲斐もなくアーサーくんの話には興奮したよ」


「ですよねグリムさん。むしろ来るなら来いってぐらいだ」


「ええぃ、ここには常識と危機感を持った奴はおらんのか!」


 お義兄さんは和やかになった空気に突っ込みを入れる。あんなに尊大な態度を振り撒いていたのに今は苦労人にしか見えない。


 ちなみにだが、ここまで風魔小太郎さんはまったく声を発していない。この人、もしかして喋れないのだろうか?


「おい! いい加減話を本題に戻すぞ! 取り敢えず、自我を獲得した進人については引き続きアーサーと有希が監視をするように」


 お義兄さんは強引に話を本筋に引き戻した。場の空気はそれにより引き締まる。


「そして、次に進人の不可解な現象についてだがいずれ向こうからリアクションがあるだろう。こちらが後手になってしまうが現状で打てる手はない」


 お義兄さんは総括していく。こればっかりは仕方ない。なにせ情報が少なすぎる。


「それから吸血鬼の存在だが…… 正体は分からないが進人の件とは別と見たほうがいいだろう。奴の目的はアーサーだったようだが、進人たちの目的は有希だったからな」


 言われてみれば確かに。僕は勘だったけど根拠はあったんだね。


「後はアーサーの力と有希の弱体化だか、正直な所アーサーの方は見当がつかない。とりあえずは使いこなすことを最優先で進めるがいい。有希の弱体化については、進人をけしかけた連中の仕業と見るのが妥当だろう。なぜ有希のみをピンポイントで弱体化させられるのかは不明だが、そこは尻尾を掴んだときに吐かせればいい。ひとまずはそんな所だ。何か、言いたいことがある奴はいるか?」


「はい! たくさんあります!」


 僕はお義兄さんが質問タイムに突然すると同時に、脊髄反射で手を上げた。


「なんだアーサー? 言ってみろ」


「あなた方の名前を教えて下さい。そして、然気の属性についてもお願いします」


 僕はまだこの卓上の人たちの名前を全然知らない。今後、この人たちと戦っていくことになるのだ。自己紹介していくことは必要だろう。それから、然気の属性という新たな概念についても聞いておかねば。今後の僕の闘いにも関係してくる可能性は高い。


「そうだな。これからは同志である以上、互いの理解を深める必要があるだろう。だが、先の件についての結論を出すのが先だ。どうだ? 他に何かある奴はいるか?」


「特にな〜し」

「右に同じ〜」


 美麗さんと褐色の男性はダラけた口調でそう返答した。この人たちはもうこの辺の話に関心はないようだ。


 他のメンバーも概ねそんな感じだった。既に自己紹介する方向へと気持ちが流れている。


「そうか……無いのならばこの話は終わりにしよう。ではまず、俺から自己紹介をしよう。俺の名前はジーク・ゲニウス・ゲシュべスター。有希の兄にして『超能力』使いだ。不本意だが、貴様には兄と呼ぶ権利を下賜しよう。ありがたく思え」


「ありがとうございます。ジークお義兄さん」


「ふん、まあいい。俺は以上だ。次からは時計回りに自己紹介していってもらうぞ。まずはグリム。よろしく頼む」


「はいはい」


 そう言うと、髭を生やしたダンディズム満載のオジサンと、セーラー服を着た少女が立ち上がった。


「俺の名前はグリム・バレッド。格好からも分かるかもしれんが、ガンマンとして進人狩りをやらせてもらってる。んで、こっちは俺の娘であり妻であり相棒であるレインだ」


「よろしく頼む」


 グリムさんとレインさんがこちらに挨拶をしてきた。


「こちらこそよろしくお願いします」


 僕も礼に従って礼を返す。しかし、内心では突っ込みを入れたいのを抑えるのに必死だった。


「グリムさん、質問いいですか?」


 さっそく僕はその突っ込みをぶち撒ける。


「ああ、じゃんじゃん聞きな」


「レインさんが妻で娘ってどういうことですか? 僕にはさっぱり意味が分からないんですが……」


 ここを聞かなきゃどこを聞くってレベルの突っ込みポイントへと突撃する。だってどう考えてもおかしい。その2つは並立しない。


「やっぱりそこ聞いてくるよな。実はこのレインは俺の妻と娘の遺伝子を持った有機人造人間なんだ。高度な有機AIを搭載しててな、緻密な弾道計算とか情報処理ができる。おまけに然気によって、この身体でありながら重火器を扱える程に怪力だ」


 ちょっと待って一旦整理しよう。ええっと、レインさんはAIを搭載した有機人造人間でその遺伝子はグリムさんの嫁さんと娘さんのハイブリッドであり緻密な弾道計算や情報処理ができておまけに怪力…… ダメだ、理解が追いつかない。


 僕は情報の洪水へと飲み込まれてしまう。一を聞いたら十分からなくなるという珍現象が起こっている。ここから何を聞いたらいいかさっぱり分かんなくなってしまった。

 

「なんか質問があれば聞くぞ」


「いえ、聞いても疑問がさらに増えそうなんでやめときます」


 ちょっと一気に消化できそうにないから、とりあえずそういうモノとして考えるようにしよう。レインさんは凄い。


「そうかい。聞きたくなったらいつでも聞きにきな。俺のレインの魅力をたっぷり聞かせてやる」


「ダディその辺にしておけ。少し恥ずかしい」


 そう言ってレインさんは少し顔を赤くする。これは羞恥と照れが混ざった感じだろうか? 人造人間という言い方をしていたけど、人間としての情緒はしっかり持っているみたいだ。


「無理もない。この男はレインのことになると饒舌になるキライがあるからな。じゃあ次は美麗だ」


「はいよ」


 次は美麗さんの自己紹介か。さてどんなトンデモが飛び出して来るのだろうか?


「私の名前は()美麗(みれい)。格闘家だ。私は日本のアニメが大好きでな、それをリアルに再現することを目標にしている。んで修行の結果、漫画の格闘技ならだいたい再現できるようになったぞ」


「じゃあ、気功波とかも出せるんですか?」


「出せるぞ。波動拳か? かめはめ波か? 好きなのを出してやろう」


「かめはめ波でお願いします!」


 僕は遅効性の興奮にやれてしまった。くそっ、かめはめ波が撃てるとか羨ましい。僕もエクカリバーからビーム出せるようにならないかな。


「か〜め~は〜め〜」


 立ち上がった美麗さんはあの有名なポーズを取る。すると、掌から青白い然気の塊が見えるようになった。すごい! これは本物だ!


「ばかやめろ! ここで撃とうとするな! 自己紹介はおしまいだ!」


 お義兄さんは慌てふためいて美麗さんを静止した。そういえばここはお義兄さんの家だっけ。


「よし、次は亜蓮だ! 思いっきりかましてやれ!」


 お義兄さんはそう言って左隣の褐色の男性に声を掛ける。


「任せろ。アーサーを情報の坩堝に落としてやるぜ」


 亜蓮と呼ばれる男性は、お義兄さんの煽りにやる気満々に宣言する。ただでさえ、ここまで驚かされたのだ。ここからさらに驚かせるネタがあるのか?


「よろしくお願いします!」


 なんか趣向が変わっちゃってる気がするが別にいい。さあ来い! 僕を驚かせてみせろ!


「まず俺の名前は黒田亜蓮っていうだ。外国人だと思ってただろ? こう見えても俺は日本人なんだぜ。実はご先祖様に黒人がいてな。この外見はその影響が出てるんだ」


「ふむふむ、血が混ざってるんですね」


 まずはジャブと言った雰囲気の事実が出てくる。だが、まだまだこの程度では驚かない。


「そうだ。で、その黒人の先祖っていうのが、あの織田信長の小姓をやってた弥助なんだ」


「うそ、それはすごい!」


 おおこれは凄いぞ。まさか弥助に子どもがいたなんて。ちなみに弥助とは、織田信長に仕えた黒人さんであり、本能寺の変以降の足跡がよくわかっていないのだ。


「ちなみに織田信長の生まれ変わりが有希だ」


「ふむふむ……有希が織田信長の生まれ変わりってええええええ!?」


 いやちょっと待ってくれ! なにトンデモないカミングアウトしてるんですか? 驚きすぎて目玉が飛び出るかと思った!


「黒田家には言い伝えがあってな。信長様が本能寺にて弥助にこう命じたんだそうだ。いつか紅い瞳をした少女が業を背負って生まれてくる。弥助の子孫は少女が生まれて来たら自分と思って仕えろって。だから俺は武士の格好して、信長様の朱槍や刀を武器として使っているって訳だ」


「つ、つまり有希に仕えていると?」


「ああ、そうなるな!」


 亜蓮さんは元気一杯に同意した。ああ、彼の屈託のない言い方から本当なんだろうなぁ、と僕は悟る。


「彼の言ってることは本当なの?」


 けど一応、有希にその是非を尋ねることにした。有希の過去視を使えば言い分が正しいかどうか判断できるからだ。有希の肯定がないとあまりに突拍子がなくて、僕は亜蓮さんの話を信じきることができない。


「事実よ。私も過去視で朱槍の過去を覗いたんだけど、紅い瞳をした信長みたいな男が確かにそう言ってたわ」


「そうなのだ……でも、まだちょっと信じられないよ」


 結局僕は有希の判断を聞いても信じられなかった。これが有希の関わりのないことならもう少し楽に受け止められたかもしれない。しかし、アーサー王である僕の恋人が織田信長かどうかという、字面にすると凄まじい事実が確定するかどうかの瀬戸際なのだ。


「じゃあ、視てみる?」


「できるの?」


「ええ、過去視で視えた記憶を映像として抽出する技術があるから」


「ぜひともお願いします!」


 僕はなんの迷いもなく有希にお願いした。亜蓮さんの言い分の是非を置いといても、日本で一番有名な戦国武将が見られるのだ。見ないという選択肢が端から存在しない。


「有希ちゃん、オジサンとレインにも見せてくれないか?」

「是非とも見せてくれ」

「当然兄である俺にも見せてくれるよな?」

「なんか知らないけどおもしろそうだから見せろ!」

「俺にももう一回見せてくれ」


 他のメンバーも気になるのか悪乗りなのか見せてくれとせがんでくる。ここまでまったくのだんまりを決め込んでいた風魔小太郎さんやホープさんも、有希の発言に興味深そうに視線をこちらに向けていた。


「わ、わかったわ。わかったから少しの間待ってて!」


 そう言って有希は瞬間移動して何処かへと消えた。

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