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進人狩りⅡ


「じゃあ行きましょうか」


 真人たちと一緒にランニングすることに決めた次の日の土曜日。僕は有希の手を握ってドイツに行く準備をしていた。


 ちなみにランニングはちゃんと行われたことをここで言っておくよ。風間さんは来なかったけど。


 僕は有希の要請に従ってケイコを腕に抱えていた。どうも今回の主役の1人らしい。なんでも、ドイツに行くのは進人狩りにケイコや先の事件などの情報共有するためのようだ。


 確かに、ケイコは人類史上初の意識を持った進人だから、他メンバーがケイコに興味を持つのは理解できることだった。ただ進人と見るや殺しに掛かるようなバーサーカーがいないかが不安だけど。


 ちなみにケイコは抱かれてるのが好きなので、気持ちよさそうに抱かれた状態をキープしていた。


「うん、行こう」


 僕が有希に合図すると辺りに薔薇の花びらが舞うのが見えた。瞬間移動をした証拠である。


 気がつくと、僕は知らない人たちがたくさん座っている円卓の前に立っていた。この人たちが進人狩りの方たちか。誰もが水彩画についた油絵のように濃い。パッと見でも、円卓の騎士に負けない個性的な格好をしている。


 では、メンバーの特徴を簡単に見ていこう。


 僕と有希の真向かいの高い所に私服の男性が座っていた。僕と同じ金髪碧眼の男性は、尊大に肘をついてこちらを見下している。多分、この人が進人狩りで1番偉いんだろうな。


 その右隣にはシルクハットとスーツで決めたオジサンと、その子どもと思しき中学生ぐらいの女の子が座っていた。オジサンの方はくすんだ金髪に精悍なヒゲを蓄え、辛酸を舐めてできたであろう皺が刻まれている。対して中学生ぐらいの女の子は、オジサンと同じようなくすんだ金髪にブレザーを着ていた。


 髪色が似ているのと隣に座っていることから親子と考えられる。親子で進人狩りとは、一体どういう経緯があったんだろう?


 その二人のさらに右隣にはピンク色のチャイナ服を着たお団子ヘアの女性が座っていた。髪色もピンクのため全身がピンクである。容姿もちんまい感じでとてもかわいい。


 そしてリーダーっぽい人の左隣にはドレッドヘアをチョンマゲのようにして縛っている、緑を基調にした派手な和服の男性が座っていた。焼けたのか元来のモノなのかは分からないが褐色の肌をしている。


 そしてその隣にはあからさまな忍者が座っていた。間違いなく、この人があのときの風魔小太郎さんだろう。


 以上が僕から見える範囲で分かるメンバーの特徴だ。ああそうそう、言うまでもないがみんなとんでもない美男美女である。有希には負けるけどね。


 進人狩りのメンバーは僕たちが瞬間移動をしてきたことに気づき、一斉にこちらに視線を向けた。


「やっと来たか! 遅せぇぞ有希!」


 最初に声をかけてきたのはチャイナ服の女性だった。かわいい容姿から飛び出した男勝りな口調に驚く。せっかくのかわいい容姿が台無しだ。


「久しぶりです。美麗さん」


「おう、久しぶり。で、ソイツがアンタの言ってた……」


「そうです。私のアーサーです」


 有希は美麗さんに僕について説明する。『私の』とか嬉しいことを言ってくれるじゃないですか。


「有希ちゃん。中々イイ男を見つけたじゃないか」


 すると、美麗さんの隣に座っているシルクハットのイケオジが渋い声で言ってきた。


「まさしく美男美女。子どもができた日にはうちの娘に負けない別嬪になるな」


「おい、てめぇはなに自分をイケメン扱いしてんだ」


 おっと、中々に娘さんの指摘が厳しい。これは反抗期に入ってますね。


「雑談は後にしろ。さっそく本題に入らせてもらう」


 僕たちの会話を遮るように、円卓の上座に座る私服の男性が場を制した。僕たちは声のする方に顔を向ける。


「あ、お兄ちゃん久しぶり」


「うむ、久しぶりだな妹よ」


 えっ⁉ お兄ちゃん⁉ 有希にお兄ちゃんとかいるの⁉


 僕は今日一番に驚愕した。まさか兄を名乗る人物が現れるとは。


「アーサーと言ったな」


「え、ええ、そうですが」


 私服の男性は肩肘をついて尊大に尋ねる。正直驚きが先行してはいるが、その雰囲気に僕は威圧感を感じた。しかし、アーサー王として怖気づくわけにはいくまいとすぐに冷静になった。


「貴様が遭遇した吸血鬼について話してもらおう。それが最初の議題だ」


 私服の男性は暴君のような口調で話すように促す。


「いいですけど1つ質問いいですか?」


「なんだ? 話してみろ」


「アナタが有希のお義兄さんというのは本当ですか?」


「そうだが? ついでに言えばお前の兄でもある」


「それはつまり僕と有希の交際を認めてくれると?」


「ん? どういうことだ? 貴様らは付き合ってるのか?」


「え?」


「ん?」


 なんか話が噛み合わない。有希のお義兄さんではないのか?


「あ~私が説明するとね。お兄ちゃんは自分以外のすべてに兄と呼ばせようとする変態なの。アーサーも呼ばされることになるから覚悟しといて」


「えっ? 何それ怖い」


 まさかの展開すぎる。じゃあ有希と血が繋がってる訳じゃないのか。


「ということだ。有希の言う通り、貴様にも兄と呼んでもらう。貴様はこの中の誰よりもその義務があるのでな」


「それは一体なぜ?」


「その質問には、俺を兄と呼んでから答えるとしよう」


「じゃあ兄さんで」


 さっきまで心の中ではお義兄さん呼びだったのだ。実際のところ、呼ぶのにそこまで抵抗はない。


「うむ、いいだろう。ではその理由だが……まずは自己紹介からだな。オレの名前はジーク・P・ケーニッヒ。貴様と同じペンドラゴンの名を持つ、アーサー王の子孫だ」


「な!?」


「えっ、そうなの!?」


 お兄さんの言葉に僕たちは驚く。いや、周りのみんなも驚いているようだった。


「そうだ」


「じゃあアーサーとお兄ちゃんは親戚? つまり将来的には私とも親戚に!?」


「貴様らが結ばれるならばそうなるだろうな」


「信じられない。てっきりアーサーは天涯孤独とばかり」


「千年以上前に袂を分かった故、血の繋がりとしてはほぼ他人だがな。だが代々受け継がれてきたこのミドルネームは、かつて我々に血の繋がりがあったことを示している」


「じゃあ兄さんはモルドレッド系なのか」


 僕はかつて両親から聞いたことを思い出す。かのアーサー王にはモルドレッドとロホルトという子どもがおり、僕はそのロホルトの子孫であると。


 そしてモルドレッドの子孫が今も何処かで生きていると。


 天涯孤独だと思っていたが、まさかこんなところで巡り合うとは。


「俺と貴様は、共にアーサー王の血を引いている。これ以上に兄と呼ぶに相応しい理由はあるまい」


「確かに」


「そういうことだ。これからよろしく頼むぞ、弟よ」


「よろしく兄さん」


 端から言うのに抵抗はなかったが、これで完全に抵抗がなくなった。


「では改めて話してもらうぞ」


「すまないが兄さん、その前にもう一つ質問していいだろうか?」


「んっ、いいだろう。話せ」


「どうして日本語を話せるんだ?」


 そう、ここまで当たり前のように日本語で話しているが、普通に考えて全員が日本語を話せるのはおかしいだろう。


「そのことか。然気を持つ者はあらゆる言語を母国語として聞き取れるようだ。現にオレには、お前の言葉がすべてドイツ語に聞こえている」


「どうしてそんなことが?」


「強化された聴覚が母国語へと変換しているのだろう。詳しいことはオレにもわかっていない」


「うーん、なるほど。ありがとう」


 然気ってすごいな。これが広まればもう他言語を勉強する必要ないじゃないか。


「お前の質問には答えた。次はこちらの要件に答えてもらうぞ」


「ああ、分かった」


 そうして僕は先の吸血鬼の一件を話し始めた。






 ここで話は冒頭に戻ってくる訳である。


 厳かな雰囲気の中で話すのは少しばかり緊張したが、この一件に関わっている以上は逃れることはできない。


 僕は自身の持つ謎の力や有希の弱体化、スコティッシュフォールドが宇宙産なこと、そして謎の勢力の暗躍についても話していった。


 僕の話を進人狩りのみんなは興味深そうに聞いている。彼らも仕事でやっている以上、この手の情報は気になるらしい。


「なるほど。先の進人の同時多発も合わせると、謎の勢力の存在の確証はさらに高まるな」


 兄さんは僕の話を聞いて納得するようにそう言う。


「そして、お前が抱えているソイツこそが件の進人という訳か」


「うん」


「では、その猫が進人になるところを見せてもらうぞ」


「分かった。ケイコ、できるか?」


「お安い御用です」


 僕がケイコに話しかけると、二つ返事で了承してくれた。


 そして僕の手を離れると進人への変身し始める。


 その変化に進人狩りのみなさんは驚きの声を上げた。ケイコの身体は徐々に人間の骨格へと変化し、生えていた体毛は引っ込んで薄だいだい色の皮膚を露わにしていす。


 そして、あっという間に全裸の猫耳少女に変貌した。


 その姿は実に堂々としたものである。衆人環視の中でどこも隠そうとしない。ケイコは相変わらず恥じらいも何もないな。僕はケイコの凹凸が見えないように少し後ろへと下がる。


「お、おい! いきなり裸を見せてくるとはどういうつもりだ!」


 僕が卓上を見渡すと兄さんがそっぽを向きながら言う。さっきまであんなに傲慢だったのに、今は思春期に入った中学生みたいに顔を赤くしていた。


「どうももなにも、兄さんの要望じゃないか」


「裸にしろとは言ってない! 服を着せろ!」


「それは無理、ケイコは服を嫌がるから」


 兄さんは目を逸らしつつもたまにチラ見するという、いつぞやの僕みたいなことをしている。あー、こんなことで血の繋がりを感じたくなかった。


 ちなみに、他の進人狩りの人たちは特に反応していない。いや、風魔小太郎さんは顔を背けていた。この人もそういうのアレなタイプのようだ。


 お義兄さんと風魔小太郎さんの初心な一面が見られたところで、有希がケイコにタオルを被せてくれた。水泳の授業で使うタイプのタオルのため全身を隠すことに成功している。ありがとう有希、これで僕も目線に困らずに済む。


 現在、他の進人狩りの面々はそれぞれケイコとコミュニケーションを取っていた。基本的には当たり障りのない会話だが、まず会話ができたことにみんな驚いていた。


「それで、アンタは強いのか?」


 ド派手な和服の男性がカラッとした口調でケイコに尋ねる。


「進人と身体強度は同じくらいだと思うので、知能がある分ぐらいは強いかと」


「そうか、それは残念」


 ケイコが答えた見解に、褐色の男性は残念なニュアンスで応えた。まあ僕だけでも相手できていたんだから、彼でも同じことできるだろうからな。ガッカリするのも無理はない。


「じゃあそっちのアーサーは?」


 褐色の男性は今度は僕の強さを尋ねる。これは僕に聞いてるってことでいいんだよね? でもなんて言えばいいだろう?


「彼ならば、私を軽くあしらえる力を持っていますよ」


 なんでケイコが得意げに応えてるんです? 


 僕はケイコが応えるとは思っておらず意表を突かれた。しかもかなりの高評価だ。


「へぇ、いいじゃないか! アーサー、今度俺と殺し合てくれよ!」


 褐色のイケメンはそう言ってニカっと満面の笑みを浮かべた。言ってることが物騒の極みなんだか……あれか? この人は闘うのが好きな感じの人なのか?






 そこからさらにケイコと歓談を図り、そろそろイイかなってなってきたタイミングのこと。


「いやぁ、おめかししてたらだいぶ遅れてしまったよ」


 突然、暗闇から軽妙な声が響いた。声の感じからして少女なんだろうが、なんとも言えない恐怖を感じるのはなんでだろう?


「メアリーか。用事があると言っていたから来ないものと思っていたぞ」


 兄さんがメアリーと呼ばれる見えない人物に声をかける。兄さんにはどこにいるのか分かるのだろうか?


「用事があるから遅れるという意味だったのさ。分かりにくい言い方で悪かったね」


 その声にゾクッとする。なんでだろう? ついさっきからすっごい悪寒が止まらない。悪いことしてないはずなのに謝らないといけない気持ちにすらなってきた。


「そうそう。用事といえば、実は僕も紹介したい人がいるんだ」


 そう言いながら1つの影が円卓の中心に出現した。そこからニョキニョキと人影が伸びてくる。その人影からは黒い部分が剥がれ落ちると、全身黒のローブに水色の髪をした少女に現れた。


 もう登場の仕方が普通じゃない。然気があるとこんなこともできるのか。


「やっと姿を見せたか。それで? 紹介したい人というのはどこにいる? そもそもお前に知人などいたのか」


「失礼だな兄よ。僕にも知人ぐらいはいるさ。少なくとも君たちはそうだろう?」


「それもそうだな。ならば、紹介してもらおうか」


「もちろん、入っておいで」


 メアリーさんが声をかけると、同じように地面から影が生えてきた。メアリーさんこの演出好きだな。


 そこから現れた人物は黒いフード付きのローブを被った人物だった。背丈は僕と同じぐらいだろうか? 顔をフードで覆っているのでどんな顔をしているのか分からない。


 そのフードを被った人物は、こちらに気づくと僕ではなく有希を凝視していることに気づいた。コイツ、まさか有希狙いか?


「ホープ。この子は違うよ」


 メアリーさんはそう言ってホープと呼ばれる人物を諭した。その言葉にホープさんは我に返り、兄さんの方に向き直った。


「メアリー。ソイツはなんでそんな格好してるんだ?」


 美麗さんはジトっとフードの人物を見ながら質問する。


「事情があってね。今は顔を見せたり喋ったりする訳にはいかないんだ。でも、いつかその時が来るよ」


「事情ってなんだよ?」


「それは内緒」


「たくっ、これだから魔女は……秘密が多すぎる」


「女は秘密主義なくらいが丁度いいのさ。最も、君の明け透けな態度も魅力的だと思うけどね。後、僕は魔法少女だよ。魔女じゃない」


「推定500歳のお婆様がよく言うよ。知ってるか? 少女って言うのは20歳ぐらいまでのことを言うんだぜ。480年くらい遅えよ」


「馬鹿を言うな。女はみんな永遠の乙女で少女なんだ。そして、僕の見た目は間違いなく少女だから問題ない」


 彼女たちは女同士の言い争いをしている。ってちょっと待って? 色々と突っ込みたいことがあるんだけど?


「やあ有希くん、久しぶりだね。前に会ったのは君が小学生の時だったかな」


 くっそ、突っ込む暇もない。


「メアリーさん、お久しぶりです」


「そして……君がアーサーか。なるほど、名前通りのいい男だね」


 そして今度は僕に話しかけてくる。高評価なのはありがたいんだけど、聞いた瞬間に謎の動悸がしたのはホントに何故だろう? なんか……無性にゴメンって謝りたい。


「ありがとうございます。それで、あなたが500歳というのは本当なんですか?」


 しかし動じるわけにはいかない。すかさず僕は年齢について質問した。これをそのまま無視することは常識を持つ人間として不可能だった。


「やれやれ、女性に年齢を聞くとは感心しないな。まあでも今回だけは特別に教えてあげる。僕の年齢が500歳なのは本当さ。有希にも聞いてみるといい」


 メアリーさんは笑顔を向けながら僕に説明してくれる。しかしその笑顔がとんでもなく怖い。これホントは聞いちゃいけない奴だ!


「えっと……どうなんでしょう有希さん?」


 僕は動揺から、畏まった態度で隣の有希に質問する。


「アーサーはなんでそんなビビってんの? まあいいか。それについてだけど、彼女は然気で心情をガードしてるから私にも断言できないんだよね。でも500歳というのは間違いないと思う。だって普通に考えてそんな主張をする意味がないもの」


「たしかに」


 有希のその一言に僕は妙な説得力を感じてしまった。


「でも長く生きてる分凄いのは確かだよ。なにせ魔法として然気を全属性使えるからね。オマケに無差別バフに複雑な建物の修復、あと、死者蘇生もできるんでしたよね?」


 なんか気になるワードが出てきたんだが…… 然気の属性ってなんぞよ?


「ああ、それ無理。最近力が少し衰えてね。死者蘇生は不可能になってしまった」


「えっ、そうなんですか⁉」


 有希は驚いた様子でメアリーさんに聞き返した。


「うん、でもその他は健在だから活躍は約束できるよ」


 メアリーさんは自信満々に胸を張った。年齢は行ってるのに子どもみたいな人だな。確かに、ここだけ切り取れば少女と言って相違ないかも。


 僕はメアリーさんの仕草に妙な懐かしさを覚えながらも、少しその仕草がかわいいと思った。

2025年4/3 設定変更に伴い改稿しました。

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