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進人狩り


 僕と有希、そしてケイコはとある一室にお邪魔していた。この一室、実はドイツにあるのだが今はそれはいいだろう。


 僕はというと、ケイコと一緒に進人狩りの矢面に立たされていた。進人狩りという、その道のプロに囲まれてるせいで圧迫感が凄い。しかし、ここに呼ばれた理由に大きく関わっている以上は我慢する必要があった。


 さて、ではまずは僕が何故この場に立つことになったのか。その経緯について話していきたいと思う。





 ことの発端は、僕たちが輝くんの事件を片付けてしばらくしてのことだった。


 美修院高校では秋の中間テストが行われており、今日がその最終日だった。僕はそのテストをなんとか凌ぎ切り、後は勝訴を待つばかりになっていたときのことだった。


「有希。今回のテストはどうだった?」


 テスト終わりの放課後、僕は疲れを癒やすべく学校の食堂で弁当を食べながら、真向かいに座る有希に質問した。


「う~ん、どうかなぁ。基本問題はしっかりできたと思うけど、応用問題は少し微妙かも」


 有希は椿さんお手製弁当を摘みながら手応えを語る。この学校は基本を抑えれば80点を取れるようになっている。ということは、有希は平均80点代か。


「そういうアーサーはどうだったの?」


「僕も有希と同じぐらいかな。でも、もう少し点が取れてると思うよ」


「うわ、嫌味ぃ」


 有希は僕の手応えに対して愚痴を溢す。でも、必死に頑張った結果なのでご容赦願いたい。


「真人はどうだったんだ?」


 僕は隣の席に座って学食を食べている真人に話を振る。しかし、真人はその話に苦々しい顔をして


「普通だ」


 と答えた。


「それって平均ぐらいってこと?」


 有希は真人の答えに聞き返す。ちなみにこの平均点とはクラスの平均点のことであり、おおよそ50点ぐらいである。


「それぐらいだな。いやぁ、お前ら凄いな。よくついて行けるよ」


「この学校は基本を抑えれば80点は取れるのよ。真人もう少し勉強することをオススメするわ」


 そう言うのは、有希の真向かいの席で弁当を食べている楓さんだ。


「基本、カッコ入試レベルだろうが。センター試験の問題を基本と言うのはおかしいだろ」


「定期試験でセンター、中堅私立レベルならむしろ易しいぐらいだわ。他の名門校なら難関大の問題が出てくる所よ」


「ぐっ、それを言われると反論できねえ。はあ、次はもう少し勉強しよう」


「って言って真人がまともに勉強してるの見たことないんだけど……また口だけ番長になるわよ」


 有希は事実を痛烈に告げる。いやまだ実態を見たことはないんだけど、真人の性格からして容易く想像できてしまうのだ。


「有希さんそれはひどくない? まあ事実なんだが」


「だから今度はアーサーと一緒に勉強したらいいんじゃない? 一人だと捗らないけど、二人ならある程度はできるんじゃないかしら?」


「それがいいかな。真人、今度は一緒に勉強しよう」


「おお頼もしい! よろしく頼むぜ。はふはのほうひはま」


「一応断っとくが僕は有希の白馬の王子様だ。万人の白馬の王子様じゃない。後、唐揚げ勝手に食べるな!」


 僕たちはテストが終わった開放感から会話を弾ませている。僕としても、友人たちと心置きなく談笑できる今の状態は中々に楽しかった。





「ちなみにもうすぐ体育祭だけど、お前ら何に出るか決めたか?」


 真人は唐突に、2週間後に迫った体育祭の話を振る。


「私は去年と同じ100メートルの予定」


 楓さんは花形の100メートルか。凄いな。まあ最も


「ちなみにどんな種目があるんだい?」


 今の僕はなんの種目があるのかさえさっぱりな状態な訳だが。何があるか知らないと、何に出るかなど決める余地もない。


「まず、体育祭は個人種目と団体種目に分かれてるわ。で、個人種目は100メートル走、1500メートル走、障害物競走、ハードル、走り幅跳び、走り高跳び、二人三脚があったかしら」


 有希は種目を解説してくれる。う~ん、どれも悩ましいなぁ。どれ出てもそこそこ活躍できるだろうし。


「有希はなに出るか決めたの?」


 僕は有希に質問する。有希は、それに対して首を左右に降った。


「あれ? 武藤は毎年1500メートルに出てなかったか? 今年は変えんのか?」


「う〜ん、そうなんだけど今年はアーサーもいるし、何か別の種目にしたいかなって」


 有希はそう言って言葉を区切る。僕が来たから種目を変えるとはどういうことだろう? 個人種目なのだから別にどれでも一緒じゃあ……


「ははぁ、武藤はアーサーと二人三脚したいと。そういうことだな!」


「「!!」」


 真人の後方理解者発言に僕と楓さんは反応する。そういうことか! 確かに、二人三脚なら有希と一緒にできる!


「そういえば、二人三脚は男女ペアがルールだったわね」


 楓さんはなるほどと納得する。男女の共同作業とか僕たちにぴったりじゃないか。


「しかしいいのか? アーサーと武藤の噂は大分広まったけど、それやったらモロバレになるだろ?」


「そう、それが狙いなのよ真人! 考えてもみて? ここで大々的に宣伝すれば既成事実として浸透するでしょ? 私たちは学校公認を目指してるから、まずはここでアピールしておきたいのよ!」


「なるほど、策士ですなぁ武藤さん」


「いやいやそれほどでも。ということだからアーサー……ってアーサーが死んでる⁉ ちょっと、しっかりしなさい!」


 はっ! しまった、有希のあまりの攻勢に脳が停止してしまった! 早く再起動せねば!


 それにしても、まさか有希からここまでガンガン来てくれるとは。あまりの熱量にアチアチだぜ。


「わかった。やろう! 有希」


「そうこなくっちゃ!」


 僕と有希はお互いにガッツポーズで腕を組む。





「そうなると、代わりは私がやる必要がありそうね」


 楓さんはさも当然のように言った。


「いいの? 100メートルは?」


「そっちもやる。1500はみんな避けて通るから私が出ても文句ないだろうし。だから、その代わり練習の時間を増やしてくれる?」


「オッケー。そういうことならお安い御用よ」


 有希と楓さんはお互いに練習する約束を交わす。


「そういえば、有希と楓さんは週に2回ランニングしてるんだっけ」


「ええそうよ。私と楓は中学で陸上やってたからね。その習慣が続いてるのよ」


 有希の説明に楓さんはコクリと頷く。そして、楓さんは僕と真人の方を見て


「これは私と有希の2人だけの時間よ。邪魔しないでほしいわね」


 と僕たちへ露骨に牽制をかけてきた。わかってるよ。恋人と過ごす時間と友人と過ごす時間はきちんと分けるさ。僕だって、真人や響也との時間は有希との時間とは別に欲しい。


「心配すんな。お前らの蜜月を邪魔したりしねぇよ。なあアーサー」


「もちろんだとも」


 僕も真人の言葉に頷きなら賛同する。


「ああでも、アーサーは走り込みしといた方がいいわよ。アーサーの場合、それがブラッド・パージの出力維持に繋がるわ」


 有希はピンと人差し指を伸ばしながら僕に助言する。言われてみれば効果ありそうだ。


「わかった、僕も走り込みしてみるよ。真人、もしよかったら一緒に走らないか? 他にも響也や優太も誘って」


「まあ……いいぜ。今までランニングなんて死ねって思ってたけど、お前らと走るならまだ楽しそうだ」


「じゃあ、いつからやる?」


「善は急げで今日からだな。早くしねえと俺のやる気が無くなっちまう」


「よし、決まりだね。さっそく響也たちに相談してみるよ」


 こうして、僕の日課に友人とのランニングが追加された。


 響也と優太、それぞれSNSにその旨を通達すると、どちらもあっさり了承してくれた。




「そうだ。どうせなら風間(かざま)も誘うか」


「ああ、そろそろアイツが帰ってくる頃か」


「行事の季節だものね」


 そして、僕がSNSを送っている間に、有希たちは知らない風間某の話をしている。


「もしかして、風間さんって今休んでる……」


「そう。風間は毎回、行事の時だけ学校にくる不良よ」


 楓さんが僕の質問に答える。それにしても


「この学校にも不良なんているんだね」


 まさかこの有名私立校にもいるとは意外だな。こういう高校での不良っていまいちイメージつかないな。どんな感じだろう?


「まあな。でも、あいつの場合は仕事してるってだけだぞ」


「仕事って初耳なんだけど……あいつ、モデルか何かなの?」

 楓さんは、どうやら仕事について把握していないようだ。まあ、モデルとかなら不良扱いされてないだろうし違うだろうな。


「違う違う。まあ、とにかく悪い奴じゃないのは確かだ。見た目はチャラいけど」


 う~ん、いまいち信用できない。なんで行事のときにしか学校に来ない人間を、真人はそこまで信用できるんだ?


 この学校はオンライン授業が発達してるから、それを駆使してやることやってるとかそんな感じか?


「心配しなくても大丈夫よ。アーサーなら仲良くなれると思うから」


「有希? それは一体何を根拠に」


「多分、会ってみればわかるわ」


 有希は、事情は知ってるけど円卓の騎士の時みたいにははぐらかすつもりだ。


 まったく、有希の驚かせ癖は一体なんなんだ。めっちゃニヤニヤしてるし。




「じゃあ風間には俺がライン送っとくわ。それからアーサー、帰りにスポーツショップ寄ってこうぜ。せっかくランニング始めんだから色々と揃えたい」


「いいよ、響也と優太にも声掛けようか?」


「アイツらは生徒会の仕事だ。多分無理だと思うぜ」


 こうして僕たちの雑談は幕を閉じた。けど、ここからが本題なのだ。有希は帰り支度を始める僕の耳元で


「さっきの会話で思い出したんだけど、明日、ドイツに行くからよろしくね」


 僕からすれば唐突なんてもんじゃないけど、有希はこのタイミングで確かに言ってきたのだ。


「へっ? ドイツ⁉ イヤイヤどういうこと⁉」


「それは説明が面倒だからまた後で」


 有希は言うだけ言って真人たちの元まで行ってしまった。


 いきなりのことで僕は思いっきり面食らってしまう。


 けど、行かざるをえないんだろうなぁ。





 とまあ、行くことになったきっかけはこんな感じだった。


 全然話が繋がらない? 安心してくれ。僕も同感だ。

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