生徒会特別執行部Ⅲ
「じゃあ最初の人、入ってください」
私はお悩み相談の仕事として、男子生徒と一緒に生徒会室へと入る。この丸坊主の生徒は、果たしてどんな悩みを抱えるのかしら?
「では、さっそく悩みを聞かせてください」
私が男子生徒に促すと、顔を赤らめながら話しだした。
「俺、実は好きな人がいるんです。その人はクラスの中心で、坊主頭をかわいいって言って撫でてくるんです。これって脈アリですか? その人にアプローチしてもいいんでしょうか?」
なるほどね。私は眼で男子生徒の内面と情報を探る。彼の名前は柴山隆典。好きな人は1年10組の橋本栞さんか。
「なるほどね。ねえ、何か貴方の頭を少し見てもいいかしら?」
頭を撫でられるなら、そこから過去視で栞さんの内心が見れるかもしれない。
「えっ? は、はい!」
そう言って隆典くんは頭を差し出した。私は過去視で坊主頭を見る。見えるのは栞さんの好みの感情。ああ、そういう感じか。
「ふむふむ。多分その人は坊主フェチね。うちの高校は坊主頭はあんまりいないから、あなたが恋愛対象になる可能性は十分あるわ。後はあなたのアプローチ次第ね。つまり、アプローチしてよし!」
私は結論を述べる。よかった。これが全くの脈なしだったら可哀想だし。
「あ、ありがとうございます! 何か気をつけた方がいいことはありますか!」
気をつけた方がいいことねぇ。栞さんについてはあんまり知らないからなぁ。月並みなことしか無理ね。
「ありきたりだけど、まずは話を聞いてあげることね。女子は話を聞いてほしい生き物だから、下手にアドバイスとかはしないこと。基本的には共感。まずはこれを心がけてみて」
「はい! わかりました!」
隆典くんは元気よく返事した。とても嬉しそう。力になれてよかったよかった。
すると、脳内に2人が付き合う未来が見えた。おめでとう。あなたの努力はきっと報われるわ。
「失礼します! ありがとうございました!」
「頑張ってねぇ」
笑顔で手を振りながら隆典くんを見送った。よし、これで一人目おしまい!
「それでは2人目どうぞ〜」
続いて2人目を呼ぶ。2人目は眼鏡を掛けた女生徒だった。地味な見た目だが、素材は悪くない。
「あの、相談を聞いてくれますか」
「いいですよ。話を聞くだけでも意味がありますから」
女子の質問に関しては、実際の所は話を聞いてほしい。背中を押してほしいみたいな所がある。
「はい。私、イメチェンしようと思うんです。私の仲のいい男子がめちゃくちゃチャラくて。なんか私が浮くっていうかなんていうか……それで、少しは隣にいて違和感なくしようと思って……」
イメチェンか。そもそもこんな地味な子にチャラ男が近づいてる現状がどうかと思うけど。あれ、待てよ……
「ねえ、もしかしてそのチャラ男。名前が……」
私は心当たりある真面目な男子の名前を出した。
「はい、そうです。ああ、そういえば武藤さんは同じクラスでしたね」
やっぱりか。
「なら話は簡単よ。そのままでよし。あなたがどう思うか分からないけど、私が保証するわ」
私は太鼓判を押す。彼ならそっちの方が間違いなく接しやすい。
「えっと……武藤さんがそこまで仰るなら。ありがとうございます」
女生徒はお辞儀をして出ていこうとする。でも、このままじゃあ納得できないかも。どうしようかな。……そうだ!
「ねえ、彼に会ったらこれを言ってあげて? 俊足のガリ勉って」
「俊足のガリ勉? なんですかそれ?」
「言ってみればわかるわ。そしたら、私が太鼓判を押した理由が分かるから」
女生徒は今度こそ部屋を出ていった。私はチラッと未来を見る。よし、少しは納得してもらえそうね。
私は満足して質問を終えた。
その後もサクサクと相談を片付けていく。進路の悩み、恋人の悩みなど学生の人生に少しだけ肩入れしていく。
そして最後。最後の相談者は学生ではなく教師だった。
並んでいたのは保険の田中美百合先生。眼鏡を掛けた、白衣が似合う若い女教師だ。
「どうしたんですか先生」
「私の悩み、聞いてくれる?」
「え、ええ。もちろん」
なんでか知らないけど、少しだけ緊張する。未来視をすれば何を言うかわかるけど、私は極力未来視は使わないようにしているのだ。昔、未来視の影響で酷い目にあったので、実はあまり未来視は好きではない。
「男子がエロすぎて耐えられない!」
美百合先生は顔を赤らめて吐露した。
「え? 今なんと?」
「だから! 男子生徒に欲情してヤバいからどうにかならないのって聞いてるの!」
「ああ~、聞き間違いがよかったなあ。そんな、生徒に犯罪スレスレのことを言うとか聞きたくなかったなぁ」
「ごめんね。あなたぐらいにしかこういうこと言えないのよ」
「まあ、そりゃあ男子生徒にそんなこと言ったら未成年淫行直行ですからね」
「そうなのよ! だから私の持て余す情熱をなんとかしてもらおうと思って」
「う~ん、それは普通に彼氏とかセフレとか作って発散するのがいいのでは?」
「武藤さんもセフレとか知ってるんだぁ、エッチだなぁ」
「誰のせいだと思ってるんですか!? あなたが保険の時間に教えたんでしょうが!」
謎にレッテルを貼られたことに激怒する。この人は、保険の時間に猥談をしだす変態なのだ。
「あれぇ? そうだったっけ? まあまあ、細かいことは気にしないで」
「まったくもう! それで、そういうのいないんですか?」
「いても男子高校生は別腹!」
この人。なんの迷いもなく断言したよ。
「別腹って……だったら結婚前提に男子高校生とお付き合いしたらいいんじゃないですか?」
「ダメよ! すぐに男子高校生じゃなくなっちゃうじゃない! 私は男子高校生が好きなのよ! そのブランドが!」
このエロ教師が!
「それで私はね。なんとか違法にならずに男子高校生と裸のお付き合いがしたいのよ。なんとかならない?」
「なんとかなら……いや、なるかも。チクショーなるかもなこれ。美百合先生、一応聞くけど男子高校生は18歳でもいいですよね」
「もちろん。ても、できれば16歳とか17歳とも……」
「それは犯罪なのでダメです。けど、18歳以上なら同意の上でなら多分なんとかなります。私もそこまで法律に詳しくないんで断言できないですけど……」
「本当に!? 本当に男子高校生食べても大丈夫!?」
「18歳限定ですけどね! まったく、これで教えるのは抜群に上手いのが腹立つ」
「好きこそものの上手なれよ」
いい言葉なのに、どうしてこんなにいやらしく聞こえるのだろう?
「ありがとう。これで男子に高校だけじゃない卒業を送ることができそうよ」
「そうですね。よかったですね」
なんかどっと疲れた。20代の性欲恐るべし。
「それでさ、お礼に何か悩みを聞いてあげるわよ。最近武藤さん、彼氏ができたって噂になってるでしょ? 何か性の悩みとかある? お姉さんが手取り足取り教えてあ・げ・る」
「結構です。退出してください」
私はさっさと退出するよう促す。私とアーサーがそんなこと……
「武藤さんかわいい〜、赤くなっちゃって! 想像しちゃった? あの金髪の子とエッチなことするの!」
「セクハラで訴えますよ。ネタじゃなくて本気で」
「は~い、失礼しま〜す」
美百合先生はツヤツヤになって出て言った。反対に私は多分シワシワになってる。アーサーと楓に会って慰めてもらおう。
私は疲れを癒やすために休憩室へと向かった。




