白馬の王子様は側にいるⅧ
それからの顛末を少し。
僕たちの闘ったショッピングモールは一時的に閉鎖されることになった。進人の死体や僕と有希の血液が至る所に飛び散っているからである。
次に、僕たちはその日のうちに千聖さんの容態を確認しに行った。手術は無事成功。斧はきちんと摘出されていた。
ただ腕については手術をしても満足に使えないだろうという診断が出たとのこと。あそこまでバックリいってれば普通ならそう診断されるのも仕方ない。
有希は千聖さんの病室まで行くと、千聖さんの額に手をかざして処置をした。帰りに有希に聞いた所、行った処置は2つとのこと。1つ目は、千聖さんの傷が完治するように自然治癒力を高めること。2つ目は腕が完治するまでの間、千聖さんが打ちのめされないように、腕が治る夢を見せて希望を抱かせること。
この二点の処置によって千聖さんは、少し時間はかかるが腕を完治させられるようだ。本当はすぐに完治させることもできるらしいが、あまりに不自然だからそれはしなかったらしい。それに、その経験を経た方が千聖さんは立派な人間になれるんだとか。有希の未来視って本当に便利だね。
そして僕と有希もまた、明美さんの所で検査を受けることになった。有希による手当があったとはいえ、僕たちは全身が傷だらけになってしまったのだ。検査が必要なのは間違いない。
幸いにして、僕のケガも有希のケガも完治していた。治療の為に自然治癒力を高めたせいで疲労が凄まじいけど、五体満足で生きていられるのだから文句は言えない。
有希については、なんと自然治癒力を高めることなく完治したとのこと。なんでも、有希は血が流れた箇所がどこであれ、それ以前に完全修復できるんだとか。6歳のときに20針を縫うケガをしたらしいけど、その傷跡が完全に消えているのがその証拠と言っていた。僕も確認させてもらったが、実際、有希の腕にはなんの傷跡もなかった。
「有希の身体はこれだからおもしろい」
明美さんはこの結果に満足そうにそう呟いていた。けど、僕には分かる。彼女もまた有希の体調を心配していたのだ。だから、有希が元通りに戻ったことが嬉しいのだ。
それから、有希の謎の体調不良も治っていた。有希曰く、僕に触った途端に元気になったんだとか。こちらはやっぱり原因不明。困ったものだとつくづく思う。
以上が後日譚として僕が伝えておくべきことかな。
*
そして、その日の夜。
検査を終えた僕は、有希に自分の部屋まで運んでもらっていた。相変わらず、僕は助けてもらう方が多い。まだまだ白馬の王子様としては不十分な所が多々ある。
「それにしても、あの進人たちはなんだったのかな?」
僕をベットに寝かしつけた有希は、今日の出来事についての見解を述べる。確かに、今日の一件はおかしなことばかりだった。
「ホントにね。進人がいきなり現れるわ武器も持ってるわで、明らかに人為的な何かがあったよね」
「うん、それに世界各地で同時発生も起こってた。これは間違いなく裏で糸引いてる存在がいるわね。もしかしたら、あなたを襲った吸血鬼が裏で色々と手を回していたのかもね」
有希は、物語を読むかのように今日の出来事についての見解を述べていく。僕としても、有希の見解におおよそ賛成であった。
ただ一つ。これだけは違うかもと思うことがあるが。
「ただ、あの吸血鬼は今回の件とは無関係だと思う」
「どうして?」
「なんとなく」
「根拠なしかぁ」
そう、僕はあの吸血鬼は無関係だと思っている。もちろんこれは僕の勘でしかない。けど、その勘に今日は助けられたのだ。ならこの考えも合ってるだろうということだった。
「それから私の体調ね。なんで私の体調は突然悪くなるのかしら。しかも、アーサーが側にいると体調がよくなるのよね」
「あれ、プラシーボ効果じゃないの?」
「違うと思う。実感として然気の出力が全然違ったから。どういう訳かはわからないけど、アーサーには私の体調をよくする効果があるみたい。何か心当たりある?」
「あるよ」
「教えて?」
「愛の力さ」
「またまたぁ…… でも、そうだったら嬉しいかも。アーサーの愛が私を護ってくれるんだから」
有希は僕の理屈に嬉しそうに頬を緩める。けど、嬉しいのは僕も同じだった。今回の件で、僕は白馬の王子様として行動することができた。有希の側にいる意味を掴むことができたのだ。
これでもう、自分の立ち位置で悩むことはない。
大手を振って、有希の白馬の王子様を名乗れる。
「だからさ有希。僕はこれからも側にいるよ。君の白馬の王子様として、愛を注ぎ続ける」
僕は有希に対して改めて宣言する。
「ありがとう。それじゃあ、ちょっとの間じっとしてて」
そう言うと有希は、僕の身体に腕を絡めて抱き寄せてきた。ケイコのときにもやったハグである。
「アーサー、今度は私のこと抱き締めてほしいな。あのときは、私のこと抱き返してくれなかったでしょ?」
「いいのかい?」
「うん。温もりを感じさせて」
「わかったよ」
僕は今度はしっかりと有希の身体を抱き寄せた。有希の身体は、どこにでもいる少女のように華奢で温かった。
「アーサー。私は、もっとあなたに側にいてほしい。もしあなたが私との過去を思い出してもずっと……」
「うん。約束するよ。何があっても僕はずっと一緒だ」
そのまま僕たちは片時も離さずに抱き合っていた。
まあ抱き合えたのは、パパラッチをしに椿さんが突入してくる僅かな時間だったけどね。




