表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/142

白馬の王子様は側にいるⅤ


 僕は、次に4階の西駐車場に向かった。ここは中央広場から3次元的に遠く危険が少ない。まだ大丈夫のはずだ。


 僕が4階駐車場にやってくると何十台もの車が停まっていた。慌てて逃げ出したこともあり、エンジンやドアが逃げたままの状態で放置されている。そのせいで車のエンジン音や警告音でやかましいことになっていた。


 これじゃあ音を拾って探すことができない!


 僕は大急ぎで車を調べ回る。くそっ、どれに乗ってるのか検討がつかない。こんな所で道草している場合じゃないのに!



──────────!



 また来た。僕は隠れている車種が黒いミニバンと把握することができた。


 ただ黒いミニバンという車類はメジャーだ。該当車がとても多い。まだまだ探すのに骨が折れるぞ。


 僕は、また何か閃くんじゃないかと期待を寄せる。しかし、探しながら閃きを期待するもそれが降りてくることはなかった。なんだよ。肝心な部分が分からないじゃないか!


……いや待てよ。もしかしたら、近くにいるから閃かないのでは? 宛もない時にはすぐに閃いたのに今はまったくだったのだ。屁理屈かもしれないが、試してみる価値はある。


 僕は近くにある黒いミニバンを見て回る。近くにあった該当車は3台。この中にあってくれ!


 まずは一番近くにあった車から見ていく。ハズレ。中に誰もいない。


 次に入口付近にある一台を見る。これもハズレ。もぬけの殻だ。


 そうして最後の一台の中を覗く。いた! 中に昼寝をしている男性が見える!


 僕は窓ガラスをコンコンコンとノックする。だが、男性の眠りは深いようで中々気づかない。この騒音の中で眠れるなんて! なんて豪胆なんだ!


 くそっ、もっと強くしないと!


 僕は更に窓ガラスを強く叩く。流石の豪胆男でも、至近距離での音には流石に気がついたようで、男性はムクリと身体を起こした。


 寝ぼけた顔でこちらを見る。初対面の相手が必死の形相で眺めている状況に頭が追いついていないようだ。


 ガチャリとドアが開く。そして、そこからのそりと男性が出てきた。


「なんだお前?」


「事情を詳しく説明している暇はありません。進人がこのショッピングモールに出ました。すぐに避難して下さい」


 男性は尚も頭が追いついていない様子で


「進人って、あの人間が稀になるって奴か? でも出たって言っても1体とかだろ? わざわざ避難する必要があるとは思えんのだが」


「いえ、出たのは200体です。今ショッピングモールは戦場になっています。それにおそらく、あなたには家族がいるのでしょう? その家族も避難しています。だからあなたも避難を」


 男性は僕の言葉にようやく事態の重さを受け止めたのか、目を見開いて驚愕する。そして、スマホを取り出して何やら確認していた。


「うわっ、美由紀からめちゃくちゃ連絡が来てる! くそっ! 俺はなに悠長に寝てんだよ! こんな一大事に!」


「家族は無事に避難してあなたを待っています! だから早く避難を!」


「わかった! 俺はどうすればいい!」


「近くに西側の非常階段があります。それを使って下まで降りましょう。僕も付き添います」


 僕の指示に男性はすぐさま従い、僕たちは西側の非常階段を駆け下りていく。


 さっきとは違い、こっちの非常階段には進人たちは徘徊していなかった。おかげでスムーズに降りることができる。


 ここまでくれば心配ないだろうと判断した僕は、2階の非常階段を駆け下りた所で男性に声をかける。


「これでもう大丈夫なはずです」


「おう、助かったぜ。ありがとな兄ちゃん」


「それじゃあ僕はこれで!」


「頑張れよ、正義のヒーロー!」


 出口で男性に別れの激励を受けた僕は、2階の非常階段口からショッピングモールへと戻っていった。


 これで二人目の救出が完了した。


 残すはあと一人だ。


 しかし、戻ったはいいものの最後の一人にはなんの宛もない。たびたび僕を助けてくれた閃きでも、最後の一人の場所は教えてくれなかった。


 2階の足音のする場所を探し回ってみたが、出会えるのは進人ばかりであった。


 まずいな。さっき避難させたのは小学生くらいの少年と寝ていた男性。ここに入った最初の理由の、千聖さんにはまだ会えていない。


 僕は2階の東非常階段まで戻ってきていた。ここから階段を使って3階か1階を探す必要がある。


 どっちだ!どっちに千聖さんはいるんだ!?


 僕はここで閃きが起きないかと期待する。しかし、残念なことに閃きはまったく降りてこなかった。


 仕方ない。まずは1階を探そう。


 僕は方針を決定して、東非常階段から1階へと降りてまだ探していない中央広場付近へと向かった。


 そして、さっき進人を倒したユニクロのショーウインドまでやってきた。最初と同じようにウインドから様子を伺う。


 どうやら、かなりの進人が徘徊を始めているようだ。


 有希はどうなってるんだ? と僕の脳内に一抹の不安がよぎる。ここまで進人が徘徊を始めているのは、有希が戦闘不能になっている可能性が考えられるからだ。最悪、死んでいる可能性も……


 ダメだ!変にネガティブになるな。有希は大丈夫だ。僕がいる限り有希は死なない。


 僕は気を引き締めるように頬を叩いた。こっから先は進人がウヨウヨしている。これは失敗だったか? 先に3階を探した方がよかったかもしれない。しかし、降りてきてしまった以上は戻る時間が勿体ない。疲れはかなり来るだろうがそこは根性。有希の無事を確認するまで僕は決して倒れないぞ。


「ブラッド・パージ!」


 僕は呪文を唱えて進人たちの前に躍り出る。そして、中央広場へと続く廊下を正面から突破していく。


 進人たちはまるで引き寄せられるように、苦しみからの解放を願うようにこちらに迫ってきた。


 僕は黄色い光を纏ったエクスカリバーで彼らを屠っていく。まばらに来るのなら構わないが、一気に来られると流石にキツイ。上手く距離を取りながら追いつかれないようにしないと。


 僕は進人を斬り伏せながら千聖さんが隠れられる場所を探していく。女子トイレ、物陰、お店の死角、そんな場所を探していった。


 道中で何度も進人が道を阻む。これじゃあ満足に捜索することもままならない。


 くそっ、東口(こっち)にはいないのか!


 僕の行動はことごとく空回っていく。そして、時間が経つに連れて焦燥感が燻ってくる。


「はあ、はあ、はあ」


 最悪だ。もうかなり疲れが回ってきた。こういうのは知覚するのが一番まずいのに。ずっしりと身体が重くなるのを感じた。


 ダメだダメだダメだ! まだ止まってくれるな。言っただろ。有希の顔を見るまで止まる訳にはいかないんだ!


 そうして、重たくなってくる身体を引きずって捜索を続ける。せめて、有希の顔が見えればと中央広場へと視線を上げるが、大量の進人たちのせいで有希の姿を確認できない。


 くそっ、早くアドレナリンよ出てこい。一時的でも良いから疲れを消してくれ。


 しかし、アドレナリンが全開になるのは最悪な形で訪れてしまった。



「きゃあああ!」


 疲れの溜まった僕の耳に届いたのは小さな女の子の悲鳴と思しき声だった。


 まさか、進人に見つかってしまったのか!?


 僕は文字通り疲れも忘れて全力で駆ける。声のした方はユニクロの近くからだ。


 頼む。無事でいてくれ!


 僕はユニクロへ向かって全速力で踵を返す。


 そして、ユニクロ中を必死に探し回る。すると、試着室の辺りに3体の進人がいるのが見えた。


「どけ! 邪魔だ!」


 僕は気合を入れて進人を胴から真横に半分にする。流石に力が抜けてきている。3人でもかなりキツかった。


 でも、これで千聖さんを助けられる!


 などと安堵できたのもつかの間。僕は目の前に広がった光景に絶句した。


 僕の視界に入った光景は、試着室の中で千聖さんが血を流して倒れている景色だった。



そんな……僕のせいで



 僕は自らの判断ミスを責める。こんな近くにいたなんて!なんで真っ先にユニクロ内を見て回らなかったんだ! 試着室なんて御誂え向きな場所まであったのに! どうして!



……いやダメだ。今は自分を責めても仕方ない。



 僕は失意に沈みかけるのを堪えるように唇を噛む。ここで動きを止めてはいけない。急いで病院に駆け込めばまだ助かるかもしれないのだ。


 僕は倒れた千聖さんに駆け寄る。あまりに無惨な光景に言葉が出ない。


 千里さんは、進人が持っていた斧で肩から袈裟にざっくりと斬られていた。その斧が肩に引っ掛っている。


 千聖さんから流れる赤い液体はドロドロと流れ続けている。そのムワッとしたニオイにむせそうになった。


 僕はその匂いに耐えながら、千聖さんの身体を慎重に抱き起こす。そして、僕はことここに至って幸運に恵まれていることに気づいた。


 確かに、千聖さんから血が流れている。しかし、刃物が身体にまだ食い込んでいることで血が一気に噴き出す状態を免れていたのだ。もし、これが抜けていたら噴き出すように血が飛び散り、千聖さんは絶命していただろう。


 ただし、この状態で放置していたらダメだ。すぐに手当てを受けて貰わないといけない。

 

 僕にできることはここから千聖さんをすぐに医療機関へと連れていくこと。でも、今の千聖さんは安易に動かす訳にもいかなかった。だから僕は


「これを飲んで!」


 そう言って千聖さんにユキナミンを飲ませた。本当は有希に飲ませたかったが仕方ない。ここで勿体ぶってこの子を死なせてしまったら僕も有希も後悔する。それよりは全然マシだ。


 千聖さんは、ユキナミンを飲ませたことで少し体調が復調したようだ。


 それに安堵した僕は、千聖さんを抱えて走り出した。これでも一刻の猶予がニ刻になったようなものであり、少しでも早く彼女をここから脱出させないといけないことに変わりはない。


 走り出して自分の力がほとんど残っていないことに気づく。千聖さんだけでなくこっちの限界も近いようだ。けど、僕は疲れても精々ヘロヘロになる程度でしかない。対して、千聖さんを放っておけば命はないのだ。ならば、こっちの限界など知ったことではない。


 ユニクロの店内を抜けて出口を目指す。ここから一番近い出口は、ユニクロから50メートル先にある東口だ。


 僕は東口に向かって廊下を突き進んでいく。しかし、その付近には進人が待ち構えていた。


 その数は10体。


 僕は千聖さんを抱えて両手が塞がっている。このままでは奴らを仕留めることはできない。


 ええぃ洒落臭い。こうなったら中央突破だ!

 

「千聖さん。少しだけ我慢してくれ」


 僕は千聖さんを両手でラグビーボールが如くホールドし、進人たちの中央を突っ切っていく。進人たちは密に群がる蟻のようにこちらに寄ってきた。


 そして、腰の入ってない動きで刃物を僕に斬りつける。理性のないヘロヘロの攻撃でも、奴らの強靭なフィジカルからの一撃が僕の身体を傷つけていく。


 だが、返ってありがたいぐらいだ。痛みのおかげで目が冴える。僕は斧が食い込んでも槍が刺さっても構わずに突き進んだ。


 僕はタッチダウンを決めるように進人たちを掻い潜って出口まで駆け抜けた。


 僕が外に出ると、遠山刑事が千聖さんの母親と一緒に近づいてきた。


「千聖! 千聖ぉ!」


 母親は千聖さんの姿に泣き叫ぶ。彼女の慟哭も仕方のないことだ。


「二人とも無事か!」


 遠山刑事は僕たちに心配の声を掛ける。その悔しそうな口元から自分の判断を悔いているようだ。


「早く、千聖さんを病院に!」


「とうに呼んでる! 後は任せろ!」


 遠山刑事は千聖さんを受け取ってそう宣言した。


「それじゃあ、僕は戻ります!」


 僕は遠山刑事に千里さんを任せると入り口へと踵を返す。


「お前さん、まだやれんのか」


「当たり前です! 僕は有希の白馬の王子様ですから!」


 僕はそう言って遠山刑事に背中で覚悟を示す。その僕の背中に、遠山刑事は何を感じ取ったのか


「わかったよ。さっさと行ってこい!」


「ありがとうございます」


 僕は遠山刑事にお礼を言って店内へと入る。逃げ遅れた人の救助は完了した。これで、ようやく有希の白馬の王子様として行動できる。


 後は、有希を助けに行くだけだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ