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白馬の王子様は側にいるⅢ


 私はショッピングモールの中に入っていく。



 はっきり言って今から闘いたくなんてなかった。



 私の体調は間違いなく最悪だ。瞬間移動は使えない。未来も見えない。然気も満足に使えない。今の私は間違いなくアーサーより弱い。こんな状態で200体も相手にするなんて正気の沙汰じゃなかった。


「こんなことなら、アーサーに全部言っとけばよかったなぁ」


 私は後悔するように呟く。私にはアーサーに対して言いたいことがたくさんあった。


 でも1つでも言ってしまえば今の私とアーサーの関係、そして今のアーサーにならないかもしれない。


 私はそれが嫌だった。きっとアーサーなら私のすべてを受け入れてくれる。そう信じているのに、その前提を覆してしまう可能性が怖かった。


 私は今までアーサーに支えられて生きてきたから。その支えが無くなってしまうのが怖かった。


 でもここで死んでしまうなら、いっそ全部吐き出してしまえばよかった。もしかしたらそうすることが、この私の死への道を覆す方法なのかもしれない。


 そう思ったからだ。




「中央広場のあたりか」


 私は、ショッピングモールの東口から中央広場を目指して走り出す。気持ち的には、地獄へと脚を運ぶ気分だ。


「まあでも、中学の頃に比べたらマシか」


 私は中学時代を思い出す。大したことがあったわけじゃないけど、その積み重ねで私の精神は極限まで摩耗させられた。独り言が『死にたい』になってたんだから本当にヤバかったんだと思う。


 ローレンスが予言で、アーサーが迎えに来ると言ってくれなかったら、私はとっくに死んでいたかもしれない。


 コレだけでも相当なのに、幼稚園、小学校時代も碌な思い出がない。いい思い出もあるんだけど、それ以上にシンドかった記憶の方が強く印象に残っている。


「よくよく思い出すと、悪いことの方が多い人生よね」


 私は過去を思い出して自嘲した。まあ、その結果得られた人間不信と感情の摩耗で大概のことは受け入れられるようになったから、それだけは経験として感謝している。




「やっぱりか」


 私は独り言を言いながら改めて自分の体調を確認する。


 間違いない。アーサーが近くにいた時よりも私の体調は悪くなっていた。プラシーボ効果じゃなかったんだ。


 ()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「アーサーは、近くにいるだけでも私を守っていたんだね」


 自分の心が少し軽くなるのを感じた。アーサーは戦場での自分の役割に嘆いていたけどその必要はなかったのだ。その事実が嬉しい。



 けど、同時にがっかりもした。



 アーサーがずっと側にいてくれれば、この現状を変えられたかもしれない。アーサーが私の生きてる内に助けてくれる確証がない以上、選択を間違えてしまったような気がした。


 けど、同時に淡い可能性を感じてしまう。ローレンスの予言は当たっていた。アーサーは私の元に戻ってきてくれた。もしかしたら、アーサーには期待していいのかもしれない。


 なんて今は考えても仕方ない。今は逃げ遅れた人の救助が先決だ。こうしている間にも逃げ遅れの人たちに危険が迫っている。私のせいで人が死ぬことがあってはいけない。それだけはなんとしても避けなくては。


 私は中央広場のメインロードを突き進む。そして、肉眼で中央広場を捉えられる範囲まで近づき─────


「まずい!」


 私は持てる力をフルに使って中央広場へと駆け抜けた。


 中央広場では、逃げ遅れたであろう小さな女の子が進人たちに斬り殺されそうになっていたのだ。


「伏せて!」


 私は剣を振り下ろそうとしている進人を背中から横斬りにした。間髪入れずに、屍を少女ごと飛び越えて後ろにいた進人も縦に二つに斬り裂く。



 普段ならもっと早く動けるのに……



 私は改めて自分の力が満足に発揮できないことを実感した。おまけに、今回の進人は一味違っている。誰も彼もが武器を片手に持っているのだ。素手でもけっこう強いのに、さらに武器を持たせるなんて反則よ。


「今すぐ逃げて!」


 私は少女に命令する。少女は起きた出来事に対応できずに動けずにいた。


 トラウマになったかな? なんてことが頭に浮かぶ。けど逃げなければなるのは死体だ。トラウマは克服できても死は克服できない。


 私は少女の手を取って走り出した。少女は私に連れられて、引き摺られるように着いてくる。


 まずいな。少女を連れたままだと闘えないし、かと言ってこのままでは追いつかれてしまう。 


 仕方ない、アーサーに任せよう。私がここでしのげば回収してくれるはず。


「ねえ、自分で走れる?」


 私は少女に呼びかける。少女は心ここにあらずといった様子で反応がない。


「行けそうなら首を縦に、ダメそうなら首を横に振って」


 私は声が出せないならと少女に行動を指示する。すると出てきたのは


「こわい……」


 という最もな主張だった。


 わかっている。本当は私だって一緒に逃げてあげたい。というか私も逃げたい。のだが、現実は一緒に逃げる方が少女を危険に晒してしまう。


 進人の狙いは私なのだ。進人たちは蜜にたかるように私に寄ってきている。私の蜜としての力は絶大なようで、バラけていた進人たちはあっという間に集結しつつあった。


「ごめんね、それはできないの」


「どうして?」


「あの人たちは私に用があるの。だから私が彼らの要件を聞いてる間に、あなたは先に安全な所まで逃げてて」


「お姉ちゃんは悪いことしたの?」


「したかもしれない……だからこれは私への罰。けど、あなたが私と一緒に罰を受ける必要はないでしょ?」


「でも……」


 少女は尚も渋る。これは、私を心配してというのもあると思うけど、なにより自分の不安を掻き消したいのだ。一緒に逃げてほしい。それだけが彼女の望みなんだ。



 このままだと埒が明かないな……



 私は少女を進人の隙間から囲みの外に突き飛ばした。突き飛ばされた少女は突然の出来事に驚愕している。


 それが正解だった。私が彼女を突き飛ばしたほぼ同時に、進人たちが私目掛けて一斉に襲いかかってきた。未来視は使えないけど、勘が冴えていてよかった。


「お姉ちゃん!」


 少女は叫んでいる。私の心配はいいから早く逃げてほしい。そっちの方が私としても嬉しいのだ。


「早く逃げて!」


 私は進人を斬り倒しながら精一杯に叫ぶ。こっちは進人の相手をするので手一杯なのだ。少女の方まで気にかけていられない。


 少女はほうほうの体で逃げ出した。



 これでいい。



 私は少女が逃げるのを脇目に観察しながら満足する。


 アーサーが彼女を助けてくれるだろう。彼女の命は心配ない。



 後は私が生き残ればいいのだ。


 

 私は刀を大太刀サイズまで伸ばして、目の前にいる進人たちを一振りで斬り倒した。今のはけっこう手応えあった。普段なら100体はいけるはずだ。



 だが、現実はたったの10体程度だった。



 まあ、こんなもんよね。なんとなく予想はついてたけど、ここまで体調が悪いと笑えてくるわね。ホントに負けイベントみたい。


 でも、ゲームと違うのは私にコンテニューできる命のストックがないこと。死ねばそれで終わり。



 ……なんか楽しくなってきた。いわゆるハイって状態ね。



 開き直った私は、大太刀で進人たちを全力で切り刻んでいくつもりだった。しかし、最初の一撃で大きく体力を消耗してしまったらしく、満足に大太刀を振り回せなくなっていた。ならばと、刀を小太刀サイズにまで縮小して、最小限の回避と急所への一撃必殺のスタイルで進人たちを切り刻んでいく。



 どれくらいの時間、斬った刺したを繰り返したのだろうか?



 私の身体は未来視が使えないせいで容赦なく攻撃が掠れていく。ぎりぎりまだ被弾はしていないが時間の問題だろう。


 そろそろアーサーは中に入れただろうか? こういうのって体感より実際は遅く感じるのが常よね。


「はあ、はあ」


 まずい、もう息が切れきた。まだ30体も倒していないのに。


「うっ!」


 遂に、私は進人の凶刃に触れてしまった。痛みで身体が熱い。ここまで痛みを感じたのは6歳のあの時以来だ。


 負けじと柔肌に傷をつけた愚か者を一刺しで葬る。しかし、その間に他の進人から3回ぐらい斬られてしまった。


 血がダバダバと流れてくる。今までこんなに血を流したことなんてなかったなぁ、と他人(ひと)ごとのように私は自分の血を眺めていた。


 傷はどんどん増えていく。この身体はアーサーに捧げるものなのに。このままじゃキズモノだ。


 アーサーはそんな私も愛してくれるだろうか? いや、愚問だったかな。彼ならそんな有希も好きだって言ってくれるだろうし、それに生きていれば完治できる。



 アーサーは逃げ遅れた人を助け出せたかな?

 カチューシャの……少女は生きてるかな?

 私の元に……アーサーは……来てくれるのかな?



 私は…………生きて……いられるかな?



 まずい。疑問が頭の中でグルグルしている。思考が上手くできなくなってきた。



 どたっ



 あれ、急に目の前が真っ暗になって何も見えなくなった。鼻をぶつけたのか顔の中心から痛みも発している。ああそうか、私はうつ伏せで倒れてしまったのか。早く起き上がらないと。


「うっ、ぐほっ、ごほっ」


 うえっ、口から血が逆流してくる。喉の奥が鉄の味で気持ち悪い。どうやら進人たちが私をめった刺しにしてるらしい。身体からジンジンと熱が広がっていくのを感じる。


 ああヤバい。なんか気持ちよくなってきたかもしれない。死ぬ前にはとんでもない快感が得られると聞いたことがあるけど、そろそろお迎え来ちゃう?


 けど、諦めるわけにはいかない。ここで死んだらアーサーを悲しませてしまう。これ以上、私のせいでアーサーを傷つけるわけにはいかない。


 後はアーサーの力を信じよう。吸血鬼のときもケイコのときも、私の想定を超えた結果を出してくれた。数少ない、私が無条件で信じてもいいと思える存在に。


 やっぱり、アーサーは私の白馬の王子様だよ。そんな彼に愛してもらえるなんて、私は幸せ者だ。



────────幸せになれ



 父さんが最後にくれた言葉。私の心に染み付いた言葉。コレは父さんとの約束。親不孝をした私がしないといけない贖罪。


 私は幸せにならないといけない。今まで奪ってきた命に償うためにも、不幸のまま死ぬわけにはといかないのだ。



────────幸せになれ



 そうだよね父さん。まだ幸せになったとは言えないよね。


 私はアーサーと暮らしたことで少しばかり強欲になったみたいだ。一時は生きていられればそれで幸せだって思っていたのに、今はアーサーと共に歩む未来を夢見ている。


 ……そうだ。私にはアーサーにして貰いたいことがあったんだ。あのヘタレ王子に、それをやって貰うまでは死ぬわけにはいかない。


「もう少し頑張らないと」


 私は敢えて頑張るという言葉を使った。私は具体的な指示もなく、ただ闇雲に強要するこの言葉が嫌いだ。



 でも今は別。私には具体的に頑張る理由がある。



 私は血を滴らせながらなんとか立ち上がった。進人たちは立ち上がる私を見て、ユラユラと近づいてくる。


「アーサー、待ってるからね」


 私は、進人たちの群れに向かって歩み出した。

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