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白馬の王子様は側にいるⅡ

改稿中


 そして次の日。僕はポーカーフェイスを気取っているが、内心では心配で気が気でなかった。昼食もあまり喉を通らない。『分からない』ということがこんなにも辛いとは。


「ちょっとは落ち着け」


 落ち着かない僕を真人が窘める。


「それにしても原因不明とはな。しかもここ最近に連続……もしかしたら、アーサーが原因か?」


 真人は真剣な面持ちでそう言った。


「やめてくれ。そしたら僕は死なんといかんくなる」


「そうじゃなくてさ。要は恋煩いなんじゃねえのってことよ。お前にドキドキしてるから、力が上手く使えねえんじゃねってこと」


 真人は極めて真面目にふざけたことを言う。でも、もしそうだったらいいな。


「ありそうな話だね。最近の武藤くんはとても楽しそうだから。とにかく、何かしら理由を作っておくといい。『わからない』ことへの対策は、わかった気になることさ」


 響也も真人の意見の肩を持つ。


「ならいいけどさぁ」


「まっ、どっちにしろお前は側にいてやれよ。こういうのは慣れだろ? 恋煩いならそれで治る」


「そうだな。そうするよ」


「頼むぜ。白馬の王子様!」


 真人はそう言って思いきり背中を叩いてくる。コイツは本当は自分がそのポジションにいたいだろうに……いい奴だな、ホント。




 なんて少し楽観的になってみたものの、事態はそう上手くはいかなかった。


 有希は昼休みの後、予告通りに学校へとやってきていた。しかしその最中に高熱を出して、そのまま保健室に直行してしまったのだ。


 急遽明美さんが診察をするが原因不明。熱は出ているがそれ以外に身体に以上は見当たらなかった。


 僕はそれを6時間目の最中に聞いた。今すぐにでも飛び出したかったが、授業中故に教師に止められてしまったのだ。早く有希に顔を見せてあげたいのに!




「悪い響也、今日は同好会は休む。他のみんなにも言っておいてくれ」


 そして放課後。同好会へ向かう響也に僕は言った。


「わかったよ。武藤くんによろしくな」


「ああ、頼む」


 そして僕たちは、お互いに託された役目を全うするために教室で別れた。




「あの、アーサー王!」


 僕が保健室に向かっていると、待ち伏せていたのか円卓の騎士たちが立っていた。どうやら僕より先に保健室に来ていたらしい。


「有希の体調はどうだった?」


「とても辛そうでした。どうもアナタが学校に行ってから徐々に体調が悪くなってきたそうです」


 結衣さんが有希の状態を説明してくれる。


「そうか……ありがとう」


 僕はそれを聞いて握った拳に力が入る。僕は日常(ここ)でも、有希を守ることができないのか。


「だけど私たちは、アナタなら有希さんの病気を治せると思っているんです」


 結衣さんは慰めるための方便ではなく、確信のある手段と断じるように言った。


「前に体調悪くなったときも、アーサー王が現れたら途端に治ったからな」


 結衣さんの説明に付け加えるように紗友里さんが言った。


 そうだ。僕と再会してから、有希の体調は確かによくなっていた。次の日には僕をボコボコにできていたじゃないか。


 ならなんでだ? なんでずっと近くにいたのに体調が悪くなったんだ?


 希望が湧くと同時に疑問も湧いてくる。有希の症状は本当に謎だらけだ。


「アーサー王。私たちの分まで、有希さんを守って下さい」


 そう言って円卓の騎士たちは頭を下げた。彼女たちの気持ちを無下にすることはできない。


「ありがとう。僕にできることはなんでもやるよ」


 僕はみんなの期待に応えるように宣言した。





「みんな、私のこと心配してくれてるのね」


 帰りの車の中、僕の隣に座った有希はそう申し訳なさそうに言った。


「それで、検査結果はどうだった?」


「原因不明。明美もお手上げだって……」


 やっぱりか。残念。


「それで真人が言ってたんだ。もしかしたら有希は恋煩いなんじゃないかって」


「恋煩い? 真人もまた珍妙なことを。それで私が熱出してたら馬鹿みたいじゃん」


 有希は呆れ気味に返す。けど、少しいつもの調子に戻った。


「でもアーサーが関係あるのはホントかも。実際、少し体調がよくなった気がするし」


「それは本当かい!?」


「うん。まだ未来視は安定しないけど、少し然気が強くなった気がする」


 僕は有希の言葉に喜ぶ。本人のプラシーボ効果かもしれないけど、それでも役に立てているなら嬉しい。



 しかし、そんなほんのりとした喜びはすぐさま絶望へと染め上げられてしまった。





「有希様。火急の報せが入りました」


 すると突然、前川さんがシリアスな口調で僕たちの会話に入ってきた。


「どうしたの?」


「進人が出たとのことです。場所はマツモトショッピングモール。その数は……200」


「「200⁉」」


有希は数字の大きさに驚愕する。僕としても、その数は一度に、しかもデパートで発生するには多すぎると思った。


「前川さん、さすがにそれは誤報では?」


「ねえ前川、それ誰からの情報?」


「残念ですが風魔小太郎からです。目視でも確認済みとのこと。現在、警察によるデパート内の人々の避難が行われています」


「くっ、それじゃあホント見たいね」


 有希は事実を聞いて歯噛みする。対して、僕は事の次第についていけていない。


「風魔小太郎って誰? まさか本物の……」


「そう、本物の忍。諜報活動を生業にしてるわ。彼が見たという以上は確実なの」


「そんな! 今は有希の体調がよくないってのに!」


「まったくね。しかも、今のアーサーは武器持ってないから私一人でよ。ホント、良いことは大して起こらないのに悪いことは連続して起こるわね」


 有希は散々な状況に愚痴るように言った。


「待って。今も有希は武器を持ってるの?」


 僕は僅かな希望にかけて有希に尋ねる。


「残念ながら、持ってるわ」


 有希はそう言うと懐から小刀を取り出す。そして、理屈は分からないがそれを日本刀サイズまで伸ばした。そう、有希は刀を三段階に変化させることができるのだ。


「今に限って言えば、その刀の利便性が憎らしいよ。ホント、その刀の名前はなんて言うんだろうね」


「さあね? この刀をくれた人も『この刀は妖刀だから』しか教えてくれなかったし」


 有希は僕の方を見ながら溜息をついた。


 なんてこった、有希の得物だけはしっかりあるなんて……


 マツモトショッピングモールは多種多様な所用を済ませ、若者のデートスポットにもなる桜丘市民の憩いの場所だ。


 現在は16時を回った所であり、ショッピングモールには主婦や学校帰りの学生の足並みが増える時間だった。


 僕と有希はマツモトショッピングモールに到着する。駐車場付近は人だかりで溢れていた。


 僕はショッピングモールに到着するまでの間、聖剣を持ってきてもらうために椿さんへと連絡を取っていた。それでも、到着には20分はかかるとのことである。


「ひとまず、刑事さんに事情を聞きにいきましょう」


「うん」


「有希様、アーサー様。ご武運を」


 前川さんの言葉を背中に受けて車から降りると、僕たちは状況を確認するためにショッピングモールへと駆け出した。


 そして、ショッピングモールの付近に止まるパトカーまで行き、中にいた警察官に声を掛ける。


「すいません武藤です。今、中はどうなってますか?」


「有希ちゃんか。待っててくれ、いま遠山さんを呼ぶから」


 警察官は親しげな声で有希に話しかける。どうやらこの警察官と有希は知り合いのようだ。


 そうして、無線で呼ばれたらしき刑事さんがこちらへとやってきた。


「有希ちゃん。待っていたぞ」


「遠山さん」


 遠山と呼ばれる刑事さんは親しげに有希へと語りかけた。


「状況は?」


「どうも不自然な点があってなぁ。まず、進人が大量発生してる訳だがどうも一斉に発症したわけじゃあ無いようだ。明らかに人為的な準備がなされた形跡がある。だが、妙なことにその手段がさっぱり分からん。明らかに人智を超えた現象が起きてやがる。んで、いきなり現れた進人によってデパート内はパニック状態。なんとか俺らによる避難誘導を行ったが、逃げ遅れがいるかもしれねぇ」


 遠山刑事は状況を説明していく。起きている状況の非現実っぷりに頭が痛くなりそうだ。


 200体もの進人がいきなり現れる? これだけでもおかしいのに特定の場所に一度に集めるなんて……有希のような瞬間移動を使ったとしか思えない。


「そして、何よりも不可解なのはな。ソイツらは出現こそすれども動かんのだ。狂乱するしかない進人がまるで統制を取ったように活動を停止している」


「動かない? そんな馬鹿な!? 意志を持たないのが進人だったはずなのに! ああ、もう! 最近は例外ケースばっかり!」


 有希は声を上げて不満を述べる。その気持ちが僕には痛いほど分かった。



 そして、これではっきりとした。進人たちはおそらく──



「おそらく、有希ちゃんを待ってるぞあれ」


 遠山刑事は僕がたどり着いた結論を代わりに述べてくれた。


「やっぱり……そうですよね、この状況はあまりにも出来すぎてますもんね」


「ああ。この桜丘市にこの量を出現させれば、間違いなく有希ちゃんの管轄になるからな。どこのどいつかは分からんがこりゃあ罠だ」


 遠山さんは心配そうな視線で有希を見る。彼も一人の大人として、未成年の子どもを罠と分かっている場所に行かせることに抵抗があるのだ。


「でも、動かないなら僕の武器が来るまで待つことができるのでは? 狙いが有希ならば、有希が入るまでは避難誘導しても進人たちが襲ってくることはないかも」


 僕はこの現状を聞いた上で、それでも有希を一人にせずに済む可能性を見つけ出した。


「武器って……(あん)ちゃんも闘えるのか?」


「はい。既に何体かの進人を倒してきてます。それに有希は体調がよくないんです。その状態の彼女を一人で行かせることなんてできません」


「そうなのか? だったら(あん)ちゃんの武器が来るのを待ってから……」


「大変です!」


 しかし、遠山刑事が僕の意見に賛同しかけた所にさっきの警官が声をかける。まさか……


「進人が活動を開始しました! まずいです。このままだと逃げ遅れた人が襲われかねません!」


 くそっ、やっぱりか。どんどん事態が悪い方へと動いていく。


「ヤベえな。有希ちゃんどうする? 他の仲間に応援を頼むか? 亜蓮辺りならすぐにこっちに来れるだろ」


「それもできません!」


 警察官が口を挟んだ

「あん? なんで?」


「現在、世界各地で進人が発生しているようです! 現在、他の進人狩りたちはそちらに手一杯のようです!」


 嘘だろ? ここまで用意周到に悪い方向に向かうことがあるのか? まるで世界が、有希を殺そうと誘導してるみたいじゃないか。


「その情報は確かなのか!」


「は、はい! 今しがた風魔小太郎殿より伝言を受け取りました!」


「見せてみろ!」


 遠山さんが引ったくるように置き手紙を取ると、僕たち3人は中身を見る。そこには



『現在、世界各地で進人が発生中。我、その首謀者を探さん』



 と書かれていた。しかもタイミングが悪いことに風魔小太郎さんは、この不自然な現象の首謀者探しに行ってしまったようだ。


「やっぱり、行って貰うしかないのか……」


 遠山さんは躊躇いがちにそう言った。


「そうみたいですね……」


 有希も諦めるような口ぶりで同意する。


「無茶だ! わざわざ死にに行くようなもんじゃないか!」


 それでも僕は有希を引き止める。今の有希を一人で向かわせることは到底できない。


「でも、この危機的状況で体調を理由に見殺しにできるほど私は非情にはなれない。大丈夫って断言はできないけど、なんとかしてみるから」


「でも!」


「俺も今回ばかりはあんまり行かせたくねぇなぁ。悪いことは言わねえから、(あん)ちゃんと一緒に行った方がいいと思うぞ」


 遠山刑事もやんわりと引き止めて僕に助け舟を出す。そうだ有希、もうすぐ椿さんが来るんだ。せめて、それまででいいから待ってほしい。


「すいません!」


 すると、慌てた様子で女性がこちらに駆け寄ってきた。まさか


「娘が、娘がどこにもいないんです!」


 やっぱり。


 引き止めようとする僕たちにとどめを刺すように、女性は涙ながらに訴えた。


 僕たち3人は言葉を失う。ふざけるな……なんだこれは! なんでここまで最悪を提示してくるんだ!


「……わかりました。あなたの娘さんは必ず助け出します」

 有希はお母さんを安心させるように微笑んだ。


「よろしく、よろしくお願いします!」


 女性は涙を流しながら縋るように有希にお願いした。こうなってしまっては、もう引き止めることはできない。


「有希ちゃん……」


 遠山刑事は有希に語りかける。その眼には憐れみが感じられた。


「大丈夫ですよ遠山さん。私には白馬の王子様(アーサー)がいますから。きっと、彼が私を助けてくれます」


「アーサーってこの(あん)ちゃんのことか?」


「はい、彼は進人狩りになったばかりですけど実力は間違いないですから。武器が来ればこの状況をなんとかしてくれます」


 有希は僕のことを遠山刑事に説明する。有希の高評価は嬉しい。けど、なればこそ今すぐにでも有希と代わってやりたかった。


「じゃあ、行ってきます」


「有希! 待って!」


「アーサー!」


 僕の声を遮るように有希が声をかける。


「約束して。武器が来たら必ず助けに来るって。それまではなんとか耐えてみせるから。あっ、まずは逃げ遅れた人の避難が先か……仕方ないね、私は強いから最後でいいよ。それまで頑張るから」


 そう言った有希は諦めた顔で微笑みながら、デパートの中に入っていった。


「有希……」


 取り残された僕はショッピングモールを見つめる。白馬の王子様として、何もできない自分が恨めしかった。


「アーサーくん。心配なのは分かるが今は待つんだ。武器を持たない人間を戦場に向かわせることは俺にはできない」


 遠山は僕の肩を掴んで引き止める。その手から絶対に行かせないという強い意志を感じた。だけど、同時に遠山刑事の悔しさも感じられた。僕はその思いに応えるようにグッと唇を噛んで


「約束する。だから、少しの間待っててくれ」


 と行きたい衝動を抑え込んで言った。

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