表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/142

白馬の王子様は側にいる


「アーサー。今日は仕事があるから3時間目抜けるわよ」


 僕の初陣が終わってしばらく経過した日の朝。車の中で有希から仕事の情報を受ける。


 僕はケイコの一件から本格的に有希と進人狩りを始めており、既に2件の進人退治を行っていた。いずれも微力ながら、活躍はできていると思う。


「今日はどこまで行くの?」


「とある県の山奥。そこそこの大量発生が起こるわ」


「わかった。今回はケイコのときのようなイレギュラーは起こせそう?」


「難しいでしょうね。今回は昔からいる猪の進人だから。スコティッシュフォールドのような宇宙産とは考えにくいわ」


 僕はあれから、できればケイコのときのような奇跡を起こしたいと有希に品種を尋ねている。しかし、なるのは昔からいる原種が多いことから目論見が上手くいくことはなかった。





「それじゃあ、進人狩りに行ってきます」


「しっかり頼みますね。武藤さん。アーサーくん」


 そして2時間目終了後。真希先生に事情を説明した僕たちは激励を受ける。


「しっかりやれよ!」


「アーサー、武藤の脚引っ張るなよ!」


「二人とも行ってらっしゃい!」


「「行ってきます」」


 僕たちはクラスメイトの言葉に背中を押されながら、教室を後にした。





「じゃあアーサー。手を握って」


 それぞれの戦闘服へ着替え終わり、鎧姿になった僕は同じく袴姿になった有希と手を繋ぐ。


「よし、行こう」


 僕の言葉を合図に、かぐわしい薔薇の匂いが花びらと共に舞った。同時に僕は意味もなく目を閉じる。


「着いたわ」


 そして、有希の言葉を合図に目を開けると僕は目的地の山奥へと到着していた。


 目の前には大きな森林が広がっている。この森林の中に進人たちが大量発生するようだ。


「エクスカリバー。今日もよろしく頼むよ」


 僕は腰に差した愛剣に、囁くように言った。


「アーサーって本当に剣を大切にしてるのね。 最近、暇を見つけては武器の手入れしてない?」


「有希だってその刀を大切にしてるじゃないか」


 僕は有希の指摘に対して反論する。有希だってこの刀を毎日持ち歩いているのだ。人のこと言えないぞ。


「まあ、この刀は私が初めて進人を斬ったときから使ってるからね。いつでも対応できるように持ち歩くようにしてるのよ」


「なるほどね。有希は生粋の仕事人ってわけだ」


「ん〜どうなんだろ? お守りみたいなモノでもあるしなぁ」


「確かに、『身を守る』って意味ではこれ以上のモノは中々ないだろうね」


「うまいこと言ったつもりか」


 などと会話をしながら僕たちは森へと歩を進めていった。




「有希、進人が発生するまであとどのくらい?」


「もうなってるわ。ほら、あそこ」


 有希はそう言って前を指差す。そこには、大量の進人が頭突きをしながら暴れていた。進人になると起こる錯乱状態。人間のなり損ないたちが目の前で自傷行為を繰り返していた。



 その数、ざっと50。



「今回も初仕事のようなイレギュラーはないはずだから、存分に腕を振るって。きちんとバフは掛かってる?」


「大丈夫。それに、もし何かあっても自分の力を使えば平気さ」


「気軽にポンポン使おうとしない。然気(さりげ)を使ってもへばらないようになるまで身体を慣らさないと、いつか痛い目に遭うわよ」


「わかってる。忠告ありがと……っと、来るよ!」


「そうみたいね」


 猪の進人たちはこちらに気づいて突撃姿勢に入る。


 僕と有希は猪たちに負けない勢いで突撃していった。僕は自慢のエクスカリバーを、有希は日本刀を使ってバッサバッサと進人を薙ぎ払っていく。


 進化しきったケイコと闘ったおかげで、進化不良の進人と闘うのは全然苦にならなかった。しかも猪だから単調な突撃が多く、それを闘牛士のように躱せば隙だらけの身体に攻撃することができた。


 僕は進人を胴から2つに切り裂きながら、有希の方を見る。


 やっぱり有希の剣捌きはとても美しい。芸術そのものだ。猪たちの突撃を未来視で予測して、マントのように舞って剣を振るっていく。それを絶え間なく連続して行い、猪たちを真っ赤な薔薇の花びらで満たしていく。



 ブン



「えっ?」


 すると、僕の目の前を鈍い音と共に有希の刀が掠めた。僕は起こった出来事を飲み込めずに硬直してしまう。


 有希は投げた姿勢を保ちながら


「アーサー。今は私じゃなくて倒す相手を見て」


 と叱りつける。そうだ、これじゃあ有希に助けて貰ってるのと同じゃないか!


 僕は気を引き締めて進人たちに向かっていく。有希もまた、刀を取りに瞬間移動して相手にトドメを刺していた。そしてそのまま、次の進人に向けて美麗な剣技を振るっていく。



 それから、ほんの数分のこと。



 50体近くいた進人は、あっという間に殲滅されてしまった。僕が片付けた進人の数は15体ほど。対して、有希は35体を刀の錆に変えていた。


「さっ、帰りましょうか」


 有希は息一つ切らさずに涼やかにそう言った。あれだけの進人をものの数分で倒しておいて、有希からは余裕しか感じられない。対して、僕はこの数を倒すだけでもかなりの疲労を感じていた。


「また有希に、助けられてしまったね」


 僕は独り言のように呟く。もし僕が単独でコレに挑んだら、下手すれば命の危険があった。だけど、有希が1人で挑んでも戦闘時間が1分伸びるかどうかだ。



 これ、僕がいない方がよくね?



 僕の頭の中で疑念が渦のように沸き起こる。有希との実力差は理解していても、現状の不甲斐なさに開き直れるほど僕は楽観的ではない。


 当初、僕がイメージしていた白馬の王子様は『力のないお姫様を、進人狩りになって守る』存在だった。


 しかし、お姫様(有希)が進人狩りとして活動していたことで、その定義は大きく変わってしまっていた。


 ただ進人狩りになって活動すればいいという甘っちょろいことは言えなくなってしまったのだ。現在の白馬の王子様の意味は『有希と同じ戦場を共にして、その戦場で有希を守る存在』でなくてはならなくなったのだ。



 では、戦場で有希を守るとは具体的に何をすればいいのだろう?



 これが僕の頭をもたげる課題になっていた。初陣の後もいくつかの仕事をこなしてきたが、有希の強さがあれば僕が守る必要などないのは明らかだった。むしろ現状の僕は、有希に守られているといった方がいい。



 戦場でも白馬の王子様として必要とされる存在になりたい。自分がいる意味を見出したい。



 これが、今の僕の切実な願いだった。





「で、僕は戦場で君のために何ができると思う?」


「まさか、直接聞いてくるとは思わなかった」


 現在、僕は自分の部屋で有希と向かい合って座っていた。

僕は自分の願いを叶えるため、単刀直入に有希に意見を求めることにしたのだ。


「僕は戦場でも君の白馬の王子様でいたい。僕がそうある為にはどうしたら良いと思う?」


「どうって言われても……」


 僕の質問に有希は困惑する。


「私としては側にいてくれるだけで十分というか、むしろ無理して戦って死なれたりする方がイヤだし……」


 有希は少し頬を染めながらボソボソと自分の見解を述べていく。


「有希はそれでも、僕を白馬の王子様と思ってくれるの?」


 僕は有希に向かって真剣な眼差しを向ける。有希も僕の表情を見て、きちんと目線を合わせ直してくれた。


「当たり前じゃん。むしろ、アーサーがそんなことに悩んでいるとは思わなかった。私は、アナタが生きてさえいればそれ以上は望まないわ。私にとっては、今のアナタは十分に白馬の王子様よ」


 有希はそこまで言って照れくさそうに僕を見つめる。僕はその瞳から、有希の言葉が嘘じゃないと分かった。だけど、なぜそうまでして僕を受け入れてくれるのか分からない。そんな僕には、有希のその(ことば)はとても自分には勿体ない代物に感じた。


「しばらくは私の側で仕事の手伝いに専念すればいいわ。そして力をつけましょ? 力をつければ役に立つときが来るから」


「でも、その間は僕は君に守られることになる。白馬の王子様の僕が、君に迷惑をかけてしまってすまない」


 もちろん、有希の言葉通りに自分がそれを受け入れればいいのは分かっている。



 けど僕は、すぐにでも()()()()()()ならないといけない気がしていたのだ。



「それでも、今は無理しないで。今のアーサーは非力すぎるから。私がフォローするからできることをやりましょ? それに……」


「それに?」


「それに、守るっていうのは肉体的にだけじゃないでしょ? 私はアーサーがココにいてくれるだけで、相当に助けられてる」


 有希は表情は変えずに、少しだけ顔を紅くしてそう言った。僕はその姿に何も言うことができない。


「とにかく今はコレでいいの。いつなのかは私にも分からないけど、アナタは私を守るときがくる。じゃ、私はお風呂入ってくるから」


 有希は顔をほんのり染めたまま部屋を出ていった。僕はポツンと取り残される形になる。


「有希がそういうなら、今はそれでいいのかな」


 僕は、思い人の告白に心まで救われてしまった。


 本当に守られてばっかりだ。






「アーサー、悪いんだけど一戦お願いできる?」


「もちろん、昼だって夜だっていつでもいいよ」


「……ありがとう」


 僕が有希に相談してからしばらくの放課後。普段は顧問の立ち位置で指導している有希が、唐突に試合を申し込んできた。僕としては全然構わないのだが有希はなぜか浮かない顔をしている。軽く混ぜたジョークにも無反応だ。


「では、勝負始め!」


 結衣さんの号令により試合が開始される。僕はエクスカリバーを構えて有希を見ていた。


 あれ? 今日は一段と慎重だな。


 僕は、有希がしっかりと構えていることに違和感を覚える。初めて戦ったときも、リラックスして構えを取ることはなかったのに。


 まあいい、その真意は戦って確かめよう。


 僕はそう決心して有希へと向かっていった。もちろん全力である。


 まっすぐ行くと見せかけてフェイントを入れ、後ろから攻撃を仕掛ける。ここまで有希は僕の動きに気づいていない。


 そのコンマ数秒後、僕の動きに気づいた有希が両手で僕の攻撃を振り払った。その動きには精細はなく、弾き返すのがやっとという感じだ。


「有希?」


「いいから……続けて」


 有希はいつになく真剣に頼んでくる。わかったよ。そういうことなら遠慮しない。


 僕はそのまま連続攻撃を仕掛けていく。有希はその動きに必死に喰らいつくように対応していた。ガンガン後退もしている。おかしい。今日の有希は──


「あっ」


「えっ、しょ、勝負あり!」


 なんて考えごとをしていたら、僕は有希の胴に一太刀を浴びせていた。その瞬間に結衣さんが勝敗を決する。やっぱりそうだ。



 今日の有希は──弱い。



「有希さんが……負けた?」


 結衣さんは目の前の出来事に驚く。他のメンバーも、起こったことが受け入れられずにいた。


「有希、手加減してたの?」


「いや、そんなことはないよ。私は真剣。けど、全然調子が出なくて」


 有希も困惑しているようだった。それもそのはず。なにせ昨日までは元気満々に僕をボコボコにしていたもんな。


「まさか、()()……ですか?」


 結衣さんが心配そうに言った。


「またってどういうこと?」


 僕は結衣さんに尋ねる。過去にも同じことが起こっていたのか?


「はい。実は有希さんは、アーサーさんが転校してくる前日にも、同様に体調を崩していたんです」


「それ本当⁉」


「本当よ。そうでなかったら、あなたが吸血鬼に襲われる前に助けることができたはず」


「そうだ。言われてみれば……」


 僕はここで、あの日の有希の行動がおかしいことに気づいた。有希は未来視を持っている。その力があれば、事前に吸血鬼の襲撃を予測することはできたはずだ。


 それに有希と初めて登校した時、結衣さんは『もう身体は大丈夫なんですか?』と聞いていた。そして、そもそもの転校初日の欠席。


「と、とにかく一度明美さんに見てもらおう。もしかしたら、本当に調子が悪いだけかもしれない」


「それならいいんだけど……」


 僕は一縷の望みをかけて、明美さんの検診を受けることを進めた。






「わからん。原因不明だ」


 しかし一縷の希みは、明美さんの診断によってあっさり潰えた。


「簡単な診察をしただけだが、現段階では健康体としか言いようがない。どうする? 前回同様もっと診察してみるか?」


 明美さんは有希に尋ねる。前回休んでいたのはそれが原因だったのか。


「一応受けてみる。もしかしたら、今度は何かわかるかもしれないし」


 有希は明美さんの提案を承諾する。その言い方や表情から、あまり期待しているわけではないようだが。


「わかった。すまんが明日の午前中にやる。学校に連絡を入れておいてくれ」


「じゃあ僕も!」


「そ、それはダメ!」

 有希は突如、顔を紅くして拒否した。


「なんで? 僕は君の白馬の王子様。こんな時ぐらい一緒にいたっていいじゃないか?」


「でも……」


「でも?」


「でも、まだアーサーに裸を見られるのは恥ずかしいから」


 僕は肩の力が抜けそうになる。えっ? それが拒否してた理由?


「明日は精密検査をするからな。有希には下着姿で受けてもらうことになる」


 明美さんも賛同する。ゆ、有希の下着姿……くっ、僕にそれが直視できるとは思えない。


「でだ、有希も恥ずかしいと言ってる以上、君は検査室の外で待つことになる。違うか?」


 明美さんは冷静に分析する。有希の嫌がることはできない以上、僕はそれを拒むことができない。


「なら別に、わざわざ休んでまで付き合う必要はないだろう。有希の体調は責任を持って私が診断する。君は学生の本分を果たせ」


 僕は、何も言うことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ