表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/142

無絶の罠Ⅱ


「ねえ、美香ちゃんってあと何回撃てるの?」


 戦慄する私にソソが質問してくる。


「通常弾は残弾30、特製弾なら5って所だ。あとは実験段階だが、弾なしで撃つことも可能ではある」


「弾がなくても撃てるの?」


「ああ。アーサリン殿との戦いを経て、リロードなしでも撃てた方がいいと思ってな」


 私の撃てる弾には2種類ある。1つは、ブレードガンの銃口上下から放つことができる普通の散弾。


 そして、もう1つが武藤殿の然気を込めた特製の鉛玉だ。着弾すると爆発を起こすことができ、ガンブレードに込めれば斬撃に爆発を付与することもできる。


 しかしいずれも、弾が切れればリロードせざるを得ない。故にそれを補うために試しているのが、弾丸を使わない不可視の散弾だ。ただこれは弾切れ時の隙を減らすことができるが、消耗が激しいため、できるだけ使用を避ける必要がある。


「だが、それを聞いてどうする?」


「実はね、いいこと思いついちゃったんだよ!」


 ソソが私の質問に自信満々に答えると、ちょいちょいと、顔を近づけるよう手で合図してくる。


 それに従い顔を近づけると、ゴニョゴニョと耳打ちしてきた。なるほど、確かにそれなら罠をくぐり抜けられるかもしれない。


「でも、バリアはどう破るんだ?」


「それはもちろん……これ!」


 ソソが自信満々に力こぶを見せてきた。パッと見ではとてもあるように見えないが、それでも、私の鍛えた上腕より遥かに強い力を発揮する。ソソの剛腕があれば、赤鬼のようにバリアを破ることも可能かもしれない。


「だが、バリアについての情報が足りてないぞ。弾丸を弾き返す仕掛けがあるように、物理攻撃にも何かしらの仕掛けが──」


「も~! さっきから『でも』とか、『だが』とかネガティブになり過ぎー!」


 私の話を遮ってソソが文句をつけてくる。でも仕方ないだろ。分からないことが多く、楽観視できないのが現状なのだから。


「そんなに気になることがあるなら、こうすればいいんだよ!」


 ソソは再び自信満々に言うと、黒鬼の方に視線を向ける。


 そして




「ねぇ黒鬼くん! バリアは弾を返す以外に何かギミックあるの? あと、設置してる罠についても教えて!」




 馬鹿正直に質問した。


「ばっ! そんな簡単に教え──」


「えっと……バリアは直接攻撃なら衝撃を、さっきみたいな遠隔攻撃は跳ね返すように設定してるよ」


 その質問に黒鬼はあっさりと答えてしまう。馬鹿な⁉ こういうのは情報戦じゃないのか⁉


 ……いや待て、そういえばさっきは普通に答えてくれてたな。なら、安易に信じるのも危険だろうが、聞けるだけ聞くのもありかもしれない。


「で、罠は然気の属性に合わせて作ってるから、火炎、水塊、感雷、氷結、岩投、竹槍、極光、黒渦の6つがあるよ。定期的に移動を繰り返していて、圧力がかかると起動するんだ」


「ふむふむなるほ……えっとごめん、確認なんだけど然気の属性に合わせてるんだよね?」


「うん、そうだけど……」


 ソソが確認のために聞き返す。そこは私も疑問に思った部分だ。


「じゃあ竹槍って何属性なの? もしかして竹って属性があったり?」


「竹槍は草属性……あっ、草なのはなんとなく緑のイメージが強いからで、実際は植物すべてを含むんだ!」


 黒鬼が慌てた様子で補足する。確かにそこも大事だが……


「いやいや、そこも大事だけどそうじゃなくて。そもそも然気の属性に草属性なんてあるの?」


「うん、そうみたい。僕も15年くらい前に初めて知ったんだけど……」


「なるほど〜そんなのもあるのか」


 ソソが感心するように呟く。まさかここで、武藤殿ですら知らないことを聞けるとは思わなかった。


「あとさ、いつもはどうやってバリア破ってるの? 赤鬼さんが罠を突破してるのは聞いたけど」


「そのまま赤兄さんが拳で砕いてるんだ。何回も攻撃して無理やり」


「こ、拳で……」


 バリアを殴るのを想像したのか、ソソは舌を出しながら手をヒラヒラと振った。


「可能な限りは武器を用いた方がいいだろうな。それならば、強く弾かれるだけで痛みはないはずだ」


「だね。そしたら黒鬼くん、準備するからちょっと待ってて! 情報提供ありがとう!」


 ソソが一旦会話を打ち切る。思いもよらない解決策だったが、これで突破に必要な情報を集めることができた。


「じゃあ美香ちゃん、作戦通り、お願いね」


「ああ」


 その言葉に返事をすると、私はリボルバーに弾を補充しながら、ソソの斜め後方へと下がる。


 ソソもまた、巨大な斧剣をブンブン振り回して準備していた。


 そして、お互いの準備ができたのを確認したところで


「じゃあ黒鬼くーん! 今からもう一回攻撃するよ! 必ずそこから出してあげるからね!」


「お、お願いします!」


 ソソが宣戦布告する。それに黒鬼が答えることで、改めて戦いの火蓋が落とされた。


「それじゃあ美香ちゃん、お願い!」


「ああ!」


 ソソの言葉を合図に、私は罠の張り巡らされた地面に弾丸を放った。



 そしてその上を、ソソが足場にして駆け抜けていく。



 ソソの提案したアイデアとは、私の弾丸で足元の罠の有無を見極め、罠がないのならそれでよし、罠が起動したのならソソが対応していくというものだった。こうすることで、不確定な足場に一時的な確定を刻むことができる。


 私は一定間隔で散弾を打ち込んでいく。するとそのいくつかで罠が起動した。火炎、水塊、感雷がソソの進む先に出現する。


「ほっ! はっ! よっ!」


 それらをソソは軽快に回避、または斧剣で斬り裂いていく。


 さらに


「効かんわ!」


 何処からか飛んできた投岩も、ソソの斧剣で真っ二つになった。


 よし、作戦通りだ!


 私はソソの進む道を作りながら、ここまでの出来を確認する。


 だが気を緩めるわけにはいかない。ソソがバリアの下まで行くまでは油断──


「え?」


 すると、着弾点の右斜め前から竹槍が飛び出してきた。弾が掠ったのか、予測範囲外からソソに襲いかかる。


「うわっと!」


 ソソが驚き、思わず左に回避してしまう。


 しまった!


 ソソの回避した先は、私の弾丸を撃っていない所だ。もし罠があればタダでは済まない!


「うぎゃ!」


 そして案の定、その先には罠があった。ソソの脚が地面についた瞬間、地面から強大な爆発が起こる。


「ソソ! 大丈夫か!」


 爆炎に包まれたソソを私は心配する。これが火炎? 明らかに私が喰らったのと威力が違うぞ……?


「あはは……肌面積が少ないから、熱さがモロにくるね」


 脚に生傷を作りながらソソが苦笑いする。コイツの格好は露出が多いから、怪我の様子がとても生々しい。


 だが手足が五体満足なのは流石の一言だ。私が生身で受ければ、間違いなく無事ではすまない。


「平気か?」


「平気平気! それより、彼までもう少しだよ!」


「あ、ああ……そうだな、よろしく頼む!」


「うん!」


 私は気を取り直して狙撃を再開する。バリアまであともう少し。



 しかし、そう易々とはいかない。



 黒鬼まで残り30メートル。その先、着弾点のすべてで罠が起動した。


 しかも、いずれもさっきより威力が増大している。


「痛っ!」


 大筒のような体積を持つ強大な雷。


「危なっ!」


 弾丸のような速さで飛び出す水の塊。


「寒っ!」


 一瞬で身体を凍らせてしまいそうな氷の吹雪。


「はっ、ほっ、よいしょ! ふん!」


 まるで木のようにうねり、迫る竹槍。


「く、苦じい!」


 挟むように出現する投岩。


「ちょ、大佐になる!」


 目を焼き尽くさんばかりに光る極光。


 様々な罠がソソへと襲いかかる。この時点で既に、私が対策しても完全回避ができない状態になっていた。


 しかし、ソソはそのすべての被害を受けながら、例外なくすべてを耐え凌いでいた。流石は神の肉体、無敵という赤鬼の身体に引けを取らない。


「道がなーい!」


 そして最後、水溜りのように出現する闇の川。まるで城堀のように、黒鬼のいる場所を取り囲んでいた。


「ソソ、上だ!」


 私は咄嗟に飛ぶよう指示する。その指示に従い、ソソは強烈な跳躍をした。


 しかし、飛んだ先には無数の竹槍が待ち構えていた。踏んでもいないのに、罠がソソを追いかけて起動している。


「足場ありがとう!」


 それでもソソは止まらない。飛んでくる竹槍を躱し、足場にしながらバリアへと近づいていった。


 そして


「うおらぁぁ!」


 およそお嬢様が出してはいけない声を出しながら、ソソは斧剣をバリアへと振りかぶった。その一撃を、甲高い音を出してバリアが防ぐ。


「うあっ!」


 ソソが悲鳴を上げる。衝撃がカウンターとして帰ってきたのだろう。


「えっ、なに⁉」


 そして、弾かれたのに呼応するように竹槍が斧剣に絡みついてきた。そのままソソの方にまでその触手を伸ばしていく。


「ヤバっ!」


 それに気づいたソソが即座に斧剣から手を離す。これにより、間一髪で拘束されずに済んだ。


 斧剣を拘束した竹槍は、そのまま黒渦へとその身を押し込んでいく。


 黒渦に吸い込まれた斧剣は、どこかへと消えてしまった。


「こうなったら!」


 ソソは黒渦に落ちまいと、バリアに両手両足を使ってしがみつく。


 そして


「せいや!」


 バリアに何度も拳を撃ちつけ始めた。


 その衝撃を、バリアは波のようなモノを打ちながら受け流している。中々割れる気配を見せない辺り、やはり一筋縄ではいかない。


「頑張れソソ!」


 私はソソにエールを送る。今の私にはこれぐらいしかできない。


「てりゃ! りぁ! りぁぁ!」


 ソソがさらに連打を続ける。バリアは高音を出しながら、何度も波を打っていた。



 ビキッ



 それが数分続いたある時、遂に罠に亀裂が入り始めた。バリアが発する音も、甲高い音から亀裂音に切り替わり始めている。


「いいぞ、もう少しだ!」


 私の応援も次第に勢いが増していく。


「もう、少し……!」


 対して、ソソの拳の勢いは落ちてきていた。一発一発を苦しそうな様子で放っている。


「も、もう……無理!」


 そこから数発もしないうちにソソが、そう言って拳を止めてしまった。すると今までの衝撃が帰ってきたのか、大きくバリアに弾かれてしまう。


「まずい、黒渦に落ちるぞ!」


 私は必死に呼びかける。しかし、ソソは抵抗することなく黒渦に飲みまれてしまう。


 そして、私と黒鬼のちょうど真ん中に出現した。


「ソソ、大丈──」


 私が声を掛けるのとほぼ同時に、鈍い風切音と影が現れた。私は咄嗟に音の主へ視線を向ける。


 そして


「逃げろぉ!」


 それを見た私は大声でソソに呼び掛ける。このままだとタダじゃ済まない!



 しかし私の呼び声は、()()の突き刺さる音に掻き消された。



「かはっ」


 ソソが内蔵を傷つけたのか口から血反吐を吐く。


「くそっ!」


 私は大急ぎで罠の中を駆け出す。弾を使い果たす勢いで撃ち込み、道中の罠を発動させていく。


「しっかりしろ!」


 そしてそれらを無理やり突破し、私はグッタリとしたソソに呼びかけた。全身が痛みに悲鳴を上げているが、今はそれどころではない。


「はあ、はあ……やばっ、これ、エッチすぎない?」


 危機感を募らせる私を余所に、自分の上げる吐息に興奮するソソ。その様子に、私は少しばかりの安堵を覚えた。


「少し休ませて……もうちょっとで破れそうだったから」


 ソソはそう言って拳を握ろうとする。


「痛っ!」


 しかし、力を入れようとしたところで痛みに顔をしかめた。


 私は直診して拳の状態を確かめる。


「お前……拳の骨がズタズタじゃないか!」


 そして、拳に異常をきたしてることを告げた。


「そうなんだ。どうりで痛いわけだよ」


 ソソはどこか他人事のように呟く。激痛だろうに……どうしてそんなにあっけらかんとできるんだ。


「でも大丈夫。まだ脚が使えるから」


 そう言うと、なんとか斧剣を抜こうと刀身に手をかける。


「無茶を言うな。ただでさえボロボロなのに、それ以上やったら本当に死んでしまうぞ」


 私は手を軽く握ってソソを制止する。


「だ、大丈夫だって。後でケガなんていくらでも……」


「馬鹿! 拳だけじゃない、臓器だって傷ついてるんだぞ!」


 私は楽観的なソソを叱りつける。それをどう捉えたのか、ソソはひどく顔を曇らせた。


「……ゴメン、役に立てなくて。自分で蒔いた種なのに」


 悲しそうな顔で謝るソソ。


「別に、そういうわけじゃ……」


 そのらしくない様子に私は困惑する。どうしてそんなに辛そうなんだ?


 お前にそんな顔は似合わないだろ。


「安心しろ。お前は十分に役目を果たした」


 私はひび割れたバリアを指差す。


「お前のお陰でバリアにヒビが入っている。コレが戦果と言わずなんというのだ。おまえは十分に仕事を果たしたのだ」


「ほんと……?」


「本当だ」


 その言葉に嘘偽りはない。


「それならよかっ……た」


 嬉しそうな顔でそう言うと、ソソは静かにまぶたを閉じた。


「おい、ソソ!」


 私は大急ぎで心音を確認する。するとドクッ、ドクッと鼓動の音が聞こえてきた。


 よかった……まだ生きてる。


 私は動き続けていることに一安心する。しかし、このままではいずれ止まってしまう。早く手当てをなくてはならない。


 だが、そのためにはこの危険地帯から抜け出さなくてはならないのだが、罠の威力からして、ソソを抱えてあの中を行くのは危険すぎる。


 おまけに、今の私はここまで来るのにかなり消耗してしまっていた。弾も武藤殿の然気も、もうほとんど残っていない。


 私は自分の無力さが憎くて仕方なかった。私にもソソのような、強靭な身体がありさえすれば!


 そして、それもこれも全部!


「やってくれたな……」


 私は怒りの形相を黒鬼に向けた。あんな臆病な様子を見せておきながら、情報を巧みに隠すとはなんて詐欺師だ!


「ひ、ひいいいいい!」


 私の目に怒りを感じ取ったのか、黒鬼が心底怯えた様子を見せる。その様子に、私はさらに腹が立った。


「本性を見せろ! 貴様が詐欺師であることは既に見抜いている! なんだあの罠の動きは! あんな連携が罠に取れるものか!」


「ち、ちがうぅううう! 本当に僕は何もやってない! 罠が勝手にやってるんだよ!」


「そんなわけあるか!」


「本当なんだ! 僕の『無絶の罠』は、自律的に行動するんだよ!」


「この……!」


 私の怒りが最高潮に達したその瞬間、




 黒い影を纒った()()が地面から飛び出してきた。


 そして、私の眼前で威嚇してくる。




「な──」


「なんだこれぇ!」


 私の言葉を遮って、黒鬼が心の底から驚いていた。その様子からは、微塵も演技の素振りが感じられない。




 本当に知らないのか?




 黒鬼の様子に私は驚く。そんなことが、本当に起こり得るのか?


 罠が、自らの意志で進化するなどということが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ