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天才たちの戦い


「この勝負、君たちの勝ちだ」


 全身を拘束された赤鬼が呟く。それに、俺たちは素直に喜びたいが……


「悔しいけど、引き分けだろうね」


「だな。まさかあんだけやって傷0とは。痛覚が残ってなかったら、拘束すらできなかったぜ」


 結局、響也の攻撃は鬼の身体を貫くことができなかった。俺の拘束で動きを封じることはできたものの、これじゃとても勝てたとは言えない。


「だがポーズは5人でやらねば効果はない。それを封じただけでも、君たちは貢献したと言えるだろう」


「あまり褒めないでくれ。器の大きさで負けを認めたくなるから。……とにかく、股間を打れたくなければ動かないことだ。同じ男として、できればそれはしたくない」


 響也が赤鬼の股間に剣を向ける。


「それで? 約束通り教えてくれよ。お前の身体の秘密について」


「いいだろう。この身体は、魔族が持つ特殊能力によるものだ。然気による強化ではない」


「特殊能力?」


「うむ。我ら魔族は進人のような強靭な身体(からだ)を持たない。強度で言えば、君たち地球人と同等と言った所だ。故に対抗できるよう、それぞれが固有の特殊能力を持つのだ。私たち兄弟は5人でポーズを取ることによって、その力を発揮している」


「破る手立てはあるのかな?」


「どうであろうな。この状態で傷を受けたことは、生まれてこの方一度もない」


「だとしたら困るね。全員がこれだと勝ち目がない」


「そこは安心するといい。この身体を持つのは私のみだ。兄妹は、それぞれに合った別の能力を有している」


「そうなのか。安心したぜ」


 俺は、一先ずは手詰まりにならないことに安堵する。


「それでも君たち地球人には苦難のはずだ。進人にもなれず、魔族のような特殊能力もない。己の才能のみで立ち向かわねばならぬのだから」


「然気があるじゃないか」


「然気は我々とて使うことができる。闇属性に限定されるがな。が、君たちは然気しか使えない」


「なるほど。だが心配は不要さ」


 響也がメガネをクイッと上げながら


「何故なら彼女たちは、誰もが疑いようのない天才だからね」


 と自信満々に言った。





「ほな、こっちも始めていきましょか」


 赤鬼たちと辻村が戦い始めた頃、私たちも青鬼と戦い始めていた。


「彩華、戦えるか」


「当然だろ。そういう瞳先生こそ大丈夫かよ?」


「ふ……実はけっこうヤバイ」


 スーツ姿にコートを羽織った瞳先生は、盛大に脚が震わせていた。


「よくそれで私に聞く気になれたな!」


「う、うるさい! ガチの喧嘩は久しぶりなんだよ!」


「むしろあんのが驚きだわ!」


「お前は実家がヤクザの癖にねぇのかよ!」


「ねぇよ! うちは指定暴力団じゃねぇからな! そういう先生こそ、総理大臣の娘の癖に喧嘩してんじゃねぇ!」


「うっさい! 若気の至りだわ!」


「あんさんら……もう二人で(たたこ)うた方がえんとちゃいます?」


 青鬼が呆れ口調で言ってくる。もう普段から何度もやり合ってるつーの。


「とにかくそっちの別嬪さんは、そないな様子じゃあ戦えへんやろ。大人しくしとき」


「そうだな。ヘタレ教師は下がってた方がいいぜ」


「お前年上に向かってなんて口を……よぉしそこの青ヒョロ! まずは私からだ!」


「ええんどすか……ほんま、後悔しても知りませんよ?」


「こう見えてもなあ、昔は女武蔵と呼ばれるくらいに強かったんだよ!」


「ほ〜あの二刀流の……ほなまずは、別嬪さんの方からやりましょか」


 青鬼がどことなく細めの金棒を構えた。サイズ的には金属バットぐらいか?


 対して瞳先生の得物はと言うと……あれ?


「そういえば先生、得物が違くないか?」


 前は色々と苦情が来そうな武器だったのに、今は本差しと脇差しの一本ずつだ。


「コレが私の本来の得物だ。私は武藤の親父さんの道場に通ってたからな。端から剣の腕には覚えがあんだよ。けど普段からコレで無双するとお前らが可哀想だろ? だから手を抜いてたんだ」


「はぁ⁉ なんだよそれ! 聞いてねぇぞ!」


「そりゃあ初めて言ったからな。ついでに言っとくと私が教職についたのも、妹弟子の武藤を見守るようパパに提案されたからだ」


 溢れ出る新情報に言葉を失う。私も武藤の父親が剣術道場をやってたのは知ってるんだ。けど、それは私が5歳の頃の話だぞ。


先生は年上だから分かるけど、武藤はこの頃から剣術やってたのかよ。


「なら、先生ならアイツを捻るくらい余裕なわけだ」


「いや、そういう訳でもない。さっきも言ったけど、ガチの喧嘩は本当に久しぶりなんだ。なんなら真剣を使うのは初めてだ」


「それは私も一緒だ。むしろガチ喧嘩してる分だけ、そっちのが経験豊富だろ」


「そ、それもそうだな」


「長話は終わりました? 女は話が長うていけまへんわ」


 青鬼が嫌味の含んだ言い方で指摘してくる。けど


「そう言いつつ健気に待つんだな。ついでに相槌でも打ってれば、旦那候補になっていたかもしれんぞ?」


 瞳先生の言う通りな気がする。旦那候補にする気はないけど。


「魔族になるんなら打ちますよ? なんなら気の利いた返事もお付けしましょか?」


「そうか。だが悪いな」


 その言葉を最後に先生が踏み込む。



「端から魔族は好みじゃねえ!」



 先生の二刀が青鬼に襲いかかる。今までのどの動きよりも速く、正確な一撃だ。


「あんさん、嘘つくとか性格悪いわぁ」


 しかし青鬼は余裕の表情で受け止めていた。細めの金棒と二剣が火花を散らしている。


「膝が震えるゆうも嘘だったんやろ?」


「いや、それは本当だ。ぶっちゃけめっちゃビビってる」


「おーこわ、そんなら──!」


「待て!」



 どこ行った⁉



 私は青鬼の姿を見失う。相打ちで二人が引いたと思った矢先、影も形も見えなくなってしまった。


 動揺した私は咄嗟に先生の方を見る。そしてさらに驚愕した。



 先生もいない⁉



 先生もまた、私の視界から消えてなくなっていた。唯一見えるのは、視界のあちこちで散っているの火花のみ。


 二人はあっさりと、私の知らない領域に足を踏み入れていた。私を置き去りにして。



 悔しい。



 置いていかれた情けなさに腹が立つ。どうして私には才能が……



 って馬鹿か私は!



 湿気りかけた気持ちを乾かすように、私は首をブンブンと振る。気を強く持て! 私にだってこのぐらいの初速は出せる。集中すれば目で追うことだってできるはずだ!


 今からでもコイツらの動きを捉えるんだ。先生にできて、私にできないことなどあるものか!


 私は全身全霊で戦闘を観察する。集中しろ、力を目に集約していくんだ。


 火花の先を懸命に目で追っていく。しかしそれだけでは一向に捉えることができない。



 目で追うだけじゃダメだ! 次の動きを予測しないと!



 私は火花の出方や場所から、先んじて目を置くように視線を動かす。



──────捉えた!



 すると私の目に僅かに二人の動きが見えた。得物を交えては移動、交えては移動を繰り返している。


 一度その動きを捉えたことで、一挙一動がはっきりと追えるようになってきた。やっぱり、私にはしっかりと才能があるらしい。



 よし、加勢するぞ!



 それを確かめた私は次の一手に踏み出す。居合の構えを取り、いつでも放てるように精神を整えていく。



 しかし、なかなかそのチャンスが訪れない。



 私の攻撃する相手は青鬼だ。つまり奴の隙を狙う必要がある。


 なのに、奴はここまで戦ってその隙を一切見せてくれない。こっちの攻撃できる瞬間を作らないようにしてるみたいだ。



「隙あり!」

「⁉」



 なんて考えてると戦闘の事態が一変した。青鬼の攻撃を喰らった先生が地面に落下してきたのだ。


 砂煙が起こって私の視界を遮られる。まったく、どうしてこうも私は見えなくさせられるんだ。


「どうや嬢ちゃん? 砂煙は目ぇ痛いやろ?」


 青鬼が今までと違う人称で話している。コレって、私に話しかけてんのか?


「なんや、無視するなんて酷いわ」


「聞こえてるよ。けどまさか、戦闘中に無駄口叩いてくるとは思わなかっただけだ」


「そんな無駄なことはしまへんよ。コレは警告どす」


「警告?」


「あんさん、ウチの隙(ねろ)うとったやろ? だからバレバレやでって言うてんのや」


「アンタ、随分と目がいいんだな」


「そっちの別嬪さんがチラチラ見とったからね。その先を見たら目ぇギラギラさせとるからホンマ怖かったよ」


「先生のせいかよ!」


 私は砂煙の中から出てきた先生に突っ込んだ。頼りにしてくれるのは嬉しいけど、手の内バラしてんじゃねぇ!


「ハアハア……うっさい! こっちは久しぶりの喧嘩で大変なんだよ! ……それにしても、お前スタミナどうなってんだ? あの速さで動いて息一つ切らさないとかおかしいだろ」


「そらぁ、ウチのスタミナは無限やからなぁ。鬼人戦隊戦闘態勢ゆーてな、ポーズ取ると無限のスタミナが得られるんよ」


「ま、マジかよ。戦いが長引けば長引くほど不利じゃねえか」


「嬢ちゃんの言う通りやね。どないするー? こっちは降参しても一向に構わへんよ?」


「ハアハア……真っ平ごめんだ。鬼の形相は怒ったパパだけでいい。私もこっからは遠慮なしだ」


「……まだ全力じゃなかったのかよ」


 いい加減にしてほしい。実力を隠すにしたって程があるだろ。


「体力がどんだけ持つか分からなかったんだ。けど……相手が無限というからには仕方ない!」


 先生が全身に力を入れる。



 すると、ひんやりとした冷気が刀身から放たれた。

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