強襲
数時間前
「よっし、僕の勝ちだね!」
レースで一位になった優太が軽くガッツポーズを取る。
僕に響也、真人、優太、そして裕大の5人は、アーサリンさんの護衛として真人の家に集合していた。
ちなみに見張りは雫さんがやってくれている。野郎ががん首揃えて見てたら起きるに起きれないからだそうだ。
なので僕らはたまに様子を見つつも、基本的にはリビングでレースゲーム大会になっていた。
アーサリンさんはあのまま目覚めることなく、今もベッドの上で眠っている。明日までに目覚めないようなら、病院に連れていくことになるだろう。
「優太……お前上手ぎないか?」
そのあまりのドラテクに僕は驚く。僕だってそれなりにやり込んでるんだが、ここまでほとんど優太が一位だ。
「なんだアーサー知らないのか? 優太はカートやってんだぜ?」
僕の疑問に裕大が答えてくれる。
「なるほど……だからこんなに上手いのか」
「ありがとう! 君にそう言って貰えると嬉しいな!」
優太が嬉しそうに笑う。なんか、親に褒められた子どもみたいだ。
「アーサーは……まだ運転できないよね」
「そりゃあな。免許持ってないし」
「そうそう、優太もアーサーもバイクの免許取り行けよ。一緒にツーリングしようぜ」
裕大が肩を組みながら言う。僕はともかく、優太が持ってないのは意外だ。
「悪いな裕大、バイクの免許は取る気はない」
「僕もだね」
それはそれとして、僕らはノーを突き付ける。
「なんだよ連れねえな。俺たちとツーリングする気がないのか?」
「そんな訳ないだろ。ただ僕にバイクは似合わないんだ。バイクってワイルドな感じするだろ? 白馬の王子様のエレガントさとは水と油だ」
「僕の方も、バイクより車の方が性に合ってるかな」
「うーん、言われてみればそうかもな」
裕大が僕たちの意見に納得する。白馬みたいにエレガントに乗れるなら、僕だってバイクに乗ってみたいさ。
「だから免許取ったら助手席に乗せてあげるよ。僕とアーサーの運転を味合わせてあげる」
「だったらいっそ、サーキットでバトルしようぜ。全員でスポーツカー買ってさ」
真人が中々ぶっ飛んだ提案をしてくる。スポーツカーってけっこう高いだろ?
「ほう……面白そうだね。その際はベンツで参戦しよう」
「なら俺はランボルギーニだな。ド派手でカッケェ」
「僕はポルシェ。あの見た目がかわいくてね」
「んだよ、どいつもこいつも外車外車って。GT−Rはどうしたよ。日本が世界に誇るスポーツカーだ」
しかし思ってたのとは裏腹にみんな乗り気である。まあ、バイクを買って乗り回せる奴らだからな。それも可能なのか。
てか
「みんなスポーツカーに興味あるんだな。僕はさっぱりだぞ」
そもそも3人のスポーツカー談義についていけない。農道のポルシェの話ならまだできるんだが。
「優太が好きだからね。一緒にサーキットに行くうちに自然と覚えてしまったのさ」
「ああ〜そういう。……ちなみに、なんで優太はカートを始めたんだ?」
「実は昔、迷子になってるのを助けて貰ったことがあるんだ。そのときに助けてくれた人と車が格好よくてね。こんなふうになりたいって思ったんだよ。それで父さんに頼んで始めたんだ」
「なるほど、憧れは止められないって奴か」
「そんな所だね。いつかその人と、一緒に走るのが夢なんだ」
優太は夢見る少女みたいな顔をする。男とはいえ、こんなかわいい子に思われてるなんて幸運な奴だ。
「かぁ〜甘酸っぺえ。聞いてるこっちが赤くなりそうだ」
「裕大はそういうの縁なさそうだもんな」
「はっ、アーサー舐めんなよ? 俺にだって話せる女子ぐらいいるんだぜ」
「え⁉ お前に⁉」
あのガリ勉くそ真面目に彼女がいるとか嘘だろ⁉
「別にいてもおかしくないだろ? なんでそんなに驚いてんだ?」
「そうだね。むしろ今まで話を聞かなかったのが嘘みたいだ」
「小耳に挟んだ情報によれば、地味目な女の子に粉をかけてるとか」
「あ、それなら納得」
「おい! どういうことだてめぇ!」
裕大が僕に突っかかってくる。よかった。あの真面目くんは今も健在なようだ。
「さて、そろそろ飯にするか」
それから何戦かした後、時計を確認した真人が提案してくる。現在の時刻は午後8時。ご飯を食べるにはいい時間だ。
「よ、待ってました!」
「ふむ、休憩を入れるにも丁度いい頃合いだ。それで真人、今日のメニューは何かな?」
「それが実はなーんも買ってきてねんだ。アーサリンさんを連れて帰ったからな。だから出前でも取ろうぜ」
「ならピザか、寿司になるかな。いずれにしろ、出前なんてあまり取らないからワクワクするよ」
「それより金足りるか? 学生が取るには高けえだろ?」
「そこは心配いらない。アーサリンさんが稼いだ賞金があるんだ」
「賞金って進人狩りの奴か?」
「そう、よく分かったな。アーサリンさんから使ってくれって言われてるから、遠慮なく使わせてもらおう」
「ならいいが……」
「なんだよらしくねえな。派手に使っちまおうぜって言いそうなもんなのに」
「流石にそれは俺を馬鹿にしすぎだぞ」
真人と響也、そして裕大が出前を取る流れで話を進める。その2つなら僕はピザがいいな。
「んー僕は鍋がいいなぁ。寒くなってきたし、具材切って入れるだけだから簡単だし」
優太がその流れに逆らって意見を述べる。
「あー鍋か。アーサリンさんのことも考えるとそっちもアリだな。買い出し行くのがダルいけど」
「なら闇鍋しようぜ! それなら買い物行くモチベも上がるだろ!」
「裕大、変なもの入れたら絶交だからな」
「なあ真人? 俺に対しての信用低くね?」
なんて僕たちが、今日の晩ごはんについて話していると
パリン!
いきなり、ガラスの割れる音が聞こえてきた。
「な、なんだ⁉」
真人が動揺して声を上げる。
「2階からみたいだ……」
優太が音の居所を教えてくれる。いま二階にいるのはアーサリンさんと妹の雫さんだ。
「行くぞアーサー!」
「ああ!」
「待て! 僕も行くぞ!」
裕大に言われて僕たちは部屋へと急ぐ。その後を、響也もついて来てきていた。
「雫さん、アーサリンさん! 入ります!」
そして部屋へと到着すると、ノックもせずに扉を開ける。
すると中には、眠っているアーサリンさんと震える雫さん、そしてそれを見つめる男がいた。
それだけでも驚きだが、その男はトマトみたいに真っ赤な顔と丸く長い鼻を持ち、手には羽でできた団扇を持っていた。
そう、その姿はまさに──
「天狗⁉」
僕たちはその姿に驚かされる。魔族とは何度か対峙する機会があったけど、まさか本物の天狗が現れるとは。
「雫さん、伏せて!」
だがそんな感慨に浸ってるわけにもいかない。裕大が雫さんに指示すると、何処からかクナイを取り出し天狗に襲いかかる。
天狗はそれにニヤッと笑みを浮かべると、ボワンと煙を上げて消えてしまった。
そして、狸の姿で窓から逃走する。
「待て!」
裕大がすぐさま後を追いかける。アイツに掛かれば、すぐに狸は捕まえられるはずだ。
ん? そういえば響也はどうしたんだ?
いつの間にか着いてきてた響也がいなくなっている。こういうの好きだろうに見に来ないとは珍しい。
「雫さん、一体何があったんだ?」
僕はベッドの隅で震えてる雫さんに質問する。
「い、いきなりガラスを破って入ってきたの! そして最初はタヌキさんだと思ったら天狗になってそれで……」
「とにかく、無事でよかった」
パッと見る限りでは雫さんにケガはない様子である。心の方にダメージはあるかもしれないが、そればっかりは仕方ない。
「んーどうしたんですか」
なんてことを考えていると、目を覚ましたアーサリンさんが尋ねてきた。
「それがね! 天狗があなたの部屋に侵入してきたの!」
雫さんが興奮気味にアーサリンさんに話す。
「て、天狗? なんですかそれは?」
アーサリンさんはピンと来ていない様子である。そうか、宇宙人だから知らないのか。
「アーサリンさん、体調は?」
「そうですね。前後の記憶が曖昧ですが、今はなんとも」
「それはよかった。ならさっそくで悪いですがお願いがあります」
「分かっています。雫さんを守るのですね」
「はい。僕たちはあのタヌキの正体を突き止めたいと思います」
「分かりました。ですがその前にすいません。できれば飲み物を取ってきて貰えませんか。喉がカラカラで」
「ええ、いいですよ」
僕はアーサリンさんの願いを聞き、リビングに戻る。
しかし扉を開けた瞬間、その願いを叶えることはできなくなった。
なにせ扉を開けた先に、縄のようなモノで拘束された優太と真人が見えたからだ。さらには響也が、普段から持ち歩いてるナイフで妖怪共と睨み合っている。
「来たぞ! 気を引き締めよ!」
二人を拘束している妖怪共の一人、どう見てもさっきの天狗がこちらに敵意を向けてくる。
まさか、さっきのは僕たちをおびき出す囮だったのか? 狙いはアーサリンさんじゃない?
「アーサー、助けて!」
いや、考えるのは後だ!
「ブラッド・パージ!」
僕はすぐさま力を解放する。そして
「響也! ナイフを!」
「ああ!」
響也の投げたナイフで妖怪に斬りかかった。
妖怪たちはすぐにその場から逃げていく。僕はすかさず真人たちに近寄ると、ナイフで縛られた縄を切った。
「アーサーすまない。すぐに気づいたんだが、僕に力が無いばかりに……」
僕の後ろをついて来た響也が申し訳なさそうにする。
「それはいい。それより早く真人たちをここから逃すぞ!」
「そう都合よく行かせると思うか?」
すると天狗が、僕たちの会話に横槍を入れてくる。
「行かせるんだよ。死にたくなかったら大人しくしてるんだな」
「笑止。ウヌらこそ大人しく来てもらおう」
「場所によるな。何処に連れて行く気だ?」
「天敵に語る口は持たない主義だ。聞きたければ力尽くで来るがいい」
「いいだろう。なら!」
僕は瞬時に光となって、念の為持ってきていたエクスカリバーを手に取った。刀身は僕が握ることで白銀の輝きを放つ。
「これが、我らが天敵の力……!」
天狗は僕の放つ輝きに慄く。
「どうした? 威勢がいいのは口だけか?」
「戯言を。我らは正義のために最善を為すだけ! 皆のもほ恐れるな! 大義は我らにあり!」
その天狗の鼓舞を合図に、餓鬼だの鬼だの化け狸だのが襲い掛かってくる。
僕はそれに正面から立ち向かった。それと同時に、響也たちがリビングの外へと逃げていく。
「正義……人を襲っといてよく言ったもんだ」
僕は襲い掛かってくる奴らを剣の平で撃退していく。ここは真人の家。奴らの臓物で汚す訳にはいかない。
「なら正義であれば、魔族を殺すことは正当化されるのか!」
妖怪たちを掻き分けて天狗が団扇で攻撃してくる。金属でできたそれは、僕の剣と交わって火花を散らした。
「それは魔族が悪いことしたからだろ。人間だって悪いことをすれば罰を受ける」
団扇と聖剣で撃ち合いながら会話を続ける。僕のエクスカリバーのやり合えるとは中々の業物らしい。
「それは敵として産み出され、何をせずとも迫害されたとしてもか! ならばウヌの守りたい女も死なねばなるまいな!」
「有希を罪人扱いするな!」
僕は大きく剣を薙ぐ。お前らのせいで有希は命を狙われる羽目になってるんだ。責任転嫁するんじゃない。
「魔族は生まれたことが罪とされるのだ。罪を犯したのなら、罰を受けねばならぬのだろう?」
天狗は嘲るように言う。意向返しでもしたつもりか。
だが
「なら有希は違うな。彼女は魔族じゃない」
残念ながらその意向返しは通用しない。先の戦いで魔族の特徴は把握済みだ。
「違うのか? ……なるほど、どこまでもあの人を否定するつもりらしい」
怒りからか、天狗はギリッと歯を食いしばる。
「あの人? ムトウユキのことか?」
「さっきも言ったはずだ。天敵に話す口は持たぬ」
「頑固な奴め」
「互いにな」
僕と天狗は再び互いの得物をぶつけ合う。
それによって生じた火花が、二人だけのリビングに舞い散った。




