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円卓の騎士featアーサリンⅣ


「なあ、ヘレスって男だったよな?」


 試合が終わったタイミングで、彩華さんが尋ねる。


「そうだけど……なんでそんなこと聞くの?」


 綾音先輩がその質問に答える。


「いやな、ヘレスって昭和に活躍してたぐらいしか知らねからさ。だからもしかしたらと思ってな」


「うーん……言われてみれば、私もあんまり知らないなぁ」


「そうだろうな。彼は自らの活動を黙秘していたから、活躍はメディアで紹介された成果のみだ。筋骨隆々というのも、メディアの予測が流布したに過ぎない」


 瞳先生が詳細を教えてくれる。実際、インタビューを受けてたローレンスに比べると、ヘレスについて知られてることはそこまで多くないのだ。


「よ! 流石は昭和生まれ! よくご存知だ!」


 沙友理さんがいらん合いの手で瞳先生をからかう。なぜわざわざ地雷に足を踏み入れるのか。


「……体育の成績を1にしてやろうか沙友理? 私が知ってるのはパパがそう言ってたからだ」


「す、すんません。てか、パパって歳じゃ……」


「あ?」


 ガチ睨みの瞳先生に沙友理さんが黙る。その凄みでパパ呼びは色々とギャップあるな。


「もっとも、パパが言うにはその人物像に間違いはないそうだ。実際に会って話をしたらしい。ついでに付け足すと、雄々(ゆうゆう)しい活躍とは裏腹にとても穏和な人物だったそうだ。活躍を公言しないのも、自分のやってることをよしとしなかったからとか」


 瞳先生が知られざるヘレス像を教えてくれる。なんか、ローレンスの言ってた話とは少しズレがあるな。


「そういえば、なんでアーサリンさんはヘレスのこと知ってるの?」


 観客席に戻ってきたソソさんが、同じく戻ってきたアーサリンさんに尋ねる。そういえば、ヘレスが有希のそっくりさんを倒した話はしてなかったな。


「うっ! 待ってくれ! 何か思い出したくないことが……」


 しかし、アーサリンさんは頭を抑えてうずくまる。いきなりどうした⁉


「だ、大丈夫⁉」


 そんなアーサリンさんを、ソソさんが肩を抱きながら心配する。


「じ、人類進化計画……」


 苦しそうにしながらポツリとアーサリンさんが呟いた。なんだその、SF作品に出てきそうな計画は。


「人類……なにそれ?」


「わ、分かりません。でも、私にとってショックだったのは確かです」


「と、とりあえず一度座ろっか!」


 ソソさんが席に誘導する。アーサリンさんは項垂れながら腰を下ろした。


「しばらく休憩にしましょう。アーサリンさん、もし具合が悪いなら保健室に」


 有希がアーサリンさんを慮って提案する。


「大丈夫です。ただ、休憩はありがたく頂きます」


 アーサリンさんはそう言うと、俯いた状態で息を吐いた。


 それにしても、ショックってのはどういうことなんだ? ヘレスと関係があるんだろうけど……



 そういえば、ヘレスって生きてるのか?



 ローレンスの死亡したのは知ってる(実際に看取ったわけだし)。で、ローレンスとヘレスの活動時期は同じだから、かなりの高齢のはずだ。


 けど、ヘレスが亡くなったという話は聞いた記憶がないぞ。


「ねぇ有希、ヘレスって生きてたっけ?」


 僕は隣の席に座る有希に尋ねる。


「んー分かんないなぁ。ヘレスが私のそっくりさんを倒したってのも、いつの話か分からないし」


「そっか、まだそれすら分からないのか」


「うん。けど少なくとも、ヘレスが宇宙人と関わりがあったのは確かよね。どういう経緯で私のそっくりさんを倒すことになったかによるけど」


「そうだね。じゃあ彼が自分の活動を秘密にしていたのは、宇宙で活動していたからなのかな?」


「かもしれないわね」


 僕の意見に有希が同意してくれる。なら彼は宇宙にいるのか? それなら地球で近況が知られてないのも納得できるが……


「あの、お二方? 今しがたとんでもない話が聞こえたのですが……」


「おあ⁉ 聞こえてた?」


 シスネさんの指摘に有希が驚いた声を上げる。なにその声、かわいい。


 どうやら、僕らの会話はみんなに聞こえていたようだ。アーサリンさん以外が僕たちに視線を向けている。


「武藤のそっくりさんか……案外、ご本人だったりしてな」


 彩華さんが冗談を言う。はは、まさか。


「そりゃあ、可能性は否定できないけど……」


 そんな軽口に対して、有希は大真面目に返答している。


「いやいや有希さん。過去の出来事なんだから、タイムスリップでもしないと無理でしょ」


「でもねアーサー、できる可能性はあるのよ」


「え? 今なんと?」


 僕の耳はかなりいいはずだけど、ちょっと現実離れし過ぎて上手く聞こえないな。


「だから、過去に行けるかもしれないって」


「うん、それは分かるんだ。しかしなぜ?」


「だって瞬間移動できるのよ? 今は無理だけど未来も見れる。これができるなら、タイムスリップだって何かの拍子にできるようになっても可笑しくないのよ」


「……確かに」


 反論する余地がなかった。有希は正真正銘のトンデモ人間。ある日いきなり「過去に行きましょ?」と言われる可能性は否定できない。


 けどそれは、僕に何かあって有希がおかしくなることと同義でもあるのだ。僕がいる限り、現在で幸せにするから過去に行く必要はないのだから。


「でもまあ、多分違うと思うけどね。血の色が違うし闇の然気じゃないし」


「そう言ってくれると安心できるね。君が殺されるなんて僕には耐えられないから」


「あの、みなさんはなんの話をしてるのでしょうか?」


 少し回復したのか、アーサリンさんが尋ねてくる。


「うーん……最初はヘレスの話だったけど、今は有希ちゃんの話かな?」


 その質問には綾音先輩が答えてくれた。


「ヘレスですか! もしよろしければ、私が知ってることお話しますよ!」


「でも、大丈夫?」


 アーサリンさんの提案に、ソソさんが心配した顔で言う。


「大丈夫です。むしろ話させてください!」


 アーサリンさんの顔つきは些かマシになった気がする。これなら話しても大丈夫だろう。


「じゃあ、よろしく頼む」


 そう判断した僕は、アーサリンさんにゴーサインを出した。





「では……これは私が子どもの頃の話です。当時は世界中で魔族が反乱を起こす波乱の時代で、いつ自分たちがそれに巻き込まれるかと、不安な日々を過ごしていました」


 そしてアーサリンは語り始める。彼女は推定二十代だから、おおよそ1990年代の話だ。


「しかしそんな不安な日々を過ごす中、突如として魔族を狩りまくる存在が現れました。それがヘレスです」


 アーサリンさんは思いを馳せる。彼女にとって、ヘレスは白馬の王子様だったんだろうな。


「彼は自らの活動を秘していたので、映像などの記録は残っていません。しかしメディアによれば、彼は神に選ばれて、太陽地球から私たちを救いに来てくれたのです。


 なぜ彼が選ばれたのかと言うと、彼の持つ『神の肉体』が理由です。『神の肉体』には魔族の力にデバフをかけることができ、『魔』による強力なバフを無効化することができたのです」


 『神の肉体』にそんな効果が。それならヘレスが選ばれたのにも納得がいくな。


「彼は破竹の勢いで魔族を撃破していきました。彼のあまりの活躍に、追い詰められた魔族たちは卑怯な手を使ったり、しまいには星もろとも彼を消そうとすらしました。


 しかし、ヘレスはそれすら跳ね除けて魔族たちを倒していったのです。日夜メディアで流れるヘレスの勝利報道は、私にとって希望そのものでした」


 やってることは地球のときと対して変わらないな。ヘレスの進人討伐は、ローレンスと並ぶ昭和世代の希望だったらしいから。


「そうして、ついにヘレスたち統一政府は『魔』を太陽地球に追い詰めました。今からちょうど15年前のできごとです」


 15年前! はっきりとした年号が出たぞ。今が2014年だから1999年のことか!


「ヘレスは統一政府の先頭に立ち、自らの故郷にて懸命に『魔』と戦いました。


 そして『魔』のやり方に疑問を持っていた魔族と協力し、神から授かった『白銀の矢(シルバーアロー)』で『魔』を貫いたのです。


 しかし『魔』は最後の抵抗をしました。ヘレスに呪いをかけて彼の自我を崩壊させたのです。


 彼はそれを機に廃人のようになってしまいました。しかも、魔の死体があがらなかったことで『魔』の生存すら噂されています。


 そのため、廃人になったヘレスは───」


 アーサリンさんはそこまで言って閉口する。



「うっ! うあ!」



 そして苦しそうに頭を抱え始めた。はぁ、はぁ……と呼吸も荒くなっている。



「あれは……あんなのは冒涜だ!」



 一体、何を言ってるんだ? 



「ああ、私は何を信じれば……神よ! 本当にこれがせい、か……」



 バタッ



「え?」


 みんなの気持ちを代弁するように有希が呟く。それもそのはず。



 なにせ、アーサリンさんが突如として倒れたのだ。



「あ、アーサリンさん⁉ 一体どうしたの⁉」


 ソソさんが動揺した様子でアーサリンさんを()する。さっきまでは調子がよさそうだったのに、一体どうして?



 いや、原因を考えるのは後だ!



「有希と瞳先生は早く担架を! みんなは少し離れて!」


 僕はすぐに全員に指示を飛ばす。そして、気を失ったアーサリンさんの様子を伺った。



 意識がない……



 僕は素早く判断する。そして間もなく、有希と瞳先生が戻ってきた。


「アーサー、持ってきたよ!」


「ありがとう。そしたらソソさん、申し訳ないんだけどアーサリンさんを担架に」


「う、うん!」


 ソソさんがアーサリンさんを持ち上げる。流石は『神の肉体』。人一人を楽に持ち上げた。


「じゃあ僕たちは保健室に行ってくるから、みんなは自主練しててくれ! それから響也、真人に連絡を!」


「任せろ」


 僕たちはそれぞれ、テキパキと行動を始める。


 こうして、アーサリンさんとの試合は一時中断となった。

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