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カレー作り


 ということで、私たちは買い出し班と料理班に分かれることになった。


 そして私とアーサー、辻本くん、結衣さんが料理班として残っている。



 コンコン



「は~い」


 私が雫さんたちの部屋をノックすると、葵が顔を出す。


「お、ちょうどよかった。葵、手伝って」


「何を?」


「料理。カレー作るから味付け手伝ってくれない?」


「えー面倒。そもそも、カレーぐらい有希姉でも作れるだろ?」


「スパイスはあるのにカレールーがないのよ。アンタ椿にスパイスの調合教えてもらってたでしょ?」


「まあ知ってるけどさぁ」


「なんの話ですか?」


「あー雫さん? 実はカレーを作ることになったんだけど、なんでかカレールーがなくて。それで葵にスパイスの調合を手伝ってもらおうと」


「そもそもなんで家にルーがないんだよ?」


「んー、それは私が買ったからですね! お母さんに作ろうと思ってたんですけどタイミング逃してしまって」


「あ、もしかして使ったらダメなやつ?」


「いえいえ使ってください! 両親が帰ってくる頃には、少なくとも具材は悪くなっちゃいますから」


「じゃあ遠慮なく使わせてもらうわ。でもさ? 家族全員とはいえ10人前は流石に多くない?」


「え⁉ あの量だとそのぐらいになるんですか⁉」


「雫……ちゃんと分量を考えて買わないとダメだぞ」


「うー、あんまり料理したことないから……」


「だったらスパイス調合とか小難しいことやんのはやめとけ。調合は分量ちゃんと測らないとダメなヤツだからな」


 葵が雫にダメ出しする。男勝りな感じのに、こういうのには五月蝿いのよね。似たような感じの紗友里さんは料理は食べるものですから! って逃げたのに。



 まあ、ギャップ萌えにはなるのかな?



「はーわかった。適当やって不味いの食わされても嫌だからな。手伝ってやるよ」


「助かるわー」


「せめてもう少し感情込めて言えよ!」


「どうあがいても手伝ってもらうつもりだったからね。予定調和でしかないのよ」


「やっぱいい性格してるよ有希姉は……」


「姉とはこういう生き物よ」


 そうして葵を料理班に引き込むことに成功した。





「おまたせ! 強力な助っ人連れてきたわ」


 葵を説得した私は、そのまま引き連れて台所へと降りて来た。


「待ってたよ。こっちは準備万端だ」


 アーサーが私の声に応える。その近くには辻本くんや結衣さんもいた。どうやら3人は具材を切り終えて談笑してたみたい。


「あれ? まだ具材ありますよ」


 雫さんが疑問符を浮かべる。


「確かにあるけど、全部使うと流石に多すぎるからね」


 その問いに辻本くんが答える。


「大丈夫です! 余ったら明日の朝に食べますから!」


「いいのかい?」


「はい! やっちゃってください!」


「わかった。ならもう少し切らせてもらおう」


 アーサーが冷蔵庫に食材を取りにいく。


「あー待ってください! 私も切りたいです!」


 雫さんがはいは~いと手を挙げる。


「お前だけじゃ心配だから、俺も手伝うか」


 それにヤレヤレといった様子で葵が続く。


「じゃあ何もしないのもアレだし、結衣さん変わるわ」


「はい! どうぞ」


 そうして私たちは、入れ替わるように具材切り係を交代した。





 目の前にあるのは皮の剥かれてないじゃがいも。私はそれをゆっくりと剥いていく。


「うわ! 葵はや!」


 その隣では、葵がスルスルとじゃがいもの皮を剥いていく。流石、速いわね。


「有希って実は不器用だったり?」


 アーサーが私の手元を見ながら尋ねてくる。私のじゃがいもは厚めに剥きすぎたり途切れ途切れだったりでひどく不格好だ。


「あんまりこういうのは得意じゃなくて。刀を使えば綺麗に剥けるんだけど」


「同じ刃物でも得意不得意があるんだね」


「というか剣術で使う刀だけね。刃物の扱いで自信があるのは」


「へえ~そうなんですね。そういえば葵も、昔やってたって言ってなかった?」


「小学生のときにやめちまったけどな。つーか手が止まってるぞ」


「は、はい~」


 オロオロしてる雫さんとは裏腹に、葵はタンタンタンと小気味良く具材を切っていく。私も頑張らないと。


「そういえば剣術で気になったんですけど、有希さんの刀ってなんて名前なんですか?」


 私の包丁さばきを観察しながら、結衣さんが尋ねてくる。


「言ってなかったっけ? 妖刀村正・天照(あまてらす)よ」


 私は教えてもらった刀の名前を教える。


「天照? 村正にそんな刀あったかな?」


「この刀をくれた人が言うにはね、コレは日本で天照大神とされる女神が、伊勢の刀工だった村正に打たせた刀らしいわ。みなきさんに調べてもらったけど、村正の作であることは間違いないって言ってたし」


「相変わらず武藤くんには驚かされてばかりだ。しかし、そんな刀がどうして君の手に?」


「さあ? くれた人も気づいたら手元にあったらしいし、この話も人伝に聞いたことらしいから」


「でも妖刀なんですよねその刀。なんでですか?」


「私以外が持つとその人に不幸が訪れるのよ。実体験があるからこれについては間違いないわ」


 私は昔を思い出す。その言いつけを守らなかったことは、今でも心残りの一つだ。


「あのさ、そんな本当かどうかも分かんない話をするぐらいなら、さっさと具材切ってくれない? もう俺切り終わったぞ」


 具材を切り終えた葵がジトっとこちらを睨んでくる。そりゃあアンタは話で聞いただけだろうけどさ。


「そうね。話が脱線したわ。作業に戻りましょ」


 けど私も葵の意見に賛同し、具材を切る作業へと戻った。





「よし、それじゃあ葵、ここからの指示よろしく」


 そうして具材を切り終えると、私は葵にここからの手順を丸投げしていく。


「はいはい分かったよ。まずアーサーと生徒会長は具材の炒めと煮る係。十人前でかなり多いから交代でやって下さい。


 次に雫は灰汁取り係。地味だけど大切な仕事だから頑張ってくれ。


 で、有希姉は俺とルー作りな。スパイス調合は俺がやるから、有希姉はバターと小麦粉を混ぜて。これでいいか?」


「私は大丈夫よ。みんなは?」


「あの葵ちゃん? 私は?」


 結衣さんがアレって顔で聞いてくる。そういえば役割がないわね。


「ああ忘れてた。結衣先輩はご飯を炊いて下さい」


「うん、わかった!」



 そうして、各々の担当が決まると本格的に調理に入っていく。



 まずは具材を炒め、煮込む工程。大量の野菜を一気に炒めても中々火が通らないので、何回かに分けて炒めては鍋に投入していく。


「二人とも上手……」


 その炒める工程を眺めていた雫さんがポツリとこぼす。フライパンを振るアーサーと辻本くんの手捌きは、毎日振ってる? ってくらい手慣れていたのだ。


「なんでそんなに上手なの?」


 私は二人に尋ねる。


「僕はローレンスに言われて料理の練習をしてたからね。おかげで炒めるのにはそこそこ自信があるんだ」


「こっちは見様見真似だね。家庭科の実習でやったときのを再現してるのさ」


「響也先輩の完全記憶能力ですか?」


「そう。記憶だけでなく、動きも一度身体が覚えれば忘れることはないんだ。まあそのせいで、円卓の騎士にドップリなわけだが」


「いいなぁ! 二人とも!」


 雫さんが羨ましそうに見つめている。


「大丈夫だよ雫さん。練習すればすぐにできるようになるから!」


 それに対して、結衣さんが両手でガッツポーズをしながら応える。


「本当ですか!」


「うん! 私も最初は下手っぴだったけど、練習してからはできるようになったもん!」


「結衣さんの言う通りだな。僕も最初は焦がしてばかりだった。何度文字通り苦い思いをしたか分からない」


「そうそう。だから自信を持って臨みなさい。不安に思うことが動きを鈍くするから」


「そうだな。有希姉なんか、上手くできなくてオロオロしちゃってたもんな」


「葵! その話はしない!」


「いきなりアイツの話をしたお返しだ!」


「くっ! コイツ!」


「まあまあ二人とも」


 雫さんが私たちの間に入って仲裁する。


 ふん! 命拾いしたわね葵!





「よし、これで全部炒められたかな」


 そして炒め続けること15分。切った野菜すべてに火を通すと、巨大な鍋に水を入れて火をかける。ここから焦げないように混ぜながら灰汁を取っていく。


 そしてそれと同時進行でカレールー作りを開始する。ここで言うルーとは、具材とスパイスを繋げるつなぎのことだ。


 私は鍋を混ぜるアーサーの隣でバターを火にかけていく。量は豪勢にとバター一個分まるまる投入した。


 私はゆっくりと溶けていくバターを横目に、スパイスの瓶を並べた葵を見る。


「スパイス調合ってどうやるの?」


 雫さんが質問する。


「そんなに難しいことじゃない。単に一定の配分でスパイスを混ぜるだけだ」


「へえ! 意外と簡単そう!」


「まあ、配分の知識があるかどうかだな。でも初心者がいきなり挑戦するのはあまりオススメしない。特におっちょこちょいなお前だと、配合ミスって台無しにしかねないからな」


「あはは……ありそう」


「だろ? だから調合をメモって何度か挑戦することだ」


「うん! ……ねえ、早く調合見せてよ!」


「しゃあねえな。量はだいたい12人前計算だから、自分で作るときは4人前ぐらいで調整してくれ。


 まずはターミリック小さじ3、コレは色付け用のスパイス。


 次にカルダモン小さじ1と半分、クミン小さじ3、シナモン小さじ3、コリアンダー小さじ3、オールスパイス小さじ1と半分、クローブス小さじ1と半分、ガーリックパウダー小さじ1、ナツメグ小さじ1。コイツらは香付け用。


 最後に辛みを付けるスパイスにブラックペッパー小さじ3、ジンジャー小さじ3、カエンペッパー小さじ1と半分。これらを全部混ぜて炒る。分かるか?」


「ごめんなさい。まったくわからないです」


「まあ一気に言ったからな。後でメモに残しとくから、それを参考にしろ」


「ありがとう葵!」


「ええい鬱陶しい! 料理中にくっついてくんな!」


 とまあこんなやり取りをしていた。私はそのやり取りを聞き終えると、溶け切ったバターに小麦粉を投入。ダマにならないように混ぜていった。


 そこから二十分後、いい感じにそれらが混ざった所で葵と交代する。葵はスパイス達を2つ目のフライパンに入れて炒り始めた。ついでにアーサーと辻本くんで混ぜる係を交代する。


 そして炒りが終わると、葵は私のフライパンにスパイスを投入した。さらに混ぜ合わせていく。


「で、ここにはちみつを入れる」


「もしかして隠し味?」


「まあそんな所だ」


「うおー! 本格的だあ!」


 興奮する雫さんをよそに葵ははちみつを投入してくる。12人前だから仕方ないけど、すごい量入れるわね。


「よし、これでルーは完成。後は具材が煮立つまでの間寝かせる。本当は一日ぐらい置いとくといいんだが、まあ仕方ない」


「おおー! 美味しそう!」


 雫さんが私のフライパンを覗き込んでくる。確かに、いい香りがするわね。


「雫くん。灰汁が出てきたからよろしく頼むよ」


「はーい!」


 辻本くんがそう言うと、私は雫さんが通りやすいように少し身体を端に寄せた。その後ろを雫さんが通り抜けていく。


「あの、生徒会長さん?」


「何かな?」


「灰汁ってどれ?」


 しかし灰汁を取りに行くまではいいものの、どれが灰汁か分からないようだ。


「この泡みたいなのがそうだね。コレをすべて掬い取ってくれ」


「はい! 分かりました!」


 素直にそう返事をすると、網じゃくしで灰汁を取っていく。量が多い分、出てくる灰汁も中々多いわね。


 それから1分間ぐらいかな? 雫さんは灰汁を懸命に取り続ける。


「これでどうですか?」


 そして区切りがついたのか、辻本くんにその出来栄えを尋ねた。


「うむ、上出来だ。よくできたね」


 辻本くんが雫さんの頭を撫でる。流石はイケメン生徒会長。こういうのには慣れてるわね。


「もう、恥ずかしいですよ」


 雫さんは顔をほんのり赤くする。この場面を桜さんに見せたらどう反応するのかしら?


「後は完成をゆっくり待つといい。……アーサー、ラストスパートだ」


「その前に、具材に火は通ってるか?」


 アーサーが辻本くんに尋ねる。すると、辻本くんは黙々と竹串でじゃがいもを突き刺した。


「ふ、どうやら問題なさそうだ」


 カッコつけてるけど、絶妙にしまらない。


「さ、気を取り直してラストスパートだ!」


 しかし辻本くんは気にする素振りもなく、平常運転で声をかける。その強メンタル私にも分けてほしい。


「はいよ」


 アーサーがそれに応えると、火を止めて私と葵が作ったルーを具材の入った鍋に投入していく。


「後は火を止めてルーを投入。そこから弱火で時々かき混ぜれば完成だ」


「では最後、大詰めを結衣くんに担当してもらおうかな」


「え? 私ですか?」


「うむ。君はご飯を炊くなど裏方仕事をしてきたからね。最後に少し目立ったことをしてもらうよ」


「なるほど」


 結衣さんは納得がいったらしい。カレー鍋のお玉を辻本くんから受け取ると、ゆっくりとかき混ぜ始めた。



 そして約十分後。



「も、もう手がプルプルです」


 そこには十分間、休むことなく鍋をかき混ぜていた結衣さんがいた。


「お疲れ様」


 私は結衣さんの頭を撫でる。


「へへぇ、ありがとうございまーす!」


 その行動に対して、結衣さんは嬉しそうに頬を緩めた。どことなく雫さんに似てるわね。


「よし、これで完成だな!」


 私たちのやり取りを見終えた葵が、音頭を取ってカレーの完成を告げる。


 完成までざっと1時間。長い戦いだった!

参考ページ

基本のカレーの作り方(動画付き)

https://housefoods.jp/data/curryhouse/cook/basic.html


一から作るカレールーの作り方! 本格的を自宅でも!

https://macaro-ni.jp/58533

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