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アーサリン


「何者かしらね? その人」


 私たちがランニングを終えて戻ってくると、紗友里さんたちが女性を拾った話を聞いた。話によると、女性は緑がかった金髪に、同じく緑がかった碧い瞳。スタイルもかなりのものらしい。永遠の少女、17歳体型の私には到達不可能な身体ね。


 いや、そこはあまり重要じゃない。重要なのは意識が戻らないことと川を流れされていたこと。その結果、深琴さんとシスネさんが何かに目覚めて保健室に……って、これも関係ないわね。


「有希が万全なら内面を探ったりできるんだけど」


「ただ服装からある程度の推測はできる。間違いなく、彼女は我々よりの人間だ」


 私の問いにそれぞれの解答を出すのは、私の白馬の王子様のアーサーと、生徒会長の辻本くんだ。それぞれの言ってることは間違いないと思う。私が万全ならすぐに解決した問題だし、そうでなくても、服装を見れば進人狩りをしていることは推測できる。


「もしかすると、宇宙人かもしれねえな」


「宇宙人? 真人は何を言ってるんだ?」


 田中くんの発想に辻本くんが質問する。もしかしてアーサーが教えたのかな?


「なんだ、響也は知らないのか?」


「……隠しごとをするのはためにならない。早く詳細を教え給え」


 辻本くんがずいっと田中くんに迫る。そういえば、円卓の騎士にはまだ宇宙人について教えてなかったっけ。


「文化祭のとき、美少女コンテストで色々あったろ? あのときの褐色イケメンとゴスロリ少女が宇宙人だったんだ」


「なん……だと」


 辻本くんが衝撃を受けた顔をする。


「ただでさえ面白そうな出来事だったのに……さらなる秘密が隠されていたとは⁉」


「よかったな。今度は一噛みできるぞ」


 田中くんが励ますように言った。まだ確定してないけど、可能性は高いのかな?



 ブーブーブー



「ん?」


 私がスマホの画面を覗くと、結衣さんから電話が来ていた。


「もしもし」


「もしもし有希さん! 大変なんです!」


「どうしたの?」


「それが、女性の意識は戻ったんですが記憶喪失みたいで! どうしたらいいと思いますか!」


「待って確認させて! ……あの人、記憶喪失なの?」


「はい。自分の名前も忘れてしまったみたいなんです!」


「うーむ……ちなみに、入院はどのくらいできそうなの?」


「分からないです。ただ身元不明なので、しばらくは入院することになるかと」


「オケ。それならしばらくは医療機関に任せましょう。ただどうなるか分からないから、明日にでもお見舞いに行こうと思うんだけど……大丈夫?」


「分かりました。多分、大丈夫だと思います!」


「よろしくね、じゃあ切るよ」


「ま、待ってください! もう少しお話を──」


 そうして私は通話を終了した。結衣さんは一度話し出すと中々話が終わらない。ここは心を鬼にして閉じないと私が参ってしまう。


「有希、どうしたの?」


「なんでも、拾った女性が記憶喪失みたいなの。自分の名前も忘れてしまったみたい」


「それはまた、随分なことだ」


「響也、お前楽しそうにするのは不謹慎だぞ」


 不敵な笑みを浮かべる辻本くんに田中くんがツッコミを入れる。


「それで明日にでもお見舞いに行こうと思うんだけど、アーサー、着いてきてくれる?」


「もちろん。今の君とは、朝起きてから寝るときまで一緒にいたいぐらいだよ」


「それって、トイレや風呂のときもか?」


 アーサーのおべっかに田中くんが茶々を入れる。案の定、アーサーは何かを想像して停止してしまった。まったく、初心でむっつりなんだから。



 まあ、そういう所がかわいくて好きなんだけど。



「だが、いつまでも病院に入れておくわけにはいかないぞ。宇宙人だとすれば、身元は間違いなく無いだろうからね。今のうちに、治った後の引き取り先を考えておいた方がいいだろう」


「そんときは、武藤の家で引き取るしかないんじゃないか?」


「ん〜ちょっと怖いなぁ。アーサーもうすぐ修学旅行に行くし、そのときに記憶が戻ると対処できないかも」


「ああ、そういえば修学旅行なんてあったね。でも事情を説明して──」


「いやアーサー、お前は来てくれ」


 田中くんが真面目な顔つきで言う。まあ、見知った友人が軒並みいないのは嫌だよね。


「そうだね。円卓の騎士がいれば守ることはできるはずだ。この僕も、生徒会業務で学校に残るしね」


「だったら僕も残っていいだろ! 僕だって生徒会の端くれじゃないか!」


「残念ながら、元々残るのは正規メンバーだけだ。僕らは事前に了承して参加しているからね。その代わり、全員で卒業旅行に行くんだ」


「そういうこと。ついてきたらいい思いをさせてやるからさ」


 田中くんがアーサーの背中を叩く。いい思いってなんだろう? お土産代奢るとか?



 さて、あのことを言わないと。



「そのことなんだけどね、アーサーって光の速さになれるでしょ? だから何かあったら光速で戻ってくれば両立できると思うのよ」


 私は美香さんが提案した内容をアーサーに提案する。


「確かに、それならなんとかなるかな。有希、ナイスアイデア!」


 アーサーがサムズアップして褒めてくれる。彼に褒められるのは嬉しいけど


「残念ながら、これを考えたのは美香さんよ。お礼なら彼女に言ってね」


 私は正直に白状する。こういうとき、私は手柄を横取りすることができない。


「なるほど。だけどそういう変に素直な所も……いいね!」


「ちょっと、変な所でウットリしないでよ! なんか恥ずかしいから!」


 しかし、しょげずに褒めてくるアーサーに私は照れてしまう。やっぱり、素直に褒められるのは慣れないな。


「相変わらず、アーサーは口弁慶だね」


「だな、んで有希はツンデレと」


「「そこ! うるさいぞ!」」


「あっ、そうそう。一応言っておくけど……」


 私たちの反論をスルーした辻本くんが──





「僕もついてくからね、病院」


 と、病院の前で言った。


「俺もな」


 その隣で田中くんも同意する。


「まったくもう、3人とも私と有希さんのデートの邪魔して!」


「病院前で騒ぐな馬鹿!」


 結衣さんの見当違いな物言いを紗友里さんが静止する。でもたまには、二人で出かけてもいいかもね。


 現在、私たちは予告通りにお見舞いをしに病院に来ていた。そして結衣さんと紗友里さんに、病室まで案内してもらう手筈になっている。


 ちなみに今日は文化祭の振替休日である。土日に本番を行い、月曜日に片付け。そして火曜日水曜日が休みとなるのだ。


 ……まだ文化祭から3日しか経ってないのか。色々ありすぎて、かなり時間が経ったような気がしてくる。





「なんだなんだ? ぞろぞろと」


 病室へと移動すると、中から女性の声が聞こえてきた。


「はじめまして。私は武藤有希と言います」


 私は開口一番、みんなを代表して頭を下げる。それに釣られるように、他の今日初めて来たメンバーも頭を下げる。



 じいー



「あの、何か?」


 女性は私に対して、じとーっと視線を向けてきていた。やっぱり宇宙人だから、私の存在には思うところがあるのかな?


「ええっと、誰だったっけ? なんかどっかで見た気がするんだが──」


 しかし、記憶喪失の影響か思い出せずに悩んでいる。


 でも──


「もしかして、記憶が戻ってきてる⁉」


 結衣さんが食い気味で女性に尋ねる。そう、私も同じことを感じたのだ。


「だから最初から記憶喪失じゃないと言っとるだろうが! ああもう、お前らが騒ぐせいで思い出せん!」


 女性はそれにうんざりするように返した。


 うーん確かにこれは、記憶喪失っていうよりボケ老人──



 ペシッ



「イタッ」


「あっ、すまん」


 不意に女性に頭を叩かれる。待って何年ぶり⁉ 不意打ちで攻撃喰らうなんて⁉


「有希さんにな──むがっ!」


「ややこしくなるからやめろ」


 飛び出しそうになる狂犬(ゆい)さんを紗友里さんが止める。


「でもお前、なんか失礼なこと考えてただろ?」


「な、何故に分かったし」


「やっぱりな。まあ、今のはたまたま飲み物を取ろうとした先に頭があっただけなんだが」


「いやたまたまなんですか! ……ええっと、あの、なんて呼んだらいいでしょう?」


 いつまでも女性では言いづらいし、何かしら呼び名がほしい。


「私か? そうだなぁ……じゃあアーサリンで」


「おい、昨日はアルトリウスと呼べとか言ってなかったか?」


「言ったかそんなこと?」


 女性は本気で分からないといった様子だ。やっぱり──



 ペシッ



「だから痛いって!」


「すまん。また手が滑った」


「ま──⁉」


「だからやめろ!」


 紗友里さんがかわいそうだから、これ以上は考えないようにしよ。


「おもしろい女性だな」


「だね」


「俺は田舎の頑固じじ──ぶべら⁉」


 アーサリンさんが、ドリンクのペットボトルを田中くんにぶつける。


「今のはワザとだ。若い女性に対して失礼だろ!」


 でも、今の私には手が滑ったように見えたけどなぁ。


「たく……んで、そこにいる男どもは? どいつもこいつもヒョロヒョロで物足りんが」


「こっちの金髪なのがアーサーです。で、眼鏡かけてるのが辻本響也くんで、もう一人が田中真人くんです」


「んー、そっちの金髪はどこかで見た気がするな」


 女性はアーサーをまじまじと見る。やっぱり、この人は宇宙人の可能性が高いわね。


「ちなみにアーサリンさん。その頭の傷はいつ治るのでしょう?」


「実はな、傷自体は軽症だからすぐにでも退院はできるのだ。だが生憎と全部忘れててな。出た後の行き先がない」


「なるほど、やっぱり引き取り先が必要みたいね」



「それならば、(わたくし)に提案がありますわ!」



 突如として出口からした声に振り返ると、シスネさんと深琴さんが聞こえてきた。何故かシスネさんが腕を、深琴さんの腕に絡ませた状態で。



 ……うんと、カップルなのかな?

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