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第36話「修学旅行準備」



 6限が開始するチャイムがなって5分経ってから福原は当たり前のようにノソノソと教室に入ってきた。

「今月、修学旅行あるからグループを決めるからなー」

 グループ決め…嫌な言葉だ。

 福原はカツカツと音を立てて黒板に数字を1から6まで書き並べた。

「クラス35人で6人ないし、5人グループが6つだ。いいな?」

 これから修学旅行を迎えることにテンションが上ってる者たちが「はーい」と元気の良い小学生のように返事をして、その返事をしっかりと耳で聞き取ったことを確認した福原が口を開いた。

「じゃあ好きなやつとグループを決めてくれ」

 福原は軽はずみにそう言うが、その言葉が今までの僕にどれだけ苦痛を与えてきただろうか。

 集団内でグループを作れといつも教師は当たり前のように言うし、生徒にグループを決めさせたほうが楽だからそうしてるのかもしれないけど、こういうグループを決めるときは必ず僕だけ余る。

 別に誰かと一緒になりたいなんて思わない。でも、余るということはその集団から必要とされていないということだ。誰も僕を求めるやつ無いんていない。それどころか拒絶してきた。

 そして、余った僕は教師から人数が足りていないグループはないか探されて、嫌な顔をされながら無理やり人数が足りてないグループへ押し込まれるというのが常だった。


「樹、どこ行くよ」

「私シカ見に行きたーい」

「理奈、それ奈良だよ…」

「土日暇じゃなくなったね、樹」


 でも、今は違うのかもしれない。

 目の前には今までとは違った世界が広がっている。

 そこには、クラス全員から集まる冷たく刺さるような視線は無く、4人の太陽のような笑顔が僕の世界に広がっていた。

 だから、今までの学生生活の中で初めてこのメンバーで修学旅行に行ってみたいと思えた。



「女子が私と理奈の2人だからあと一人誘わないとね」

 明島が同じ班だからか教室を見渡してみるとやたら男子と目が合ったような気がしたけど、それ以上に気になったのが教室の前で福原の隣に立っている女性だ。

「おーい、西岡が余ったんだが誰か入れてくんないかー」

 相変わらず残った人に対する配慮のかけらもない言葉だ。僕は今の西岡さんの気持ちは痛いほどわかる。

「私達女子2人なので入れますよ」

「じゃあ、西岡は明島のグループな」

 西岡さんの全く面識のないグループに勝手に押し込まれるのではないかと不安だったが、成川も明島も西岡さんとは最近仲良くなっていたらしいので、僕は自分のことのように安堵した。

 

 ただ、僕は福原の無神経さに気を取られていたけど何か大事なことを忘れているような気がした。

 またこっちをジロジロと見る男子がいるけどその中に明らかに視線が違いニヤニヤとした不敵な笑みを浮かべる男子がいた。それは、柿原だ。

 僕は柿原と目があってその忘れていたことを思い出した。

 そう、西岡さんは大場と付き合っていたことだ。

 僕はこの前聞いたから2人が付き合っていたということを知ってるけど、大場は周りには付き合ってることがほとんど知られていなかったと言っていた。

 だから、あの時の反応から察するにあまり触れない方が良いような話題なのかもしれない。

 しかし、宮橋や明島、成川はその事を知ってるのだろうか。

 話している様子だといつも通りだし、そんなことは知らなそうな感じがする。それとも、2人が気まずくならないようにそう取り繕っているだけだろうか。

 最近、コミュニケーションの経験の差なのか彼らにとっての当たり前が僕にとっては当たり前じゃないことが多いから、彼らが表面で作っている感情や言葉が空気を読んでだ上で発しているのかどうか曖昧になってきていた。

 以前までの自分とコミュニケーションを取っていた彼らには、そういう苦労をさせていたのかと思うと、なにか申し訳ない気持ちが急に沸き上がってきた。


 そんな事を考えているうちに西岡さんが男女向かい合って座っている僕らのグループに来て僕の正面に静かに着席した。

 西岡さんと会話した記憶は文化祭で挨拶をしたくらいだから薄っすらとしか覚えていないが、この机2個分程の距離に接近したのはそれ以来になるかもしれない。


 僕は明島と成川と会話している西岡さんを一度顔と名前を忘れてしまっていたので、記憶に鮮明に刻もうとしばらく見ていた。

 まず、西岡さんは色白なのが一番印象的だ。単に色白という言葉で形容するにはまだ不足しているかもしれない。まるで血の通っていないぐらい白い肌というのが最もイメージが付きやすい表現だろう。だから、大場も色白だが西岡さんはそれ以上に白いような気がする。

 そして、西岡さんから一番強く感じたことは乾いたような眼差しをしていることだ。それは、初めて大場と2人で話したときに感じたものと同じだった。だから、2人にはそういった共通点があるように思える。恋愛では似た者同士は惹かれ合うらしいけどこの共通点で2人は付き合うきっかけになったのかもしれない。勝手な推測だけど。

 ただ気になったのは、西岡さんが着席してから数分経つけど大場と西岡さんは一言も会話するどころか目も合わせていないことだった。

 

 グループでは成川や明島が行き先を話し合っていたらしいが殆ど聞いていなかった僕は、修学旅行の見学先が書かれた紙を渡され、さも聞いていたかのように頷いて受け取ったが、どうやらグループ行動する際の見学場所がいつのまにか決まっていたらしい。



 6限は終了して、結局グループで話してるときも大場は西岡さんと一言も会話していなかった。別れたカップルがその後どういう関係に落ち着くとか交際経験の無い僕には何もわからないので、こういう関係に落ち着くこともあるのかもしれないと受け入れて余計な詮索をすることを辞めた。

 西岡さんも大場と一言も言葉を発していない僕以外は仲良く話しているようなのでこのままでもいいだろうと思った。


 帰りのHRを終え女子は残って他の友だちと駄弁っている中、僕ら男子3人は先に教室を出たが偶然にも柿原も一緒に帰ることになった。偶然にも…。

「いやぁ京都楽しみだよな。午後さ自由行動だしみんなでエッチな店行かね?」

「行かねぇよ。そもそも、年確されるだろ」

 柿原がまた不敵な笑みを浮かべた。それは宮橋の発言に対するものでないことはなんとなく推測できた。

「でも、お前らのグループは午後何すんの?」

「京都の名所まわんじゃねぇの?成川たちがなんか決めてたぜ」

「えーめっちゃいいじゃん。お前らのグループなんか楽しそうで羨ましいわー」

 さっきから柿原の返しが、なにか白々しい演技のように見える。というか、わざとそうしているようにも見えるけど。

「柿原のグループも楽しそうだろ、長内も烏丸もいるし」

「俺、烏丸さんに嫌われたんだよなー」

「お前一体何したんだよ…」

「俺らに比べたらお前らは男女仲良くていいじゃん。いつメンだし」

「まあな。西岡も俺は仲いいし」

 その単語を引っ張り出すために会話を続けてきた柿原は視線を用済みの宮橋から大場に移して、柿原の内側からにじみ出る笑顔を抑えきれずに溢れていた。

「俺と宮橋は西岡ちゃんと仲いいけどさ、周はどうなの?」

 白々しいというか意地の悪い質問を柿原は楽しむように大場に投げつけた。

 そもそも疑問に思ったが、2人は「仲いい」という言葉を使っているけど、普段は一緒にいるわけでもない相手との関係を仲がいいと言うのはどのぐらいが基準で使い始めるものなのかわからず「仲いい」という言葉を使う定義がわからず困惑していた。

「…僕も仲…いいけど」

 言葉を出すのが億劫という様子の大場は「いいけど」の部分が歯切れの悪い言い方だった。

 それは、言える言葉までは言ってから後出しで考えた痕跡のように思えた。

 そして、僕の目から見ても大場と西岡さんが仲が良いいようには全く見えなかったので流石にその嘘はばれることは決定的だった。

 当然ながら、柿原の狙い通りの結果になった。

「周、西岡と仲いいの?さっき、全く話してなかったよな?」

 柿原はさっきまでニヤニヤしていたけど計画通りに言ったことが嬉しかったようで抑えられずに白い歯を見せて声を殺して笑っていた。

「普段、西岡と周って話してたっけ?」

 宮橋は当然悪気はないが、当然湧き上がる疑問を解消するための質問が無意識に大場に追い打ちをかけていることなんて夢にも思わないだろう。

 ただ、ずっと黙って会話を聞いていた僕だったが、なんだか目の前で柿原に追い詰められている大場が可愛そうになってきたので大場をかばうことにした。

「仲の良さは人それぞれだからもう良いんじゃないかな?」

 しかし、努力も虚しく僕の発言は通り過ぎる空気のように消えていき柿原どころか大場にさえも届かなかった。

 その証拠に段々と大場の白い頬が赤く染まってきて、限界を迎えたように大きく息を吐いて長いまばたきをした。

「もう、わかったよ。言えば良いんだろ柿原」

「柿原?なんで柿原なんだ?」

「西岡さんは僕の元カノです。これでいい?」

「え!?マジか周」

 柿原は宮橋のリアクションを噛みしめるように頷きながら眺めていた。

 そして、宮橋は文字通り目を見開いて大場のことを目で突き刺すくらい凝視している。

「意外な組み合わせだなー」

 宮橋は驚いた余韻の力だけで唇を動かさずに喉から音だけが出てきたような言い方だった。 

 でも、僕も宮橋の気持はよく分かる。初めて訊いたときは確かに意外な組み合わせだと思った。

「てか、柿原知ってたのか?」

「もちろんもちろん、ちなみに天野っちも知ってるよ」

「この前の土曜日にバッタリあってその時に訊いたんだよね…」

 事実だけど、なにか言ってはいけないことを言っているような罪悪感が僕を支配しているようだった。

 宮橋は「そうだったのかぁ」と3回くらい呟いた後、再び大場の方を見て親指を突き立てて

「気まずかったら言えよ。俺らがサポートするから」

「別にそんなんじゃないって」

 大場の頬はいつもの白色に戻っていた。

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