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第1話「天野樹」


 ピピピッピピピッピピピッピピ…。

 学校へ登校する日は毎朝7時にスマホのアラームが部屋中に鳴り響く。

 耳元でけたたましく騒ぐスマホに睡眠を中断された不快感と一日の始まりという憂鬱な気分を抱いてベッドから体を起こす。

 僕は男性にしては髪が長い方なのでたまに寝癖を直すのに時間がかかることもあるが、朝食をとったり制服に着替えたりすると大体1時間位準備してから家を出て、徒歩で30分ほど歩いて学校に到着する。


 高校一年生の僕は下駄箱がある校舎の一階に教室があるのでいつも通り上履きに履き替えて、階段を上り下りして余計な体力を使うことなく、いつも通りの通路を通って教室に入る。


「天野君おはよう」

 僕の近くに座る女子が挨拶をしてきた。彼女の名前は知っているけど殆ど会話したことがない人だ。にもかかわらず、平気で挨拶という形で他者とコミュニケーションを取って自分の存在を主張していることが空気のように存在を消して過ごしたいと考える僕には理解できない。

 挨拶をされて無視すると相手の気分を損ねて余計な問題に発展する可能性があるので、笑顔の面をかぶったようにいつも通りの作った笑顔で挨拶を返す。

「おはよう」


 チャイムと同時に担任の教師が教室に入ってきて朝のHRが始まり、担任は出席を取った後に出席簿をパタンと閉じて一度クラス全体を見回した。

「1年間は365日だけどみんなが学校に来るのは実質その半分もないんだぞ。1年なんてあっという間だ。だから、一日一日を大切に生活するように」

 半分もないということは多めに見積もって180日として3年間で540日。

 卒業までそんなにあるのか。今日で何日経過したのだろう。考えるだけで気が遠くなる。

 ああ、さっさと卒業したい。


 午前中は授業を聞き流し、昼休みは一人で人気のないところでご飯を食べてまた午後には授業を聞き流し、帰りのHRが終わったら一番に教室を出て帰宅する。毎日毎日毎日毎日これを繰り返す。今日で何回繰り返したか知らないけど、今朝担任が言ったように登校日数が仮に540日なら僕はこれを540回繰り返すのだろう。そしたら、自分の存在を限りなく消しながら誰とも関わらずにさっさと卒業することができる。


 下校途中にふと今朝の出来事を思い出した。他者と繋がろうとする意識についてだ。

 今日は全て座学だったので一日の中でクラスの人間と会話したのは今朝の彼女との挨拶だけだ。

 たまたま話しかけてきたのが彼女だったけど、別に彼女だけに限らずクラス全体、いや学校全体として皆誰かと関わりを持ち、繋がりたいと考えているのかもしれない。だから、あまり喋ったことがない人でも挨拶をしたり、集団に属することで自分の存在を認めてもらい安心したいのかもしれない、だから、教室では友達同士の話し声や笑い声が聞こえるのかもしれない。

 しかし、そのせいで人間関係の問題が起きる。だから、心を閉ざし自分の内側に閉じこもる人間もいる。

 僕は小学生のあの時から人と関わりを持ち続けることをやめた。その後の自分は時をただ消費するだけの余生だと思っている。

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