恋人
「いや、私に付き合ってるって言われましてもって思ったんだけどさぁ。
その子の友達、戸高とは一年くらい付き合ってるらしいんだけど、最近2人の関係について悩んでるらしくって、で、その子が心配して私に聞いてきたんだけど…」
付き合ってるって…
付き合ってるっていう意味は、2人は両思いで、お互いを彼氏、彼女と思っていて、デートとかしてるってこと?
「だからさぁ、私もプライベートとか知らないし。戸高は見た目もいいし、一見優しいし、モテるとは思うけどさぁ…」
戸高さんの笑顔を思い出した
あの人は、かっこよくて、オシャレで垢抜けてて、色々なことを知ってて、尊敬できて…
私の今までの人生でそんな人に知り合うことなんてなかったから
だから…凄く憧れて
ちょっとでも近付きたくて
戸高さんに可愛いと思ってもらいたくて…
私にとってはそんな人で、だから、そんな戸高さんと付き合ってるなんて言う人…
「どんな人なんですか?その人。同じ会社の人とか?派遣の人とか?」
「いや、会社とかじゃないらしいよ。そこんとこは私も詳しく聞いてないんだよね。変に関わりたくないからさぁ~でも、ヤバいよね。相手の友達がうちに来ちゃったら…」
会社の人でもなければどこで知り合ったんだろう?
「戸高もまずいんじゃない?
わざわざ私に聞いてくるってさぁ。」
「どうしたいんですかね?」
「う~ん。わかんないけど。
やっぱり、気になっちゃうよね。今度、会社の飲み会があるからどんな子か聞き出してみようか?」
美和さんは嬉しそうに笑った
私は動揺しているのがバレないようにゆっくり頷いた
「はぁ~よかった。これを聞いた時はびっくりしたんだけど、亜耶に言ってスッキリしたわぁ~。」
長く喋って疲れたのか、美和さんは両腕を上げて背伸びをするとフゥーと一息ついた。
「戸高も馬鹿だよねぇ。会社以外で手を出してもこんな風にバレちゃって。
でも、亜耶が引っかからなくて本当によかったよ。亜耶、戸高のことカッコイイとか言って仲良くしてたから心配してたんだぁ」
美和さんは、満足そうに頷いた
私はどんな表情をしていいかわからなかった
見知らぬ女の人と戸高さんが一緒にいる姿が目に浮かぶ
そっか、二人は付き合ってるんだ
私よりも後に出逢ったのに
その人は戸高さんの恋人になれたんだね
胃の奥がぎゅっとなって、苦しくなった