初恋
初恋は小学校5年生だった
関西から転校してきた彼は、他の男子に比べて少し大人びていて、関西弁特有のイントネーションで話す彼を私は好きになった
男子とあまり話しをしなかった私は、彼のことは遠くから目で追うことしかできなかった
ある朝、教室に行くと男子達が騒いでいた
「あ~来た来た、もとみやぁ。あいつがお前のことを可愛いって言ってるよ」
指さした先には、転校生の彼が座っていた
私は、突然の注目にどうしていいか分からず固まってしまった…
「何言ってんのよ!男子うるさい!」
隣から大きな声がした、仲良しのさっちゃんだった
さっちゃんはクラスの中心人物だったから、男子達はすぐに静かになった
「あや、気にすることないよっ」
さっちゃんは、私の腕に自分の腕を絡ませて真剣な目で言ってきた
まるで、イジメにあった私を庇うような仕草と言葉に私は頷くことしかできなかった
『あいつがお前のことを可愛いって言ってるよ』
頭の中で何度も繰り返す
私はまだ、大人達以外から『可愛い』と言われたことがなかったから
ドキドキした
可愛いと言われてから、私はますます彼を見つめるようになった
彼とは目が合うようになっていた『どうしたの?』彼はそう言いたげに、いつも少し困った顔をしていた
夏が過ぎて、席替えをきっかけに彼と話すようになった
たわいもない小学生の会話だ
でも、一度『可愛い』と言った相手と言われた相手
子ども達は、ほっといてはくれなかった
「あや、あいつが嫌なら言いなよ」
さっちゃんが言ってきた
「あやちゃんが大人しいから、皆冷やかすんだよ」
さっちゃんの取り巻き達も言ってきた
私は困ってないし、彼のこと嫌でもなかった…好きだったから
「関西弁なんかムカつくよね…」
なんでだろう?
彼の関西弁はゆるやかでとても心地がいいのに…
「あやちゃんもしかして、好きなの?」
何も言葉を発しない私に誰かが言った
「嫌い!」
さっちゃんが大きな声を出した
「あや、好きじゃないよね?」
さっちゃんの目がとても怖かったから
「うん」
私は自分の気持ちに嘘をついた
今思えば、さっちゃんも他の女子達も転校生の彼のことが気になっていたんだ
私と彼の席が離れて、さっちゃんが彼の隣の席になると2人はすっかり仲良くなっていた
ムカつくはずの関西弁を話すさっちゃんは、どこか誇らしげだった
『可愛いのは私じゃなかったの?』
仲良しの2人を私は後ろの席からじっと見つめていた
── ◇ ── ◇── ◇ ── ◇ ──
「長野君、金曜日はありがとう」
火曜日、出勤してきた長野君にお礼を伝えに行った
「あっ、どうも。また行きましょう」
長野君は、まだ眠そうな顔で答えた
『長野、本宮さんと仲良くなりたいんだよ』
戸高さんは、そんなこと言ったけど…
長野君は別に私なんかに興味はないみたいだ
「おはよう」
戸高さんが、爽やかな笑顔で挨拶をしてきた
「本宮さん、昨日はありがとう。助かったよ」
「あっ、いえ。無理やり誘ってすみません」
「そんなことないよ」
そう言うと戸高さんは、袋を渡してきた
「コンビニのだけど」
「えっ、あっ」
中にはお菓子と飲み物が入っていた
「えっ、でも」
「ありがとう」
にっこり笑うと、戸高さんは席についてしまった
あ~、何だか凄く気を使わせてしまった…
申し訳ない気持ちになって、戸高さんの方を見ると彼はすっかり仕事モードに入っていた
カッコイイ
うん。
やっぱり、戸高さん素敵だ