戸惑い
── 金曜日 ──
長野君とのご飯は結構楽しかった
「本宮さん、休みの日とか何してるんです?」
「えっとー。友達と遊んだりとか買い物とか…長野君は?」
「俺っすか?フットサルしてるんでそれ行ったり、ゲームしたり…
あっ、最近は競馬してるんですけど
ほら、スマホでチャチャッとできちゃうんですけど」
そう言うと、スマホ画面を見せて説明しくれた
「本宮さん、競馬場行ったことあります?」
「ううん、ないよ。」
「今度一緒に行きます?
面白いっすよ~。
あっあと、美味しい肉まんが売ってるんですよ!食べさせたいなぁ~」
子どものような笑顔が可愛かった
「そうなんだ、行ってみたいな」
「行きましょう!ぜひぜひ」
そう言うと長野君は満足そうに微笑んだ
長野君、結構いい人だな
優しいし、会話も続くし…
月曜日
長野君にお礼を言おう思ったけれど
お休みでいなかった
『 LINE交換したけど、わざわざお休みにすることないよね…』
終業後、外に出ると小雨が降っていた
『 あっ、雨。どうしよう傘をとりに帰ろうかな…』
もう一度、会社のビルに入りエレベーターに乗った
6階、エレベーターが開くと戸高さんが立っていた
「あれっ?帰ったんじゃなかったの?」
戸高さんは微笑んで小首を傾げた
「あっ、雨が振ってて傘とりに帰ってきたんです」
「えっー雨かぁ、やべ。走ろっ」
「えっ、あっあの…」
思わず、エレベーターに乗り込む戸高さんを制止していた
「あの、良かったら一緒に入っていきません?傘…」
「えっ…、でも、悪いし…」
「駅までですよね?そんなに遠くないし。私も駅までですから…」
なに、必死になってるんだろう 私
「そっか、じゃあお言葉に甘えようかな」
戸高さんはにっこり微笑んだ
傘は戸高さんが持ってくれた
私が濡れないように、傘を傾けてて少し窮屈そうだった
「金曜日、長野君とご飯行ってきたんです」
「長野と?2人で?」
「はい。この間、お仕事お手伝いしたから。そのお礼にって」
そう言って、戸高さんを見上げて微笑んだ
「へぇ~そうなんだ」
私は、戸高さんを見つめて続けた
「長野君っていい人ですよね。優しいし、話は面白かったし」
あれ?
私、なんでこんな話を戸高さんにしてるんだろう…
「あいつ良い奴だよね。」
戸高さんは優しく微笑んだ
「はい」
私は、ゆっくり頷く
「でも、長野もやるよね」
私は、不思議そうに戸高さんを見上げる
「だって、俺が手伝ったって奢ってはくれないよ」
戸高さんは、笑った
「それは、先輩だからでしょ」
私もつられて笑う
「いやぁ~、違うよ本宮さんだからご飯誘ったんでしょ。
長野、本宮さんと仲良くなりたいんだよ」
「えっ、そんなこと…」
私は、戸惑った表情で戸高さんを見つめた
「羨ましいなぁ~。俺も独身だったら…なんて」
戸高さんはにっこり微笑んで
「ほら、濡れるよ入って」
私の腕をグイっと引き寄せた
あっ、これ、これだ
これ言って欲しかったんだ
私、戸高さんに異性として見てもらいたかったんだ