表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新型ウィルス ある独裁者の死にまつわる真相

作者: 藤雅

新型ウィルス ある独裁者の死にまつわる真相 医は仁術、世を救い人を救うための術


そこは窓の外の世界とは別世界の様に光に満ちていた。

清潔と整然さは白々しいと思えるほどであった。

その一室で二人の白衣の男性はひそやかにしかし熱を帯びた調子で向き合っていた。


「新型ウィルスはわが国ではゼロだ…建前上はな」

白髪の男性がつぶやく。


新型のウィルスは世界中に感染を拡大し、第二のペストと形容されるほどの死者を出していた。


「先生…それはそうですよ、感染したとたんに銃殺か自宅のあらゆる出入り口を封鎖されて死に至るまで監禁なのですから…」


「そうだ、偉大なる指導者はわが国から新型ウィルスの感染が発生することを良しとしない…」

「その指導者が感染…我々はどう対処すれば…このままでは私たち医師は指導者を救えなかったかどで処刑は確実…」

若い男が怯えながら白髪の男性に答えを求めるがその語尾は消え入る…


「諸外国はわが国の指導者の異変を察知している。しかし新型ウィルスで指導者を逝かせるわけにはいかない」

「国家の、指導者の威信のためにですか?」

「それもある…」

白髪の男性は含みを持たせるように言う。

曇り空の窓の外は薄暗くなり始めていたが街灯はまばらでその光源も頼りなく閑散とというよりは荒廃した街並みと疲弊した人々をうっすらと浮かび上がらせていた。


「先生、しかしわが国には新型ウィルスの治療薬も治療方法すらありません。だからこそ感染者は死をもって葬ってきたのではないですか」

「諸外国のプレスが察知しているようだがオペ後の予後が良くないと把握しているようだ…そうであるならばその情報を逆手に取りこれまでの計画通り事を進める…医は仁術。我々にはわが国の人民を救う義務がある。そしてそれは医療というカテゴリーだけにとどまるものではない。我々は人間社会における医師という存在の意義を持ってその使命を全うしなければならないのだ」

白髪の男性はひそやかにしかし力強く語る。


「先生! それはいよいよ計画を実行する日が来たということですね!」

興奮を抑えられない若者が叫ぶ。

「静かに…大事の前の小事…。すでに軍部の一部とは内通している。もう一工夫が必要だがそれも手配をしている。我が国の偉大なる指導者の意志は最期まで叶えよう…新型ウィルスはわが国には存在せずよって諸外国と対等に渡り合えるミサイルの威力もいつでも行使できると世界に伝えよう…。最期の願いは叶え、そして指導者には生きてきた様にふさわしい最期を迎えてもらうのだ…」


白髪の男性が外の風景を厳しい目で見降ろしながら言う。

その時、部屋の扉が開きひとりの女性が一目軍人とわかる男たちに両肩を抑えられながら入室してきた。


「何なのですかこの無礼な扱いは! 指導者の親族であるこの私への礼を失した扱い、万死に値するものとして忠告します!」

両サイドを屈強な軍人に取り押さえられながらも一つも物怖じすることなく周囲の男たちを見下す女。


「これはこれは…お待ちしておりました。我々は偉大なる指導者の意志を忠実に守るためにあなた様をここにお招きしたのです」

白髪の男性がゆっくりと諭すように言う。


「何を言っている? こんなことをしている暇があったら指導者様…兄の治療にあたりなさい! 言うまでもないが指導者様になにかあればあなた達には命をもって償ってもらうことになるのだから! 新型ウィルスに対する効果的な治療は確立したのか!」

強い口調で言い放つが周囲は全く動じる気配はなくその様に違和感と恐怖を感じ始める女。

これまでであれば自分の一挙一動に怯えるはずであったのに…


「何をおっしゃっているのですか? 我が国に新型ウィルスの感染者は存在しません。それは指導者様の御意志です」

「何を言っているの! 早く治療に当たらないと処刑する!」


「指導者様が長く心臓を患っていることはご承知ですよね?」

「…」

無言になる女に白髪の男性が話を続ける。


「指導者様は新型ウィルスに感染しているのではなく心臓の機能が壊滅的な状態なのです。そしてこれをご覧ください…」

そう言うと一枚の紙を取り出し両肩を取り押さえられた女の目の前につきだす。

「お読みになれますか?」

男が冷徹に問いかける。


「そんな…ばかな! こんなことがあるわけがない! お前らの捏造だ! 私は指導者の後継者だぞ!」

「そうですあなたは指導者様の後継者です。あなたは指導者様の一部となって我が国を後継するのです」


「なにをわけのわからないことを言う! 指導者様が…兄がそんなことを言うはずがない!」

錯乱状態となる女に更に冷徹に言い放つ。


「そう…お兄様とあなたは一心同体だ…唯一無二の存在であるあなたはまた拒絶反応も最小限に抑えられるでしょう。そしてわが国には新型ウィルスの治療薬はないが移植手術の技術と拒絶反応を抑える薬はあるのです…」

白髪の男の言葉に絶句する女。


「しかし安心してください…我が国はどこかの国の様に…生きたまま臓器を取り出すなどという野蛮な非人道的なことはしません…この若者は優秀な麻酔医として指導者様のお創りになった偉大な大学で医術をで学んだのです」

白髪の男性はそう言うと傍らにいる若者を肘で促す。


「ご安心ください…何の痛みもなく差し上げますから」

若者は精一杯冷徹に女に言い放つ。


「ふざけるな! そんな非人道的なことが許されるわけがないだろう!」

狂わんばかりに叫ぶ女。


「いいえ…指導者様のご指示は絶対です。あなたたちもこれまでそうやって来たではないですか。だからこそわが国には一人の感染者もいないのです。指導者様のご意志のままに…逆らえばあなたとて結局は処刑でしょう」

「お兄様がそんな指示を出すわけがない! この私を処刑になど何があってもするわけがないだろう!」

「だとしてもあなたにはもう確認することはできないのですよ」

そう言うと白髪の男性は軍人たちに目で合図をし、手術室に女を送る。


「ぎゃぁあ~助けて! なんでも望みをかなえる、お金ならいくらでもお前たちに…地位も望むように授ける! 離せ!」

「我々は何も望みません…ただ使命を果たすのみ。お諦め下さい」

若い男がそっと言うがその声は女には届かなかった。


手術室に女が運ばれ冷たく扉が閉じられた。

「先生…感染状態の指導者に移植手術など…」

若い男がそっとつぶやく。


「無理だろうな…しかしこれで我が国には新型ウィルスの感染者はゼロだ。指導者の願い通りな…そして臓器の一部となった後継者も消滅する」


新しい世界が創られるのだよ…

白髪の男性はそう呟くように若者の肩に手を置いた。


雲が切れた空には夕日が美しく沈みかけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ