理想と現実
高校の入学式、初めて君と出会った。
隣の席になって仲良くなった。
学校生活を送るにつれて君に恋をした。
喧嘩もしたし、気持ちのすれ違いもあったけど、お互い好きだと気づいて付き合ってハッピーエンド。もしくは、最後には結ばれ結婚し、幸せになってハッピーエンド。
なんて、少女漫画でよくある話。
私もこうなる予定だった…。
本当だよ?こうなるはずだったんだよ?
でもね、どーよこの現実!
私は卒業手前で彼氏と別れてしまった…。
手前といっても、まだ1月。
いや、もう1月だよ!
1度は付き合ってハッピーエンドだったじゃん!
あーーー、なんでこうなっちゃったかなー。
桜木美雨は机に顔を伏せる。
彼氏であった長谷川悠斗と別れたのは1週間前。
別れた原因は、悠斗の幼なじみである白石桃香の事が原因である。
桃香は2年の時に転校してきて、それ以来幼なじみである悠斗にべったり。
すでに付き合っていた私からしたらいい気分ではない。
悠斗も悠斗で「昔からこんなんだから気にするな」と言うだけで嫌な顔もしないし、離れろとか言うこともなかった。
朝も帰りも休み時間、体育祭、文化祭まで私たちの間に桃香がいて、正直うんざりだった。
流石に休日のデートやクリスマスデートの時はいなかったけど…。
それに、悠斗は気づいてないみたいだけど、桃香は悠斗の事が好きなんだよ…。
気づいてないのは本人だけで、周りはみんな知っている。
私と悠斗が付き合っていたことはみんな知っているから、桃香は私から悠斗を奪った悪女となっている。
桃香自身はそれでも構わないみたいで、すれ違うたび勝ち誇ったような顔で私を見てくる。
桃香は悠斗が好きなんだよって言っても、「そんなわけがない」と悠斗は言った。
いや、そんなわけあるよ?
どう見たって好き好きオーラ全開じゃん。
鈍いとは思ってたけど、ここまでとは…。
それでも我慢してた私偉くない?
だって好きだったから、別れたくなかったから…。
でもね、あれだけは許せなかった。
悠斗と桃香がキスしてるところを見てしまった。
は?キスしてる?
ついにやりやがったよ!
目ん玉飛び出るかと思ったわ!
と、怒りが込み上げてきて悠斗に「もう桃香と近くにいないで!」て言ったら、「何もない」、「しつこいぞ」、「そんなに俺を疑うなら別れるか?」
なんて言うから驚いた。
「……れる」
「え?」
「別れるって言ったのよ!あんたなんかもう好きじゃない!」
と言って別れてしまった。
それから1週間、私はものすごーく後悔している。
でも、当の本人は!
バッと顔を上げて右を見る。
相変わらず距離が近く、ベタベタと…。
私と悠斗が別れた事を知って桃香はニッコニコ。
ベタベタしてるが、イチャイチャしてるようにしか見えなくなってきたここ最近。
「はー…」
小さくため息をつき、また顔を机に伏せる。
なんであんな事言っちゃったんだろ…。
別れる…。
別れたくなかった。
好きじゃない…。
今もまだ好きなのに。
私がもう少し大人だったら我慢できたのかな。
たった1回キスしただけだと。
いや、1回とは限んなくね?
そもそも彼女がいるのに他の女の人とベタベタしたり、キスするのって十分浮気じゃね?遊びでした。では済まなくね?
私、悪くなくね?
あー、でも別れるとか好きじゃないとかは言うべきでは無かった。それは私が悪いわ…。
ただの喧嘩で住んでいれば離れる事は無かっただろうに。
怒りと後悔で頭がグルグルする。
頭を使いすぎて疲れたせいか、いつの間にか私はそのまま寝てしまった。
ふと目を覚ます。
窓の外を見ると空はオレンジ色だった。
「わー、綺麗な夕陽だー…」
て、もう放課後じゃん!
ガタッと椅子から立ち上がると、ピラッと紙が落ちた。
その紙を拾うと何か書かれていた。
えーっとなになにー?
『ぐっすり寝ていて起こすの悪いから先帰るね(笑)
杏奈より』
(笑)じゃないよ!
起こしてよ!親友でしょ!なんで置いてくのよ!
親友の堀内杏奈からの手紙を見て1人心で突っ込む私。
てか、昼休みからずっと寝てたの私?
号令とか授業内容とか全然聞こえなかったわー。
教室をキョロキョロ見渡すが誰もいない。
みんな帰ったんだろう。
私も帰ろ。
急いで帰る支度をする。
ガラッと教室の扉が開いた事に体がビクッと反応してしまった。
扉の方に目線を向ける。
「「あ…」」
なんて最悪なタイミング。
目線の先には彼氏…じゃなくて元彼の悠斗が立っていた。
反射的にフイッと目を逸らしてしまった。
「美雨、こんな時間まで何してんの?」
と、私に近づいてくる悠斗を無視し、カバンを持ち、教室を出ようとした。
「なー、なんで無視すんの?」
パシッと腕を掴まれ、教室から出る事を阻止されてしまった私。
「わー、長谷川くん居たんだー。気づかなかったよー」
ニコッと作り笑いを向け、そう言ってやった。
「気づかなかったって、そんな嘘を…。それに長谷川くんって何?なんでそんな他人行儀なの?」
こいつ…
イラッとするよねー、こーゆー態度。
いや、こーゆー時こそ大人の対応を、大人になれ私!
「なんで?他人じゃん?」
怒りを抑え、笑顔で対応する。
「は?なんで他人?まさかこの間の本気?」
「この間のとは?」
「別れるってや…「あー、本気本気!」」
悠斗の言葉にかぶせるように言った。
「だからもう他人!じゃあ!」
私は掴まれた腕を振り払い、全力疾走で教室、校舎、校門を出た。
とにかく早く悠斗から離れたかった。
私達はもう別れたんだから。
まだ好きと言う気持ちがあるうちは近づいてはいけない。
学校から少し歩いたところで杏奈に連絡をした。
『明日覚えてろよ?』とだけ。