98.ライアティナ3
『わざとはぐらかしてるんじゃないならやっぱり天然かな。やってることが凄いことでリーネの意志とか関係ないって言ってるのにリーネは自分から積極的にやってないから凄くないって思ってるみたいだし。世界を守ることは凄いことだとリーネも認識してるのにどうして自分は凄くないって思うのかな?』
天然と言われて驚いているとアティは続けてそう言いました。
確かに世界を守ることは凄いことだとは思っていますが、成り行きで戦乙女になって世界を守ることになった私はどうにも自分が凄いことをしているとは思えないのです。
アティにしてみたら私が強い意志を持ってやっているかどうかは関係ないようですが、私としては強い意志のもとに戦乙女になったわけではないのでどうにも自分の評価が高すぎるように感じてしまいます。
「正直なところ、自分のことを凄いとは到底思えないのよ」
『それは前世のことがあってそう思うんだと思うけど、前世は前世と割り切って考えたほうがいいんじゃないかな。今はリーネでりんねじゃないんだし』
アティの言うとおり、私は前世のことを引きずっているのでしょう。
しかし、祐也に依存していた前世の私も私であり、今の私は前世の私の上に成り立っていると言えるので簡単に切り離せられるとは思えません。
「アティの言っていることはわかるのよ。私はテラ様の眷属でダークエルフのクエフリーネだけど、私を構成する一要素として前世の岡崎燐子が含まれているから、頭では理解しているつもりでも心が上手く切り離せられていないのだと思うわ」
『まあ、記憶を残して生まれ変わるって、そう経験することじゃないし前世と切り離して考えるのは難しいのかな』
私の話を聞いたアティはそう答えましたが、同じような状況のアティはどう考えているのでしょう?
アティは私のように死んでから記憶を持って転生したわけではありませんが、異世界での記憶があり、この世界で新しい身体を得たことで転生したのと同じような状況になっているので気になります。
「アティも私と同じような状況だと思うけど、ハーティ様の世界にいた時のことはどう思っているの?」
『私は全て捨ててこの世界に来たから前の私のことは記憶があるだけって割り切ってるかな。そうじゃなかったらこの世界に逃げて来るなんて選択はしなかっただろうし』
私とアティは同じような状況だと思っていましたが、自分の意志でこの世界に来たアティと、たまたま転生してこの世界に来た私とではあきらかに意志の強さが違いました。
ハーティ様の世界から逃げて来たと言っても、生きるという強い意志のもと、異世界に逃げる選択をしたアティは私と違い、強い心を持っているようで、常に周りに流されてしまう私とは心の強さが根本的に違うのでしょう。
「アティは心が強いのね。私は心が弱いからアティのように割り切れていないわ」
私の言葉を聞いたアティは腰にてをあてて胸をそらしながら言います。
『これでも3000年以上生きてるんだよ、心が弱かったら生きてけなかったから勝手に心も強くなったかな。リーネなんて私の100分の1しか生きてないんだから最低でも100年ぐらい生きるまで気にしなくていいかな』
そう言われてみれば、アティは私よりもはるかに長い時を生きているのですから心が弱いはずがありません。
見た目と雰囲気からどうしても若い印象がありますが、私の100倍は生きているのですから心が強いのは当然でしょう。
そのアティが100年は生きてから気にするように言ってくれたことは私にとってはありがたいことです。
アティは私の心が弱くても今は問題無いと言ってくれているのですから。
100年は前世の感覚で言えば一生と言える年月ですが、幸いにも今の私はダークエルフであり、テラ様の眷属なので不老です。
そして、戦乙女である私の環境が大きく変わることはありませんから100年ぐらいは問題なく経つでしょう。
今は心が弱いことを受け入れつつも前向きに考えて行動することで心を強くしていけるかもしれません。
当初は私がアティの話を聞くつもりでいましたが、いつの間にか私がアティに話を聞いてもらっているという状況になっていてなんとも言えない気持ちになります。
しかし、アティは私の話を真剣に聞いて自分の言葉で私を肯定して受け入れてくれているのです。
最初はアティから親しくして欲しいと言われて話をしましたが、飄々としながらも真剣に私のことを考えてくれているアティには頭が下がります。
「ありがとう、アティ。そう言ってくれて少し心が軽くなった気がするわ」
私がそう言うとアティは少し照れたように言います。
『し、親友なら当然だよ!リーネと私は親友なんだから!』
「ええ、私達は親友よ」
私の言葉を聞いたアティは満面の笑顔で応えてくれました。
その後、お互いにもっと知るために話を続けていましたが、魔法の話になったところでアティに言われました。
『やっぱりリーネって天然だと思うかな。特に魔法に関してはだいぶズレてると思う』
アティはそのように私のことを天然と言うのです。
「魔法に関してはちゃんと説明したつもりだけど、どうして私が天然だと思うの?」
魔法にたいする認識などはテラ様と共にアティにしっかり説明しているのに、なぜアティは私のことを天然と思うのでしょうか?
『そもそも、新しい魔法を簡単に思いついて発動させられるのは普通じゃないと思うかな。リーネって自分で考えた魔法が結構あるんだよね?』
確かに私が考えた魔法はありますが、私が考えた魔法はせいぜい5個ほどで、私が使える魔法のうちの2割程度です。
私が使える魔法だけで考えても2割程度なので、全ての魔法で考えると1割以下でしょうしたいした数ではありません。
「私が考えた魔法なんて5個ほどしか無いわよ?」
私がそう答えるとアティは頬を膨らませて不服そうに言います。
『普通は5個も考えた魔法があるのがおかしいんだよ』
そう言われても思いつきで試して使えるようになった魔法ばかりですし、魔法の内容自体もたいしたことのない魔法のほうが多いので、たまたま魔法として存在していなかっただけだと思います。
「私が思いついた魔法はたいした内容じゃないから誰も試そうと思わなかったってだけよ」
私がそう答えるとアティは私の言葉に被せるように言います。
『そんなわけないじゃん!だから認識がズレてるって言ってるんだよ!』
私としてはたまたまだと思っていますが、アティはそれが異常だと感じているようです。
しかし、ロカに発想が変わってると言われたことはありますが、それは地球の知識があるからこそで、私の魔法にたいする認識は特別異常と言われたことはありません。
アティはこの世界の魔法、イメージによって発動するということに馴染めていないからそのように感じてしまうのかもしれませんが、誰でも1つぐらいは魔法を思いついていると思います。
まあ、発動出来るかどうかはまた別ですが。
「アティはまだ馴染めてないだけで、私が特別ってことはないわ」
『もう!だからリーネは天然なんだよ!』
結局、この日は訓練をせずにアティと話をして過ごしましたが、なにを言っても私が天然というアティの認識を変えさせることは出来ませんでした。