90.面倒事11
私達3人は食堂に入り、料理を注文しようとしましたが、そこでロカが言ってきます。
『食事はちゃっちゃと済ませたいからカレーでいい?』
確かにカレーは出てくるのも早いし普通に食べていても早く食べ終わるので忙しいロカがカレーにしたいのはわかりますが、3人ともカレーを選ぶ必要はないと思います。
私はカレーでもいいけど、エルはカレーなんて知らないと思うからどう説明しようかと悩みます。
『ロカさんのオススメがカレーでしたらそれでいいですよ』
そんなことを考えているとエルがそんな返答をしました。
「エル、カレーって知っているの?」
『知らないけど、ちゃんとした料理でしょ?問題あるの?』
エルにカレーを知っているのかを聞くとそんな言葉が返ってきました。
カレーはもちろんちゃんとした料理ですが、それはあくまでも地球やこちらの世界での話であって、カレーは多くの香辛料を使った独特な料理とも言えるのでエルが食べれるか心配でしたが、エルはカレーがどんな料理か全然気にしていないようです。
「じゃあ3人ともカレーでいいわ、カレー3つね」
カレーの説明をあきらめた私はロカにそうこたえるとカレーを注文しました。
『は~い、カレー3つですね』
厨房にいる天使が注文を受けるとすぐに3人分のカレーが出てきました。
カレーはあらかじめ大鍋で大量に作ってあるので、注文を受けたらご飯をよそいルウをかけるだけなので本当に早いです。
『へぇ~変わった匂いの料理だね』
「カレーは香辛料をたくさん使っているからよ」
『話は後で。さっさと席に着くよ』
ロカにそう言われて私達は席に移動しました。
『じゃあ、私は先に食べるからリーネは簡単に紹介しておいて』
私達が席に着くなりロカはそう言ってカレーを食べ始めました。
ロカ、忙しくて時間が取れないから食事を取る時間で自己紹介をするって言っていませんでしたか?
私はロカの行動に困惑しながらも、ロカをエルに紹介することにしました。
「えっと、こちらはロカ。テラ様の最初の眷属で今は天使長をしています。天使長ということで堅そうなイメージがあるけど、親しい相手には気さくな一面も見せる有能な眷属よ。近々、女神になる予定だからエルとはあまり顔を合わす機会がないかもしれないけど、テラ様の眷属は私達だけだからエルも気軽に話してくれたらいいわ」
話す内容を考えつつロカをそう紹介して確認のためにロカのほうを見ると、ロカは食べながら頷きました。
それにしてもロカはこの短時間でカレーを半分ほど食べていました。
いくら忙しいと言っても食べるのが早過ぎでしょう。
料理をする側からすると、もう少し味わって食べてほしいと思うのは私のわがままでしょうか?
『んぐっ。そんなわけで、テラ様の眷属は今のところ私とリーネしかいないから、今後、テラ様の眷属になるサリアティリエルも気軽に話してくれたらいいよ』
『じゃあロカって呼ぶよ。私はエルでいいし』
ロカは食べていたカレーを飲み込むとそう言い、エルも気軽に呼ぶようにこたえました。
ひとまずロカを紹介したので私達もカレーを食べ始めることにします。
「エル、私達も食べましょう」
私達がカレーを食べ始めると、ロカは先ほどとは違い、ゆっくり食べ出しました。
『リーネ、カレーって一般的な料理なの?こんな料理は食べたことない』
カレーを一口食べたエルがそんな感想を言ってきましたが、一般的かと聞かれると返答に困ります。
地球の認識だと一般的な料理ですが、こちらの世界ではおそらく天界でしかカレーは食べることが出来ないのです。
「私がもともといた世界では一般的な料理だったけど、こちらの世界ではまだ天界でしか食べられないからエルが知らないのも仕方ないわ」
『ふ~ん、向こうの世界じゃ人族が少なくなって料理も廃れてたから』
エルがいた世界は一般的な種族が絶滅寸前だと言っていましたし、料理は主に人族が発展させているので、人族の減少と共に料理も廃れていったのでしょう。
『さっきから思ってたけど、サリアじゃないんだね』
カレーを食べている合間にエルとそんなやり取りをしているとロカがそう声をかけました。
確かにサリアティリエルの愛称としてはサリアが一般的だと思いますし、ロカはエルと呼ぶことに疑問を持ったようです。
『向こうではサリアって呼ばれてたからこっちは違う愛称がいいかな?って思って。それよりもロカって変わった名前だけど、愛称なの?』
エルはロカの名前が気になったようで、逆にそう質問しました。
そういえば、ロカの名前に関しては気にしたことがなかったのですが、言われてみるとロカって名前は珍しい名前だと思います。
そんなことを考えつつロカを見ていると、私の考えを察したのか、ロカが私の方を見て言います。
『そういえばリーネにも言ってなかったっけ。私の名前はテラ様の眷属になった時に自分でつけたのよ。人族だった頃の名前はカミラで、私が好きだった彼の名前がロイドだったから2人の名前から一文字ずつ取ってロカって名前にしたのよ』
ロカは自分の名前のことをそう説明してくれましたが、自分のことではないのに聞いててなんだか恥ずかしくなってきます。
そもそも好きな彼の名前と自分の名前から一文字ずつ取るって発想がありませんでした。
それにしても、前の名前はカミラって女性らしい名前だったのに、なぜ新しくロカって名前にしたのでしょう?
『へぇ~ロカはもともとカミラって言うんだ。リーネも前の名前は違うんだよね?』
ロカの説明を聞いてそんなことを考えていると、エルはそう言って私に話を振ってきました。
エルにたいしてロカが隠し事なく話しているのに私が隠し事をするワケにもいかない、というか前の名前を隠す必要もないです。
「私の前の名前はりんねよ」
『えっ?リーネなの?』
エルは『ん』が聞き取れなかったのか、私がリーネと言ったように聞こえたようで、そう聞き返してきました。
「り・ん・ね、よ」
『りんね、か。リーネのほうは前の名前が変わってるね』
あらためて名前を一言ずつ言うと、エルは『りんね』とわかったようですが、変わった名前と言われてしまいました。
漢字で『燐子』と書けばそれなりにちゃんと意味のある名前になりますが、こちらの世界には文字自体に意味はないので、名前の響きだけだと変わった名前と認識されてしまうようです。
「私の名前はいいのよ。それよりもロカ、どうして前と全然違う名前にしたの?」
私の名前を説明するのはいろいろと面倒なので私のことは流して、気になったロカの名前のことを聞いてみました。
『どうしてって言われても、人族のカミラはあそこで死んでるし、今の私はあくまでもテラ様の眷属よ。同じような名前で前の気持ちを引きずることは出来なかったし、したくなかったのよ』
私とは違い、もともとこちらの世界で生まれたロカにとっては、テラ様の眷属になるということは凄い使命を授かるという認識なのでしょう。
そういえば私はテラ様に名前をつけていただいたけど、ロカの時はつけていただけかったのでしょうか?
「ロカ、テラ様に名前をつけていただかなかったの?」
『私がテラ様の眷属になった時に、名前はどうされますか?って聞かれたのよ。だから私は自分で名前を決めたけど、リーネは全く違った世界から来たからテラ様も気を利かせられたのよ』
どうやらロカが眷属になった時は名前を自分で決められたようです。
私の場合、ロカのようにテラ様に聞かれてもちゃんとした名前を考えられる自信はないので、テラ様につけていただいて良かったと思います。
『じゃあ、私の場合はどうなるの?テラ様は新しい身体と名前をいただけるって言われたけど、身体を調査されて、今の身体でも眷属になれるって言われたよ?』
ロカの名前が決まった経緯を聞いてエルがそう質問してきました。
私の名前に関しては調査の時にテラ様から聞いているし、私とロカの名前が決まる経緯が違うのでそんな疑問を持ったようです。
『エルは今の身体を使うなら名前はそのままで、新しく素体をもらう場合は新しい名前になるんじゃないかな?』
『新しい名前になる時はテラ様につけてもらえる?』
『それはテラ様に聞かないとわからないけど、テラ様の張り切り様を見てると、新しい素体は一月ほどで出来ると思うからその時にでも聞けばいいんじゃない?』
エルの名前に関してはロカが言うようにテラ様の気分次第な気がします。
テラ様は先ほどの調査の時に、新しい身体と名前を準備すると言われていましたが、テラ様が名前をつけられるとは言われていないからです。
『名前のことはこれぐらいにして、他に聞きたいことはない?』
私とエルが考え込んでいると、カレーを食べ終えたロカがそう切り出しました。
『今のところ特にないかな』
『じゃあ紹介も済んだし私は戻るとするよ。リーネ、後はよろしく』
エルの返事を聞いたロカはそう言うと先に食堂を出ていきました。
なんだかロカに振り回された感がありますが、ロカの名前のことも聞けたのでよしとしておきます。
それにしても、エルは聞きたいことは本当になかったのでしょうか?
「エル、本当によかったの?」
『うん?なんで?』
「だって、名前のことしか聞いてないじゃない」
『ロカは女神になるから私とはあまり会わないんでしょ?それなら気にしてもしょうがないし。それより、私の面倒を見てくれるリーネのことのほうが気になるかな』
エルは私の質問にそう答えました。
同じテラ様の眷属でも、近々女神になるロカとは距離を感じているのかもしれません。
それよりも私のことでなにが気になるのでしょう?
「私のなにが気になっているの?」
『私もよくわからないんだよ。まあ、わかったらちゃんと聞くから』
(もう、いったいなにが気になるのよ・・・)
エルの返答に、私はなにが気になるのかが気になってもやもやした気分なりました。