75.ディアとロイン1
私が裏部隊として活動するようになって3年が過ぎました。
私の部隊は3年が過ぎた今でも私1人しかいません。
その原因は単純で隠密活動をおこなえる戦乙女がいないのです。
当初はロカが隊員の選出をおこない、訓練して部隊として活動出来るようにする予定でしたが、訓練の段階でロカが納得出来るところまで技術を修得出来た戦乙女がいないのです。
私はこの3年間のほとんどを1人で活動していたため、最近は天界にいることも少ないのですが、今日は天界にいる必要がありました。
今日は年に1度のディアからの呼び出しがある日なのです。
この3年間は世界に大きな変化もなく、ディアが私を呼ぶ必要は無いのですが、年に1度のこの日は必ず呼ばれます。
それはお互いの近況報告という意味合いが強いのですが、かわいい妹分のディアと話をしてほっこり出来るので私もすくなからず楽しみにしているのです。
そうこうしているとディアから呼び出しがあったので私はディアのもとへ跳びました。
私が移動してきたところはいつもと同じラヴェルナ神殿の神託の間でした。
私を待っていたのはディアとロインの2人です。
『リーネお姉様、お久しぶりです』
『リーネ様、お久しぶりでございます』
〔ディア、ロイン、久しぶりね。元気にしてた?〕
私は挨拶をしてきた2人に念話でそう声をかけます。
私が修得していた接触念話はいつの間にか念話になっていて、指定した相手に念話を送ることが出来るようになっていたのです。
『はい、この1年は特に異常もなく私は元気に過ごせています』
『私もディアと共に活動していますが、危険なこともなく過ごせています。これも女神様やリーネ様のおかげです』
2人はそんなふうに笑顔で返事を返してくれました。
私は1年ぶりに2人の笑顔を見て安心します。
〔2人とも元気そうでなによりね。2人の活動は地道でたいへんだと思うけど、人々のために活動している2人を私達も見守っているわ〕
私がそうこたえるとディアとロインは深々と頭を下げてお礼を言います。
『リーネ様、ありがとうございます』
『ありがとうございます、リーネお姉様』
2人はそう言うとお互いの顔を見て視線でやり取りをしだします。
ディアはなぜか手を握ったり開いたりして、私とロインの顔をいったりきたり見てもじもじしています。
私はディアの様子がおかしいので、どうしたのか聞こうとして口を開きかけた時にディアが声をかけてきました。
『あの、今日はリーネお姉様に、大事なご報告がございます』
ディアはそう言うと、1度ロインの顔を見てから深呼吸をして再び話し出します。
『私、ディアンヌ・ランシールは、こちらのロイン様と結婚することになりました』
ディアはロインの腕を引きながら照れくさそうにそう言いました。
(めでたくゴールインしたのね)
私はディアの言葉を聞いてそんな感想が浮かびます。
私の見立てでは、魔王を倒した時からロインはディアのことが気になっていて、ディアのそばにいるために活動に協力したのだろうと思っていたので、驚きよりはやはりという気持ちになりました。
〔おめでとう、ディア、ロイン。私もそうなるかなと思っていたけど、無事に2人は結ばれることになったのね〕
私がそうこたえると、2人は驚いたようでロインが私に聞いてきます。
『リーネ様、それはいつぐらいから思われていたのですか?』
ロインにそう聞かれた私は、恥ずかしいだろうな~と思いつつ正直にこたえます。
〔魔王討伐が成功してロインがディアと共に活動すると言った時よ。ロインはあの時からディアのことを想っていたでしょう?〕
『えっ?えっ?』
私がそうこたえるとディアは慌てて取り乱し、ロインは驚いてぽか~んとした顔をしました。
『えっ?リーネ様はその時から気づかれていたのですか?』
〔確信はありませんでしたが、おそらくはそうであろうと思っていました〕
私の言葉を聞いたロインは照れくさそうに言います。
『誰にも気づかれていないと思っていたのに、まさかリーネ様に気づかれていたとは。リーネ様は戦乙女様ですが恋愛にも関心をもたれているのですか?』
〔いえ、特別に恋愛に関心を持っているわけではありませんが、ロインの雰囲気でそうであろうと思ったのです〕
ロインの質問にたいして、私はそうとしかこたえられませんでした。
明確な理由があってそう思ったわけではなく、ロインがまとっている雰囲気でそう感じただけだったのです。
私がそうこたえると微妙な雰囲気になり、3人とも口を開くタイミングを探っているような状況になりましたが、そこでディアが意を決したように言います。
『あの、それでですね、私達は結婚式を一月後におこなうのですが、その時にリーネお姉様に祝福に来ていただけないかと思っているのですが・・・』
ディアはそう言って私に結婚式に祝福しに来て欲しいと言いました。
私個人としてはディアの結婚式で祝福するのはいいのですが、戦乙女の私が結婚式で祝福するのはどうかと思ってしまいます。
〔私個人としては祝福してもいいと思っていますが、こればかりは女神様に確認をとらないと返事をすることが出来ません〕
私がそうこたえるとディアは残念そうに顔をふせて言います。
『そうですよね、恋愛に関する女神様がおられないとはいえ、戦乙女様のリーネお姉様にお願いするのは難しいですよね』
恋愛に関する女神様はおられないので、広域的な意味で慈愛の女神リーア様の祝福をいただくのが一般的なんだろうと思うと、私が祝福するのは場違いに思えてしまいます。
ディアは私から祝福をもらいたいようですが、普段からリーア様の神託を授かっていることを考えるとリーア様から祝福をいただくほうがいいように思えるのです。
私がそんなふうに考えているとロインからもお願いされます。
『私はこれまで特別女神様を信仰していたわけではありませんが、魔王討伐の際にリーネ様とお会いしてディアと同じようにリーネ様を信仰しておりますので、是非とも祝福をいただきたく思っております』
(ちょっと!なんで女神様じゃなくて私を信仰してるのよ!私はただの戦乙女なのよ、意味がわからないわ)
私はロインの言葉を聞いて取り乱しそうになります。
ロイン言い方だとロインだけでなくディアも私のことを信仰しているってことになるのです。
というか、女神様を差し置いて戦乙女の私が信仰される意味がわかりませんでした。
〔さきほどディアにも伝えましたが、私の一存では返事が出来ませんので女神様に確認を取る必要があります。しかし、私は戦乙女ですので祝福することは出来ない可能性が高いと思っていてください〕
2人に変な期待を持たせるわけにもいかないので私が祝福することは難しいと伝えました。
私の返事を聞いて2人とも残念そうにしていますが、こればかりはどうしようもありません。
私は重い空気を一掃すべく話題を変えて質問します。
〔ところで、祐也達はどうしてる?〕
私が話題を変えて質問するとロインも気持ちを切り替えたようで、いつもどうり返事をしてくれます。
『ユーヤ様とルイナさんは今も魔物を討伐する旅を続けておられます。3ヶ月前にテラリベルに来られた時もユーヤ様はあまり雰囲気はお変わりありませんでした。ガーランドは冒険者を引退してテルヴィラに家庭を持ったと聞いております』
私はロインの言葉を聞いて意外に思いました。
ガーランドが家庭を持ったと言われても想像が出来ないのです。
私はガーランドのことを脳筋バカというイメージしか持っていなかったので、女性と結婚して家庭を持つなんて想像は出来ませんでした。
〔ガーランドが家庭を持つなんて意外だわ〕
私がそう言うとロインはガーランドの情報を話してくれます。
『なんでもペアを組んでいた女性冒険者との間に子供が出来たそうで、責任を取らされたと聞いております。2人とも子供が出来たことで冒険者を引退されたそうです』
(あ~デキ婚か~子供が出来たら冒険者を続けるのは難しいわね)
ロインの説明を聞いて納得してしまいました。
それにしても祐也はまだ魔物を討伐する旅を続けていることを聞いてなんともいえない気分になります。
〔ディアとロインの結婚式は一月後と言っていたけど祐也達には声をかけたの?〕
『ガーランドには声をかけましたが子供が産まれる直前になるので出席は難しいそうです。私達の結婚が決まったのは一月前ですのでユーヤ様とルイナさんには報告出来ていません』
そんな理由ならガーランドが出席出来ないのは理解出来るし、祐也とルイナにしても連絡をつけるのが難しいので出席は望み薄だろう。
魔王討伐メンバーの3人が出席出来ないのはディアやロインとしても寂しいだろうし、私は祝福することが出来なくても出席だけはしてあげようと思いました。
〔そう、3人が出席出来ないと寂しいわね。私は2人のために祝福出来なくても出席はさせてもらうから安心して〕
私がそう言うと2人はあらためてお礼を言ってきます。
『ありがとうございます、リーネお姉様』
『お気遣いありがとうございます、リーネ様』
その後、私は2人からテラリベル周辺の話を聞いたりします。
ラヴェルナ神殿の大司教だったクライブは金銭を不正に得ていたことが発覚して破門となり、代わりに司教だったヒラリーが大司教となりラヴェルナ神殿を運営していくことになったそうです。
クライブの不正はヒラリーが積極的に調査して発覚したそうで、後任にヒラリーがつくのは自然な流れだったそうです。
ヒラリーには何度か会ったことがあるが、クライブのような俗物ではなく信仰もしっかりしているので、安心してラヴェルナ神殿を任せられると思いました。
そんなこんなで2人と近況報告をした私は天界に戻ることにします。
〔では、祝福の件は女神様に確認しますがあまり期待しないで待っていてください〕
『『よろしくお願いします』』
私が声かけると2人は声を揃えてそう言いました。