59.魔王
『さてと、勇者を倒せばこの世界に嫌がらせが出来るってことで、僕のためにも勇者には死んでもらうよ』
魔王はそう言って祐也と対峙します。
魔王の周りには4体の上位種がガーランド達を牽制しています。
どうやら魔王は祐也と私達を引き離すつもりのようでした。
状況的にはこちらが当初予定していた状況ではあるが、上位種の数が予想よりも多く、ガーランド達は苦戦を強いられていました。
ここで、祐也達にプロテクションをかけ終わったディアが聖域を発動します。
『おっ、聖女の魔法か、意外と効くな。まあ、それだけだがな』
魔王ことあるごとに感想なんかを口にします。
私はオーガを倒しながら、魔王の行動にイラつきます。
(意味無くベラベラしゃべるな!)
この魔王は口が軽いのか、やたらと思ったことを口にするのでやりづらくてしかたがありません。
そのわりに、私がたまに隙を見て撃つ矢をしっかりと防いでいるところがよけいに私をイラつかせます。
(本当になんなのこいつ!)
私がそんなことを思っていると、魔王は1人でしゃべるのに飽きたのか、こんどは祐也に話しかけました。
『それにしても、勇者君もたいへんだね~突然召喚されて魔王を倒してくれってお願いされたんだろ?』
魔王が祐也にそう話しかけても祐也は返事をしません。
当然です、そんなことに気を取られて返事をするなんてことはバカのすることだからです。
そんな祐也のことは気にもとめないように魔王は続けます。
『あっ、別に返事をしてくれなくてもいいよ。どこの世界でも勇者ってのはそんなものらしいからね』
『ほんとに災難だよね~勇者って。まあ、僕も人のことは言えないけどね。だって異世界に送り込まれて世界を壊してこいなんて言われるんだからね』
私は魔王が話すことを聞いて焦ります。
魔王がこの世界の人々が知らない世界の真実をペラペラと話すからです。
(相手のことを考えずに一方的にしゃべっているから、アイツのことを思い出しちゃったじゃない!)
私は魔王のせいで新界で会ったあの男性のことを思い出してげんなりします。
しかし私はあの男性のことを思い出して、魔王がやたらとしゃべることに気を取られていたことに気づきます。
私は気持ちを切り替えて今の状況を確認します。
もしかすると魔王がやたらとしゃべるのは、なにか裏があるのではないかと思ったのです。
そう考えて状況を確認するとオーガは数がいるわりに散発的にしか攻撃をしてきていません。
ガーランド達と対峙していた上位種は1体倒されて3体に減っていますが、積極的に攻撃をしているかといわれると疑問が残ります。
そして魔王と祐也はほぼ互角、いえ、やや祐也が優勢のように感じました。
しかし、魔王は焦るそぶりもなく相変わらずしゃべっっています。
(もしかして時間稼ぎをしているの?)
私は魔王の行動が時間稼ぎの一環ではないかと思えたのです。
そう思った私はガーランド達が対峙している上位種の1体に切りかかります。
『ちっ』
すると魔王は一度舌打ちをして、咆哮を上げました。
その咆哮を聞いたオーガは一斉に私のほうへとやってきます。
『そちらのお嬢さんはずいぶん気が短いようですね』
魔王はなにくわぬ顔でそう言いますが、私は魔王の行動で確信しました。
魔王はどういう理由かはわかりませんがあきらかに時間稼ぎをしています。
そして、時間稼ぎをしているのは祐也を確実に殺すための手段があるからではないかと思慮します。
私は迫り来るオーガを切り倒しながら考えます。
(このままだと魔王の思うつぼになってしまいそう。なにか手を打たないと・・・)
このまま魔王の思惑どおりに時間稼ぎをされるのはマズいと考えて、私が直接魔王に攻撃することにしました。
私はまず、迫り来るオーガを早く処理するためにストーンブレットで攻撃します。
私のストーンブレットは前世の知識を使って発動するため、人々には見せないようにしていましたが今はそれどころではありません。
片手で5発ずつ、両手で10発のストーンブレットを同時に発動していきオーガを殲滅していきます。
『冗談だったのにマジで気が短いなんて、そんなことをされると僕も困るんだよ』
魔王はそう言って私に向けて魔法で攻撃してきました。
私はその魔法を剣の魔力剣身で弾きます。
そんな私を見て魔王は声上げました。
『マジで!ちょっと、勇者より強くない?』
魔王はそんなことを口ばしっていますが私は無視して戦乙女の槍を魔王に向けて発動します。
「槍よ!」
私が放った戦乙女の槍は確実に魔王に命中しましたが、魔王はまだ健在です。
しかしダメージを与えたことには間違いないみたいで、魔王はここにきて焦りの表情を浮かべていました。
そこへ祐也が狙い澄ましたように魔王に攻撃を仕掛けます。
祐也の攻撃は威力は私に劣りますが2本の剣を自在に振り回して攻撃するため、一度劣勢になると立て直しがたいへん難しく魔王は苦戦を強いられていました。
祐也が優位に魔王と対峙しているこの状況で、下手に手を出すと祐也にも危険がおよぶ可能性があるので、私は祐也を見守りつつガーランド達を援護します。
ガーランドとロインは多少攻撃を受けているみたいで、所々から血が見られました。
私は2人にヒールをかけて様子を見ることにします。
2人が対峙している上位種はすでに2体になっていて、ガーランドは正面からぶつかり合い、ロインは撹乱して隙をついていました。
(この様子だと2人とも大丈夫そうね)
2人のことは大丈夫と判断した私は次にディアの様子を見ます。
ディアは今現在も聖域を発動して維持しているので少しつらそうでした。
(もう少しだから頑張って)
私は心の中でディアの応援をして戦況を見守ります。
因みにルイナはいつでも祐也の援護が出来るように祐也の戦況を見守っていました。
そんな感じで戦況も大きく動くこともなく、魔王討伐は時間の問題かと思っていた時、私は違和感を感じました。
祐也の後方、2mぐらいのところで空間が揺らいでいる気がしたのです。
そしてその揺らぎは徐々に大きくなっているように感じました。
しかし、この異変に気づいているのは私だけのようでした。
それも当然で、空間の揺らぎは空間跳躍を経験していないと判断がつくようなものではないのです。
私は嫌な予感がしてすぐさま祐也の後ろにテレポートで移動します。
するとその直後に空間が裂けてなにかが出てくる気配がありました。
私は直感的に理解しました。
これが魔王の切り札であること、そして、ここから出てくるものはとてつもなく危険であるということをです。
そして、私は空間の裂け目に向けて全魔力を使いきるつもりでマイクロウェーブを発動させます。
それは単純な理由で、空間の裂け目にいるであろう敵に物理的な攻撃が効くとは思えなかったからです。
私が空間の裂け目に向けてマイクロウェーブを放っていると、空間の裂け目からなにかが放たれたのを感じます。
しかし、私の後ろには祐也がいます。
私がこの攻撃を回避すると祐也がこの攻撃に晒されてしまいます。
だから、私はこの攻撃を受け止めました。
その直後私は全身に激しい衝撃を受け黒いなにかに包まれて、そして意識を失いました。