54.心の病
翌朝、私はいつもより少し早く起き、朝食を取りに食堂に向かいます。
私が食堂に着くと入り口でロカが私を待ち構えていました。
『おはよう、リーネ。もう大丈夫なの?』
ロカは普段どおりの表情でそう声をかけてきました。
「おはよう、ロカ。まだ大丈夫とは言えないけど、これ以上ロカやテラ様に心配はかけれないわ」
私がそう答えると、ロカは意外そうな顔して言います。
『いつ気がついたの?』
「昨日、ディアに呼ばれた時に聞いたの。テラ様の神託があったって。普段はリーア様の神託を受けているディアにテラ様の神託があったらおかしいと思うわよ」
『そうね、確かにテラ様も心配されていたよ』
「だからロカやテラ様に心配をかけないように頑張るわ」
私がそう言うとロカは心配そうな表情を浮かべ、そして、あらためて私を見て話します。
『リーネ、今から大事な話をするから、しっかり聞いて理解して』
ロカは真剣な表情でそう言いました。
私はいつになく真剣なロカの表情を見て少しとまどいます。
これまでの半年間はロカと一緒に行動することが多く、ロカとはいろいろな話をしたことがあるけど、これほど真剣な表情のロカは見た覚えがありません。
『リーネ、今のあなたは心の病を患っているわ。そして心と魂は密接に関係しているの。心に大きなダメージを受けるってことは魂にダメージを受けるってことなのよ』
私はロカから聞く初めての話に驚愕します。
今の私が心に病を抱えていることは自分でも自覚出来ていました。
しかし、心の病が魂にまで影響すると言われて言葉にならないほどに驚いたのです。
そんな私をよそにロカは言葉を続けます。
『今のリーネの状態ならまだ大丈夫よ。だけどこれ以上心の病が悪化してしまうと魂にまで影響してしまう可能性があるの。だから、私やテラ様はあなたのことを心配しているのよ』
私はロカの話を聞いて祐也のことが気になりました。
心の病なら祐也のほうがよほど心にダメージを受けているのではないかと思ったのです。
「祐也、祐也は大丈夫なの?」
『祐也さんは勇者として召喚されるほど強い魂の持ち主なの。だから祐也さんよりもリーネのほうがよほど危険なのよ』
ロカの話では、祐也は強い魂を持っているから大丈夫ってことだけど、魂が大丈夫なだけで心にダメージを受けないわけではないように聞こえます。
そもそも、心にダメージを受けて魂にまで影響が及んだ時にどうなるのかもわかりません。
「私がこれ以上に心にダメージを受けて魂にまで影響が及んだらいったいどうなるの?」
私はこの話の核心とも言えることを聞かずにはいられませんでした。
私がそう聞くとロカは今までに見たことが無い複雑な表情をしながらも答えてくれます。
『良くて感情や身体能力の欠如、最悪の場合、心が崩壊して魂の消滅もありえるのよ』
私はロカの話を聞いて前世のことを思い出します。
感情の欠如は地球の心理学でも聞く言葉であり、身体能力の欠如もトラウマで身体が動かなくなることだろうという想像が出来たのです。
そう考えると、けっしてありえない話ではないと理解出来ました。
しかし、理解は出来ても納得出来るかと言われれば話は変わってきます。
祐也は強い魂を持っているから大丈夫みたいなことを言われたけど、心には私以上にダメージを受けているはずなのです。
魂に影響がなくても心が苦しいことには違いないはずなのです。
今の私には祐也にしてあげれることはたかがしれているけど、それでも祐也のそばにいていたい。
「それでも、私は祐也のために使命を全うするわ」
私がそう言うと、ロカはあきらめたようにため息をついて言いました。
『はぁ、今のリーネならそう言うんじゃないかと思ってたけど、本当に言うなんて』
ロカはそう言うとストレージから袋を取り出して私に差し出してきます。
「これは?」
『日本のお米よ。たいした量は準備出来なかったけど、これなら祐也さんも喜んでくれるでしょ?』
私は驚きました。
ロカがお米を、それも日本米を用意してくれるなんて思っていませんでした。
しかし、日本米を祐也に出すのはためらわれます。
私のことが祐也にばれる可能性があるからです。
私がそんなことを考えていると、ロカが私の考えを知っているかのように言葉を続けます。
『地球からの転生者を受け入れる準備の一環で日本のお米を試験導入するから、日本人の祐也さんにお米や料理について意見をもらいたいのよ』
ロカは私が祐也に日本食を出しても問題にならないような建て前を言ってくれたのです。
「ありがとう、ロカ」
私はロカに心からお礼を言いました。
『じゃあ、さっさと食事にしよう。今日も現世に呼ばれるんだから食事はしっかり取っておかないとね』
ロカはそう言ってさっさと食堂に入っていきます。
私も気持ちを切り替えて食事を取るために食堂に入っていきました。
それから私達は朝食を取り終え、食堂で話をしているとディアからの呼びかけがありました。
「ロカ、ディアが呼んでいるから行ってくるわ」
『ええ、でも、無理はしないで』
「わかってる」
私はロカにそう言うとディアのもとへと跳びました。