51.きっかけ
自室に閉じこもっていた私はディアからの呼び出しに気がつきました。
あれからどれぐらい経ったのか見当もつかないけど、ロカとの約束を守るため私はディアの召喚に応じて現世へと跳びました。
* * * * *
私がディアのもとへと移動してくると祐也達はオーガとの戦闘中でした。
しかし、オーガはおよそ10体ほどで私が見た様子だと苦労しているどころか楽勝という雰囲気です。
〔遅くなってごめん〕
『いいえ、大丈夫です』
私がそう言うとディアは嬉しそうにこたえてくれました。
私はとりあえず援護するために戦乙女の弓を取り出して、祐也達の邪魔になりそうなオーガを射抜いていきます。
すると、対峙していたオーガを倒して獲物がいなくなったガーランドがぼやきました。
『こんなにあっさり倒されると俺達の仕事が無くなるぞ』
『楽でいいじゃない、私は歓迎だわ』
ガーランドがあきれるようにぼやいたのを聞いたルイナがたのしそうに言葉を返しますが、私は2人のやり取りの意味がわからずディアに聞きます。
〔ディア、どういうこと?〕
私がディアにそう聞くとディアは少し興奮したように説明してくれます。
『今朝方、チームとして連携が出来るようにリーネお姉様に戦闘に参加していただくようにとテラ様からのご神託がございました。ですから私達だけで対処出来たのですがお呼びいたしました』
ディアの言葉を聞いて私は驚きました。
私が祐也のそばにいられるようにテラ様が神託をくだされたようにしか思えなかったのです。
〔ところでディア、なぜそんなに興奮しているの?〕
『創造の女神様、テラ様のご神託ですよ!私も初めてでしたので凄く興奮しています!』
私がディアに興奮している理由を聞くとそんな返事が返ってきました。
(あぁ、これって完全に私のせいだわ)
私は自分の想像したことが正しいのか確認するためにディアに聞きます。
〔ディアはどの女神様から神託をいただいたことがあるの?〕
『慈愛の女神リーア様からご神託をいただくことがございます』
ディアの言葉で私は確信しました。
テラ様が私にために神託をくだされたと。
そうでなければリーア様から神託をいただいているディアにテラ様が神託をくだされることは無いはずなのです。
(私ってロカだけじゃなくテラ様にまで心配されてるんだ・・・こんなんじゃダメよね)
私がそんなことを考えているとディアが私の顔を見て聞いてきます。
『リーネお姉様、どうかなされましたか?』
〔いいえ、なんでもないわ〕
私はディアにそうこたえ気持ちを切り替えることにしました。
まだ祐也と向き合うのは怖いけど、いつまでもロカやテラ様に心配をかけるわけにはいきません。
そう思ってあらためて祐也のこと見ると、オーガを倒した祐也は2本の剣を両手に持ったまま警戒している様子です。
その姿を見て私は自分の知っている祐也を見つけました。
祐也はもともと左利きで右構えの剣道を習っているうちにスランプになったことがあり、そのスランプを打破したのが二刀流でした。
私は剣を両手に持ち警戒している祐也が剣道をしていたころの祐也と重なって見えました。
(私の知らなかったところばかりが目につくけど、祐也は祐也なんだ・・・)
そう思うと少しだけ前向きになれる気がします。
今の祐也を見ていれば、前世の私が知らなかった祐也を知ることが出来ると考えることにしたのです。
私がそんなことを考えているとロインが疑問を口にします。
『それにしても、こんなところでオーガの襲撃に遭うとは、少々おかしいですね』
私はロインの言葉を聞いて周りを見渡します。
ここがどの辺りかはわからないけれど、それなりに整備された街道でロインが言うようにそうそうオーガなどが出てくるようなところではありませんでした。
〔今はどの辺りなの?〕
『2日前にスタックを出ていますのでソドン村まで3日っといったところだと思います』
私がディアに現在地を聞くとそうこたえてくれました。
(あれから7日も経ってるなんて・・・)
確か前回呼ばれた時にルイナがソドン村まで9日かかるから1日遅くなるがスタックを経由して欲しいと言っていたので、ソドン村までは10日の予定だったはずなのです。
(7日間もヘコんでたらテラ様も心配されるわ)
私は自分のメンタルの弱さにあきれてしまいます。
そんな中、ルイナが不吉なことを口にします。
『魔王が再び行動をし始めたんじゃ?』
『その可能性はあります』
『マジかーめんどくせぇことになったな』
ルイナの言葉を聞いてガーランドとロインが反応しました。
『私はひとまず予定どおりにソドン村に向かうことを提案しますが、みなさんはどう思われますか?』
『どちらにしても魔王の動向がわからないと動きようがないから予定どおりでいいと思うわ』
ルイナがそう言うと祐也達も頷き同意します。
(前の時も思ったけどロインとルイナしか考えてないんじゃないの?)
ガーランドはいかにも脳筋って感じだからしょうがないとしても、ディアも意見を言わないのが意外でした。
〔ディアは意見を言わないの?〕
『私は魔物のことはあまりわかりませんので、みなさんにおまかせしています』
(そうか、ディアは祐也に同行してはいるけど戦闘にはほとんど参加していないのか)
勇者に同行しているから、ディアもそれなりに戦闘スキルは持っていると思っていたけどそうではないみたいです。
私は少し気になりディアにステータスを見せてくれるように頼みます。
〔ディア、ステータスを見てもいい?〕
『わ、私のですか?・・・はい、リーネお姉様になら見せても恥ずかしくはありません』
(ステータスを見られるのって恥ずかしいことなの?)
〔ありがとう、じゃあ、見るわね〕
私はディアの返事に少し疑問を持ちながらも、了承してくれたことに感謝の言葉を口にしてからディアのステータスを確認します。
名前:ディアンヌ・ランシール
年齢:16歳
種族:人族
加護:ー
スキル:
戦闘スキル/護身術3・剣術1・槍術2
一般スキル/一般教養6・多言語2・薬学4・調合3・医学2・心理学1・話術1・魔物学2
魔法:
生活魔法/造水・クリーン・乾燥
属性魔法・光1/フラッシュ
神聖魔法8/ヒール・キュア・プロテクション・浄化・ヒーリング・リジェネレーション・聖光・聖域
称号:聖女
私はディアのステータスを見て自分との違いに驚きました。
ディアのスキル数が私よりも圧倒的に少なかったからです。
おそらくディアぐらいのスキル数が一般的なんだろうと思い正直にディアに感想を言います。
〔戦闘スキルはたしなむ程度だし攻撃的な魔法も使えないから直接戦闘に参加するのは難しいわね〕
『はい、これまではサポートという形でしか戦闘には参加していません』
私が思ったとおり、ディアは自分の出来ることを理解していて戦闘にはほとんど参加していないようでした。
『今まではあまり戦闘に貢献出来ていませんでしたが、リーネお姉様のおかげで私も少しは戦闘に貢献出来ると思います』
嬉しそうにそう言ったディアの表情を見て私も嬉しくなります。
人に頼られることがこんなに嬉しいことだとは知りませんでした。
〔まかせて。少しと言わず、おおいに貢献させてあげるわよ〕
『ありがとうございます!リーネお姉様!』
私がそう言うとディアは笑顔で返事をしました。
(それにしても、ディアで一般的なスキル数だとすると、召喚された祐也はどれだけスキルを持っているのかしら?)
そう思うと祐也のステータスが気になり出しました。
コッソリ鑑定しようかと一瞬思いましたが、カティア様の加護があることを思い出し自粛します。
(いくら戦乙女でも女神様の加護持ちを無許可で鑑定するわけにはいかないか)
私がそんなことを思っていると、勇者パーティーは予定どおりソドン村に向かうようで、私はどうすべきか迷います。
魔王が行動し出していた場合、今後は魔物と遭遇する確率が高まるからです。
〔ディア、もし魔王が行動しているなら、まだ魔物の襲撃はあるかもしれないわね?〕
『はい、私もそう思っています』
〔ディア、ロインに意見を聞いてみてくれない?〕
私はディアにそう提案してロインの意見を聞くことにしました。
私の言葉を聞いてディアがロインに説明します。
『私としてはしばらくご一緒に行動していただけたらと思っております』
ロインの返事を聞いて私は天界には戻らずに勇者パーティーに同行することにします。
〔ロインもそう言っているからしばらくは同行するわ〕
『はい、リーネお姉様!』
私が同行することを伝えるとディアは満面の笑みで返事をしました。