45.真価の片鱗
私が一人前の戦乙女となって魔物を討伐する日々を送っていたある日、ロカに呼びだされました。
『リーネ、急に呼び出してごめん』
「いいえ、ロカの呼び出しだから私に関係があることなんでしょ?」
『そうよ、勇者に同行している聖女がおそらく次の試行で戦乙女召喚を成功させるのよ』
私はロカの言葉を聞いて身が引き締まる思いがしました。
「いよいよ召喚されるってことね」
『ええ、だから今日からはしばらく天界で待機していてもらうから』
天界で待機と言われて少し気がそがれた私はロカに質問します。
「しばらく待機か~天界ではなにをしていればいいの?」
『召喚に応じられればいいから天界にいればなにをしていてもいいよ』
「あ、なにをしていてもいいのね。そう言われてもしたいことがあるわけじゃないからちょっと困るけど・・・」
なんとなく待機中のことを聞くと、なにをしていてもいいと言われて悩みました。
戦乙女として召喚されることを考えると今はやりたいことが思いつきません。
『そういえばリーネって料理スキル持ってなかった?』
「持ってるけど訓練がたいへんだったからほとんど料理なんてしてないのよね」
『じゃあ、ひさしぶりに料理でもしてみたら?』
ロカの提案に私は少し考えます。
確かにしばらく料理はしていないので何かを作ってみたいとは思うが、私が得意な料理は和食だから調味料がぜんぜん足りません。
味噌やみりんは無くてもなんとか出来そうだけど、醤油が無いとどうすることも出来ません。
「う~ん、料理か~でもそんなに手の込んだ物は作れないわね」
私がそう言うとロカは不思議そうな顔をして疑問を口にします。
『どうして?』
「地球よりも調味料が少ないから簡単な物しか作れないと思うのよ」
『そんなに地球より調味料って少ないの?』
「そうね、醤油はもちろん、お酢やみりんも無いでしょ?私は和食が得意だったから、ちゃんと料理をしようと思ったら調味料がぜんぜん足りないわ」
『じゃあ、テラ様にお願いすれば?』
私の言葉を聞いてロカはそう言いますが、私は料理をするためにテラ様にお願いするなんて考えたこともありませんでした。
それに、ロカが立て続けに質問してくるなんてこともなかったので、私はおかしくて笑いながらこたえます。
「ふふ、さすがに料理をしたいから調味料を増やしてなんてテラ様には言えないわよ」
私がそう言うと、ロカはムッとしながら言います。
『なんで笑ってるのよ?』
「ううん、今のやり取りって前と立場が逆だなって思ったの。前は私が質問ばかりしてロカが答えてくれてたでしょ?」
『しょうがないじゃない、私は料理なんて出来ないから調味料のことなんてわからないのよ』
「私がロカに教えれることがあるなんて思ったら、やっとロカと対等な立場になれたかなって思うわ」
あらためて考えると、ロカは親友とは言っても私が一方的に教えてもらっていることがほとんどでした。
そんな私がロカに教えることが出来たと思うと少しはロカに近づけたかなと思ったのです。
私がそう言ったのを聞いてロカは穏やかな笑みを浮かべて言葉を返してくれます。
『バカね、私達に上も下もないでしょ?そんなこと気にしなくていいのよ』
「ふふ、ありがとう、ロカ」
ロカの言葉を聞いた私は嬉しくなり感謝の言葉を口にしました。
『それにしても、料理がダメならなにが出来るかな?リーネ、ちょっとステータスを見てもいい?』
「ステータスを?」
『ええ、せっかく時間があるんだから、なにか使えそうなスキルを覚えるのもありでしょ?』
私はステータスのことを言われて気がつきました。
実地訓練をするようになってからは、ほとんどステータスを確認した覚えがありません。
「そういえば私も長いことステータスの確認はしてなかったわ」
『じゃあ、ちょっと見るよ?』
「ええ」
私はロカにステータスを見せるために隠蔽スキルを無効にしてからステータスを確認します。
名前:クエフリーネ
年齢:18歳〈不老〉
種族:ダークエルフ〈創造の女神テラの眷属〉
加護:ー
スキル:
戦闘スキル/格闘術5・剣術6・槍術5・弓術7・盾術5・索敵6・隠密5
一般スキル/鑑定10・多言語5・料理5・薬学6・調合6・医学1・一般教養5・解体5・追跡7・魔物学6・隠蔽10・偽装5・錬金術3
永続スキル/暗視・精霊眼・空間認識
眷属スキル/ストレージ・テレポート・戦乙女の槍・微小回復・微小再生・並列思考
魔法:
生活魔法/種火・造水・クリーン・ライト・乾燥
属性魔法・火3/ファイアアロー・ファイアボール
・水9/ウォーターボール・アイスアロー・ウォーターウォール・レイン
・風7/ウインドカッター・エアウォール・トルネード
・土5/ストーンブレット・アースウォール・ピット・アースニードル・ショットガン
・光5/フラッシュ・ライトニング
神聖魔法7/ヒール・キュア・浄化・聖光
時空魔法5/時空庫・スクワッシュ・換装・空間跳躍
複合魔法9/光属性魔法×時空魔法/マイクロウェーブ
称号:愛を求めし者・孤高の戦乙女
『うん、格闘術や剣術は初めよりも上がってるね』
「散々ロカにしごかれたんだから上がってないわけないじゃない」
ロカの感想に私は少しあきれながらこたえました。
『それに薬学や調合はもうそれなりの薬師と言えるぐらいに上がってるよね』
「もともと好きだったから薬学の勉強や調合はたのしいのよ」
『錬金術はもう少しかな?』
私は錬金術と言われて自然と眉間にしわが寄ります。
「錬金術は難しいわ。普通の薬は薬草の調合に多少ムラがあっても薬の効果はちゃんと出るんだけどポーションは薬草の調合がちゃんとしていないと効果が出ないのよ」
『そんなに難しいの?』
「調合のムラもだけど分量がちゃんとしていないと効果が出ないのよ。ない物ねだりだけど1gから量れる道具が欲しいわ」
無いのはわかっているがそれでも地球にあるようなハカリが欲しいと思いました。
ハカリがあれば調合だけでなく料理にも使えるからです。
『へぇ~そんなに難しいなら錬金術師が少ないのもなっとく出来るよ』
「だからもうほとんどカンなのよね、錬金術は経験が物を言うって感じだわ」
『それじゃあ、そうそう錬金術は上げれないか』
「そうね、根気よくやるしかないんじゃない?」
『リーネはよく錬金術を覚える気になったよね』
「ロカが私に勧めたから錬金術を覚えることにしたんじゃない」
『私も錬金術がそんなに難しいなんて知らなかったのよ。私ならきっとすぐにやめてるよ』
私に錬金術を進めたロカの言い分に少しあきれながらこたえます。
「もう、ロカってそういうところあるよね」
『じゃあ、他になにか・・・あれ?』
私のステータスを見ていたロカがおかしな反応をしました。
「どうしたの?」
『リーネ、テラ様になにかされた?』
「なにかってなによ?」
『能力を上乗せさせるとか言われてない?』
「いいえ?テラ様からは特に言われてないわ」
『じゃあ、自力で覚えたのか』
私はロカの質問の意図がわからずに疑問を返します。
「ロカ?なんのことなの?」
『リーネが並列思考を覚えているのよ。私でも覚えたのは最近なのに』
「えっ?うそでしょ?」
『本当よ、眷属スキルにあるでしょ?』
驚いた私はロカにそう言われてステータスをよく確認します。
すると、ロカの言うとおり眷属スキルに並列思考がありました。
「えっ?でも並列思考って女神様達が使われるスキルで私達は使えないんじゃないの?」
『私達はテラ様の眷属だから覚えることが出来るのよ。私も女神になるために必要だから最近覚えたのよ』
「うそ・・・」
『本当よ。はぁ、テラ様の思惑通りって感じがするよ』
ロカが神妙な面持ちでそんな言葉を口にしました。
私はロカの言葉が気になり質問します。
「テラ様の思惑通りってどういうこと?」
『テラ様は最終的にはリーネにも女神になってもらうつもりなんじゃないかってことよ』
「テラ様が私を女神に・・・でも以前は考えていないって言われていたわ」
以前テラ様は、私のことはイレギュラーだったから女神になってもらうつもりは無いと言われていたはずです。
『今はって言われていたのよ。だからリーネが女神になれるように誘導してるんじゃないかって思ったのよ』
「本当に?」
『本当のところはテラ様に聞いてみないとわからないよ』
「じゃあ、テラ様に聞いたらわかるのね?」
『たぶん、聞いてもうまくはぐらかされるだけだと思うよ』
私はモヤモヤする気持ちをロカにぶつけるように聞きます。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
『今は気にしないことね。テラ様がリーネに女神になってもらうつもりでも実際にそんな話をされるのは数百年は先のことになると思うよ』
「今は気にしないって言われても気になるわよ」
『並列思考が出来るなら問題ないよ』
「そういう問題じゃないでしょ」
私はロカにツッコミながらもモヤモヤした気持ちを棚上げするような感覚になりました。
『とにかく前向きに考えればいいのよ。並列思考が出来れば戦乙女の鎧をつけてなくてもいろんなことが出来るようになるのよ』
「いろんなことって?」
『剣を振りながら魔法を使うとか、違う魔法を同時に使うとか出来るはずよ』
「違う魔法を同時にか、ちょっと気になるわね」
私がそう言いつつ両手を見ていると私の様子を見ていたロカが言いました。
『ここで試しちゃダメよ。やるんなら訓練場でしてよ?』
「わかってるわよ。信用ないな~」
『リーネが気になるとすぐに試すからよ。以前もその辺で試したことがあったでしょ?』
「そんなことあった?」
『ほん気で忘れてるのか、ごまかしてるのかどっちよ?』
「さあ?どっちかしら?」
『ごまかしてるだけじゃない』
「ロカだってするでしょ?」
『私のは場を和ませてるのよ』
「表情でバレバレだものね♪」
『リーネは本当に私にたいして遠慮がなくなってるよ』
ロカは笑顔でそう言います。
「そういうことって嬉しそうに言うことじゃないと思うわ」
私も笑顔でそうこたえました。
『ふふ、それじゃあ、訓練場にいく?』
「ええ」
そんなこんなで私達は訓練場に向かいます。
私達がくだらない話をしながら訓練場に向かっているとテラ様から念話が届きました。
〔ロカ、リーネ、聖女が戦乙女召喚を試行しますのでゲートに向かってください〕
『本当ですか?昨日、おこなったばかりですよ?』
〔ラヴェルナの神殿に協力を求めたようです〕
ラヴェルナ神殿と聞きて私は即座に理解しました。
ラヴェルナ神殿は戦乙女召喚をおこなわれた前例があり、女神様と繋がりが深いとされるところだったからです。
「ラヴェルナの神殿か、儀式は神託の間でおこなわれるのですね」
〔そうです。では、ロカ、リーネ、よろしくお願いしますね〕
テラ様はそう言われて念話が終わりました。
私達は急ぎ天界のゲートに向かいます。
「ロカ、そんなに魔王がヤバいことになってるの?」
ゲートに向かう途中、私は真剣な面持ちでロカに聞きますがロカは少々困惑気味です。
『ここのところ魔王はあまり行動していないよ。だから魔王の脅威は以前とは変わっていないはずなのよ』
私はロカから意外な返答が返ってきて疑問を返します。
「えっ?じゃあ、どうして聖女はそんなに急いで戦乙女召喚をおこなっているの?」
『それは召喚されてみればわかるから』
ロカは苦笑いしながらそうこたえました。
私達がゲートに到着するとゲートはうっすらと青白い光を放っていました。
『じゃあ、リーネ、あらためて確認しておくよ』
私は静かに頷きます。
『基本的に神界や天界のことは話してはダメよ。もちろん戦乙女の活動内容もだからね。リーネのことは転生者だってことは絶対に知られてはダメ。それ以外のことはリーネの裁量に任すよ』
「ええ、わかったわ」
『じゃあ、準備して』
私は頷き戦乙女の装備を身につけます。
そうこうしているとゲートの青白い光は次第に召喚陣を形成していき、しばらくすると完全な召喚陣が出来上がりました。
「じゃあ、行ってくるわ」
『ええ、お願いね』
私はそう言うと召喚陣に足を踏み入れました。