41.イニティニーニ様とテラ様の眷属
翌日から私達はゴブリンやオークの巣を襲撃していきます。
基本的に私が主導で動き、ロカは助言をするだけで私の考えや行動を見ていました。
そうこうして5日目を終えようとしている時にロカが言います。
『うん、じゃあ、予定より早いけど最初の実地訓練はこれで終わりにするよ』
「えっ、まだ5日しか経ってないよ?」
『最初はもっとてこずると思って10日の予定にしてたけど、リーネが思った以上に適応出来てるから今日で終わるよ』
「個人的にはもうちょっと立ち回り方を練習したかったけど」
『1日に2つずつ巣を潰していたからゴブリンやオークの巣もけっこう減ったからね。後は冒険者が入ってきそうなところしか残ってないんじゃないかな』
「それならしょうがないか」
『じゃあ、天界に戻るから跳んでくれる?』
「どこに戻ったらいいかな?」
『個人部屋の前が無難かな。リーネの部屋の前でいいよ』
「わかった、じゃあ、跳ぶよ」
私はそう言うとロカを掴み、空間跳躍で天界にある自分の部屋の前に跳躍しました。
『うん、天界にも戻ってこれてるし今回予定してたことは出来てるよ』
「5日しか魔の森にいなかったのに天界が凄くひさしぶりに感じるよ」
『じゃあ、ひさしぶりにちゃんとした食事を食べにいく?』
「うん、この5日間はほとんど同じ物しか食べてなかったもんね」
『あ、そうだ、装備を戻さないと。リーネもいつもの衣装に換装しておいて』
ロカはそう言っていつもの衣装に換装します。
「ロカ、借りてた剣を返すよ」
私はそう言ってロカに借りていた剣をロカに渡し、いつもの衣装に換装します。
『別にいいのに』
「そこはちゃんとしなきゃダメだよ」
そんなやり取りをしつつ私達は食堂に向かいます。
食堂に着くと食堂の中はいつものように天使や戦乙女達でいっぱいでした。
『リーネ、衣装のことでテラ様に何か言った?』
「ううん、言ってないよ。どうなってるんだろうね」
私達が食堂の中を見渡すと、私のようにアームカバーとタイツを着けている天使や戦乙女がいました。
そこへエリザリーナさんがやってきます。
『ロカ、クエフリーネさん、実地訓練は終わりですか?』
『ええ、実地訓練は終わりなんだけど、テラ様から何か聞いてる?』
『何かとは?』
『みんなの衣装のことよ』
『それでしたら天使達の要望ですわよ』
『えっ?どういうこと?』
『クエフリーネさんの衣装を見た天使達の中に同じ物を着けたいという要望がございまして、テラ様が希望者に配布されたのですわ』
『もしかして、装備のほうも?』
『装備のほうは障壁を採用するにあたり既存の盾を残すかどうか検討中とのことですわよ』
「大剣はどうなってますか?」
『大剣は使用者を限定するとのことで、現状はクエフリーネさん専用とのことでしたわ』
「それなら安心だね」
『他に何か言われてた?』
『近々、戦乙女の剣を新しくされるとのことでしたわ』
『リーネ!だから言ったでしょ!』
「私のせいじゃないよ!それにみんなにも使えるように言ってたのはロカでしょ!」
『お二人とも、何かございましたか?』
『「なんでもないよ(です)」』
私達の声がハモります。
『まあ、そういうことにしておきますわ』
『エリザ、他に何かある?』
『ええ、今日はお風呂に入られるのでしょう?実地訓練のことも聞かせて頂きたいですし、ご一緒させていただきますね』
『最初の実地訓練だし、たいしたことはしてないよ?』
『そうなのですか?クエフリーネさん』
「まあ、そうかな?」
『なんでリーネに聞くのよ?』
『だってロカは正直に話してはくれないでしょう?』
『話すほどのことが無いだけよ。そうよね?リーネ』
「確かに話すことはたいしてないかな?あっ、ロカが出してくれたピラフってエリザリーナさんが作ってくれたんですか?」
私がピラフの話をするとロカが苦い顔をしだしました。
(ピラフのこと、言っちゃマズかった?)
私は気まずくなったがエリザリーナさんに質問している以上どうすることもできません。
『ロカに頼まれて私が作りましたわ。お食べになったのですか?』
「ありがとうございます、普通においしかったです」
私はエリザリーナさんにお礼をしてこの話を終わらせます。
『どういたしまして。ではロカ、クエフリーネさん、後ほどお風呂でお話を聞かせていただきますわ』
エリザリーナさんはそう言って食堂の奥へ戻っていきました。
私は気まずくロカに質問します。
「ピラフのこと言っちゃマズかった?」
『はぁ、エリザに頼んだ時に何かあったら出せるようにって言って頼んだから、ピラフを食べたって言えば何かあったってわかってしまうのよ』
「あ~じゃあ、お風呂で話さないとダメな感じ?」
『大まかにでも話さないと納得しないと思うから私が簡単に説明するよ』
「うん、おねがい」
そうこうしていると順番がきたので私達は食事を取ることにします。
ロカと2人で食事をしていると2人の戦乙女が私達に話しかけてきました。
『あの・・・』
『うん?何か用事?』
『クエフリーネさんに・・・』
「えっ?私?」
2人の戦乙女を見ると私と同じようにアームカバーとタイツを身に着けていました。
『あの・・・実地訓練はどうでしたか?』
「ん?ちょっとしたトラブルはあったけど問題なく終わったよ」
『そうですか・・・あの・・・頑張ってください』
「うん?ありがとう」
2人の戦乙女はそう言うと私達から離れていきます。
その途中で『やった!話せたよ!』とか話している声が聞こえました。
私はいろんな疑問が湧いてきたのでロカに質問します。
「ロカ、今のなに?」
『さあ?』
「さあ?って、なにか考えてよ」
『見た感じ、リーネと同じ衣装にしてたからリーネに憧れてるんじゃない?』
「はぁ?ちょっと意味わかんないんだけど?」
『リーネは天界では唯一のダークエルフだし、見た目もみんなと違ってるから憧れてるんじゃないかって言ってるの』
「それこそ意味がわかんないよ。見た目がどうこういうならロカだってみんなと違うじゃん」
『私はみんなと違って普通なだけなの。リーネは顔もキリっとしてるし身体のスタイルもいいから憧れるんじゃないの?』
「そんなこと言われても、私ってまだ見習いだよ?」
『私と常に一緒にいるしテラ様がひいきにしてるからリーネは特別だと思ってるんじゃない?』
「なんだかな~」
私達はそんなやり取りをしつつ食事を終えました。
「ロカ、この後は浴場にいくの?」
『お風呂が長くなりそうだから先にテラ様に報告にいくよ。悪いけど一緒に来てくれる?』
「うん、1人でエリザリーナさんと会うのはあれだしいいよ」
私がそう返事をするとロカは私を掴み神界へと空間跳躍を発動させます。
『やっときたわね』
私達が神界へ移動すると1柱の女神様がかけよります。
『あなたがクエフリーネちゃんね。あなたは転生者だからあまりわからないかもしれないけど変な魔法ばかり作って私の仕事を増やさないでほしいの。ロカちゃんからもちゃんと言ってくれてるの?』
(うわ、ちゃんづけで呼ばれたよ。っていうかどの女神様?)
私は初めてお会いする女神様からちゃんづけされ、仕事を増やさないでと言われて困惑します。
『おひさしぶりですイニティニーニ様。リーネが作り出した魔法でなにか問題でもありましたか?』
『あれよ、水を加熱する魔法よ。魔法の効果的に最初は生活魔法にしようと思ったんだけどやってる内容がとんでもないから生活魔法じゃ簡単に使えるっていうことに矛盾が出ちゃうし光属性魔法や時空魔法にしても一番難しい魔法が水の加熱じゃおかしいしとりあえず複合魔法にしたけど複合魔法で水を加熱するってバカなのってなっちゃうでしょ!』
イニティニーニ様は凄い早口でまくし立てるように説明されました。
私は状況がわからないのでロカとイニティニーニ様のやり取りを静観します。
『リーネが作った水を加熱する魔法は使える者がほとんどいないと思われますので複合魔法でも問題ないと思います』
『この魔法を応用すれば攻撃魔法として活用することも出来るけどこちらの知識だけでは不可能だから事実上水を加熱するだけの魔法になってしまうからこの魔法を知識として残した場合に人々がこの魔法を知った時の反応が恐ろしいのよ!』
『人々の反応ですか?』
『知識として残っているということは過去に存在していたことになるからこの魔法を私が認めたことになるけど知識を管理する私が水を加熱するだけの複合魔法を認めたと思われたらイニティニーニ様ってバカなの?ってなっちゃうでしょ!かりにも知識を管理している私がバカなのって言われちゃうのよ!』
『「あっ!」』
「(確かにそれはキツいかも)」
私のつぶやきにイニティニーニ様が反応します。
『キツいなんてものじゃないの!そんなことになったらバカなイニティニーニ様が知識を管理しているなんておかしいってなって苦労して世界の知識を管理しているのに人々から信仰されなくなっていったら私の存在意義がなくなるのよ!』
『いや、必ずしもそうなるわけではありませんので落ち着いてください』
『そういうわけですから今後は複合魔法マイクロウェーブは神経系に作用する攻撃魔法でそれを応用して水を加熱しているだけとしてくださいね、マイクロウェーブはあくまで攻・撃・魔・法ですからね。わかりましたね?クエフリーネちゃん?』
「あっ、はい」
私はイニティニーニ様のまくし立てる説明を聞きうなづくように返事をしました。
そうこうしているとテラ様がやってきます。
『あら?イニティニーニ、どうかしましたか?』
『テラ様もテラ様です。ただでさえ転生者のせいで仕事が多くなっているのにクエフリーネちゃんに好きに魔法を使わせるなんてイジメですか?』
(テラ様には様づけなんだ・・・)
『クエフリーネさんのことはロカに一任していますからロカにおねがいしますね』
(あ、ロカに丸投げした)
『ロカちゃん、そうなの?』
『リーネのことは私がテラ様から一任されていますが魔法に関して特に制限が必要とはうかがっていませんので好きに使ってもらってます』
『クエフリーネちゃんは転生者だけど素体をもらっているから魔法を発現させる能力が高いのよ。だからロカちゃんからも変な魔法を作らないように言っておいてくださいね』
『わかりました、リーネが新たな魔法を使う時は確認するようにします』
『あっ!忘れるところでした。お二人が使われていた近距離の空間跳躍は一般的な空間跳躍とは手順や思考が異なるので新たな眷属スキル『テレポート』といたしましたので現世で使用される場合は人々に知られないように注意してください』
『「新しい眷属スキルですか?」』
私はイニティニーニ様の説明を聞きステータスを確認すると眷属スキルにテレポートが追加されていました。
『そうです、ストレージを利用していることから眷属スキルとしました。この件はテラ様にも承諾していただいています』
『そうですね、今回クエフリーネさんが思いつかれた近距離跳躍は自分を認識してイメージする必要がありたいへん難しいのですが、ストレージを利用することで眷属なら誰でも簡単に跳躍出来るため眷属スキルといたしました』
『というわけです。では私はそろそろ仕事に戻りますのでロカちゃん、クエフリーネちゃんをくれぐれもよろしくね』
イニティニーニ様はそう言って私達の前から離れていかれました。
イニティニーニ様がいなくなり私達とテラ様だけになったので私はロカに質問します。
「ロカ、イニティニーニ様っていつもあんな感じの話し方なの?」
『イニティニーニ様は知識の管理をされていてたいへんお忙しい方だから私もそんなにお会いしたことがないのよ』
「ロカでもあまりお会いしたことがないのか。テラ様、イニティニーニ様ってそんなにお忙しいのですか?」
『そうですね、基本的に知識の管理を1人でしていただいていますから女神の中では1番忙しいと思います』
「あ~なんか私のせいで迷惑かけちゃったかな?」
『そこはロカやイニティニーニが責任を負うところですからクエフリーネさんはあまり気になさらなくてもいいですよ』
『テラ様、あまりリーネを甘やかさないでください』
『少しぐらいはいいでしょう?』
『テラ様がリーネをひいきにするからみんなもリーネのことを勘違いして特別だと思われているんですよ?』
『クエフリーネさんは特別ですよ?』
『「えっ?」』
「私って特別なんですか?」
『だってそうでしょう?クエフリーネさんは私達のミスで戦乙女になることになったようなものですし、現世へと降りるまではロカがついているでしょ?この状況を特別と言わずになんと言いますか?』
『いや、それは・・・』
『もちろん私一押しの素体を選んでいただいたこともありますし特別にひいきにしていますよ?』
「あれはたまたまで・・・」
『テラ様!創造神が特別にひいきにしているなんて誰かに聞かれたら・・・』
『「誰かに聞かれたら?」』
『あれ?問題・・・ないのかな?』
『そうですね、私が創造した世界で私が誰かをひいきにしても問題はないでしょ?』
『いや、やっぱり問題があると思いますよ!』
『私が誰かをひいきにするのがダメなら私達女神は誰かに加護なんて与えられませんよ?』
「確かに加護なんてひいきみたいなもんだもんね」
『そう言われるとそうですが・・・』
『それに私がひいきにするのはクエフリーネさんが初めてではありませんし』
『「えっ?」』
『ロカは私の眷属が何人いるか知っていますか?』
『テラ様の眷属ですか?・・・私とリーネ以外は知りません』
『そうでしょう、だってあなた達しかいないのですから』
『「えっ?私達2人だけですか?」』
『そうです、私の眷属はあなた達2人だけなのですよ』
「なんで私達2人だけなんですか?」
『私は創造神ですから私の眷属には大きな力が宿ることになるのですよ。ですから私が眷属を多く持つと世界のリソースを多く使ってしまい人々の繁栄が難しくなります』
『そんなに大きな力が私達には宿っているのですか?』
『そうです』
「それってどれぐらい大きいんですか?」
『そうですね、女神になれるだけの力が宿っていると言えばわかりやすいでしょうか?』
『私が女神になるのはテラ様の眷属だからってことですか?』
『私はロカを私の眷属にした時からいずれは女神としてこの世界を管理していただくつもりでした』
「じゃあ、私はどうなんですか?」
『クエフリーネさんは本当にイレギュラーでしたから私が責任を持つかたちになりました。ですからクエフリーネさんにはロカのように女神になっていただこうとは今のところ考えておりません』
「そうですか、ちょっと安心しました」
『(今のところよ)』
「えっ?」
『いや、なんでもないよ』
私達はテラ様からいろいろと衝撃的な話を聞かされて呆けてしまいました。