37.冒険者とトラブル
空が明るくなり小鳥のさえずりが聞こえてくるようになるとロカが起きてきました。
『おはよう、リーネ。あの後は大丈夫だった?』
「おはよう、ロカ。あれからまた木の精霊が現れたの。私に興味があったみたい」
『へぇ、そうなの?もしかしたらリーネは精霊に好かれやすいのかもね』
「私の見た目って精霊に好かれやすいの?」
『そうじゃないの。精霊は肉体を持たない魂のような存在だから私達を見る時も魂の形で見ているのよ。リーネは転生者だから気になったのかもね』
「そうなんだ、精霊に気にされてるのか~」
『それよりも今朝はずいぶん落ち着いてるみたいだけど、何か心境の変化でもあったの?』
「心境の変化ってほどじゃないけど、木の精霊が私の近くをふよふよと漂っているのを見てたらなんだか励ましてくれてるみたいで心が穏やかになっていったの」
『へぇ、本当に精霊に好かれてるのね』
「精霊に好かれてるなんてちょっと嬉しいよね」
『リーネも落ち着いてるし朝食を取って訓練を始めましょ』
「うん」
私達は昨夜の残りの肉と木の実で朝食を済まし訓練を開始します。
「ロカ、今日は何をするの?」
『今日はゴブリンかオークの巣を探して襲撃しようと思ってるのよ』
「巣を襲撃するって言うけど巣には結構な数の魔物がいるんじゃないの?」
『そうよ、今日は多数の魔物を相手に戦うことに慣れてもらうつもりよ』
「多数を相手にって、どれくらい?」
『巣の大きさにもよるけど50体から100体ぐらいじゃないかな』
「50体以上って2人で対処出来るの?」
『何言ってるの?リーネ1人でするのよ?』
「えっ~なんで私1人なの?』
『弱い魔物だからそれぐらいは出来ないとダメなのよ』
「ほんとに私1人でやるの?」
『もちろんよ。じゃあ、ゴブリンかオークの巣を探すよ』
「じゃあ、せめてゴブリンにして」
『リーネは本当にオークが嫌なのね』
「最初のイメージが悪過ぎたの」
『じゃあ、ゴブリンの巣を探して移動するよ』
「あっ、私が探すよ。昨日、ゴブリンを見つけたとこらへんから探したらいいよね?」
『ずいぶん積極的じゃない?』
「ちょっとは自分から行動してみようかなって」
『ええ、少しずつでいいからそうするといいよ』
「うん、じゃあ移動するよ」
そう言うと、昨日、ゴブリンを見つけたところまで移動しはじめます。
昨日、私が倒したゴブリンの所までくると、ゴブリンはすでに喰い散らかされていました。
「うわ~1日でこうなるのか~」
『そうよ、この辺にはフォレストウルフもいるしゴブリンは同族でも食べるから死体なんてすぐに喰い散らかされるよ』
「あれ?ロカ、これって人の足跡じゃない?」
私はゴブリンの死骸の近くに人の足跡があるのに気づきました。
『本当ね、このままゴブリンを探してると人に見つかってしまうかもしれないか。どうしようかな?』
「人に見つかるとややこしいよね?」
『どういった目的で森に入っているかにもよるんだけど、たいていはトラブルになるかな』
私達が相談していると少し離れた所から大きな音がしました。
「今のなに?」
『バカ!森の中で火属性の攻撃魔法を使うなんて!リーネ、ちょっと様子を見にいくよ』
ロカはそう言うと音のしたほうへと移動しはじめました。
私もロカに続いて移動します。
私は移動しながらロカに質問しました。
「今の音って攻撃魔法の音だったの?」
『ええ、そうよ。おそらくファイアボールを使ったと思う』
私達が音のしたほうへ移動していると喧騒が聞こえてきます。
するとロカは移動する速度を落として音をたてずに移動するようにしました。
私もロカにならい静かについていきます。
ある程度近づくとロカが手招きをして私をよびました。
私がロカの横まで移動してくるとロカが小声で声をかけてきます。
『(リーネ、あれ見て)』
私がそちらを見ると、そこはゴブリンの巣のようでゴブリンの集団と戦っている5人の冒険者らしき人達が見えます。
彼らの戦っている周りには魔法で燃え移ったと思われる火があがっていました。
5人の冒険者はゴブリンに取り囲まれ気味でうまくゴブリンを倒せていないようです。
「(ロカ、ちょっとヤバそうじゃない?)」
『(こうも囲まれてるとよほど実力差がないと厳しいかな)』
「(どうするの?助けにいく?)」
『(本当はかかわりたくないんだけど・・・。じゃあ、私が突撃するからリーネは援護してやって)』
そう言うとロカは移動していきます。
私は弓を取り出し、こちらに背を向けているゴブリンの頭を矢で打ち抜きます。
それを合図にするようにロカが飛び出してゴブリンを切り倒していきます。
私は冒険者達を囲んでいるゴブリンを矢で仕留めていきました。
『えっ、いったいなにが?・・・』
急な状況の変化についていけずにボケっとしている冒険者達にロカの激がとびます。
『ボケっとしてないで動きなさい!』
冒険者達はその言葉でわれにかえったように動きだしました。
私はロカの動きを見つつ冒険者達を囲もうとするゴブリンを射抜きます。
ロカはゴブリンに一撃を入れては移動するといった感じでほとんどその場にとどまらずに動いていました。
(わぁ~1体にかける時間は一瞬だよ。倒してなくても常に移動してるからゴブリンはついていけてないよ)
私はロカの動きに目をみはります。
そうこうしているとゴブリンは冒険者達の近くにいる数体まで減りました。
ロカは倒しきれていないゴブリンにとどめをさしながら冒険者達のほうに移動してきます。
ロカが冒険者達の近くに来た頃には冒険者達もゴブリンを倒していました。
『ありがとうございます、助かりました』
冒険者の1人がそうロカに声をかけます。
5人の冒険者は男性が4人に女性が1人のパーティーで、装備を見るかぎり近接専門が2人、斥候が1人、弓使いが1人、魔法使いが1人という構成で魔法使いは女性でした。
リーダーらしき男性がロカにお礼をしたことで他の男性達も口々にお礼を言います。
男性達のお礼にたいしてロカが軽い口調で話します。
『たまたま近くにいただけよ。君達じゃ手にあまりそうだったから加勢したんだけど、必要なかった?』
『そんなことはありません、本当に助かりました』
『わたしは助けてくれなんて言ってないわよ』
話しかけたロカにたいして、あらためてお礼を言った男性の言葉にかぶせるように魔法使いの女性が否定の言葉を口にしました。
『マリアナ!なんてことを言うんだ!』
『誰も助けてなんて言ってないじゃない!そこの女が私達の獲物を横取りしただけでしょ!』
『僕達だけでどうにか出来る状況じゃなかったよ!』
『あなた達がもっとゴブリンをおびき出さないから私の魔法で数が減らせなかったんでしょ!』
『最初の攻撃は予定通りだって言ってたじゃないか!ゴブリンの数が予想以上に多かったから僕達だけじゃ無理だったんだよ!』
『そんなの知らないわよ!そもそもおかしいじゃない!その女はどうしてこんな所にいるのよ!』
2人のやり取りを傍観しているとマリアナと呼ばれた女性がロカにほこさきを向けます。
『どこかのバカが森の中で火属性の攻撃魔法を使ったから様子を見にきたのよ』
ロカはあきらかにトゲのある口調で返事をしました。
『1番得意な魔法を使って何が悪いのよ!』
『その魔法で森が火事なったらどうなると思ってるの?火に追われた魔物達がテルヴィラ王国へとやってくるのよ』
『えらそうに説教しないでよ!なにさまのつもりなの!』
『先輩冒険者からのアドバイスと思いなさい』
『先輩冒険者って言うならギルドカードぐらい見せなさいよ!』
そう言われたロカはふところから金色のカードを取り出しました。
『これでいい?』
『えっ、A級冒険者?』
それを見た男性達が騒ぎ出します。
『テルヴィラにA級冒険者なんていないはずよ!』
『テルヴィラが拠点ってワケじゃないの。ここにはたまたま調査で来ていただけよ』
『それになんでダークエルフがこちらにいるのよ!あんた達は向こう側にいなさいよ!』
彼女はそんなふうに言ってこんどは私を標的にしました。
しかし、私は彼女の言っている意味がわからないのでロカに視線を向けるとロカが私のかわりにこたえてくれます。
『彼女には調査に協力してもらっているだけよ。テルヴィラ側には出ないから問題ないでしょ?』
『ここはテルヴィラ側よ!』
『マリアナ、もうやめなよ。君もわかってるんでしょ?』
さきほどまで言い合いをしていた男性にかわり、弓使いの男性が優しく彼女をさとします。
『もう知らない!私は帰るから!』
『ちょっと、1人じゃ危ないって』
そう言って移動しはじめた彼女を追って弓使いの男性も移動していきます。
そこで、リーダーらしき男性がロカに声をかけてきました。
『助けていただいたのに気を悪くするようなことになってすみません。彼女もすねているだけで悪気はないと思いますのでゆるしてやってください』
『別に気にしてないよ。冒険者にトラブルはつきものだしね』
『ありがとうございます。では僕達はテルヴィラに戻りますので調査を続けてください』
彼はそう言うとほかの2人に声をかけて移動していきました。
『はぁ・・・』
「なんか、いろいろと凄かったね」
『だからかかわりたくなかったのよ』
「ロカ、途中で凄く怒ってなかった?」
『彼女の言い分があまりにもひとりよがりだったから、さすがに頭にきたよ』
「ほんと、ロカってお人好しだよね♪」
『リーネ、急になにを言うのよ?』
「だってそうでしょ?トラブルになるのがわかってても助けてあげてるし、火属性魔法を使うことがダメな理由もちゃんと言ってたでしょ」
『人が死にそうなのをほってはおけないだけよ』
「うん、そうだね♪」
『本当にわかってる?』
「うん、わかってるわかってる」
『じゃあ、いったん野営場所まで戻るよ』
「火はこのままで大丈夫?」
私は周りを見ながら質問します。
火属性魔法によってついたと思われる火が数ヶ所で燃えていました。
『う~ん、確かに危ないけど、どうしようもないからね』
「ねえ、私って水属性の魔法って覚えてないけど別に使えないわけじゃないんだよね?」
『テラ様がリーネの身体にどういった理由で魔法を覚えさせたのかわからないけどリーネには苦手意識とかはないだろうからたぶん使えるはずよ』
「じゃあ、水属性魔法を試してみていい?」
『それはいいけど、どんな魔法を使うつもり?』
「この辺だけ雨を降らそうかなって」
『気候を操るつもりなの?それはかなり難しいよ』
「そんなたいそうなんじゃないよ。じゃあ、やってみる」
私はそう言うと雨の降る仕組みを思い出してイメージします。
「レイン」
私がそう発するとポツポツと空から雨のようなものが落ちてきて次第に実際の雨のようになります。
(あっ、この魔法って発動してるとずっと魔力を使うんだ。これだとけっこう魔力がいるよ)
『リーネ、凄いよ。本当に雨を降らせるなんて』
私は返事をする余裕がなく、魔法を継続することに集中します。
燃えている火がある程度おさまったところで私は魔法の継続を終えました。
すると雨は次第に小降りになり、やがて雨はあがりました。
『リーネ、どうだった?』
「ふぅ、ロカが難しいって言ってたけどほんとだね。ずっと雨を降らせようと思うと魔法を継続しなきゃダメだし、魔力も思ったより使うからどんどん魔力が減ったよ」
『小規模でも雨を降らせることが出来る魔法なんて普通は使えないよ』
「私でもかなり魔力が減ったから普通の人が使おうと思ったら魔石が大量に必要だと思う」
『どれくらい魔力を使ったの?』
「7~8割って感じ、ごっそり減ったよ」
『それだと私でも魔力が足りないよ。マジックポーション飲んどく?』
「今日は魔法は控えめにするからとりあえずいいよ」
『飲みたくないだけでしょ?』
「だってマズいじゃん!ほんとに必要ならちゃんと飲むから!」
『はいはい、じゃあ野営場所に戻るよ』
「もぅ!子供あつかいして!」
こうして冒険者達とトラブルになった私達はいったん野営場所に戻ることにしました。