30.戦乙女
「そういえば、私が戦乙女になるのはいいけど、そもそも戦乙女って何をするの?」
『そういえば戦乙女の活動内容は説明はしてないか。ちょっと長くなるよ』
「えっ?長くなるの?訓練は大丈夫?」
『実地訓練は10日の予定だけど、たぶんリーネなら早く終わるから大丈夫よ』
「この身体だから予定より早く終わるってこと?」
『そうよ、じゃあ、説明するから。この世界はテラ様が創造された今流行りの剣と魔法の世界ってことは説明したよね』
「うん、聞いたよ」
『それで、剣と魔法の世界が創造神に流行る前、一番最初に剣と魔法の世界を作った創造神がいるの。いわゆる元祖ね』
「剣と魔法の世界の元祖か~」
『そう、この剣と魔法の世界の元祖たる創造神は、他の創造神が自分の真似を始めたことを自分の世界が認められたとして最初は喜んでたの』
「確かにそれは嬉しいね」
『でも、この創造神は嫉妬深かったのよ。最初は真似をされて喜んでたんだけど、真似をする創造神が増えて、簡単に剣と魔法の世界を作られるのに腹を立てるようになったの』
「あ~それもなんとなくわかる」
『それで、腹を立てた元祖の創造神は真似をした創造神に嫌がらせをしはじめたのよ』
「嫌がらせ?」
『そう、嫌がらせよ。剣と魔法の世界を作った創造神が嫌がることって何だと思う?』
「剣と魔法の世界をめちゃくちゃにされることかな?」
『そのとおりよ。元祖の創造神は真似をした創造神の世界が安定する前に、自分の世界から特殊な因子を持たせた魔物を送り込んでくるようになったの』
「特殊な因子?」
『その特殊な因子を持った魔物は送り込まれた世界を崩壊に導くように行動するのよ』
「えっ?その特殊な因子を持った魔物がこの世界にも送り込まれてるってこと?」
『ええ、この世界にも送り込まれてるの。それで、送り込まれた魔物を見つけ出し、秘密裏に抹殺するために活動してるのが戦乙女なのよ』
「うわっ、戦乙女って責任重大なんじゃない」
『そうね、責任重大だし難しい活動よ』
「難しいの?」
『難しい理由の1つとして、送り込まれている魔物がこの世界に存在しない魔物だった場合、秘密裏に抹殺する必要があるってこと』
「秘密裏に?」
『この世界に存在しない魔物を人々が認識してしまうと世界の法則に矛盾が生じてしまうから、世界の法則に修正が必要になる。この修正のための法則が魔王の出現であり勇者召喚なのよ』
「えっ?じゃあ、魔王は異世界の魔物ってことなの?それで祐也が勇者として召喚されたなんて・・・」
『魔王がこの世界の理の外にいる魔物で、その魔王を討伐するために異世界から勇者を召喚するっていう世界の法則が作られているのよ』
「異世界の魔物は、異世界の勇者に討伐されるってことか。だから人々が魔王を認識すると勇者召喚がおこなわれるんだね」
『この世界で勇者召喚がおこなわれたのは今回で2度目になるけど、かなり少ないほうよ』
「それだけ戦乙女が頑張ってるってことか~」
私は戦乙女の説明の最中に思いかけず、勇者召喚の真実を知るのでした。
『それで、戦乙女の活動が難しいもう1つの理由は、送り込まれる魔物には表立って動かない魔物がいるの。これらの魔物は、この世界に初めから存在していたかのように行動するから特定するのが難しくなるのよ』
「どうやって特定するの?」
『異世界の魔物は大まかな場所はわかっても、特定するには鑑定が必要になるから実際に見れる場所まで近づく必要があるの』
「手間は掛かるけど鑑定で確認出来るのか」
『その逆よ。送り込まれる魔物はこの世界とは違う法則によって生まれているから、この世界の鑑定では何もわからないの』
「鑑定しても何もわからないって、そりゃ大変だわ。私がやっていけるのかな?」
『私にだって出来たんだからリーネも大丈夫だって』
「まあ、頑張ってやるしかないよね」
『と、まあ、ここまでが今現在の戦乙女の活動になるけど、世界の認識は少し違うのよ』
「えっ、どういうこと?」
『今まで話した内容が私達が行ってる戦乙女の活動なんだけど、人々が認識している戦乙女の活動は、現世に降り立ち邪悪な物と戦い世界を平和に導くって認識だから意味合いが少し違うの』
「ん?同じような、違うような?」
『私達が戦うのは異世界から来る世界を崩壊させる魔物だけど、人々は、人々に災いをもたらす邪悪な物と戦うって認識してるのよ』
「あ~世界を守るためと人々を守るためって違いか。守る対象が違ったらそりゃ違う認識になるか」
『長く説明したけど、戦乙女の活動内容は理解出来た?』
「うん、世界を安定させるために異世界からの魔物を討伐すればいいんだよね」
『ついでだから聖女がおこなう戦乙女召喚についても説明しておくよ』
「うん」
『戦乙女召喚は一般的には高位の神聖魔法と扱われているけど、実際は神聖魔法の括りの外にあって独立した1つの儀式になっているの』
「神聖魔法って思われてるけど実は違うってこと?」
『そう、戦乙女召喚は、聖女が女神様にお願いして女神様の眷属である戦乙女を現世に呼び出す儀式なの』
「あ~、なんとなくわかった。戦乙女召喚は降臨の儀式ってことか~」
『女神様にお願いをするわけだから、カルマポイントが高くて儀式をおこなうだけの魔力を保持している女性のみが聖女とされるのよ』
「聖女になるのも大変なんだね」
『それで、実際に私達が戦乙女として召喚される時だけど、聖女が初めて戦乙女召喚を成功させた時に天界に現世に降りる召喚陣が出現するのよ。そして、その召喚陣にのると現世に召喚されるってわけ』
「召喚陣って、アニメっぽいね。でも毎回、召喚陣が出現してたら面倒そう」
『召喚陣が出現するのは最初だけ。戦乙女召喚に応じると、聖女と戦乙女の間に繋がりが出来るから、以降の召喚は繋がりがある戦乙女に召喚を知らせる合図が来るのよ』
「聖女と戦乙女に繋がりが出来るのか~じゃあ、一度召喚に応じるとずっと呼ばれるってこと?」
『そう、1人の聖女には1人の戦乙女しか召喚出来ないのよ』
「へぇ~1人の聖女に1人の戦乙女か~」
『そういうこと。それで、現世に降りた戦乙女は聖女と念話でしか会話出来ないの』
「最初の説明で祐也とは話せないって言ってたもんね・・・」
『戦乙女召喚についてはこんなものかな?今、祐也さんに同行している聖女が戦乙女召喚に成功したらリーネが召喚に応じることになるからそのつもりでね』
「自分のことなんだけど、他人ごとに思えてしまうよ」
『そこはちゃんと意思を持って頑張るのよ』
「そういえば、現世に降りる時って戦乙女の装備はつけて降りるんだよね?」
『基本的に召喚されるのは戦いの前がほとんどだから、事前に装備して降りるのが普通よ』
「装備は普通のほうでいいんだよね?」
『現世に戦乙女の容姿が伝わっているから、むしろ普通の装備じゃなきゃダメ。後、喋り方を少し変えたほうがいいよ』
「え~?このままじゃダメなの?」
『戦乙女は女神様の眷属として現世に召喚されるわけだから、女神様の威厳を保てるような喋り方をしないとダメよ。リーネは容姿のイメージもあるからなおさらね』
「あ~あ~、喋り方を変えるのは難しいわよ」
『ぷっ!声色を変えろとは言ってないよ♪』
「だって、しょうがないじゃない!喋り方を意識したら声色も変わるんだから!」
『難しい言葉を使わなくてもいいから、丁寧に言葉を話すように意識するのよ』
「そっか、ロカもやってたんだもんね、じゃないや、ロカもしていたものね」
『いいよ、リーネ。イケメンだね♪』
「もうっ!!・・・ロカほどじゃありませんよ」
私は、これからおこなう戦乙女の活動の大変さをいろんな意味で実感するのでした。