29.身体の秘密
神界に移動してくるとロカは急いでテラ様に駆け寄ります。
『テラ様、リーネの身体のことで隠し事をしてませんか?』
『どうしたのですか?』
『リーネ、説明して』
「あっ、はい。えっと、私は前世で森の中を歩いたりしたことがないんですけど、さっき魔の森の中を歩いたら感覚的に歩き方がわかったんですよ。それで、なんでかな~?って」
『というわけで、リーネの身体に何かしてませんか?』
『思った以上に仮初めの魂は有効そうですね』
『「仮初めの魂?」』
『ええ、クエフリーネさんの素体を作る時に仮初めの魂を持たせて、いろいろなことを疑似体験するようにしてみました。仮初めの魂は素体と結合する魂に適合され、仮初めの魂が得た知識や経験を補完します』
『えっ?じゃあ、リーネがすぐに魔法を使えたり、スキルに適応出来たのって・・・』
『仮初めの魂の適合が上手くいったからでしょうね』
『はぁ・・・、どうして教えてくれなかったのですか?』
『だって、2人とも驚くでしょ?』
『そんなことがあったらもちろん驚きますよ』
「あの、仮初めの魂の適合って、上手くいかなかったらどうなったんですか?」
『仮初めの魂の適合が上手くいかなかったら仮初めの魂が得た知識や経験が補完されないだけですので特に問題はありません』
「ちょっと安心しました。でもなんで今頃になって経験した感覚が出てきたんだろ?」
『そういえばそうね。リーネ、訓練の最初ではそんな感覚はなかったのよね?』
「勝手に動いてるみたいな感覚は少しあったけど今回ほどではなかったかな?」
『仮初めの魂は初めての試みですから適合に時間がかかったのかもしれません。クエフリーネさんが異世界の知識を持たれているという点も適合に時間がかかった要因かもしれませんね』
『テラ様、今後、仮初めの魂を素体に持たせるのですか?』
『仮初めの魂を持たせると素体の親和性が高まるようですから今後は適用していくつもりです』
『わかりました。ところでテラ様、まだ秘密があったりしませんよね?』
『今回、新たに試したことは追加装備と仮初めの魂の件だけですよ』
『本当ですね?』
『本当ですよ。ところでロカ、口調が昔に戻ってませんか?』
『いや、これはリーネに対してだけで・・・』
『クエフリーネさんとずいぶん親しくなっているようですね』
『それは・・・その・・・』
『私、安心してるんですよ?』
『えっ?安心・・・ですか?』
『ええ、ロカは私の眷属となってからは行動や言動を気をするようになりましたし、天使達にも自分を出すようなことはしていなかったでしょう?そんなロカがクエフリーネさんと親しくなって素の自分を出しているのを見て安心してるんですよ』
『テラ様・・・』
『私はロカにたいへん苦労を掛けたと思っていますし無理はして欲しくありません。クエフリーネさんは転生者ですが私の眷属でもあるので親しくしても問題ありませんよ』
『・・・ありがとうございます』
『クエフリーネさん、ロカをよろしくお願いしますね』
「いや、私がよろしくされてるというか・・・。ロカ、これからもよろしくね」
『ええ、リーネ、これからもよろしく』
テラ様の説明により身体の疑問が解決した私達は、そんなこんなで親交を深めることになります。
『テラ様、問題も解決したので私達は実地訓練に戻りたいと思います。10日ほど魔の森で実地訓練を行ってますので何かありましたら念話で連絡してください』
『わかりました。ロカ、よろしくお願いします。クエフリーネさんも頑張ってね』
「はい、頑張ります」
『では、失礼します』
そう言ってロカは私をつかみ空間跳躍を発動します。
するとさきほどまでいた魔の森のモニュメントの前まで戻ってきました。
『はぁ、いろいろとなんか疲れたよ』
「テラ様って結構ロカのことを気にされてたみたいだね」
『私も気にされてるなんて知らなかったのよ。リーネがいなかったら私は素でいることもなかったと思うしリーネにも感謝してる』
「えぇ~?ロカには迷惑とかいっぱい掛けてるし感謝してるのは私のほうだよ」
『ふふっ、ありがとう。リーネと知り合えて良かった』
「私もロカが担当で良かったよ」
私達はお互いに知り合えたことを喜び合いました。
『じゃあ、実地訓練を再開するよ』
「うん、それで、さっきの続きをするの?」
『森の歩き方は出来てるから違うことを確認するよ』
「違うことを確認って?」
『リーネが他に出来ることを確認するの。仮初めの魂によって知識と経験が補完されているなら、いろいろと出来ることがあるはずよ』
「あ~そっか、歩き方以外にも感覚でわかることがあるってことか~」
『そういうこと。じゃあ、まずは索敵と隠密のスキルを確認するよ。ついでにゴブリンとの実戦もしておきたいけど・・・』
「どうしたの?」
『このモニュメントの周りにいるのは比較的強い魔獣が多いから、場所を移動しようかと思ったんだけどいい場所が思いつかなくてね』
「ゴブリンはどこらへんにいるの?」
『ゴブリンは魔の森の外周部辺りにしかいないのよ。う~ん、どうしようかな』
「一度、魔の森から出て入り直したらダメなの?」
『森から出るにしても人に会わなそうな所が思い浮かばないの』
「人に会ったらダメなの?あっ、ロカ、ごめん。私、質問ばっかりしてるね」
『大丈夫、私が考え事をしていたからしょうがないよ』
「ロカって、ほんとイケメンだよね」
『イケメン?』
「男前ってこと。格好いい男性みたいだねって」
『昔はよく男勝りとか言われたことがあるけど?』
「男勝りって蔑んだ表現でしょ?イケメンは褒め言葉だよ」
『イケメンって褒め言葉なの?私ってあまり褒められたことないのよ』
「えぇ~?ロカって身長もあるし格好いいと思うのに~?あっ!身体は素体か」
『いいえ、私は自分の身体よ』
「えっ?どうして?」
『私が最初の戦乙女だったのは知ってるでしょ?』
「うん、テラ様の最初の眷属で最初の戦乙女だったんだよね」
『そうよ、私が戦乙女になった時は素体なんて作られてなかったし、私の元々の身体を再構築してもらったから自分の身体なのよ』
「じゃあ、今のロカは本当のロカなんだ」
『本当のロカって。まあ、人族だったこの身体を眷属として適応させたから大変だったのよ』
「例えば?」
『前にも言ったけど、私は魔法が苦手だったから、戦乙女の槍を使えるようになるのにかなり時間が掛かったのよ』
「あ~あれは難しいよね」
『それ以外にもいろいろ問題があって、私が戦乙女として活動出来るようになるのに10年ぐらい掛かったの』
「あれ?ロカで10年掛かってるのを私は1年で終わらすの?」
『リーネは素体をもらってるでしょ。リーネなら1年掛からないと思うよ』
「あぁ、そうか。じゃあ、素体は何時から作られるようになったの?」
『素体は私の件があってすぐに作られるようになったかな』
「へぇ~それでテラ様はロカに苦労をかけたって言われてたのか~」
『そもそも、私が戦乙女になったのはテラ様の思いつきなのよ』
「えっ?冗談だよね?」
『テラ様が地球の神話を元にこちらの世界で眷属を作ることを思いつかれて、そこに都合良く私がいたから戦乙女を作られたのよ』
「テラ様が言われてるのがなんとなく想像出来てしまうよ。でも、そんなことを私に話して大丈夫なの?」
『別にテラ様は隠されてるわけじゃないからリーネが知っても問題ないよ」
「テラ様が隠し事をされるのって、面白そうとか驚きそうってことだけだもんね」
『それが問題なのよ』
いろいろと質問する私にロカは自分のことを包み隠さず教えてくれます。
そうして私とロカは、異世界からの転生者と女神候補の天使長という、それぞれの立場を超越した親友と呼べる間柄になりました。