27.訓練場で3
私達は昼食を済まして訓練場に戻って来ました。
食堂では朝と同じようにみんなから注目されていましたが、初めからそのつもりでいたのでそれほど困りませんでした。
『じゃあ、今からは魔法の訓練をするよ』
「魔法の訓練って何をするの?」
『主に魔法の発動速度と正確性を向上させる訓練よ』
「速度と正確性か~発動速度ってやっぱり重要なの?」
『魔法は詠唱し始めて発動させるまでの間が無防備になるから、発動までの速度は重要よ。私達は詠唱なしで発動させられるけど、それでもイメージしてる時間は無防備になるのよ』
「詠唱は確かに時間が掛かりそうだけど、イメージしてる時間ってそんなに掛かってる?」
『リーネでも発動までに4~5秒は掛かってるよ』
「あっ、思ったより掛かってるんだ。どれぐらい速く出来たらいい?」
『理想は1秒以内、単純な魔法なら一瞬で出せるようにしたいところよ』
「うへぇ~1秒以内か~じゃあ、魔法のイメージが固まってないと無理だよね?」
『そうよ、だから訓練で魔法のイメージをしっかり持てるようにしておくの』
「それで、具体的に何をしたらいいの?」
『ひたすら同じ魔法を使って』
「え~反復練習なの~?」
『それがイメージを固めるには確実なの』
「は~い、わかりました~じゃあ、魔法を使ってくけど、どの魔法でしたらいい?」
『どれでもいいけど、ウインドカッターかストーンブレットが無難かな』
「じゃあ、ウインドカッターで練習するよ」
そんなわけで私はひたすらウインドカッターを使います。
ウインドカッターを使い続けて10分ほど経つと、魔法のイメージがすぐに出来るようになってきました。
いい加減、飽きてきたのでロカに声をかけます。
「どう、ロカ?だいぶ速くなったよね?」
『速くはなってるけど、まだ2秒ぐらい掛かってるよ。はい、続けて』
「えぇ~?まだ2秒ぐらい掛かってるの~飽きてきたんだけど?」
『飽きてきたって、まだ50回ぐらいしか使ってないでしょ?さぁ、続けて』
「どれぐらい続けたらいい?」
『最低でも100回は使ってみないとダメなんじゃない?』
「うわ~まだ半分じゃん、なんとかならない?」
『楽をしようとしたらダメよ。私が見ててあげるから、いいと言うまで続けるのよ』
「は~い・・・」
私は再びウインドカッターを使います。
私はもう無心でウインドカッターを使い続けました。
しばらくウインドカッターを使い続けていると、ロカが声を掛けてきました。
『そろそろいいんじゃない?たぶん1秒以内に発動出来てるよ』
「ほんと?無心で使ってたから、もうほとんど作業だったよ」
『じゃあ、次はストーンブレットとショットガンを1回ずつ使って』
「えっ?ストーンブレットとショットガンを1回ずつ使うの?なんで?」
『いいから使ってみて』
「ん?わかった」
私はロカに言われるままにストーンブレットとショットガンを使います。
「ロカ、使ったよ」
『今度はウインドカッターよ』
「ウインドカッターをまた使い続けるの?」
『とりあえず1回でいいよ』
「わかった」
私はロカに言われるままにウインドカッターを使いました。
『やっぱりダメね。さっきよりも遅くなってるよ』
「えっ、うそ?さっきは1秒以内に発動出来てるって言ってたよね?」
『さっきは作業のようにウインドカッターを使い続けてたでしょ?』
「うん」
『その状態だと、思考が簡略化されて必然的に速くなるのよ。だから、1度違う魔法を使って思考をリセットさせたのよ』
「じゃあ、普通に使うとまだ1秒以内に発動出来てないってこと?」
『そういうこと。じゃあ、訓練を続けるけど、魔力の残りはどんな感じ?』
「魔力は結構減ってるかな~?」
『魔力が枯渇するってほどじゃないのね?』
「うん、まだ身体が怠い感じはしないよ」
『それなら中級2本でいいかな?はい、マジックポーションよ』
そう言って、ロカはマジックポーションを2本渡して来たので受け取ります。
『それを飲んで訓練を続けるよ』
私は渡されたマジックポーションを1本飲みます。
すると青汁のような苦い味がしました。
「うえっ~青汁みたい・・・」
『コーヒーは大丈夫なのにマジックポーションはダメなの?』
「全然違うよ~」
『私にはどちらも苦いだけの飲み物って感じなんだけど?』
「苦さが違うの。マジックポーションは嫌な苦さだよ~」
『苦さに違いがあるなんて普通は思わないよ。さあ、もう1本も飲んで訓練を続けるよ』
「昨日、飲んだ時は気がつかなかったよ」
私はそう言いつつ、鼻を摘まんでマジックポーションを飲みほします。
『昨日は魔力枯渇状態だったから味もわからなかったでしょ』
「そういえば意識が朦朧としてたから味も覚えてないや。それで、この後はまたウインドカッターを使い続けるの?」
『いや、ウインドカッターはひとまず終わりにして、次はストーンブレットを使って』
「ウインドカッターはもういいの?」
『さっきみたいに使い続けてもこれ以上はなかなか速くならないから、いったん違う魔法を訓練してもらうのよ』
「よくわからないけど、とりあえずストーンブレットを使っていけばいいんだね」
私はそう言うとストーンブレットを使っていきます。
『相変わらずリーネのストーンブレットはよくわからない魔法よね』
「もうこのイメージだから変えられないよ」
私はストーンブレットを使いつつ返事をします。
ストーンブレットはイメージが単純なため、ウインドカッターの時よりも余裕がありました。
『みんなは何の魔法を使ってるかわからないんじゃない?』
「そういえばみんな見てるんだった、集中してると結構気にならないもんだね」
それからストーンブレットを使い続け、5分ほどするとロカが声を掛けてきました。
『ストーンブレットはもう充分速くなってるよ。たぶん、普通に使っても1秒以内に発動出来るんじゃないかな』
「ストーンブレットはイメージが単純だったからね」
『じゃあ、次はウインドカッターとストーンブレットを10回ずつ交互に使って』
「ウインドカッターとストーンブレットを10回ずつ交互に使うって、回数を数えてたら遅くなりそうなんだけど?」
『別に魔法を発動させる間隔は速くなくてもいいよ。10回ずつ使って慣れる前に違う魔法に変えることで、普通に使う感覚で回数を重ねることが出来るのよ』
「魔法の間隔は速くなくてもいいのか。じゃあ、使っていくよ」
そう言うと、私はウインドカッターとストーンブレットを10回ずつ交互に使っていきます。
10回で違う魔法に変えるので作業に感じることはありませんでした。
しばらく魔法を使い続けているとロカから声が掛かりました。
『ウインドカッターも1秒以内に発動出来てるしもういいんじゃないかな?』
「ほんと?結構集中して頑張ったよ」
『集中して疲れただろうし休憩を入れるよ』
私達は一旦休憩を入れることにしました。
私はコーヒーを飲みながら、気になったことをロカに質問します。
「ねぇ、ロカ」
『ん?何?』
「私って、遠距離や広範囲を攻撃する魔法って使えないけど大丈夫なの?」
『遠距離魔法は精々50mまでしか届かないし、私達は戦乙女の弓を使った方が遠くまで攻撃出来るの。範囲魔法も同じような理由で、複数人が戦乙女の弓で攻撃したほうが確実なのよ。だから、遠距離魔法も範囲魔法も必要はないよ』
「戦乙女の弓が強いから魔法はあまり必要ないのか、ちょっと安心したよ」
『私も属性魔法はたいして使えないよ。使えるのは火属性と簡単な土属性だけなの』
「そうなんだ、ロカって何でも出来るイメージだったよ」
『私はテラ様の眷属になって長いってだけで、元々魔法は苦手なのよ』
「ロカは魔法が苦手なのか~」
『はい、おしゃべりはここまで。訓練を再開するよ』
「は~い」
『次は正確性を確認するから、魔法で的を狙って』
「どの魔法でもいいよね?」
『ええ、好きな魔法でいいから的を狙って10回使って』
「うん」
私はストーンブレットで的を狙って発動させます。
するとストーンブレットは的の中心を射抜きました。
私が続けてストーンブレットを発動させると、10回全てが中心を射抜きます。
「10回終わったよ」
『えっ!うそ?全部中心に当たってるの?』
「うん、弓で狙うのに比べたら全然簡単だよ」
『ウインドカッターでも同じように出来る?』
「たぶん大丈夫だと思う」
私はそう言うと、ウインドカッターで的を狙いました。
ウインドカッターは狙い通り、的のまん中に当たり的が真っ二つになります。
「うん、こういうのは割と得意かも」
『これなら弓が得意なのも納得出来るよ。じゃあ、走りながら的を狙ってみてくれる?』
「走りながらか~ちょっとやってみる」
そう言うと、私は走りながらストーンブレットで的を狙います。
私が発動したストーンブレットは、的の中心近くに当たりました。
私は続けてストーンブレットを発動していきます。
すると、ストーンブレットは的の中心辺りに次々に当たりました。
「う~ん、走りながらだと中心に当てるのは難しいよ」
『それだけ中心辺りに当てられたら充分よ。何か特別なことをしてるの?』
「特別って言うか、発動する時に当たるところまでイメージしてるかな」
『魔法の軌道までイメージしてるってことよね?』
「うん、そんな感じ」
『はぁ、リーネは魔法が得意で羨ましいよ』
「え~?そうなの?私は得意って感じはしないんだけど」
『リーネは発想が変わってるしイメージも強いから、思いついた魔法をすぐに発現させるでしょ?普通はなかなか出来ないよ』
「へぇ~そういうもんか~」
『じゃあ、ちょっと早いけど、今日の訓練は終わりにするよ。リーネは昨日、お風呂に入ってないから食事の前にお風呂にしない?』
「うん、今日は疲れたからお風呂でゆっくりしたかったんだよね」
『この時間ならエリザも来ないだろうしゆっくり出来るよ』
「それなら安心だね」
私達は少し早いお風呂を堪能して、その後、食事を取りました。
浴場や食堂ではみんなが私達を注目していましたが、それほど気になりませんでした。
『じゃあ、私はテラ様に報告があるから、リーネは先に休んで』
「うん、じゃあ、明日ね」
『ええ、また明日ね』
私はロカと別れて自分の部屋に戻りました。