26.訓練場で2
『じゃあ、テラ様のフォローもあったし、気にせず訓練しよう』
「今度こそ打ち合うんだよね?」
『そうよ、さっきので分かったから私も本気で攻撃するよ』
「え~本気で攻撃するの~?ちょっと怖いんだけど」
『大丈夫よ、さっきも私の動きに付いて来れたでしょ?』
「そうだけど、ロカって最初のイメージが強いんだよね」
『じゃあ、最初の時にも言ったけど、気を抜いちゃダメよ』
「うん!」
私はロカと対峙して打ち合う事になりました。
私に攻撃して来たロカの動きは速く、攻撃も鋭いので私は受けを主体に動きます。
ロカの攻撃は多彩で、受け流すのが難しそうな攻撃は無理せず下がってかわしました。
『このっ!』
「ちょっと、ロカ?」
ロカの攻撃が激しくなってきましたがなんとか対応出来ました。
打ち合いを続けていると、攻撃の合間でロカが左手を向けてきます。
私はハッとして咄嗟に障壁を出しました。
するとロカの手から炎の矢が飛んで来て障壁に当たります。
『ちっ!』
ロカの舌打ちが聞こえたので、私はロカの攻撃に対して文句を言います。
「ちょっと!魔法を使うって言って無かったじゃん!」
『使わないとも言ってない!』
すると、そんな返事が返って来ました。
その後、打ち合いを続けていたが、しばらくしてロカが後ろに下がり間合いを空けました。
それを期に私は声を掛けます。
「ちょっと、本気になり過ぎだよ~」
『リーネが受け主体で動くからやり難いのよ。それに特性の効果もあってか、なかなか切り崩せないからちょっと熱くなっちゃたよ』
「途中、ちょっと怖かったよ」
『ごめん、ごめん。でも、本当にリーネの鎧はかなり有用性が高いよ。本気の私とやり合えるんだから』
「でも、あまり実感無いんだよね」
『それは装備を外して打ち合えば実感出来るよ。装備の特性に慣れ過ぎるのも問題だから、この後は装備を外して打ち合うよ』
「装備に慣れ過ぎると問題なの?」
『装備を付けていない時と感覚が違うから、装備に慣れ過ぎるといざという時に動けなくなるのよ』
「ふ~ん、そんなもんか~」
『じゃあ、戦乙女の装備をしまって普通の剣を出して』
ロカはそう言って普段の衣装に換装しました。
私も衣装に換装してブロードソードを取り出します。
「あまり違いが分かんないや」
『実際に打ち合えば分かるから。じゃあ、いくよ?』
そう言って、ロカは先ほどと同じ様に攻撃してきます。
私は、そのロカの攻撃が先ほどよりも速く感じました。
「えっ?!」
私はなんとか攻撃を受け止めましたが、ロカは続けて攻撃してきます。
私はその場から動けず、その攻撃を受け止める事しか出来ません。
それでもロカは攻撃してくるので私は声を掛けました。
「ロカ!無理だって!」
しかし、ロカはニヤっとしただけで攻撃を止めてくれません。
「ねえってば!」
私は再び声を掛けました。
その直後、私は攻撃を受けきれずに剣を飛ばされてしまいます。
「あっ!」
それを見たロカは攻撃を止めて話し掛けてきました。
『どう?実感出来たでしょ?』
「無理だって言ったじゃん!どうして続けるのさ?!」
『ちゃんと実感してもらうためよ』
「途中でニヤってしたでしょ!さっきの事、根に持ってない?!」
『根に持つってほどじゃないけど、スッキリしなかったからちょっと余分に動いたの』
「もうっ、いいけどさ~それで今はスッキリした顔をしてるんだ」
『リーネが相手だと、つい普段はしない事もしてしまうのよ』
「ロカって最初は固そうなイメージだったけど、こうやって普通に話してるとそうでもないね」
『私は天使長だからみんなの見本にならなきゃって思って、普段は丁寧に話す様にしてるしどうしても固くなってしまうのよ』
「そっか~そういえば、ロカが戦乙女だったのを知らない子が多いって言ってたけど、ロカはいつから天使長なの?」
『ちゃんと覚えてないけど、1000年以上前からだと思う』
「そんな前から天使長だったら、戦乙女だった事を知らなくてもしょうがないね」
『まあ、そういう事よね。じゃあ、そろそろおしゃべりを止めて訓練を続けるよ』
「訓練を続けるのは良いけど、この後はどうするの?」
『そうなのよね~リーネが鎧の特性に慣れるのが思ってた以上に早かったから、予定よりちょっと時間が余ってるのよ』
「じゃあ、戦乙女の剣をもうちょっと使ってみたいんだけど」
『別にいいけど、どうして?』
「魔力で剣身が作れるでしょ?どんな感じかちょっと気になるんだよね」
『魔力の剣身だから重さも変わらないし、攻撃範囲が長物に近くなるだけよ?』
「それが気になるの。じゃあ、ちょっと試すよ」
私は戦乙女の剣を取り出しつつそう返事をします。
『まあいいか。魔力剣身は出せる?』
「イメージすればいいんだよね?ロカのを見たから大丈夫」
そう言うと、私は剣身の先から魔力剣身が伸びているイメージをします。
すると剣身の先から青白い魔力の剣身が出現しました。
「ちょっと振ってみるね」
そう言うと、私は剣を振ってみます。
ロカの説明の通り、剣自体は変わってないので先ほどと同じように振る事が出来ました。
「ロカ、魔力剣身ってこれ以上伸びないの?」
『魔力剣身の長さや幅は変わらないよ』
「そっか~残念。もうちょっと柄が長くて、魔力剣身ももうちょっと伸びたら薙刀っぽく使えると思ったんだけどな~」
『へぇ~その発想は無かったよ。でも、戦乙女の剣は軽いから両手で持つ必要は無いでしょ?』
「重さの問題じゃなくて、両手だと振り回せる範囲が広がるでしょ?」
『確かに両手を使えば長物の払いの要領で振り回せるか。でも、柄が長いと剣として使いこなすのは難しくなるね』
「ロカでも難しいの?」
『私は、元々そういう剣を使っていたから問題無いけど、他のみんなは取り回しに苦労するんじゃない?』
「じゃあ、柄も伸びる様になるといいんだね」
『柄が物理的に伸びるならみんなも使えるよ』
「なんでみんなが使う前提になってるの?」
『リーネが思い付きを口走ってるのよ?』
「私は、だったらいいな~って言っただけだよ?」
『私達の今の状況は?』
「えっ?今の状況?」
『見てる方が居るよね?』
「うん、見学者は多いけど?」
『上で見ている方が居るでしょ』
「あっ、テラ様のこと?」
『リーネが思い付きを口走ると、テラ様が何かされるから保険を掛けてるのよ』
「そういえば、この衣装もただ疑問を聞いただけだったけど。それで、保険って?」
『リーネ専用だと何をされるか分からないから、みんなも使える物ですよ~ってアピールしてるの』
「でも、さすがに私が言った事を毎回実行されたりはしないでしょ?」
『リーネはテラ様のお気に入りだから分からないよ?』
「え~?じゃあ、リボン状の武器を使ってみたいとか、黒の格好いい装備もいいよね、とか言っちゃダメなの?」
『リーネっ!もうっ、私は知らないよ』
「テラ様もそこまでえこひいきしないでしょ?」
『テラ様だからね~』
「ちょっと、ロカ!遠い目をして言わないで!」
『じゃあ、ちょっと早いけどお昼にしましょ』
「あ~思いっきり流さないでよ!」
『みんなが見てるからさっさと食事を済ますよ』
「・・・は~い」
そんなこんなで私達は少し早い昼食を取るのでした。