113.妹7
テラ様に置いてけぼりをくらったような状態になりましたが、ティアにこれからのことを教えないといけないので気を入れ直して教えることにしました。
まずはティアに衣装を着てもらうために、ストレージと換装の説明をしてからストレージの出し入れと換装で着替える方法を感覚共有で感じてもらいました。
そうすると、ティアは1回の実演でストレージの出し入れと換装で着替える方法を理解したのです。
やはり並列思考で自分の感覚と私の感覚を分けて考えられることが有利に働いているようです。
想像以上に並列思考と感覚共有の組み合わせが優秀なので、この調子なら感覚的なことはすぐに覚えられるのではないでしょうか。
それにしても、ティア用に準備されていた衣装は私の衣装を左右対称にした物でしたので、テラ様がティアの衣装をウキウキで準備されていたのが目に浮かぶようです。
『この服って姉様とお揃いみたいですね!』
ティアは自分が身につけている衣装を見て嬉しそうにしていますが、私としては少々恥ずかしいです。
確かに姉妹でお揃いの衣装というのは嬉しく思いますが、それ以上に恥ずかしいという気持ちのほうが強いのです。
衣装を身につけたティアを見ていると、鏡を見ているような気分になり変な感じがしますが、ティアのちょっとした仕草が私とは違うのでそれもすぐに慣れるでしょう。
とりあえず衣装を着てもらったので次はティアの個人部屋を決めようと思いますが、個人部屋は空いている私の隣りで問題ないような気がします。
ティアに一応確認はしますが私の隣りが嫌とは言わないでしょう。
「次は個人部屋を決めるけど、ちょうど私の隣りが空いているからそこでいい?」
『姉様の部屋じゃダメなんですか?』
(えっ?)
いやいや、ちょっと待って欲しい。
どうして個人部屋なのに私と同じ部屋にしようと思ったのでしょう?
個人部屋はあくまで1人が住むための部屋なので、ベットを2つ置くスペースもありませんし、物理的に2人で住むのは無理があります。
昨日は私の個人部屋で話をしたのでティアも部屋の広さはわかっているはずです。
「さすがに2人は無理よ」
『そういえば姉様の部屋って使用人部屋ぐらいしかありませんでしたね』
ティアがそう言ったことで気がつきましたが、ティアの前世は聖女である前に由緒正しい貴族です。
ですから前世が貴族のティアの感覚では、個人部屋と言う言葉である程度の広さがあると思ったのでしょう。
「だから一緒は無理なのよ」
『せっかく姉様と寝られると思っていたのに~』
そう文句を言うティアにどう返していいかわからなくなってしまいました。
昨日は1日中、私の部屋で話をしていたので、夜はティアと一緒にベットで寝たのですが、ティアは寝つくまで嬉しそうに私に抱きついていたのです。
そんなこともあって、ティアに返す言葉が思いつかない私は無言で個人部屋まで移動しました。
個人部屋まで来ると、ちょうどアティが部屋から出て来ました。
『やぁ、リーネ・・・が2人!?』
まあ、ティアを見たらそんな反応になってしまうのは仕方がないでしょう。
パッと見では私とティアの違いは髪の色ぐらいしかわからないと思いますし、私が2人いると錯覚してしまうのも無理はありません。
「落ち着いてアティ、彼女は今日からテラ様の眷属になったティアで、私の妹よ」
アティにそういってティアを紹介すると、ティアは自主的に自己紹介をします。
『今日からテラ様の眷属として戦乙女となったクエフティアです。リーネお姉様の妹の名に恥じないように頑張りますのでよろしくお願いします』
『ち、ちょっと!リーネ!どういうことかな!?』
ティアの自己紹介を聞いたアティが私を捕まえてそう聞いてきたので、聖女だったティアがテラ様の眷属となったことや、私の妹になったことをかいつまんで説明しました。
『ずるいっ!そんなこと出来るなんて私は聞いてないよ!』
説明を聞いたアティはそう文句を言いますが、なにがずるいと思ったのでしょうか?
アティの言ったことを不思議に思っていると、ティアがアティの前まで来て私の妹なった経緯を詳しく説明しはじめましたが、私の妹になったことを自慢げに説明していたためか、それを聞いたアティは悔しそうにしていました。
アティが悔しそうにしている理由がいまいちわかりませんが、ティアが私の部隊に入ることが決まっているので2人とも仲良くして欲しいと思います。
ティアの紹介が終わった後、3人で軽く部隊のことを話していると、私達のもとへロカがやってきました。
『3人揃ってるしちょうど良かった』
そう言って私達のもとにやってきたロカですが、最近はほとんど会わなくなってしまっています。
戦乙女の活動をしている私は女神様に呼ばれなければ神界へと移動することがありませんし、女神になる修業でほとんどの時間を神界で過ごしているロカとの接点がなくなってしまっているからです。
こちらの世界に転生することになった私の面倒をみてくれたロカに全然会えなくなっているので少し淋しく感じますが、ロカは女神になるのですからそれは仕方がないでしょう。
それにしても、忙しいはずのロカがわざわざ私達のところに来る理由がわからなかったのですが、どうやらティアが新しくテラ様の眷属となったので、同じテラ様の眷属として顔合わせに来てくれたらしいのです。
ティアはロカがこの世界で最初に女神様の眷属になったことや、近々女神となることを聞いてかなり恐縮していましたが、ロカが『同じテラ様の眷属なので気兼ねなく話して欲しい』と言ったことで、ある程度は対等に接することにしたようです。
『そうそう、リーネ、もう私は個人部屋を使わないからここも使ってくれていいよ』
4人で話をしていたら、ふとロカが思い出したようにそう言いましたが、個人部屋が2つ必要なことはありませんし、いまいちロカがそう言った意図がわかりません。
「個人部屋は2つも必要ないわ」
ロカの意図がわからないのでそう返事を返すと、私がわからなかったことや先ほどそう言った理由を説明してくれます。
『あ~そういえば若い眷属は知らないか。個人部屋はスペースが空いている必要はあるけど、女神様にお願いすれば繋げたり間取りを変更したり出来るよ』
『ほんとうですか!』
ロカがそう説明すると、間をおかずにティアが食いつくように聞き返しました。
その食いつきようを見れば、もしかしなくてもティアが女神様にお願いする気満々なのがわかりますが、ロカが少し引いているので少しは自重しましょう。
ティアの食いつきように少し呆れてちょっとアティのほうに目をやると、アティの目が期待の眼差しに見えるのはなぜでしょう?
もしかしてアティも同じ部屋に住むつもりなのでしょうか?
とりあえず個人部屋を繋げるにしても、女神様にお願いしないといけないので次の機会にでもと思っていると、ティアから話を聞いていたロカの口から思いもしない言葉が聞こえてきました。
『私にも出来るから今から変更しようか?』
『私もリーネと一緒がいい!』
ロカがそう言うや否や、今度はアティが食いぎみにそう言いました。
あれ?どうやら幻聴が聞こえているようです。
私の目の前でティアとアティが言い争いをしているように聞こえますが、きっとこれも幻聴なのでしょう。
ちょっと予期せぬ展開となったため、現実逃避しそうになりましたが、私が口を挟める雰囲気ではありません。
個人的な意見としては、妹となったティアと同じ部屋になるのは『まあ、仕方がないかな?』とは思いますが、アティと同じ部屋になるのはどうなのでしょうか?
そういえば、前世では親しい女性同士で部屋をシェアすることもあった気がしますし、アティと同じ部屋も無くはないのでしょうか?
ティアとアティの言い争いに口を挟めないので静観していると、2人に呆れたロカが折衝案を出しました。
『じゃあ、テラ様の眷属の部屋ってことにして私達4人が使う部屋ってことでどう?』
あれ?ロカは個人部屋を使わなくなったって言ってましたよね?
「ロカはもう個人部屋を使わないんじゃないの?」
『まあ建前上ってのもあるし、最近リーネに会う機会もないから少しは接点があるほうがいいからね』
確かにロカとの接点があるのは私も嬉しいのですが、ロカがそう思ってくれていることのほうが嬉しさは大きいです。
なんだかんだ言ってもロカとはそれなりに長いつき合いですし、ちょっとした話が出来る機会が多いにこしたことはありません。
そんなわけでロカが出した折衝案を採用することになり、3部屋分のスペース(奥行きはいくらでも広く出来るらしい)を使って4LDKの部屋を作ることになりました。
間取りに関してはティアが中心として考え、それに個人的な希望を追加するかたちで決まり、ロカが新たに部屋を構築することになりました。
個人部屋の変更は神力を用いて物質を構築し、天界に固定するらしく、女神様の御業としては比較的簡単なことだそうで、私も練習すれば出来るようになると言われましたが、下手に能力を覚醒させてしまっても困るので練習したりせずにおとなしくしておきます。
新たに構築された部屋には家具なども備えつけられていて、すぐにでも住める状態になっていたのですが、ベットのサイズがダブルサイズになっていました。
あきらかにティアの仕業だと思いますが、ティアの提案を受け入れるロカもロカだと思います。
『これで姉様と一緒に寝られますね!』
ティアが嬉しそうにそう言うと、アティも『私もリーネと寝たい・・・かな』と言ってふたたび2人の言い争いが始まりそうになりましたが、ロカが1日おきに交代することと、私に負担をかけないように間に1人で寝る日を挟むように提案したので、2人はしぶしぶながらもロカの提案を受け入れました。
というか、1番の当事者であるはずの私の意見はどこにいったのでしょう?
そんなこんなでテラ様の眷属のための部屋が出来たのでした。