112.妹6
ディアが素体に触れて結合が始まり、およそ1分ほどして素体がわずかに動きました。
(えっ?早すぎない?)
素体との結合はアティの時に立ち会っただけですし、アティの場合は特殊な状況ということもあり、結合に時間がかかると聞きましたが、ディアの結合があまりにも早く終わりそうで心配になります。
「テラ様、通常の結合はどれくらいの時間で終わるのですか?」
ちょっと心配になってテラ様にそう聞くと、テラ様はピッっと人差し指を立てて言われます。
『1分ほどで終わります。ディアンヌさんはこの世界での生まれですから、素体との親和性が高いのですぐに終わるのです』
テラ様の説明を聞いてなるほど~と思っているうちに素体がモソモソと動き出しました。
『もう結合は完了しましたね。今のところ問題もなさそうです』
テラ様がそう言われている間にディアがゆっくりと目を開きました。
しっかりと目を覚ましたディアは上半身を起こすと、自分の胸をジッとみつめています。
(凄く気持ちがわかる・・・)
こういってはなんですが、ディアの前世は慎ましい胸をしていたので、新しい身体の胸に違和感があるのでしょう。
『凄い胸ですね!』
気持ちはわかりますが、新しい身体になってからの開口一番がそれってどうかと思います。
ディアはそう言ってしばらく自分の胸を見ていましたが、顔をあげるとキョロキョロと周りを見渡して不思議そうな顔をしました。
『ディアンヌさん、身体の具合はどうですか?』
『あ、特に変って感じはありませんが、視界が不思議な感じがします』
(ん?視界?)
新しい身体に視界が不思議と思うようなスキルがついているのでしょうか?
ちょっとディアの反応が不思議ですが、ステータスを確認すればわかるでしょう。
「テラ様、結合自体に問題はなさそうですしステータスを確認してよろしいですか?」
『そうですね。ではディアンヌさん、ステータスを確認させてもらいますね』
『あ、はい』
ステータスを確認する許可が得られたので、ひとまずディアのステータスを確認することにしました。
名前:クエフティア
性別:女性
年齢:56歳〈不老〉
種族:ダークエルフ〈創造の女神テラの眷属〉
加護:クエフリーネの加護
スキル:
戦闘スキル/5剣術・槍術5・弓術6・盾術5・索敵6・隠密6
一般スキル/鑑定10・多言語5・料理6・薬学5・調合6・医学2・一般教養6・解体4・追跡5・魔物学3・隠蔽5・感覚共有
永続スキル/暗視・精霊眼・空間認識
眷属スキル/ストレージ・テレポート・戦乙女の槍・微小回復・微小再生
魔法:
生活魔法/種火・造水・クリーン・ライト・乾燥
属性魔法
・風2/ウインドカッター・サイレンス
・土3/ストーンブレット・アースウォール
・光5/フラッシュ・ライトニング
神聖魔法9/ヒール・キュア・プロテクション・浄化・ヒーリング・マジックプロテクション・リジェネレーション・聖光・聖域・プロテクションオール・ジャジメント
時空魔法5/時空庫・換装・空間跳躍
称号:戦乙女姉妹・恋愛の女神の妹
(ん?)
ディアあらためティアのステータスを確認すると、前世で私が授けてしまった加護が残っていましたが、加護は魂にたいして授けるものなので仕方がありません。
戦闘スキルは戦乙女として必要なものを修得しているようですし、一般スキルもティアの前世から引き継いだものが反映されているのでしょう。
しかし、一般スキルの最後にちょっと気になるスキルがありました。
「テラ様、感覚共有ってスキルがありますけど、もしかして・・・」
『あらあら、おそらくリーネとの感覚共有だと思いますよ。双子でよくみるスキルなのですが、素体をリーネに近づけすぎたのが原因かもしれません』
テラ様はなんでもないようにそう言われましたが、ティアと私の感覚が共有出来るスキルということは、私も感覚共有のスキルを修得しているってことになるのではないでしょうか?
テラ様の話を聞いて、今すぐに自分のステータスを確認したい衝動にかられますが、とにかくティアのステータスを確認することを優先しました。
続けてティアのステータスを確認すると、永続スキルはダークエルフの種族特性で得られるスキルですし、眷属スキルも戦乙女に必要なスキルとテラ様の眷属になったことで得られるスキルなので問題ありません。
魔法に関しては、ダークエルフとして修得しているであろう魔法に、戦乙女として必要な魔法、あとはティアの前世から引き継いだ魔法でしょう。
ティアは前世が聖女なだけあって、多くの神聖魔法を修得しているので、守りに特化した戦乙女として活躍出来るのではないでしょうか。
そんな感じでティアのステータスを最後まで確認してみると、称号になにやら不穏な称号があるではありませんか。
「テラ様・・・」
『称号にもリーネと共有しているものがありますね。しかし、これはクエフティアさんを妹とした段階で発生していると思いますので仕方がありませんね』
恐る恐るテラ様に確認しようとして先に言われてしまいましたが、『戦乙女姉妹』なんて称号はどう考えても私にもついているでしょう。
そこであらためて自分のステータスを確認してみると、案の定、感覚共有のスキルと戦乙女姉妹の称号が増えていました。
私は特になにもしていないのに新たにスキルや称号が増えているのは、なんとも言えない気分になります。
まあ、とりあえずティアのステータスに問題はないようですが、それでは先ほどのティアの反応はなんだったのでしょう?
可能性から考えると、感覚共有で視界を私と共有していて変に感じたのでしょうか?
あらためてそう考えてみると、ティアが視界を変に感じた理由が思い当たりました。
私は魔法を効率よく使えるようにするために常に神眼の魔力眼を使っているので、通常の視界に魔力を現すフィルムを貼っているような感じで見えているのです。
私は地球の知識があるのでそのような見え方をしても、『そういうもの』と認識出来ますが、地球の知識がないティアが今の視界を見ると変な視界としか認識出来ないでしょう。
ティアの視界に関しては感覚共有を切ればもとに戻ると思いますが、それはどう教えればいいのでしょう?
さすがに私がどうこう言える状況ではないので、テラ様に確認してもらいましょうか。
「テラ様、ティアは感覚共有がONになっているのではないでしょうか?」
『そのようですね。ではリーネがスキルをOFFにする方法を教えてあげてください』
(ちょっとまって!?)
スキルのON、OFFなんて感覚的なことなので教えようがないと思ったからこそテラ様に確認してもらったのに、なぜ私が教えることになるのでしょうか。
「テラ様、スキルのON、OFFは感覚的なことなので教え方がわかりませんが・・・」
『うふふ・・・』
(あっ!)
テラ様のこの反応はいたずらを思いついた時にされる反応で、私的にマズい反応です。
『クエフティアさんに感覚的なことを教える方法をさっき修得したでしょう?』
そう言われてみればそのとおりで、感覚共有を使えば、おそらくティアにも私が感じる感覚的なことを教えられるでしょう。
テラ様は先ほど修得した感覚共有を使うように仕向けられたのでしょうけど、それだけではないようにも思えます。
しかし、テラ様はそう言われているので従わないわけにはいきませんし、感覚共有を使ってティアに教えることにします。
そんなわけで、とりあえず感覚共有をONにしてみますが、特に違う感覚を感じているようには思えません。
いえ、僅かに自分とは違う感覚があるようにも感じるので、並列思考で違う感覚と自分の感覚を分けてみることにしました。
すると確かに自分とは似ているけれど、あきらかに違う感覚があったのです。
この状態がティアの感覚を共有しているってことのようです。
並列思考で感覚を分けないとわかりづらかったのですが、ティアも同じ感覚を共有しているはずなので、この状態を意識してもらって私がスキルをOFFにすれば、ティアにもスキルを切る感覚がわかるのではないでしょうか。
「ティア、私とあなたは今、感覚を共有しています。これは感覚共有というスキルの効果なのですが、このスキルは効果を切ることが出来るので、まずはスキルを切る感覚を感じてください」
ティアにそう説明すると感覚共有のスキルをOFFにしてみました。
「わかった?」
『ごめんなさい姉様、ちょっとわかんないです』
まあ、私も並列思考で分けないと分かりづらかった感覚共有なので仕方がありません。
しかし、あきらかに違う感覚なので、何度か試してみればティアにも分かるのではないでしょうか。
そう考えて何度か感覚共有をON、OFFしていると、ティアが『あっ!』と声をあげました。
『姉様!わかりました!凄いですね、これ。並列思考ってスキルを覚えましたよ!』
「えっ?」
『うふふ、やっぱり感覚共有でスキルを簡単に修得出来るようですね』
(えっ?)
ティアが言ったことに驚いていると、突然テラ様がそんなことを言われてさらに驚きました。
もしかして感覚共有で所持スキルも共有出来てしまったのでしょうか?
ちょっとそこのところは私には理解出来ませんが、どうやらテラ様はこうなることを見越して私に教えるように言われたようです。
テラ様は、ティアがあまりにも簡単に能力を覚醒させてしまったことは、気になされていない様子なのも私の驚きに拍車をかけてしまっています。
『では、後はリーネに任せますね。ティナの時と同じようにしてくれたらいいですから』
驚きがいまだに覚めない私にテラ様はそう言われました。
ちなみにティナとはライアティナのことで、アティと呼んでいるのは私だけなのですが、それはアティの希望なので仕方がありません。
『そうそう、クエフティアさんはリーネの部隊に入ってもらいますから』
(えぇ~!?)
テラ様は最後にそう言われ、驚きが続いている私と、状況がわからないティアを置いて神界に戻られたのでした。