111.妹5
翌日、神界に移動してディアの眷属化を進めることになりました。
ディアを眷属にするにあたり、まず最初にどういった活動につくかを決めないといけないそうです。
これは天界で天使として活動するのか、現世に降りる必要のある戦乙女として活動するのかを選ぶということなのですが、テラ様のお話ですと、天使として活動する場合、素体を与えられないそうなのです。
天使は基本的に天界から移動しないため素体が必要になりません。
ですので、天使として活動する場合、眷属とする魂に女神様から神力を分け与えられて眷属化するそうです。
私は何もわからないまま戦乙女として活動することが決まってしまったので、眷属となる時に素体をもらうのだと思っていましたが、どうやら違うようです。
しかし、そうするとディアが私の妹になるためには戦乙女になるしかないのではないでしょうか?
「テラ様、ディアが私の妹になるには戦乙女しか選択肢がないのですか?」
そこのところが気になったのでテラ様にそう質問すると、テラ様は首を軽く横にふられてから説明してくださります。
『いいえ、天使として活動することになってもディアンヌさんをリーネの妹にすることは可能です。私が神力を分け与えて眷属化するときに魂を改変しますので、その時に種族や性別も変更することが可能で、さらにリーネの魂と繋がりを持たせることにより、天使であってもリーネの妹とすることが出来るのです』
どうやらディアが天使となっても私の妹になれるようなので安心しました。
ディアは現世では聖女でしたので荒事には向いていませんし、戦乙女として活動するにはいろいろとたいへんでしょう。
個人的にはディアが戦乙女となって一緒に活動してくれると嬉しいですが、さすがにそこのところは無理強い出来ません。
「わかりました、テラ様」
『ではディアンヌさん、あなたはどうしたいと思っていますか?」
テラ様は私の返答を聞くと、ディアにどうしたいかを確認されました。
私の時は半ば強制的に決まったようなものでしたが、普通は眷属となる者にちゃんと選択権があるのでしょう。
『私は姉様と同じ戦乙女になりたいです!』
テラ様の質問を聞いたディアは悩むそぶりも見せずに、そう強く言い切りました。
そう言ったディアの選択は嬉しいのですが少し心配な気持ちもあります。
戦乙女の活動はわかりやすく言うと肉体労働です。
現世で聖女だったディアが戦乙女として活動しようと思うと多くのことを学ばねばなりません。
また、魔物を自身の手で討伐する必要も出てきますので精神的な負担もあるのです。
「ディア、そう言ってくれるのは嬉しいけど、戦乙女の活動はたいへんよ?天使でも私の妹になれるのだから無理に戦乙女になる必要はないわ」
ちょっと心配になってそう言うと、ディアは得意げに言います。
『姉様、私は聖女だったけど一人前の斥候でもあったのよ』
「えっ?」
私が驚いているとディアは続けて言います。
『私とロインの2人で行動する時に私が何も出来ないと危険すぎるし、ロインにお願いして鍛えてもらったんです』
そう言われてみると納得出来る話でした。
確かにディアとロインが2人で行動するとなると、誰が見てもディアが狙われることはわかりますし、それは対魔物でも対人でも同じだと思います。
誰が見てもそう思えるのに何も対策を取らずに行動するなんて考えはディアにはないでしょう。
そうなるとディアがある程度戦う技術を身につけるのが手っ取り早いのは明白で、だからこそ、ディアはロインにお願いして戦う技術を身につけたのでしょう。
「意外と思ったけれど、よくよく考えるとディアが戦う技術を身につけるのは当然のことね。魔王討伐の時のイメージがあるから、どうしてもディアが戦えるイメージがわかなかったわ」
『戦う技術を身につけたのは、少しでも姉様に近づきたかったって理由もあるの』
私が正直な気持ちを言葉にすると、ディアはそんな嬉しいことを言ってくれました。
そう言ったディアの気持ちはなんとなくわかるところがあります。
聖女と戦乙女、人と眷属という違いはありますが、基本的には女神様に仕える神聖魔法を使う女性という位置づけで、戦いでの役割はかなり近いところがあるといえるでしょう。
大きな違いといえば近接戦闘が出来るかどうかといったところでしょうか。
聖女と戦乙女の大きな違いが近接戦闘だからこそ、ディアは近接戦闘が出来るようになりたかったのだと思います。
ディアとそんなやりとりをしていると、楽しそうにテラ様が手を叩いて言われます。
『はいはい、2人に任せると日が暮れてしまいそうだから進めますよ。では、ディアンヌさんには戦乙女として活動してもらうとして、本当ならば素体選びになるのですが、リーネの妹となるために特別な素体を準備してあります』
テラ様は当然のように特別な素体を準備してあると言われましたので、ディアが戦乙女を選ぶとわかっておられたのでしょう。
それにしても、特別な素体って、またご自分の眷属をひいきされるおつもりなのでしょうか。
まあ、そのことを今言っても変更は出来ないでしょうし、聞き流しておきます。
『特別な素体はリーネに準ずる身体として、おおよそ85%をリーネの身体と同じ構成にしましたので、双子ではありませんが双子に違い身体になっています。ですから誰が見てもリーネの妹と思いますよ』
「えぇ~?!」
テラ様が考えてもいないことを言われたため、おもわず声を上げてしまいました。
まさか特別な素体ってことで、私に準ずる身体の素体を準備されているなんて普通なら思いもしません。
テラ様的にはディアを私の妹にするにあたり、気を利かせて身体が似るように特別な素体を準備されたのでしょうけど、まさかそこまでしっかりとディアが私の妹になるために準備されていたとは思いませんでした。
テラ様は自信満々で胸を張ってドヤ顔をされてますし、ディアは本当に嬉しそうな顔をしているので特に問題はないのですが、あいかわらず私はテラ様に振り回されている気しかしません。
しばらくして、私達の驚きが落ち着いたのを見計らいテラ様は言われます。
『素体に関しては私が特別に準備しましたのでディアンヌさんは私の眷属となりますが、リーネとの繋がりを持たせるために、ディアンヌさんの新しい名前はリーネにつけてもらう必要があります』
どうやらディアはテラ様の眷属としてもらえるようですが、私の妹とするためには私が名前をつける必要があるようです。
「わかりました」
と了承したものの、自分のネーミングセンスに自信がないので、自分の名前を基準に考えるしかなさそうです。
(私の名前は『クエフリーネ』で『クエフ』が家名のようなものなので、ディアの愛称と合わせてクエフディア?濁ると私の名前と響き方がかなり違うように感じるのでクエフティアかな~?あ、アティと名前が被ってる感じがするけど、ティナとティアだし大丈夫よね?)
「安直ですけど、クエフティア、でどうでしょう?愛称もティアになるのであまり違和感もないと思いますが・・・」
とりあえずアティの時のような思いつきではないので、採用されても大きな心配はありませんが、ちょっと安直すぎるかもしれません。
『姉様に考えてもらったのでそれでいいです!』
(あ、なんかデジャヴ・・・)
アティもそうでしたけど、私が考えたからOKって反応はなんか困ります。
しかし、私のそんな思いとは裏腹にテラ様は進めていかれます。
『ではディアンヌさんの新しい名前はクエフティアということですね。ふふ、新しい娘が出来るようで楽しみですし、今から素体との結合をしてしまいましょう』
テラ様はそう言われると同時に私達ごと天界に移動されました。
移動した先はもちろん素体が保管されている建物の前です。
ディアは突然強制的に移動させられたので驚いていますが、テラ様は気にした様子もなく言われます。
『さあ、いきますよ』
テラ様はそう言われると建物の中に入っていかれるので、私もディアを促してテラ様に続きます。
テラ様について中を進み、たどり着いたところは見覚えのあるところでした。
(私の素体が保管されていたところね)
どういった基準で素体を保管されているのかはわかりませんが、たどり着いたところは私の素体が保管されていたところで間違いありません。
そこには私にたいへんよく似たダークエルフの素体がありました。
顔立ちや鼻、口などは私と違いがわからないぐらい似ていますが、目は私ほどキツく感じないので、やや目尻が下がっているように思います。
髪の色は私が緑かかった銀髪なのにたいして、黄色?いや、薄い金髪って感じでしょうか。
肌の色はほぼ同じにしか見えませんし、確かにこの素体は私の姉妹にしか見えないでしょう。
『どうですか?リーネによく似ているでしょう?髪が同じような色だと双子っぽくなるので、あえてエルフよりの色にしています。後、体型も微妙に違うようにしていますが、パッと見では同じように見えるでしょう。身長はリーネよりも1cmだけ低いのですが、2人が並ばないとほとんど同じに見えると思います』
テラ様は自信満々に素体のことを説明してくださりますが、ディアは『姉様にそっくりです!』と言ってテラ様の説明は聞こえていないように見えます。
まあ、ディアも気に入っているようですし、テラ様も満足されているようなので素体に問題はないでしょう。
『ディアンヌさん、新しい身体はこの素体で大丈夫ですか?』
『はい!姉様によく似てるし大満足です!』
テラ様が素体の確認をされて、ディアは嬉しそうに返事をしましたが、私によく似た身体になれることに興奮気味です。
『では、素体との結合を開始したいと思います。魂の状態のディアンヌさんが素体に触れると結合が始まりますので、好きなタイミングで素体に触れてください』
テラ様がそう説明されると、ディアは『はい!』と言ってなんの躊躇いもなく素体に触れました。
すると、あっという間にディアは素体に吸い込まれて結合が始まったのでした。