110.妹4
ここまで私のことを教えたのに、ディアは私=女神という認識を変えないようなので、前提として私は女神と考えないで話を聞いてもらうことにしました。
「ディア、とにかく私が女神とか女神様の眷属ってことは考えないで話をきいて」
私がそうお願いするとディアは『え~!?』と言って不満そうですが、渋々といった態度で頷きました。
ディアは先ほどまで私のことを『恋愛の女神』と本気で思っていたようですので、なかなかその考えは変えれないようですが、私のお願いをきいてくれました。
ここで私が女神かそうでないかを引き続き話してもディアの考えは変わらなさそうなので、今からは私の前世のことを話すことにしました。
前世のことを話すといっても、こちらの世界とは大きく違いがあるので、話すのは主に私を中心としたことで、私がだだの人だったこと、祐也と婚約していたこと、祐也が召喚されて私が自殺してしまったことなどを詳しく話しました。
私の話を聞いていたディアは途中から悲しそうな表情をして真剣に聞いてくれました。
まあ、第三者が聞けば、それなりに悲しい恋愛話だと思うのでディアの反応は予想通りですが、私としては、もう『前世の話』なので今は特に悲しく思うことはありません。
ひとまず私を中心とした前世の話を聞いたディアは、確認するように聞いてきます。
『では、ユーヤ様が言われていた婚約者は姉様のことだったと?私達がユーヤ様を召喚したことで2人の人生をめちゃくちゃにしてしまったなんて・・・』
私の話を聞いたディアは苦しそうにそう言いましたが、祐也をこちらの世界に召喚することになったのはカティア様とナスハ様の意向ですし、女神様の恩恵が明確に現れているこちらの世界の人々には、勇者を召喚するというのは当然の選択でしょう。
確かに祐也がこちらの世界に勇者として召喚されてしまった為に、私と祐也の人生は大きく狂いましたが、女神様達から勇者召喚の理由も聞いていますし謝罪も受けましたので、私の中では消化出来ているのです。
「ディア、私は女神様達に話を聞いているので、もう前世のことは受け入れているから問題はないわ」
『でも・・・』
勇者召喚によって私と祐也の人生を大きく狂わせてしまったことにディアは罪悪感をもってしまっているようですが、このことにディアが罪悪感をもつ必要はありません。
姉と慕っている私が当事者だったということで余計に罪悪感をもってしまったようですが、勇者召喚はこちらの世界に必要なことだったのです。
「勇者召喚はこちらの世界を安定させるためには必要だったの。だからディアが罪悪感をもつ必要はないのよ」
そう言ってディアを抱きしめると、ディアは泣き出してしまいました。
ディアは正義感が強いこともあり、必要以上に自分の責任と考えてしまったのでしょう。
しかし、これから本当の妹になるディアにそんな責任を感じてほしくはありません。
「今はまだわからないでしょうけど、本当に仕方がなかったことなのよ。ディアはけっして間違ったことをしたわけじゃないから自分を責めないで」
ディアはこれから女神様の眷属としてこの世界の安定のために活動することになるので、後々になればそれも理解出来るでしょうけれど、今は私の言葉を信じて欲しいです。
しばらく泣いていたディアは私を強く抱きしめて言います。
『姉様、本当に私が姉様の妹になってもいいんですか?』
ディアはまだ罪悪感をもっているようでそんな質問をしてきましたが、すでに本当の妹のつもりでいた私はそんなことを聞いてくるなんて思いませんでした。
「私はもうディアを妹と思っているわ。だから、私を信じて」
やさしくそう言うと、ディアは涙を拭き、笑顔になって『はい、姉様』と答えてくれました。
生前のディアは1人娘ということもあって、同性の女性に頼ることがあまりなかったのでしょう。
私を召喚してからは、それなりに頼ってきてくれてはいましたが、戦乙女である私とはどこかで線引きをしていたと思います。
けれども、これからは同じ立場で本当の姉妹になるのですから、遠慮なく頼ってほしいです。
それにしても、そろそろ離してほしいのですが、ディアはいまだに私を抱きしめたままです。
「ディア、落ち着いたと思うからそろそろ離れて?」
『まだ落ち着いてないので離れたくないです!』
(うっ・・・)
そう言われると無理に離すのは躊躇われます。
ディアの表情を見ていると完全に落ち着いているとは思うのですが、妹が姉に甘えていると思うとかわいらしくも感じてしまいます。
まあ、少し話し辛いだけで大きな支障はないのでこのまま話すことにしました。
前世の話はしたので、その流れで私が女神様の眷属をしている理由を話すことにしました。
先ほど説明したように、10人がこちらの世界に転生してくる中に私が含まれていて、本当ならば普通に転生する予定だったが、私が自殺してしまったために普通の転生が出来なかったこと、そのために急遽、私だけが女神様の眷属として活動することになったことを説明しました。
この説明で私がもともと女神様と関わりがないことは渋々ながらも納得してくれましたが、私が女神にならないことには納得してもらえませんでした。
『姉様がもともとは女神様ではないことはわかりましたけど、それは前世の話ですよね?今の姉様は女神様の眷属には間違いないですし、女神になれない理由はないですよね?』
ディアにそう言われると返す言葉が浮かびません。
ディアが言うように、たとえ前世が人であってもあくまで前世の話で、今の私が女神様の眷属であることは変えようのない事実です。
そして、女神様の眷属であるロカがあらたに女神になることを考えると、私が女神になれない理由は今のところないのです。
「えっと、ほら!私はまだ眷属になって40年しか経ってないし、まだまだ力不足だし、私よりも女神に適している眷属が多くいるから・・・」
言い訳するようにそう言うと、ディアは抱きしめる力を強くして笑顔で言います。
『姉様、恋愛の女神様はもう姉様で確定じゃないですか?現世に降臨された唯一の女神様としてテラリベル周辺では多く信仰されているんですよ?』
ディアは笑顔でそう言いますが、私のことを大々的に布教したのはディアとロインです。
私の思い込みやテラ様の思惑などがあり、祝福を授けるために唯一現世に降臨した恋愛の女神様となっていますが、ディアやロインが精力的に布教しなければそれほど信仰されなかったはずです。
そもそも、この世界の女神様は6柱の女神様だけと人々には認識されていたのに、私が祝福を授けるために降臨したことで、現世の人々は『主となる6柱の女神様の下に多くの女神様がおられる』という認識になっているのです。
私は『恋愛の女神クエフリーネ』として信仰されてしまっているので、あらたに恋愛の女神が現れるのは人々に混乱をもたらしてしまいます。
今後、信仰内容に変化がおきるなどして、恋愛の女神の名が変化したり、忘れられたりしないかぎり、恋愛の女神は私以外になりえないのです。
そんな感じで既成事実を積み上げられているので、私もいつかは女神にならなくてはならないのだろうとは思っていますが、さすがに今すぐに女神になるのは躊躇われます。
「私はまだまだ勉強中だから現世のことをしっかり知るまでは女神となるべきではないわ」
そう、私は現世に降りて数100年生活する予定なのはテラ様の意向でもあるので、たとえ女神になるとしても、現世の生活を過ごしてからになります。
ようは問題を先送りしているってことですが、前世で一般人だった私が女神になるなんて今のところ考えられない、というか使命が重すぎて耐えられそうにないのです。
私が女神にならない理由をそう取り繕うと、ディアは微笑みを深めて得意げに言います。
『では、女神になるつもりはあるってことですね!女神になるのですから修行期間は必要でしょうけど、姉様の布教活動はしっかりした体制でおこなわれてますから、数100年もあれば今以上に信仰されると思います!』
(ちょっとまって!!)
私のことはディアとロインが中心となって布教しているから、今後の信仰は緩やかに廃れていくと思っていました。
しかし、私が思っていた以上にディアはしっかりとした体制を作っていたようで、私への信仰はしばらくは廃れることはなさそうです。
そういったディアの活動は嬉しくも感じるのですが、恥ずかしいと感じる部分もあり、たいへん複雑な心境です。
「まあ、まずはしっかり勉強することが必要よね、ディアもこれからはいろんな勉強をしてもらうことになるわよ」
後々には女神とならなくてはならないと思ってはいますが、ここで明確に宣言はしたくないので明言は避けてディアに話をふりました。
『うっ・・・確かに勉強は必要・・・ですね』
(あれ?)
勉強が必要とふられたディアは予想外に嫌そうな反応をしました。
今までそんな反応は見たことがなかったので凄く新鮮ですが、ディアは勉強が苦手なのでしょうか?
「ディア?」
『けっして勉強が嫌なわけじゃないけど、苦手なことを覚えるのはたいへんだからちょっと気後れします』
どうやら苦手な勉強をしたことを思い出してしまったようです。
私は幸運にも苦手と思うようなことはありませんでしたが、必要な知識や技術が苦手だと勉強するのは苦痛でしょう。
しかし、女神様の眷属でも苦手なことは苦手としていますし、必ず修得しなければならないことは意外と少ないのでおそらく問題はないでしょう。
ディアのことは私が担当することになるでしょうし、もし苦手なことがあったとしても私が根気よく教えればいいだけです。
「苦手なことは私が教えてあげるから大丈夫よ。お姉ちゃんにまかせときなさい」
私がそう言うと、ディアは一瞬キョトンとしましたが、嬉しそうな笑顔で言います。
『ありがとう!姉様!』
その後、お互いに気になったことを質問しあい、それぞれが知らなかったことを話して、本当に今日1日、話し合うことになったのでした。