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異世界で真実の愛を  作者: ぬっすぃ~
第二章 戦乙女として
106/113

106.最後の召喚

変わらない日々を送っていたある日、久々にディアに召喚されました。


現世に召喚されるのはディアの孫を祝福した時以来なので10数年ぶりとなりますが、現世に私を召喚しないといけないようなことは今のところ起こっていないはずなので、ディアが私を召喚する理由が思いつきませんがとりあえず召喚に応じて現世に降りることにしました。


召喚に応じて降りたところはディアの屋敷の一室で、ディアの他には、夫のロイン、1人娘のリディアナ、孫娘のディリアリーナが一緒にいました。


ディアは体調が優れないのか、ソファーに身体をあずけていて、ロインがディアを心配そうに見ているのが気になりますが、久しぶりの召喚ですし笑顔でディアに話しかけます。


「久しぶりね、ディア。久しぶりにディアの顔が見れて私は嬉しいけど、私を召喚するようなことが何かあったの?」


私がそう言うと、ディアも笑顔で返してくれます。


『お久しぶりです、クエフリーネ様。今日は私の召喚に応じていただきありがとうございます』


(ん?)


ディアは笑顔でそう言いますが、何時もよりも少し言葉が固いですし、クエフリーネと呼ぶことはほとんどなかった気がします。

最初にディアに召喚されてすぐに愛称で呼ぶ許可をしたから、ディアはリーネお姉様と呼んでくれていたはずですが、もしかしたらリディアナやディリアリーナが一緒だからキッチリとした挨拶をしたのでしょうか?


ディアの挨拶を少し疑問に思いながらも、それは表に出さずに私を召喚した理由を聞きます。


「それで、今日、私を召喚したのはどうして?現世で私が必要な問題は特に起こっていないと思っていたけど、私が知らない問題でもあった?」


私があらためてそう聞くと、ディアは笑顔を崩さずに私を召喚した理由を話してくれます。


『今日、クエフリーネ様をお呼びしたのは、私の個人的な事情になります』


ディアはそこで1度言葉を切り、真剣な面もちになってから言葉を続けます。


『今日、クエフリーネ様をお呼びしたのは、私の死期が近いことが理由です。クエフリーネ様をお呼び出来るのはおそらく今回が最後になるでしょう』


(ディアの死期が近い?)


ディアの言葉はきちんと聞いていましたが、一瞬何を言っているのか理解出来ませんでした。


ディアは私の2つ下だったから今の年齢は56歳のはずです。

この世界の人族の寿命は日本人と比べるとやや短いですが、それでも60歳よりも早く寿命を迎える人は少ないのです。

もちろんケガや病気で亡くなる人は多いですし、魔物に襲われて亡くなる人もいますので、平均寿命は日本人よりもかなり低いですが、50代で寿命で亡くなる人はかなり少ないのです。


そもそもディアは聖女として人々を癒やす力を持っていますし、ケガや病気が原因で死ぬことはないと思っていたディアが、死期が近いと言ったことを受け入れられませんでした。


驚きのあまり私が言葉を返せずにいるとディアが続けて言います。


『聖女としての力を持った私は16歳の時にクエフリーネ様を召喚いたしました。しかし、例え聖女であっても人族である私の身体には大きな負担がかかっていたのです。これは、私よりも前に戦乙女召喚を成し得たラヴェルナ様が短命であったことから、聖女となった者にだけこのことは伝えられていました』


ディアがそう言ったことで私は理解しました。


以前から懸念していたとおり、ディアは私を召喚したことによって寿命を縮めてしまったのです。

戦乙女召喚によって寿命を縮めてしまうことを知った私はディアに不用意に召喚しないように言っていましたが、根本的なところ、最初に私を召喚している時点でディアの身体には大きな負担がかかっていたのでしょう。


そもそも、人の身で女神様の眷属を召喚するということは、普通に考えてほとんど不可能に近いことなのですが、聖女という称号の恩恵を与えられた女性だからこそ成し得ることなのでしょう。


聖女という称号がどのような条件で与えられるのかは知りませんが、聖女の称号を持つ女性はめったに現れません。

私が知る限り、この世界が出来てから500年前までで3人、500年前の聖女ラヴェルナが4人目、200年前の聖女カサンドラが5人目、今現在、聖女のディアが6人目、と数100年に1人しか聖女は現れていないのです。


この世界には今までで6人の聖女がいたわけですが、戦乙女召喚を成し得たのはラヴェルナとディアの2人だけです。

まあ、それ以外の聖女が戦乙女召喚を必要としなかった可能性もありますが、めったに現れない聖女でも3人に1人しか戦乙女召喚を成し得ていないのです。

そのことからも戦乙女召喚自体がたいへんな偉業であることがわかります。


そんな偉業をなんの対価もなく成し得れるはずがないのです。

そして、その対価がおそらく聖女の寿命ということなのでしょう。


ディアは聖女が戦乙女召喚をおこなうことで寿命が短くなることを知っていても、人々を魔王の手から救うべく戦乙女召喚をおこなったのです。

人々のために自分の寿命を差し出すことが出来る、そんな女性だからこそ聖女の称号が与えられるのでしょう。


そんなディアになんと言葉を返せばいいのか思案しましたが、まずは労いの言葉をかけることにしました。


「そうなのね、ディア、これまでご苦労様でした」


そして1度言葉を切り、聖女ディアンヌ・ランシールとして私を召喚した偉業を讃えます。


「ディアンヌ・ランシール、あなたは人々を守るために、自分の寿命を縮めることを知りながらも私を召喚して魔王討伐に尽力し、さらに傷ついた人々を癒やしてまわるなど、聖女の名に恥じない活動をしたことをテラ様の眷属たる私、クエフリーネがあなたの偉業を賞賛いたします」


私がそう賞賛すると、ディアは恭しく頭を下げます。


『ありがとうございます。クエフリーネ様に賞賛していただき、これまでの人生が間違いではなかったと胸を張って女神様の御許に向かうことが出来ます』


私の賞賛を受けたディアはそう言葉を返しましたが、その言葉は自分の死を受け入れている内容でした。


ディアが亡くなってしまうことは悲しいですし、繋がりが無くなってしまうことに寂しさを感じますが、現世の人々には寿命があるのでそれは仕方がありません。


それにテラ様の眷属である私がそんな態度を表に現してしまうと問題があります。


ディアは近々亡くなってしまいますが、それは女神様の御許に向かうということでもあるので、テラ様の眷属である私の立場的には喜ばしいことととらえないといけないでしょう。


その後、ディアが2人で話がしたいと言うので、ロイン、リディアナ、ディリアリーナにそれぞれ別れの言葉をかけました。

ロインとリディアナは私と面識があるので、恭しくも落ち着いて言葉を交わしましたが、ディリアリーナは初めて私と対面するようなものなので、凄く恐縮していました。


ロイン、リディアナ、ディリアリーナの3人が退出すると、表情を柔らかくしたディアが話しかけてきます。


『リーネお姉様、私のワガママにお付き合いいただきありがとうございます』


2人だけとなったことで、ディアはいつものように愛称で呼んでくれました。

ディアが愛称で呼んでくれたことで、ディアに慕われていることをあらためて実感します。


「ふふ、ディアにクエフリーネ様なんて呼ばれるとは思っていなかったから少しびっくりしたけど、ディアのワガママならなんでも聞いてあげるわよ」


私がそう言うと、ディアは嬉しそうに笑い、あらためて言います。


『私はリーネお姉様を召喚したことによって寿命を縮めてしまったことを後悔しておりません。リーネお姉様を召喚したからこそ、自分らしい生を謳歌出来たと思っています。ですから、私がリーネお姉様を召喚したことで寿命を縮めてしまったことを悲しまないでください』


悲しく思っていたことは表情に出していないつもりでしたが、どうやらディアにはわかってしまったようです。

そうでなければわざわざそんなことを口にする必要はないでしょう。


ディアに返す言葉が思いつかずに思案しているとディアは言葉を続けます。


『それに、リーネお姉様が私のことを気にかけてくださったおかげで、私は思った以上に生きることが出来ました。知っていますか?リーネお姉様。私と同じように戦乙女召喚を成し得た聖女ラヴェルナは48歳で亡くなっています。しかし、私は56歳まで生きることが出来たのです。それは偏に、私のことを気にかけてくださったリーネお姉様のおかげなのです』


ディアの言葉で私が気にかけていたのが無駄ではなかったことがわかりましたが、やはり寂しい気持ちは募ります。

ディアとは長い年月を共にしていたわけではないですし、形式上は聖女と戦乙女という関係でしかありませんが、お互いにそれ以上の感情があるのです。


ディアは私のことをリーネお姉様と呼び、2人だけの時は本当に姉と接しているように気さくに話しかけてくれたし、私もそんなディアを妹のように感じ、話をするのはとても楽しかったのです。

そんなディアのことを気にかけるのは自然なことで、それが少しでもディアのためになっていたのならばそれは嬉しいことです。


ディアとの別れは寂しいですが、悲観的な態度をとるのは違うような気がしますし、明るく言葉を返します。


「私がディアのことを妹のように思って気にかけたのは無駄ではなかったのね」


私がそう言葉を返すとディアは笑顔で言います。


『ありがとうございました、リーネお姉様。私は悔いを残さず人生を謳歌出来ました、と言いたいところですが、ただ、1つ残念なことがあります』


今までの態度から、ディアは人生に悔いを残していないと思っていましたが、1つだけ後悔があるようです。

どのような後悔を残しているのかはわかりませんが、私がなんとか出来ることなら対応するので悔いを残さずに女神様の御許に向かって欲しいものです。


「ディア、私になんとか出来ることならいくらでも言っていいわよ」


私がそう返すと、ディアは嬉しそうに言います。


『リーネお姉様ならそう言ってくださると思っていました』


そう言ったディアは1度言葉を切り、あらためて言います。


『私が残念に思っていることは、私がリーネお姉様の本当の妹ではなかったことです』


ディアが残念に思っていることは予想がつきませんでしたが、まさか私と本当の姉妹でなかったこととは思いませんでした。

しかも、これは今更どうこうしようがありませんし、ディアが悔いを残さずに女神様の御許に向かうのは無理になってしまいます。


「ごめんなさい、ディア。そう言ってくれることは嬉しいけど、それは私でもどうすることも出来ないわ」


私はそう答えるしかありませんでしたが、ディアも無理なことを言っている自覚はあるようで、落ち着いて言葉を返してきます。


『リーネお姉様に無理を言うつもりはありません。ただ、悔いを残さないためにリーネお姉様に1つお約束していただきたいのです』


悔いを残さないために私が出来ることならなんでもするつもりでしたし、どのような約束かはわかりませんがもちろんしっかり約束しましょう。


「わかったわ、私はなにを約束すればいいの?」


私の返答を聞いて、ディアは私との約束事を話してくれます。


『私の次の生、来世でもし、ダークエルフに生まれることが出来たら、今度こそリーネお姉様の本当の妹にしていただきたいのです』


ディアが私に約束して欲しいことは確かに悔いを残さないための約束でしたが、私の本当の妹になるためにダークエルフとして生を受けたいなんて、私は本当にディアに慕われているのだとあらためて思います。


しかし、ディアが来世でダークエルフとして生を受けることが出来るかはわかりません。

ディアもそのことはわかっているのでしょうが、悔いを残さないために私とそのような約束をしたいのでしょう。

もちろん私がその約束を断る理由もありませんし、しっかりディアと約束を交わしましょう。


「わかったわ、ディアが来世でダークエルフとして生を受けたならば、私の本当の妹とすることを約束します」


私がそう宣言するとディアは嬉しそうに言います。


『リーネお姉様、言質はいただきました。私はこれで悔いを残さず女神様の御許に向かうことが出来ます』


ディアの人生は波乱万丈と言える人生だったと思いますが、私が約束することで悔いを残さずに女神様の御許向かえるようです。


約束のこともありますし、笑顔でお疲れ様と労い、再会出来る言葉で別れたいと思います。


「お疲れ様、ディア。また、いつかどこかで会えることを祈ります」


『リーネお姉様、ありがとうございました。近々お会い出来ることを祈っております』


そう言葉をかけあってディアと別れました。


ディアと別れた5日後、ディアとの繋がりが切れたことを感じ、ディアが亡くなったことを知ったのです。

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