103.知らなかったこと
アティと共に行動するのが日常となったある日、アティが部隊の活動をすることになっていたので私は1人で魔法の練習をしていました。
アティのおかげで錬金術のレベルが上がり、ここ最近はポーション作成ばかりしていたのですが、魔法の集束が実用レベルになっていないことを思い出し、久しぶりに魔法の練習をすることにしたのです。
集束させた魔法がステータスに反映されないのが不思議でしたが、よく考えるとテラ様はライトニングとして集束させた魔法を発動されたわけですから、魔法を集束させても新しい魔法とは認識されないということなのでしょう。
ステータス関係なのでイニティニーニ様に確認すればちゃんとしたことがわかると思いますが、イニティニーニ様が早口でまくしたてるように話されるのがちょっと苦手でいまだに確認していません。
そんなわけで魔法の集束を中途半端にしておくのもモヤモヤするので訓練場で魔法の練習をしていたのですが、そんな私のもとにイニティニーニ様がやって来られました。
(あっ、魔法を集束させるのはマズかったのかも・・・)
魔法の集束を練習している時にイニティニーニ様が来られたので、怒られるのではと心のうちでドキドキしているとイニティニーニ様が話しかけてこられます。
『クエフリーネちゃん、ちょっとお話があります』
しかし、そう言われたイニティニーニ様は、怒られているというよりは呆れられているように感じました。
私は心のうちを表に出さないように返答します。
「イニティニーニ様、どんなお話ですか?」
『わかってるでしょ?今クエフリーネちゃんが練習してることよ。あらかじめ言っておくけど魔法の集束は人では出来ないし普通の眷属にも出来ないからステータスには反映させられないのよ。魔法の集束は並列思考などが出来ないと無理だからほんとは神にしか出来ない技術になるけどクエフリーネちゃんは並列思考を取得しているから完全ではないけど魔法の集束が出来てしまうけど問題はそこじゃない。テラ様がどうお考えかはわからないけどこのまま能力を覚醒させていくとクエフリーネちゃんは否応なしに神に成らざるを得なくなるってことよ。私はクエフリーネちゃんが神になってくれると嬉しいけどクエフリーネちゃんはそんなつもりはないでしょ?』
「えっ?」
てっきりイニティニーニ様は魔法を集束させたことを注意しに来られたと思っていましたが、どうやら私のことを気にして話をしに来られたようです。
しかし、このまま能力を覚醒させていくと神に成らないといけなくなるとはどういうことでしょう?
『はあ、やっぱり。クエフリーネちゃんはいろいろとわかってないみたいだから教えてあげるけど無からなにかを生み出すことが出来るのはテラ様だけなのはわかるわね。私はこの世界の女神として生まれたけど私もテラ様によって生み出されているからテラ様の眷属であるクエフリーネちゃんと私は姉妹みたなものだし今は制限されてる能力が覚醒していけば私達と同じだけの力を持つようになるからそうなれば現世で生活することは難しくなるから必然的に神として世界を管理することになるのよ』
私が神になる理由を理解していないだろうと、イニティニーニ様は説明してくださいますが、いろいろと初耳なことばかりです。
話を聞いて私が困惑していると、イニティニーニ様は続けて言われます。
『クエフリーネちゃんは聖女に召喚されてるでしょ?おそらく次の召喚で千里眼を取得するはずだから千里眼を取得したら必然的に神眼を取得することになるけど神眼は神が使うスキルで普通なら眷属が取得することはないのだけれどクエフリーネちゃんはテラ様の眷属だから神眼を取得出来てしまうからそうなるとクエフリーネちゃんは眷属の段階で神が使う並列思考と神眼を取得していることになるのよ。もちらん今のまま能力を覚醒させていったとしてもクエフリーネちゃんがすぐに神になる必要はないけど今のペースで能力の覚醒を続けていけば数100年もすれば制限されている能力のほとんどを覚醒させてしまうと思うからちょっと心配なのよ』
イニティニーニ様が続けて言われたことで、なんとなくですが理解出来ました。
テラ様の眷属である私は、本当ならばイニティニーニ様のように女神となる力を持っていますが、ある程度能力を制限されているから眷属に留まっていると。
このことに関しては以前にテラ様から聞いていたので、私に女神になるだけの力が備わっていることは知っていましたが、制限されている能力が覚醒していっているとは思っていませんでした。
そして、私が意図せず並列思考や神眼といった神の能力を覚醒させていくことで、私の能力が眷属の範疇に収まらず、必然的に神に成らざるを得なくなってしまう、ということのようです。
イニティニーニ様の目算では、私が今のペースで能力を覚醒させていくと、数100年で神に成らざるを得なくなるということのようですが、1年後のことすら考えていないのに数100年後のことなんて考えようがありません。
そもそも、どんな能力が制限されているのかもわからないので意図的に能力の覚醒を押さえるなんて出来そうにありません。
イニティニーニ様が私のことを心配して話をしに来られたのはたいへんありがたいのですが、お話を聞いたからといって対策を考えて行動を変えることは出来ないでしょう。
「イニティニーニ様、お話は理解出来ましたが、私には制限されている能力がわかりませんし、能力を覚醒させないように行動するのは難しいと思います」
私がそう返答すると、イニティニーニ様はため息をついてから言われます。
『はあ、クエフリーネちゃんはそのへんのことがわからないから変なことをして能力を覚醒させてしまってるんだと思うけど思いついたことをなんでも試そうとするクセをどうにかしないと難しいのはたしかよ。制限されている能力を今教えると逆効果になりそうだから教えないけど魔法の集束も並列思考だけじゃ出来ないしこのまま練習して完全に魔法の集束が出来るようになるともう1つの能力も覚醒させてしまうのよ』
イニティニーニ様にそう言われて気がつきましたが、たしかに思いついたことはなんでも試してしまいますし、クセと言われればクセなのでしょう。
しかし、特別変なことを思いついて試しているつもりはなく、普通の感覚のつもりなので強く意識していないとつい試してしまいそうです。
魔法の集束は並列思考ともう1つの能力があってやっと完全におこなえるようですが、私がこのまま魔法の集束の練習をしているともう1つの能力を覚醒させてしまうので、これ以上は魔法の集束を練習しないほうがいいということになります。
しかし、逆に考えると後数100年は大丈夫ってことなので、今新たに能力を覚醒させてもたいして変わらないのではないでしょうか?
正直なところ、魔法の集束はもう少しで実用レベルになりそうな気がするので、新たに能力が覚醒することは見なかったことにして魔法の集束を完全にしたい気持ちが強いのです。
もしかしたら怒られるかもしれませんが、新たに能力を覚醒させることは受け入れて、魔法の集束を完全にするために練習することを容認してもらえるようにお願いしたいと思います。
「イニティニーニ様、今回は新たな能力の覚醒を妥協して魔法の集束を完全に出来るようにしたいと思っていますが、練習してはダメでしょうか?」
私がそう言うと、イニティニーニ様は私をキッと睨まれました。
(あ、やっぱり怒られるわよね・・・)
私をキッと睨まれたイニティニーニ様はため息をついて、諦めたように話されます。
『はぁ、正直に言うとクエフリーネちゃんはそんなことを言うかもって思ってたけど本当に言うからなんとも言えないわ。能力の覚醒についてはクエフリーネちゃんがどうするか決めればいいし私が能力が覚醒しないようにしろとも言えないから自己判断に任せるけど新しいことを試す時は誰かに相談はしたほうがいいわよ』
どうやらイニティニーニ様は私が能力を覚醒させないように注意されているわけではなく、私がそのへんのことを理解していないから心配して話をしに来られただけのなのでしょう。
能力の覚醒はあくまでも私個人のことなので、イニティニーニ様でもどうこう言えることではないようですが、そうなると私はテラ様の眷属なので、能力の覚醒のことはテラ様に確認したほうがいいような気がします。
「わかりました。能力の覚醒のことはテラ様に確認したいと思います」
『ええ、1度テラ様の考えを聞いてみたほうがいいから』
やはり能力の覚醒のことはテラ様に確認したほうがいいようなので、魔法の練習を中止してテラ様に確認しましょう。
そういえば、イニティニーニ様は次にディアに召喚されると千里眼を取得してしまう可能性が高いと言われていましたが、千里眼を取得する条件はどうなっているのでしょう?
「イニティニーニ様、千里眼の取得条件はどうなっているのですか?」
『千里眼の取得条件はいろいろあるけどクエフリーネちゃんの場合は召喚回数が当てはまるからおそらく10回目の召喚で取得するはずよ』
てっきりもう少し複雑な取得条件があると思っていましたが、私の場合は召喚回数で取得条件を満たしてしまうようです。
今までに召喚された回数は数えていませんが、確かにそれほど多くは召喚されていないので次の召喚が10回目になるということなのでしょう。
単純な召喚回数で取得してしまうのなら、千里眼を取得しないようにするのは無理でしょうし、千里眼のことは妥協するしかありません。
とにかくテラ様に能力の覚醒のことを確認してから、今後どうするかを考えないといけません。
「イニティニーニ様、ありがとうございます。まずはテラ様に確認します」
『そうなさい。じゃあね、クエフリーネちゃん』
イニティニーニ様はそう言われて天界に戻られましたので、私もテラ様に確認しに天界に向かうことにしました。