1.プロローグ
私、岡崎燐子は今、人生のどん底にいる。
生まれは地方の少し大きな都市で両親と弟の4人家族。
特別裕福と言うわけではないがそこそこ幸せな生活を送っていた家族に悲劇が起きたのは私が小学校6年生の夏だった。
その日は家族で海に出掛けるべく父の運転で自動車を走らせていたところセンターラインをはみ出してきたトラックと正面衝突、奇跡的にかすり傷ですんだ私以外の両親と弟が亡くなった。
両親と弟を亡くし1人では生活出来ない私は祖父に引き取られ田舎に引っ越す事になった。
田舎の祖父はいわゆる偏屈爺で合気道の道場を開き子供に合気道を教えていたが日頃の暴言や指導と言う名の暴力によって弟子は1人しかおらず私も必然的に合気道を習わされる事に。
家族を亡くし今まで接点の無かった祖父との生活に慣れず鬱になりかけた私を救ってくれたのは弟子で1つ上の谷澤祐也だった。
私は祖父の話が難しく度々祐也に説明を求め何時からか祖父の話は祐也が説明してくれる事が常になった。
そうした生活を続けると必然的に祐也と話す事が多くなり私はその頃から淡い恋心を抱くようになる。
中学校に入ると『武術系の部活に入れ』と言う祖父の言葉と剣道部だった祐也を追い剣道部に入ろうとしたが女性は薙刀部しかなく仕方なく薙刀部へ。
高校は祐也と同じ高校に進学して祐也は剣道部、私は弓道部(武術系の部活がこれしか無かった)に入り家では祖父から合気道を習うという生活が続いた。
この頃になると2人は兄妹のような恋人のような不思議な関係になっていた。
高校を卒業した祐也は剣道を続けるべく大学に進学し私はいろいろな資格を取りたいと思い短大に進学した。
田舎に引っ越して来てからずっと一緒だった祐也と違う道に進む事になったが2人共お互いを想い新しい事にチャレンジしていた。
それから2年が過ぎ私がそろそろ短大を卒業するって時に祖父が亡くなった。
前触れもなくポックリと。
初めは悲しくはなかった。
ただ、祖父を亡くし天涯孤独となって呆けてしまっていたと思う。
そんな私に祐也は『僕が一緒に居るから』と言って慰めてくれた。
私は祐也のおかげでなんとか鬱にならずに済んだ。
なんとか祖父の死をのりこえ2人共に無事就職し日々仕事に追われる生活を送っていたある日、祐也に『大事な話があるから』と言って呼び出される。
待ち合わせ場所に着くといつもと違い少し緊張したお持ちの祐也が待っていた。
何の話かたずねるととりあえず場所を移動すると言うので付いて行くと祖父の道場だった。
そこで祐也は『あの日、燐子に言った言葉は僕の本心だ。僕と婚約して欲しい』と言って指輪を出してきた。
私は「謹んでお受けします」と笑顔で応えると祐也は安心した笑顔になった。
この日から3日後に祐也は消えた。
最初はちょっとしたトラブルだと思った。
突然祐也の携帯に連絡が着かなくなったのだ。
メールを送っても帰ってくるし電話をかけても番号が存在しないと言われる。
心配になって祐也の母に連絡を入れると『誰の事を言っているの?』と言われた。
意味が分からず慌てて祐也の家に行くと『祐也なんて子は居ない』と家族全員が答え祐也の部屋だった場所は何もかもが無くなってガランとしていた。
本当に祐也の存在そのものが消えていた。
祐也の職場や共通の知人に連絡を取ってみたが誰ひとり祐也の存在を知ってる人が居なかった。
祐也の存在が消えてしまった理由は分からないけど1つだけ分かることがある。
それは「私は天涯孤独になってしまった」という事だ。
そう思うと私はとても正気ではいられずフラフラとさ迷うように歩き、そして電車に飛び込んだ。