その8 至高の調味料
それがマヨネーズ
二年三組担任・佐島幸雄。五時限目が始まり教室に入ったところで、まだランチタイムの片付け中だった生徒たちを見てピンときて、ホワイトボードに残された文字を見て呵々大笑した。
「で、結論は?」
「出ませんでした」
「それは残念だったな」
「消化不良っすー」「肉系は基本合うよね」「魚もでしょ」「米、麦、トウモロコシ。主食系も合うよね」「漬物は意外だったな」「攻めるならデザート系?」「ドーナツは?」「あんこ系は?」
相当に消化不良だったのだろう、すでに授業が始まったというのに、生徒たちは熱く議論を続けている。これはもう授業に身が入らないか、と佐島は肩をすくめた。
「佐島先生はマヨネーズお好きですか?」
お料理大好き・平山が、担任・佐島に尋ねた。
「マヨネーズお好きですか、ねぇ」
生徒の問いに、担任・佐島は不敵な笑みを浮かべる。
「文学部史学科に籍を置き、各国の料理史を研究したこの私に、その質問をするか?」
え、なに、どゆこと? と生徒がざわめく中、佐島は振り返ってペンを取り、ホワイトボードにかつてない熱意を込めて大書した。
『至高の調味料・マヨネーズの誕生と世界への伝播について』
「小童どもよく見やがれ! これが私の卒論のタイトルだ!」
おおおっ、と生徒がどよめく中、佐島は腕組みをしてふんぞり返った。
「この佐島幸雄、マヨネーズにかける情熱は誰にも負けん! よーしいいだろう、今日の授業は特別講義だ、マヨネーズのなんたるかをたっぷりと語って聞かせてやろう!」
「「「イェーッ!」」」
「いい返事だ! 真のマヨラーのなんたるか、その真髄を見せてやる! お前ら、最後までついてこい!」
こうして、佐島幸雄の熱血授業が幕を開け、この世に新たなマヨラー二十八名を生み出すことになるのだが、それはまた別の物語である。
これにて一件落着……ですよね?
<参考文献>
『マヨネーズ大全』カベルナリア吉田著/株式会社データハウス