その7 愛の味
ふぁいなるあんさー
「最後は健くん」
廊下側最後尾の席にいた小柄な少年、見習い人形作家・和井田健。何を隠そう議長役のお姉ちゃん・高橋の彼氏である。
「うーんと、チョコレート、かな」
「あ、デザートに入れてたね」
あーそうかよ、お前も彼女の手作り弁当かよ、と突っ込みたい衝動を抑えつつ、採決。
イエス・30、ノー・3。
「おおっ、初めてイエスが三十超えたぞ!」
「マヨラーでもだめなのか?」
注目を浴びるマヨラー四人。そのうちの一人、お料理大好き・平山が「ごめん」と手を挙げた。
「チョコはチョコでも、フォンダンショコラだもん。さすがにちょっと」
「あ、そうなの?」
「それはちょっと……かも」
他の三人も「それなら」という顔である。
だが、実際はどうなのか、ここは試さねばならない。
「では実食を」
「えー……このまま食べたいですよぉ」
常に泰然自若としている和井田だが、さすがにこれは躊躇していた。さもあらん、そのまま食べれば美味しいとわかっているものを、なぜにゲテモノにしなければならないのか。
そこへ、「るん♪」という感じで、マヨネーズを持った高橋がスキップで近づいていく。
「えいっ」
うにっ、とフォンダンショコラにマヨネーズ。
「はい健くん、あーん」
「……由紀さん?」
「あーん♪」
「えーと……」
「はい、あーん♪」
「この野郎見せ付けやがって」と思う反面、「高橋ってひょっとしてS?」という疑惑が広がっていく。そんな中、「たはは」と困り顔の和井田だったが、仕方がない、と口を開いた。
「えい」
「ん……」
高橋が放り込んだフォンダンショコラ+マヨネーズを、和井田がぱくりと口に入れる。
はむはむはむ……ごくん。
「……マヨネーズの酸味が意外と合う、新食感ですね」
「ええっ、マジ!?」
「オレンジソース入ったチョコとかありますよね。酸味がそれに似ている気も……」
いやいや、マジか。誰もがそう思う中、一人高橋が嬉しそうに笑う。
「えへへっ、愛の味だね!」
──なあ、高橋ってああだったか?
浮かれて笑う高橋を見て、誰もが近くのクラスメイトと目を合わせた。晴れて彼氏彼女となって公然とイチャイチャできる、それがもう嬉しくて仕方ない、という感じだ。
なんていうか、もう、やってらんない。
クラスメイトの大半がそんな気分になったところで、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
いや意外とね、イケますよ(実話)