その4 K vs A
Qではない、Kなのです
挙手したのはドSお嬢様・佐々岡陽菜。今日もどこかの誰かが貢いだお弁当を優雅に食べている。
「一人一人がマヨネーズと合わなそうなものをあげて、イエス・ノーで採決。シンプルでしょ?」
「いいですねー。さすがは白黒はっきりつける女、ひなちゃん! みんなもそれでいい?」
お姉ちゃん・高橋の問いに、全員が「いぇす!」と答えた。
「では、さっそく窓際の方から……」
「ちょぉっとまったぁ!」
その時、一人の男が手を挙げた。
「はい、相川くん」
サッカー部の万年補欠・相川陽一。立ち上がった彼は「重要なことが決められていない」と熱い口調で訴える。
「なんでしょう?」
「隠れマヨラーとして言わせてもらう。どのマヨネーズと組み合わせるのか、それを決めないとダメだ!」
「はい?」
高橋を始め多くのクラスメイトが首をかしげる中、マヨラーの四人が「そうだった!」と声を上げた。しかしなぜ隠れマヨラーなのか意味がわからないのだが、ささいなことなのでまた後日とする。
「優香ちゃん、どゆこと?」
「マヨネーズは、メーカーにより味の違いがあるの」
卵黄のみを使ったコク重視か、全卵を使ったマイルド派か。もちろん合わせる油も違ってくる。植物性の油ならばサラダ油、菜種油、オリーブ油、紅花油と様々な種類があるし、酢だって米酢、ワインビネガーと挙げればきりがない。大手メーカーの他に、地方では小規模ながら色々なマヨネーズが作られているし、これに外国産も入れれば選択肢にキリはない。
「でもまあ、悩むことないっしょ。ここは誰もが知ってるマヨネーズで」
「そうよね」
そう言ってバイト大好き・宇田とゲーム大好き・河合が立ち上がり、持参したマイ・マヨネーズを教卓に置く。
「やっぱキュー〇ーっしょ」
「ここは味の〇一択ね」
お互いに、相手が置いたマヨネーズを見て眉をひそめる。
「おや?」
「あん?」
そして、メンチの斬り合いが始まる。
「こらこら河合ちゃん。それはマヨラーとしてどうかね? 日本のマヨネーズの元祖にして原点。このマヨネーズなくしてマヨラーは誕生しなかった。誰もが愛するマヨネーズといえばキュー〇ーっしょ」
「やだなあ宇田ちゃん。キュー〇ーが元祖なのは認めるよ? でも、だからと言って味が一番とは言えないでしょ? 卵感はこっちが上。飽きのこないマヨネーズといえば味の〇よ」
これはまずい、とクラスメイトの誰もが思った。愛好家だけに思い入れは強く、ここはお互いに譲れない。まさに「絶対に負けられない戦い」であり、ガベルではなくゴングが鳴りそうな雰囲気である。
どうするよ、どうしよう、誰かなんとかしてくれ。
今まさに始まろうとしている戦いにクラスメイトは恐れ慄き、この事態を唯一打開できるであろう守護神に視線が集まった。
そう、テキヤの娘にして名議長と名高い、来賀誠である。
「……ったく」
今回は絶対に関わらんぞ、と静観していた来賀だが、クラスメイトの視線を一身に受け、教卓を挟んで一触即発の二人を見て、しゃあないな、と深呼吸する。
「全員、用意! 合図とともに叫べ」
来賀が一喝。
「マヨネーズといえば!」
「「「キュー〇ー!!!」」」
「決まりだ」
刷り込みとは誠に恐ろしい。とっさに言われて真っ先に思い浮かぶのは、やはりキュー〇ーだった。日本人のDNAに刷り込まれた、世界に誇るキング・オブ・マヨネーズ、その製造元に拍手を送ろう。
「うんうん、やっぱそうだよね」
「うう……美味しいんだもん、味の〇の方が美味しいんだもん」
勝ち誇る宇田と、涙を流す河合。
これが、後に「最強マヨネーズ大論争」と呼ばれる、学校中を巻き込んだ大議論へと発展する事件の始まりであったが、それはまた別の物語である。
絶対議長・来賀