その1 お弁当タイム
雨天中止でした
十一月某日。
登校時間はもっていたのだが、八時二十五分の予鈴とともに雨が降り出し、遠足という名の片道十キロのハイキングが中止となった。
「えーもー、楽しみにしてたのにー。雨でもいいから行こうよー!」
「勘弁してよ。このクソ寒いのに」
体操部所属の省エネ少女・岡部美也が愚痴った以外、誰もが中止の決定に胸をなでおろした。
この寒い中、十キロも歩けるか。
これが現代っ子たちの嘘偽らざる本音である。
ちなみにこれが大人になると「運動不足解消できると思ったのになー」という、ある意味切実なものとなるのだが、まだまだ若い彼らには想像すらできない境地である。
そんなわけで、ジャージ姿のまま、ハイキングの代わりに授業を受けて午前が終わり。
そして、楽しい楽しいお昼休みとなった。
遠足の予定だったゆえ、本日は誰もがお弁当である。「母親が作ったもの」もしくは「自分で作ったもの」が大半を占める中、「彼女が作ってくれたもの」(三組)、「彼氏が作ってくれたもの」(一組)という少数派はお弁当自体が楽しいイベントだった。
「あ、なにそれおいしそう」「実はお母さんに手伝ってもらっちゃった」「おかず交換しよー」「あっ、取るな!」「え、あんたおにぎり一個?」「はい、あーん」「あーん」「僕のも食べて」「いただこう」「さあ食べたまえ」「ちょっ、お重三段!?」
わいわいと楽しい会話とともに食事が進む。
だが、そんな雰囲気の中で、事件は確実に起ころうとしていた。
「相沢、お前、おにぎりにマヨネーズかけてんの?」
文芸部・相沢桃が、おにぎりにウネウネとマヨネーズをかけているのを見て、演劇部・坂藤海斗が声をかけた。
「まーね。私、マヨラーなんだ」
文芸部・相沢が答えると同時に、その周囲にいた女子が「マイ・マヨネーズ」を見せつけ、「にひぃっ」と笑顔を浮かべた。
「今日はお弁当でマヨラーの親睦会を開く予定だったのだよ」
「うまいよー、食べる?」
女子に誘われ思わず相好を崩した演劇部・坂藤。だが残念ながら今日の彼のお弁当は稲荷寿司である。
「さすがに稲荷寿司にマヨネーズは合わないんじゃね?」
「そう? 合うと思うけど?」
「ま、ものは試し。ほれ」
「おう」
相沢が「うにっ」と稲荷寿司にマヨネーズをかけた。それを恐る恐る口に運んび、もっしゃもっしゃと咀嚼して飲み込んだ坂藤は、ごくんと飲み込んだあと笑顔を浮かべた。
「おおっ、意外といける」
「でしょ?」
「マヨネーズは万能調味料なのよん」
キャッキャウフフと笑う若い男女たち。なんという微笑ましい光景。なんという羨ましい光景。
しかしその微笑ましくも羨ましい光景は、次の一言で破壊されることになる。
「なあ、マヨネーズに合わない食べ物って、あるのか?」
あっ……