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認識し得ざる奪取

 ここまで読んでくれた読者は少し僕のことをおかしなヤツだと思っただろう。

 初対面の、それも異世界から来たなんて言う少女に対して、いきなり自分の家を使ってくれというヤツがあるか、と。


 何故か僕は、サダメという少女のことを異世界の姫だと信じて少しも疑わなかった。

 これは、僕がマヌケだからだとか騙されやすいからだとかそういうことではない。

 彼女が僕の家を人間界での生活の拠点とすると決めた後、その訳を話してくれた。


「その……1ついいだろうか」


 神妙な面持ちで彼女は切り出した。


「何かな?」


「実は……私は既にあなたの運命の一部を貰っているんだ……」


「えっ?」


 僕は耳を疑った。

 そんな素振りは一切なかったし、運命を奪われたという自覚も一切ない。


「あなたが私を呼び止めた時、あなたが私を『信用しない』という運命をかすめ取った……。

 黙っていてすまない」


 僕は、無意識に持っていた疑問に答えが出たと気づいた。

 僕は、なぜこの子をここまで信用できたのか。

 それはそういう運命が決められていたからだったのだ。


「……驚いたよ。

 全く気づかなかった。」


「あなたが私を呼び止めた時……少し私に対して心が開かれたのを感じ取った。

 その時に少しだけ貰うことができたんだ」


 不意に、疑問がもう1つ浮かんできたので、それを聞いてみる。


「運命を貰う時は……何か特別な動作とかは必要ないのかい?」


「ああ、ない。

 私は認識した運命を選別し削り取るようにそれを貰っている

 で、でも!ちゃんと承諾を得て貰うことを主としているから、安心してほしい……」


 彼女がバツが悪そうな顔になり、縮こまる。

 確かに強引な手段だったし、後出し的ではあるが、僕はあまり気にしてはいなかった。


「君は、君のいる世界を救いたいんだろう?

 それなら少しくらい強引でもいいさ」


 それに、君を信じれたおかげでこんな面白そうな世界を知ることが出来たわけだし。


 そんなことを話していると、何かの唸り声のような音が部屋に響いた。

 彼女の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「あ……そ、その……実はこの世界に来てから何も食べていなくて……」


 彼女は真っ赤な顔でそう言った。


 ところで、僕は料理というものを人並みにできるつもりだ。


「それじゃ、ご飯にしようか」


「い、いいのか?」


 彼女がまた少し驚いた表情になった。


「当たり前だよ。

 今日からこの家を使ってもらうんだから、ご飯くらい用意するさ」

 

 すると、彼女はぽろぽろと涙をこぼした。

 僕がびっくりして、その訳を聞くと、『僕があまりに優しいから』だと。


「こんなによくしてもらったのは、この世界に来てから初めてだ」


 すると、2回目の腹の音が部屋に響いた。

 僕は急いでご飯を作りに台所へ行く。


 さて、この日のメニューはオムライスだ。

 僕は子供の頃からこれが好きで、よく作っているのだ。


 完成したそれを彼女のもとへ持っていくと、彼女はその大きな目を見開いてキラキラとさせていた。


「こ、これは……」


「オムライスっていうんだ」


 多分知らないであろう彼女に、それが何であるかを説明すると、さらに目を輝かせていた。

 そして、それを1口食べると驚愕の表情を浮かべた。


「こんな美味いものは初めて食べた!」


「ふ、普段はどういうものを?」


「……運命界の食べ物は、本当にエネルギー摂取のためのものであって、何か味があるわけでもない」


 どうやら運命界の食文化は、無味乾燥なものらしい。


 この日はこの後特に何をするでもなく眠りについた。


 しかし、次の日に事件が起ころうとは、夢にも思っていなかった。

 そう、彼女の本当の戦いは、この次の日から始まるのだ。

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