表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

チート魔王はハーレムを作らない

魔王なのに純真で、魅了持ちなのにハーレム嫌いな男の子

コツッ、コツッ。

控え目なノックが廊下に響く。


青白い肌と銀髪、赤い目をした男が黒装束を身にまとい、捕虜の部屋の前に立っている。

部屋の中の様子は伺えないが気配が動き、ややあって返事が届く。


「どちら様でしょうか?」


凛とした女性の声だ。魔王の住む城に囚われているというのに悲壮感を感じさせない。

男はほっと息を吐き身じろぎをして答える。闇色の鎧が軽く軋んだ。


「……俺です」

「俺さんという方は、寡聞にして存じ上げないのですが」


少し微笑んで困った様な顔をすると男は言葉を返す。


「俺です。魔王サタルチアです」


魔王サタルチアと名乗った男は、もともとこの世界の住人では無い。

元は異世界に住んでいた普通の人間だった。それが何の因果か魔王の身体に転生を果たしている。

そのため自分で魔王と名乗るのにまだ慣れず、幾ばくかの覚悟を要する。


「まあ、魔王とあろうお方が、私に何のご用でしょうか?」

(分かってる癖に……)


サタルチアは小声で愚痴をこぼした。

彼は彼女の部屋へ日参しているのだ。

その度に扉越しに同じ様な会話をしているのだから、用向きも分かるというものである。


「今日こそは色よい返事を貰えるものと思い、参ったのです」

「何の返事をすれば良いのか分かりかねます」

「俺の……俺のものになって欲しい」

「私は捕虜となった身ですので、分別はわきまえています。

 他の妾や性奴隷達と同様に扱えば良いではないですか」

「難儀な事を言わないで下さい、俺は女を知らない身です。妾や性奴隷など居ようはずも無い。

 恋を司る女神ならわかるでしょう?」

「私、魔族は管轄他ですもの」


美と恋の女神、豊穣と子宝の神、大地母神、最高神。

彼女を言い表す言葉はいくつかあるが、もっとも単純で世に知られた名といえば女神アクレイアだろう。

神の住む島ミトロージアの主にして、この世界を造ったと言われる主神。神の軍団の長であり、魔王と敵対する存在。

その神のトップである女神アクレイアは魔王サタルチアに捕えられ、彼の城に幽閉されているのだ。


「恋の女神なのに、魔族と女神の縁結びは出来ないんですか?」

「無理矢理連れて来られ、閉じ込める様なお方に抱く恋心は持ち合わせておりません」


アクレイアの対応に少し言葉遣いが荒くなる魔王だったが、彼女の反応は変わらなかった。

鳥つく島も無し。もとより高嶺の花なのだ、すんなり事が運ぶ事はない。

ましてや女神から見ればサタルチアは憎き魔族の王、好感情を抱けと言うのが無理な話なのだ。


「俺は卑しい魔族に生まれてしまった、そして女神に恋をしてしまった……。

 そんな俺に他の方法がありますか?

 魔王である俺と会って欲しいと言われて、貴方は素直に俺の言葉を信じてくれましたか?」

「……魔王としての地位を捨て、魔族としてではなく、ただの人であれば会う事も叶ったでしょう」

「無理を言う……。魔王としての地位がなければ、こうして話をする事もできなかった。

 ましてや今は戦時中。ただの魔族が神の島へ行くなど自殺行為に等しい」

「あら、魔王サタルチアは人間に化けてミトロージアまでいらしていた様ですが?」

「あの時はさんざん部下に反対されましたよ」


魔王サタルチアは開かない扉に向けて微笑を漏らす。

気が付けば額を扉に預け、目を塞いで耳を澄まし彼女の声を聞き漏らすまいとしている。


「人として私と会えたのですから、人として私と接して頂ければ宜しかったのに……」

「俺は卑怯で身勝手な魔王ですからね。最初は貴方に会うだけで、会って話す事ができるだけで良かったのですが……。欲が出てしまいました」

「どの様な欲でしょうか?」

「独占欲です」


ドヤ顔で言い切ったサタルチアだったが、反応は芳しく無く、部屋の中から深いため息が聞こえた。

手を替え品を替え、言葉を尽くしてもアクレイアの対応は変わらぬままである。

しかし惚れた弱みか、アクレイアに対してあまり強い言葉を投げつけるような事はしない。


「こう見えても欲望に身を任せたのは初めての経験です。あの時まで自分は自制出来る人間だと思ってましたからね。

 貴方には悪い事をしました」

「そう思っておられるのでしたら、解放して頂きたいものです」

「残念ながらそれはできません。解放しても貴方と再会できる保証は無い。

 何より俺は、一度手に入れた貴方を失いたくない」

「私は誰のものでもありませんし、誰かに独占されるつもりもありません。

 私はこの大地の生きとし生けるもの全てに愛情を注いでいます。私は彼らの母親なのです」

「その愛情のひと欠片でも良いから、俺に向けてくれれば良いのに……」

「魔族は女神の愛情より生まれ落ちたものではなく、女神の影から這い出たるもの。

 私の愛を必要とせず、また愛をもってしても変わる事の無い悪意を身にまとっています」

「俺には貴方が必要ですよ……」

「私はあなただけを特別視する事はできません」


バッサリである。

しかしサタルチアも今日は引く事をしなかった。

彼も我慢の限界なのだ。


「今日は貴方に謝りに来ました」

「謝るおつもりが有るのならば帰していただけないでしょうか?」

「それはその……、それも申し訳ないのですが、今日これから俺がする事についてです」

「あら、ついに私は手篭めにされるのですか?」

「手篭めって……。

 貴方の意に反しておか……、いや、貴方に無理やり夜伽を命じる様な事はしません。

 ただ……、ただ貴方の姿を見、貴方に触れたいだけです」

「私を拉致した卑怯で身勝手な魔王様が慎ましい事ですね。その扉を開けて襲って来るのではなくて?」

「俺は貴方に好かれたいのであって、嫌われたく無いのです。

 それに俺の身体に刻まれた呪いの事は知ってるでしょう?」


魔王サタルチアは転生する際、幾つかの能力を得ていた。

いわゆるチート能力である。

その一つに魅了(チャーム)があり、その魔力に捕えられた者は彼に対して最大の好意を抱くようになる。


魅了(チャーム)ですか……。

 本来なら恋する者への最高位の祝福。呪いなどと云う禍々しい能力では無いのですが……」

「俺の意思に反して女神様まで魅了してしまいますからね。

 貴方のそんな姿は見たく無い」

「あなたも難儀なお人ですね。その能力があれば世の異性は選び放題だと言うのに」

「俺にとって選ぶべき女性は女神アクレイアしかいない。俺が操を捧げた相手なのですから」

「勝手に捧げられても困ります」

「だからこそ貴方を魅了するのは気が引けるのです。

 こうして扉越しに話すのもそのため。女神様が魅了に掛からなければ問題ないのですが」

「それは…」


少し意地悪を言うと、アクレイアは黙ってしまった。

扉を挟んで微妙な沈黙が二人に訪れる。

先に口を開いたのは魔王サタルチアだった。


「だから今日は覚悟をして来ました。どうあってもあなたをこの手で捕まえるまでは帰りません。

 俺は身勝手な魔王ですからね。自分の欲望には逆らえない」

「わかりました。もとより囚われの身、陵辱され、暴虐の限りを尽くされても逆らえる立場では無いですし」

「俺がそんな事をする訳ないでしょう。本当にただ……、触れ合いが欲しいだけです」

「私も覚悟はしているという事です」


再び二人の間に沈黙が訪れた。

息をのむ音が聞こえる。それは女神か魔王か、どちらのものか分からず、あるいは両名が同時に発したものかもしれない。

覚悟を決めた魔王の手が扉の取っ手を掴む。


「……行きます」

「……」



アクレイアから返事は無かったが、サタルチアは勢いよく扉を開いた。

彼が思い人の姿を眼前に捉えた途端。



「ダーリ~~ン♡♡」

「うわっ!」


満面の笑みを浮かべた金髪美女が胸に飛び込んできた。

予想外の行動に魔王は思わず身を引くが、強化された彼の肉体はバランスを崩す事無く女体を受け止める。


「う~ん♡ わたし会いたかった~~♡♡♡」

「ア、アクレイア……?」


魔族であるサタルチアに対して隠す事無く好意を示す女神、アクレイアの姿がそこにあった。

背伸びをして首に手を回し、抱きかかえる様にして頬ずりをしてくる。

先ほどまで扉を挟み、険悪な雰囲気の応酬をしていたのが嘘のような変わりようだった。


「あ、あの……、ダーリンって何……?」

「ずっと恋人が出来たらダーリンって呼ぼうと思ってたんです♡

 長年の夢が叶っちゃいました♡」

(なんだろう、この可愛い生き物)


サタルチアは女神アクレイアの腰に手を回し抱きしめつつ、頭を撫でる。

魅了で女心をもてあそぶ様な事はしないと思ってはいても、体は正直に彼女を求めていた。

しかし彼は、状況に流され女神を汚したくなかった。


「あの……アクレイア、聞いて欲しい事があるんだけど……」

「はい♡

 お食事になさいますか? お風呂になさいますか? それとも……ワ♡タ♡シ?」

「ぐっ……」


(彼女のペースに飲まれては駄目だ)


そう考えるとサタルチアは本能を抑え、アクレイアを引きはがした。

彼女を真正面に見据えるた時、気付く。眼の奥にわずかな感情の炎が宿っているのを。


「……アクレイア、ベッドに寝そべって目を閉じて欲しい」

「わかりました♡

 ついにダーリンに食べられちゃうんですね♡」

「……」


サタルチアは無言でアクレイアをベッドに押しやり寝かせる。


「ああっ♡ わたしすごいドキドキしてる♡

 ダーリン聞こえますか、わたしの鼓動♡」

「……」


目を閉じるのを確認したサタルチアはそのまま……、



扉を閉めて部屋から退出した。


「……!?……!……!!」


部屋の中から叫び声が聞こえた気がしたが、彼は気にせず足早にその場を去るのだった。

その後、部下に惚れられたり他の魔王達にちょっかい出されたり、女神様を取り返しに来た戦乙女たちを返り討ちにしたりしながらも、なんとか女神様と相思相愛になりたい魔王。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ